ミホノブルボンからの手紙

小島貞博さま

 貞やんお元気ですか。ぼくは今、北海道門別町の日高軽種馬農協門別種馬場っちゅうところ(ふぅ〜名前が長い)で、黙々と自分の仕事に励んでいます。すでに子供たちをたくさん送り出しているんだけど、めぐり合わせが悪いのかな?なかなか貞やんに騎乗してもらえず残念です。貞やんと仲良しだったキャロルちゃんも、「最近、テレビで貞やんを見ないねぇ」と言ってました。

 でも、この前の大阪杯に貞やんが出たときは嬉しかった。重賞に乗るのは本当に久しぶりだったので、騎乗馬は最低人気だったんだけど、みんなで馬券を買って応援しました。障害の叩き台で出走したポレール君から遅れること10馬身。う〜ん、やはりぶっちぎりのシンガリでしたね。一緒に見ていたツヨシ君も、「だいたいサンエムキング君はダート馬じゃないか。あんなの武豊が乗ったって勝てねーよ」と唸っていました。単勝と馬連の総流しで、かなりの金額を投資したようです。ちなみにぼくは冷静に複勝とワイドの総流しでしたけど、金額は内緒。ヒトの見てないところで、パーッと遣っちゃおーかな。

 ツヨシ君は自称マイ・ペース馬なので、言葉がちょっと乱暴なんだけど、現役のダービー2勝ジョッキーは、武豊君と貞やんだけだと言いたかったのでしょう。武豊君のダービー連覇も快挙ですが、制覇までの道のりは長かったですからね。でも貞やんは出走する機会も少ないのに、足掛け5年のうちに、僕とツヨシ君でダービーを獲ってしまいましたから、本当にすごいと思います。

 貞やんももう48歳になるんでしたっけ。(よく覚えてるっしょ!)関西ではとうとう最年長ジョッキーになってしまいましたね。500勝まであと一歩のところまでにきているのに、そのカウント・ダウンが、果てしなく長く感じられてしまいます。昨年はわずか2勝でしたけど、それでも連対率は1割台をキープし、ベテランとしての意地をみせていましたね。でも関西のジョッキーはホントに消長が早いっす。かつてG1で活躍したジョッキーですら、騎乗数が減って、忘れられた存在になっていますもんねえ。

 「どうしてウチの先生は、貞やんを乗せないんだろう」とキャロルちゃんとツヨシ君が怒っていましたが、貞やんが毎年調教師試験を受けているといっても、現役を引退したわけではないのだから、もっと騎乗する機会があってよいと思います。

 今朝、夢まくらに戸山センセが現われました。現役時代の険しい顔つきではなく、何だかニコニコ笑っておられました。ぼくの現役時代は、毎日毎日、坂路でのハード・トレーニングだったもんなあ。戸山センセは、たいした血統もないぼくを鍛えてくれて、とうとうダービーまで獲らせてくれましたから。今こうして種牡馬として暮らせるのも、戸山センセのおかげです。ホントに感謝してますよ。でもぼくの子供たちは、まだ中央の重賞で勝てないんだよね・・・。戸山センセは言ってらしたじゃないですか、「サラブレッドは血で走らない。鍛えてこそ強くなるんだ」って。

 貞やんと安永さんは戸山先生の遺志を継いで、立派な調教師になるんだって聞きました。人づて(馬づて)には、Mさんがあとを継いだようにも聞くんだけど、社台ブランド志向が強く、かなり方針が違うみたい。やっぱり戸山イズムを受け継ぐのは、貞さんと安永さんをおいて他にありません。ぜひ子供たちを、愛情の鞭で鍛えて、強い馬を作ってほしいと思います。じゃないとぼくのお嫁さんも増えませんし(笑)。「親の七光」なんて言われて、子供たちが小さくなってしまわないように。ツヨシ君もまた、「トレーニングばかりは、馬のオレたちにゃ何ともしてやれんからなあ」と嘆いていましたね。

 ヒトと馬たちに、夢と希望を与える立派な調教師になってくださいまし。ぼくの願いはそれだけです。ところで話は変わるんだけど、また、娘の久子さんと一緒に北海道に遊びに来てくださいよ〜。そのときは喜んで背中を貸しますから。人参のお土産も忘れないでね(デヘヘ・・・)。

敬具

追伸!貞やん現役のレコードは、他のジョッキーと比べても決して見劣りしないと思いますので、武邦、高松、中野栄、佐藤正先生および、これを読んでいる調教師の方々、貞やんにもっと騎乗の機会を与えてください。とくに本気でダービーを獲りたい先生方は、貞やんに騎乗依頼をよろしくお願いします。

ミホノブルボンより

注)ノンフィクションといえないかもしれませんが、ブルボンワールド(弟)作、ねも艦長脚色の合作です。(2000年5月11日脱稿。「競馬騎手年鑑」(別冊宝島518)掲載)


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