ピアキャロットへようこそ!!2
Cooking 02 : 涼子さんと温か♪牛乳卵酒
すやすや・・・・・・・
くー、くー・・・・・・・
夜も更け、あたりのささやかな音でさえ聞き取れるほどの静けさの中、耕治の部屋には聞き慣れてきた二つの寝息が聞こえている。
これは時には三つになったり、四つになったり、日によって変わるのは、まあ、お約束である。
ふと、何かの拍子で目が覚めた耕治の目の前には、ここ連夜と同じ光景が広がっていた。
ビールの空き缶、まだ幾分残っている日本酒の一升瓶、お酒のお供柿ピーとするめとおつまみチーズの残骸。
つまり、”今日も一日ごくろうさん♪明日は明日の風が吹くわよん♪”(葵談)な飲み会の成果。
そして・・・
冒頭の寝息の素であるピアキャロおねいさんず、葵と涼子であった。
「ふぅ、何時の間にか落ちちゃったのか・・・。葵さんが日本酒を出してきたところまでは覚えてるんだけど・・・」
ちょっと重たく感じる頭をふらふらさせながら起きあがると、周りを見渡す。
一番早くに脱落した涼子は、まだその時はどうにか意識のあった耕治によってベットに寝かされている。疲れが溜まっていたのか、いつもの酒癖もでぬままにあっさり陥落した涼子を、ハイペースでいい感じの葵をかわしながらどうにかベットまで運んでいき、毛布を掛けたのは覚えていた。
そしてその後耕治と葵で飲んでいたわけだが・・・、気がつくと耕治は床の上に、葵はテーブルの上に突っ伏して寝ていたのであった。
「・・・とりあえず、片付けるか・・・」
二人を起こさないように静かに立ちあがると、そこいらに散らかっているゴミを拾い集めていく。ゴミ袋に放り込もうかとも思ったがガサガサと大きな音がしそうだったので、とりあえず部屋の隅に集めておいておくことにした。
さすがに冬にタンクトップと短パンというわけにもいかず、トレーナーの上下を着込んでいる葵であったが、やはりそのまま放っておくわけにもいかないだろうと、耕治はそばに予備のタオルケットをひき、起こさないようにその上に葵を寝かして、頭の下に側に転がっていたクッションを敷く。そして、葵の突っ伏していたテーブルを静かにどかすと、これまた予備の毛布を出してきて葵の上に掛けてあげた。
「うぅん・・・・」
びっくっっっ!!
ごそごそっと動き始めた葵に、なんにもやましいことはしてないのに思わず体を硬直させて息をとめる耕治。一方、葵は楽な姿勢を見つけたのか、毛布を体に巻きつけるように丸くなると、また静かな寝息をたてはじめた。
耕治はほっと息を吐きつつ、まだ心臓がドキドキと早く脈打っているのを感じていた。
(うぅ、人間の鼓動って一生で何回って決まってるってこの前テレビでやってたよなぁ。この分だと俺って早死にするかも・・・)
などと、わけのわからないことを考えつつ、ほぼ片付いた部屋を見回す。
「これでよしっと・・・。明日もあるし、俺も寝よっと。」
つけっぱなしだった明かりを消すと、空いているスペースに毛布にくるまって横になった。
・・・・・・数分後。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・眠れない・・・・・・・」
体を動かしたせいか一向に眠気が訪れない。明日も冬休み前で学校があるし、寝とかないと後がつらい。
しばらくごろごろしてみるが、眠ろうと意識しすぎて余計眠れない。
「う〜ん、どうしよう・・・」
時計を見るとAM2:36と蛍光色が浮かんでみえる。と、同時にまわりも結構明るいことに気がついた。
「・・・・・月、か・・・」
満月に近い月の光が窓から差し込んでいた。
カラカラカラ
窓を空けてベランダに出てみる。冬の刺すように冷たい空気が体を取り巻き、思わず持っていた毛布を体に巻きつけると空を見上げてみた。
夜空に広がる光のパノラマ。微妙な配置のもとにちりばめられた光。
そして、その中でまるで直接触れているように感じるほどに、煌煌と輝く月。
耕治は見惚れていた。
住宅街でそう大きな建物のないこのあたり。そして、この時間帯のおかげで余計な光も少ない事もあったのだろう。それは、なにもかも忘れられるほどの光景であった。
くっしゅん!
どれほどの時間が経ったのであろうか、耕治の後ろでくしゃみが聞こえ、耕治は我に返った。後ろを見ると窓が空けっぱなしのままで、その向こうに体を起こした涼子の姿が見えた。どうやら、寒さで目を覚ましてしまったようだった。
「・・・こうじ・・くん・・?」
「あぁ!すみません、涼子さん。寒かったですよね。ごめんなさい!」
耕治はあわてて、中に入ると窓を閉めて謝った。ちょっとぼんやりした感じの涼子であったが、周りを見回して自分がどこに寝ていたか気がついたらしい。
「え、あ、私の方こそ、前田君の寝る場所取っちゃって・・・」
「いいんですよ。それより、大丈夫ですか?俺、窓空けっぱなしにしたまんま外出ちゃったの気がつかなくて、涼子さんが風邪でも引いたら・・・」
「大丈夫よ。・・・それより、こんな夜遅くに何をしていたのかしら?明日も早いんでしょ?」
「あ、そうなんですけど・・・。目が覚めちゃったら眠れなくなっちゃって、なんか明るいなって思って外を覗いたら空があんまり綺麗だったから・・・。そうだ、涼子さんもどうですか?すごいですよ。」
無邪気な子供のようにそういうと、耕治は傍らに置いてあった眼鏡を手渡しつつベランダへと涼子の手を引いて行く。
涼子も先ほどの耕治と同じように、広がる星と静かな存在感を感じさせる月の饗宴に圧倒された。.
お互い自分の毛布を体に巻きつけながら、手を繋いだままなのも気付かずに言葉も無く夜空を見上げていた・・・・・
くしゅ!
はくしっ!
同時に二つのくしゃみが静かな空間に響き渡る。
お互いに我に返って顔を見合すと手を繋いだままなのに気付いて、慌てて手を離す。
「・・・・中に入りましょう。」
あはは、と照れた笑いを浮かべて、耕治は涼子と部屋の中に戻った。ちなみに涼子は真っ赤である。
「すみません、体、冷えちゃいましたね。」
お互いベットの端に腰掛けて落ち着くと、体がかなり冷えていることがわかる。
そう長い時間ではなかったが、冬の夜である。いくら毛布を体に巻きつけていてもそうそう暖かさを保てるものではない。
「いえ、いいのよ。・・・すごく綺麗だったし。ロマンチックで得した気分だから。」
「え?何か言いました?」
「い、いえ、あの、そ、そう!なんか暖かいものがほしいなって。」
ぽそっともらした涼子の言葉を聞き取れなかった耕治が聞き返すと、慌てたように返事がかえってくる。
一瞬怪訝そうな顔をした耕治だったが、その言葉になにか思いついたのか、スッと立ちあがった。
「そうですね。ちょっと待っててくれますか。今、いいものを作ってきますから。」
そう言うと、涼子が声をかける間もなくキッチンの方へ歩いていく。と、ふいに戻ってきた。
「?」
なんだかわからないままその様子を眺めていると、耕治は隅においてあった日本酒の瓶をとりあげ、今度こそキッチンに戻っていく。
涼子の位置からだと耕治のうろうろ動く後姿が見えるのだが、薄暗いため何をしているのか良くわからない。何やら陶器のカチャカチャ言う音だの、冷蔵庫から何かを取り出す様子は見えるのだが・・・。そのうち、何かを火にかけているのが見えた。好奇心から涼子は側に行こうとしたのだが、いち早く耕治に気付かれて、座っているように言われてしまう。
そうこうしているうちに、耕治が湯気のあがるカップを二つ持って戻ってきた。
「はい、お待たせしました。」
一方を涼子に渡しながら、涼子の隣に腰を下す。自分のカップの中身にすこし口をつけて見せてから、涼子の方を覗きこむ。
涼子は恐る恐る渡されたカップに口をつけた。
ちょっととろみがありさっぱりした甘みをもった、ホットミルクだった。
先ほど冷えた体が芯から温まっていくのを感じる。
「・・・・どうですか?」
「おいしいわ。ありがとう、前田君。でも、これってただ暖めた牛乳ってわけじゃなさそうね。」
「わかりますか?これは、俺の母親が昔風邪引いたときとかに良く作ってくれたんです。卵酒に牛乳を混ぜたものなんですけど、眠れない時とかも、こう、リラックスできるし、体も暖まるでしょ。」
自分の分を飲みながら、嬉しそうに話す耕治。
「そうね、ほんとに暖まるわ。・・・ふふ、それにしてもなんか意外ね、前田君のこういうところって。でも、この前のケーキもそうだったけど、結構合ってるかもしれないわね、前田君と料理って。」
「そうですかねぇ。じゃ、またなんか作ったら涼子さんに味見をしてもらおうかな?」
「いいわよ。喜んで引き受けるわ。」
微笑みを浮かべて、お互い自然といい雰囲気になっていく。
「うぅ〜ん、あらひのさけがのめないのかぁ〜。」
ぎくぎく!!
やはり、その雰囲気は長く持たなかった。すっかり忘れ去られていた葵が存在を主張するように寝言をもらして、寝返りを打ったのである。その拍子に掛けてあった毛布もはだけてしまう。
突然のことに二人して固まっていたが、その後どちらともなく顔を見合すと苦笑がこみ上げてきた。
(そういえば、葵も居たのよね。結構いい雰囲気だったのになぁ。)
ちょっと、さっきの雰囲気を名残惜しく感じながらも、はだけた葵の毛布を掛けなおす。耕治は飲み終わった二人のカップを持って流しに片しに行ってしまっていた。
(でも、なんか得した気分よね。良く寝られそう。それとも寝られないかしら?)
寝ている葵のほっぺたを指先でふにふに押しながら、涼子の顔には幸せそうな笑み浮かんでいた。
クリスマスも近い、ある月の綺麗な夜の出来事だった。
Fin
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耕治せんせいの牛乳卵酒の作り方講座〜♪(どんどん、ひゅーひゅー、ぱふぱふ〜)
さて、今回作った牛乳卵酒について、前田耕治先生に解説していただきましょう。それでは、先生よろしくお願いします。
「え〜、前田です。それでは私から。
まず、材料ですが、
卵黄ひとつ。
牛乳を1/2カップ。
お酒を1/4カップ。
砂糖はおよそ大さじ1。これはお好みに合わせて調整してください。牛乳は温めると甘みが出るものなので。
あと、生姜を少々。これもお好みで。アルコールの匂いなんかはこれで消えます。
これが、一人分の材料となります。
さて、作業工程ですが、まず、カップとなべを用意して、それぞれカップで量を見ながらなべに牛乳、お酒、そして卵黄を入れて良く混ぜてください。
そして、次に火にかけて温まってきたら、弱火にしてかき混ぜ、とろみをつけていきます。
最後に甘みをみながらお砂糖と生姜のすりおろしを加えてください。これで完成です。
皆様も眠れない夜になど、お試しください。
それでは、またお会いしましょう。」