2000年4月の映画

   

「シュリ」(SHURI)

ハン・ソッキュ/キム・ユンジン主演/ソン・ガンホ他、
カン・ジェギュ監督作品
1999年度作品/上映時間2時間4分

(あらすじ)
 1998年9月、韓国のソウルでは、2002年サッカーW杯に向けて、南北朝鮮交流試合が行われるというニュースに沸き立っていた。韓国情報機関"OP"の室長ユ・ジュンウォンは、アクア・ショップを経営する恋人イ・ミョンヒョンとの結婚を、1ヶ月後に控えているものの、自分の仕事については何も打ち明けられないでいる。
 ある日、ジュンウォンは相棒のイ・ジャンギルと組んで、武器密売の事件を追うが、密売人は何者かに狙撃され即死する。現場の状況から、ジュンウォンは、北朝鮮の腕利き女工作員、イ・バンヒが密かに国内潜入していることを直感する。北朝鮮特殊部隊の狙いは、国防科学研究所が開発した液体爆弾CTXであった。だが、それに気付いた時にはすでに遅く、CTXは略奪されてしまった後だった。
 どこからか情報が漏れている。自分の相棒でさえ信じられなくなる。ジュンウォンは偽の情報を流して敵をおびきだすも、あと一歩のところでバンヒが現われ、銃撃戦が始まる。負傷したバンヒを尾行して、ジュンウォンが見たバンヒの正体とは?そして南北朝鮮交流試合のサッカー競技場に仕掛けられた液体爆弾CTXは、爆発を回避できるのか?そこでは南北朝鮮の首脳陣も招かれて観戦をしているのだ・・・。

 恐ろしくリアルなアジアン・パワーに圧倒されました。悲劇に向かって突進していくのが分かっているのに、どうにもできない哀しさというか・・・甘さが微塵もないですね。恋人たちのラヴ・シーンが、これまた最高にキュートに描かれているだけになおさらです。・・・露出も何もないのに、こんなにエッチな感じが出せるなんてびっくりしました。

 もしこれがアメリカ映画だったなら、どんなにハラハラ、ドキドキしても、最後にハッピー・エンドが待っているものだと、安心して観ていられますが、キム・ヒョンヒの事件などが現実に起こっているわけです。北朝鮮の人達が観たらどう思うのでしょうか。実際には目に触れることもできないんだろうけど・・・。

 ともあれ、今まで見たこともない、まったく新しい感動を覚えました。アジア映画、あなどれません。映画が終わったというのに、体がシートに張り付いてしばらく動けませんでした。

(2000年4月13日)



   

「グリーンマイル」(THE GREEN MILE)

トム・ハンクス/マイケル・クラーク・ダンカン主演
フランク・ダラボン監督作品
1999年度作品/上映時間3時間8分

(あらすじ)
 1935年、ジョージア州のコールド・マウンテン刑務所。死刑囚を電気椅子へと送り出すリノリウムの廊下は、天国への「グリーン・マイル」と呼ばれていた。ポールはここの看守主任であり、死刑囚の最期のひとときを、できるだけ心安らかに過ごせるようにと願っている。
 ある日、ジョン・コーフィという黒人の大男が、幼女殺しの死刑囚として送りこまれた。しかしコーフィはその外見に似合わず、臆病で繊細な男だった。彼はその掌で、病気や怪我を治してしまう不思議な能力を持っていた。ポールもコーフィに持病の膀胱炎を直してもらう。やがてコーフィの優しい人柄に触れるにつれ、ポールは、彼が無実であることを確信する。
 無実でありながら、自分で死を迎え入れようとするコーフィ。いったいどんな事件が起こったのか?ポールはコーフィの死を、黙って見過ごすことしかできないのか?

 無実の死刑囚だとか、病気を治す超能力だとか、そういったものは過去に語りつくされているんじゃないかと、最初は思っていたんですが、これはやはり原作の旨さですね。すごくいいハナシを聞いた(観た)っていうカンジですか。ものすごく説得力がある。

 原作はスティーヴン・キング。フランク・ダラボン監督との組合せには、「ショーシャンクの空に」という映画があるそうですが、不勉強な私は観ていない。でも「スタンド・バイ・ミー」は好きな映画のひとつだから、「なるほどね」と思ってしまった。ストーリーは違っても、その根底に流れる、アメリカ人の理想みたいなものが感じられます。

 価値観が複雑化しすぎて、すっかり病んでしまった現代アメリカ。終わることのない人種差別。忘れてはいけない人間愛(ヒューマニズム)。正義と悪を曖昧にしない勧善懲悪。少年のように純粋な心を持った主人公。そして脇役たちが、実に人間的に描かれている。

 3時間8分という長大さにもかかわらず、少しも退屈することはありませんでした。メインのストーリーもいいけど、伏線となるストーリーもまた楽しい。一人一人の人間がじっくり描かれていることにも感謝。かなり泣けますので、ハンカチを忘れないようにね。

(宮部みゆき と スティーヴン・キング)
 こんな風に勝手に結び付けてしまうのは、私の悪いクセなのですが・・・。

 高校生の頃までは読書家だったのですが、それ以後、本を読まなくなった私が、最近ふと、友達に薦められて知ったのが、宮部みゆきでした。

 友人曰く、「宮部みゆきって天才だと思いませんか?」なんですけど、"天才"という言葉は、やたら滅多に使用できるものとは違います。そこまでいうなら、私も何か読んでみようと思って買ったのが、「魔術はささやく」(新潮文庫)でした。

 このストーリーを選んだ理由は、以前(大昔)、テレビの2時間ドラマで放映されたのを、観たことがあったからです。(もっともその頃は、宮部みゆきという存在を知らなかったのですが・・・。)
 しょせん2時間ドラマといってしまえばそれまでですが、普通のミステリーとは違った、奇抜なストーリーとアイディアを持っていまして、登場人物のエピソードも実にしっかり描かれていたことに感心したのです。それなら、原作はもっと面白いだろうと狙ったところ見事に的中!グイグイと引き込まれるように読み終えてしまいました。

 この「魔術はささやく」は、宮部みゆきの初期の作品なのですが、現代のおとぎ話みたいなもので、「リアルさ、シュールさを求めすぎると、今の小説はすっかり辛いものになってしまうけれど、まだまだ、そんなに捨てたものじゃないんだよ。」と教えられたみたいな気がしましたね。

 先日、新書を紹介するNHKの番組に、宮部みゆきさんがゲストで登場していました。私と同世代(2歳上)なんですけどね。美形ではないのですが、とても素敵な方でした。インタビューでは、宮部さんが小説を書こうと決心した、想い出の一冊を取りあげていたんですが、それがスティーヴン・キングの「呪われた街」だったんです。

 現在の宮部みゆきは、時代小説に作品のメインを置いているようですが、初期の作品は、スティーヴン・キングの影響を強く受けていたのかな?と、今日はそんなことを考えて、映画館(コロナ)の帰りに、小牧の書店に立ち寄ったのですが、そこには「呪われた街」が置いてなかった。何だかこういうムズムズって、確認してみないと気が済まないじゃないですか?明日は別の書店を当たってみよう。(笑)

(2000年4月20日)



   

「スリーピー・ホロウ」(SLEEPY HOLLOW)

ジョニー・デップ/クリスティーナ・リッチ主演
ティム・バートン監督作品
1999年度作品/上映時間1時間46分

 「月夜の晩は、なくした首がすすり泣く。」

(あらすじ)
 1799年、ニューヨーク市警の捜査官、イカボッド・クレーンは、ニューヨーク郊外にあるオランダ系移民の村"スリーピー・ホロウ"で起きている、世にも不思議な首なし殺人事件の捜査を命じられる。村人たちはこの事件を、伝説の"首なし騎士"による仕業だと信じて疑わない。イカボッドは迷信に目もくれず、科学的捜査を開始したのだが、やがて"死人の木"をねぐらとする"首なし騎士"と遭遇。臆病者で失神ばかりしているイカボッドと、彼を慕うヴァン・タッセル家の一人娘カトリーナ。真実は?そして恋の行方は?

 最近の映画について、予備知識が何もないものだから、観るまでは、単純に"ホラー映画"と勘違いしていました。俳優とか、監督についても、あまり覚えがなかったのですが、映画好きの友人と、掲示板でやりとりをして教えてもらった次第です。ありがとうございました。(^^)
 ジョニー・デップ="シザー・ハンズ"での性格俳優、クリスティーナ・リッチ="アダムス・ファミリー"の三つ編みお嬢ちゃん、ティム・バートン="バットマン"でのオタク監督という三角図があったわけです。

 さてさて、この映画。ホラーはホラーなんですが、いろんなジャンルの映画が混ぜご飯になってて、どう分類したものか判らない。ミステリーあり、コメディあり、ラヴ・ロマンスありと、たいへんサーヴィス過剰な映画で、とても楽しめました。

 なるほど、これがティム・バートンの世界というわけです。現実にはあり得ないおとぎ話の世界なんですが、とても親切で、それを観ている人に納得させるための、説明めいたプロットを多く持たせている。たいへんな説得力があります。(^^)

 そして映像の美しかったこと!スリーピー・ホロウはニューヨーク郊外にありながら、オランダ系移民だけで構成された小さな村。時代も人種も隔絶されてしまっている。眉を落とし、胸を大きく開けたドレスをまとったクリスティーナ・リッチ。そして影の多い重厚な映像。これはまさに、レンブラントの世界ですね。

 登場人物もミドル・ネームに"van"の付くオランダ系ばかり。長い黒髪にに黒い外套、しかめっつらをして歩くジョニー・デップが、ユーモラスなベートーヴェンに見えてしまったのは、私個人の妄想ですが・・・。(ベートーヴェンのフル・ネームは、ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン。先祖がオランダ人であったことを表します。)

 ちょっと脱線しますけど、映画を観ていて思うことのひとつに、人種意識というのがあります。日本人にとっては、外国人はみんな同じように見えてしまうのですが、西洋や、人種の坩堝たるアメリカにおいては、イタリア系、フランス系、ユダヤ系、ハンガリー系等々、名前や風貌で区別されます。映画もその辺はよくしたもので、イタリア・レストランを経営する、太っちょのマスターにはイタリア系。お金にがめつい楽器店の主人にはユダヤ系とか、イメージを大切にしているのがよく分かりますね。もちろん、違った人種の俳優をキャスティングするときもありますが、衣装、メーキャップ、セット等で細心の注意を払っています。

 首なし騎士が、自分の首を支配する主に操られたり、教会の柵から内に入ることができないので、何とかして狙いを果たそうと工夫したりする様は、古典的なホラー映画のお約束。しかし颯爽と剣を振り回すところは、何ともカッコイイ。クリストファー・ウォーケンの尖った歯は、ドラキュラそのものですが、ドラキュラ伝説のルーツとなったのは、"首刈り男爵"と呼ばれた実在の人物。ティム・バートンとしては、おそらくそこまで深読みしての解釈でしょう。(分かる人にしか分からんでしょう?)

 ずいぶん長くなってしまいましたが、あまりにもサーヴィス過剰なこの映画。一晩では語りつくせないでしょう。いや〜面白かったです。(^^)

 パンフレットによれば、ティム・バートンの次回作はB級映画の帝王、ロジャー・コーマンが1963年に撮った「X線の目を持つ男」のリメイク版だそうです。ご存知でしょうか?でも、知っていたとしたら相当やばいですよ。(笑)私は不幸にも、深夜TVで観たことがあります。レイ・ミランド主演だったと思うのですが、ラストは実におぞましい(笑)ものでした。私のなかでは、「双頭の男」と並ぶ迷作(爆)なのですが、ティム・バートンが撮ったらどんなになるのでしょう?(^^)

(2000年4月6日)

(番外編「ほんとうのスリーピー・ホロウ伝説」)
 先日、書店でこんな文庫本を見つけて買ってしまいました。
 「スケッチ・ブック」 ワシントン・アーヴィング作 吉田甲子太郎訳(新潮文庫)

 「スリーピー・ホロウ」原作収録ということで、ジョニー・デップ、クリスティーナ・リッチの写真カバーが掛けられていました。奥付には、昭和32年発行、平成12年33刷改版とある。こりゃまた、ずいぶん古いものです。映画からのノヴェライズではありません。もちろん、ストーリーはかなり違います。

 しかしながら、映画と比較しながらストーリーを追ってみるのも、楽しいんじゃないでしょうか?映画を観ている人には、おのずとジョニー・デップ、クリスティーナ・リッチの姿が浮かんでくることと思われます。(^^)

 昔々、ディートリッヒ・ニッカボッカーという人がおりまして、ニューヨーク周辺に伝わる、オランダ系移民の昔話をたいそう好み、収集したそうです。その記述をもとに、アーヴィングは短編集として、一冊の本をまとめました。それが、「スケッチ・ブック」です。ここでは有名な、「リップ・ヴァン・ウィンクル」(アメリカ版浦島太郎)も語られています。

 本文は短い物語ですが、性格描写を文字で語るのはしごく難解で、たいへん読みづらい。「スリーピー・ホロウ」という地名は、「まどろみの国」という意味。オランダ系移民によって築かれ、俗世と隔絶された不思議な村です。

1. イカボッド・クレーンは学校の先生だった。
 イカボッド・クレーンはコネティカット州出身。いわゆるインテリで、どうした偶然か、この村に教師としてやってきました。クレーンとは「鶴」という意味ですが、名は体を表す。きゃしゃで手足が長く、好奇心に満ちた目で周りを見まわす。そんな感じです。
 学校の先生だけで、生計を賄うのはたいへんなことで、夜は教え子たちの家に食客として転げ込み、畠仕事を手伝ったりしていました。また、賛美歌が上手で、音楽の先生としても、近所の大人たちや、良家の娘を教えていたそうです。学校では厳しく生徒を叱ったりもしますが、普段は気の優しい男で、恐がりのくせに、魔術と怪談をこよなく愛していました。

2. カトリーナ・ヴァン・タッセルは、大金持ちの娘で、男を泣かす浮気者。
 いつの時代にもこういう可愛い女がいるものですが、イカボッドは彼女に一目惚れ。何とか気を引こうと、脳みそを振り絞って取り入ろうとします。カトリーナにしても、イカボッドは村一番のインテリなわけだから、まんざらでもない様子。それを見ていて面白くないのは、以前から彼女を狙っていたブロム・ヴァン・ブラントで、彼は村一番のあらくれ男。力技となると、イカボッドはかないません。ブロムの挑発に乗らぬよう、いつも軽くあしらっていました。

3. またとない絶好のチャンス!ヴァン・タッセル家のパーティに招待される。
 男なら誰しもこんなチャンスを逃がせません。山のようなご馳走と美味しいお酒。カトリーナのご両親にも好印象を与えておき、宴もたけなわ、イカボッド得意の怪談で盛り上がっています。恋敵のブロムも出席してはいますが、これにはちと面白くない様子。
 夜も更けて、皆が帰り仕度を始めた頃、イカボッドは意中の女性と、将来のことなんかを語りあうため、ツーショットを決めるのですが・・・。

4. ああ失恋!すごすご帰る暗い夜道は、もののけの巣。
 作者曰く、「どうもなにかうまく行かなかったらしい」。(オトナだねえ・・・)どうしたことでしょう?イカボッドはげっそりとして出てきました。暗い夜道をやせ馬に乗り、とぼとぼ帰ることとなります。さっき怪談を聞いたばかりだし、森に差し掛かると、恐怖はいっそうつのります。・・・どうも誰かが後を付けてくるような、いったい誰が?

5. 首なし騎士登場!
 何と、そいつは伝説の首なし騎士だったのです。本来、両肩の真中にあるはずの頭を、鞍の前に置いています。イカボッドが馬を飛ばせば、どこまでも追いかけてきて、あんまり飛ばすものだから、革紐が緩んで鞍を落としてしまいました。ほうほうの体で逃げ、教会へと向かう橋を渡り、後ろを振り返ると、騎士はいきなり自分の頭を、イカボッドに向けて投げつけました。ゴツン!交わす間もなく、イカボッドの脳天に命中。そのまま気を失い馬から落ちてしまいました。

6. イカボッド行方不明。
 翌朝、乗り手を失ったやせ馬と、泥んこになった鞍。イカボッドの帽子と潰れたカボチャが発見されました。イカボッド本人は、村中どこを捜しても見つかりません。村人たちは、神隠しにあったのだと噂しますが、やがて村には新しい教師が赴任してきて、村人もイカボッドのことを忘れ、昔ながらの平和がおとずれたのでした。

7. イカボッドは生きていた。
 その後数年してから、ニューヨークを訪れた農夫の話によりますと、イカボッド・クレーンは生きており、失恋の痛みや、貧乏暮らしで、この村での生活がいやになって逃げ出したのだといいます。彼は遠方に住居を変えて、学校で教える傍ら、法律を勉強し、弁護士となり、政治家に転じ、選挙運動に奔走し、ついに民事裁判所の判事になったということです。
 いっぽうのブロムといえば、恋敵がいなくなってしばらくの後に、カトリーヌの手を取り、結婚式を挙げたのでした。そしてイカボッドの話が出ると、ブロムは深く事情を知っているかのような顔つきをし、こと話題がカボチャのことになると、大爆笑をしたため、人々のなかには、彼は何か知っているのだが、何か理由ありで黙っているのでは?と見る向きもありました。しかし、村の老婆たちは、スリーピー・ホロウの伝説に基づき、イカボッドは何か魔法の力によって、この世から消されたものだといって、ずっと疑わなかったそうです。
(おしまい)

(2000年4月27日)



映画の部屋に戻る

表紙に戻る