2000年6月の映画

     

「ナインスゲート」(THE NINTH GATE)

ジョニー・デップ/エマニュエル・セイナー主演
ロマン・ポランスキー監督作品
1999年度作品/上映時間2時間13分

(あらすじ)
 世界を股に掛け、貴重な古書を探して廻る"ブック・ハンター"(本の探偵)、ディーン・コルソは、ニューヨークの書物愛好者、ボリス・バルカンからの依頼を受けた。1666年に発表された、伝説の悪魔祈祷書「影の王国への9つの扉」である。世界に3冊現存しているという、この本の1冊を入手したバルカンは、残りの2冊と照合して、3冊すべてが本物かどうか、鑑定を依頼したのだった。かくして、調査の旅が始まるが、この本に関わる人々は、次々と奇怪な死を遂げていく。敵か味方か?コルソにつきまとう謎の女。コルソ自身も命を狙われながら、ニューヨークからスペイン、ポルトガル、フランスへと及ぶに従って、本に秘められた恐ろしい謎が解き明かされていく。

 ジョニー・デップは、役柄によって別の人格を演じられる、優れた俳優です。(そんなこと分かってるって?)元来、少年らしさを持ち味としているのですが、今回は口髭をたくわえ、ずる賢さ、うさん臭さをも兼ね備えた、大人の男を演じていました。ブック・ハンター、コルソという人物は、金銭しか信じられない孤独な男。目的のためには手段を選ばず、自分の欲望には忠実。しかし、どんなに汚れたキャラクターであれ、これまで背負ってきた人生というものがあるはずです。ジョニー・デップが演じることによって、冷徹ながらも複雑で、血の通った人間として描かれています。人なつっこいというか、独特の親しみやすさを併せ持っているからこそ、観客をスクリーンに引き込んでくれるのでしょう。

 コルソに付きまとう謎の女(エマニュエル・セイナー)の冷たい美しさにも脱帽。守護天使なのか、それとも悪魔ルシファーの使いなのか、最後まで彼女の正体は明かされません。拳法の使い手であり、母親のようにコルソを守ってくれるし、ナインスゲートの秘密にも通じていて、ヒントを与えたりもしますが、コルソを手助けする以上のことはできません。その目的すら不明なのです。

 ロマン・ポランスキー監督は、シュールな芸術家で、神も悪魔も人の心の中にあるものと悟っているため、ありきたりの超常現象など登場しません。それよりも恐ろしいのは人間の欲望であり、すべての殺人は、欲望に取り憑かれた人間の手によるものとして描かれています。

 ポーランドの作曲家、ヴォイチェク・キラールも、個性的で、印象深い音楽を付けてくれていました。彼の音楽と出会ったのは、ポール・グリモーのアニメーション映画「王様と幸運の鳥」からですが、ハリウッドの映画音楽作曲家とは、一線を隔しています。暴力的な推進力と、耽美的な旋律美とでもいいましょうか。韓国のソプラノ歌手、スミ・ジョーを起用したエンド・タイトルも美しいものでした。

 なかなか面白かったのですが、なぜか観客は私1人。(^^;平日の午後ってこんなものですかねえ?宣伝が地味だったのかなあ?

(脱線!「かわいい悪魔」)
 最初に断っておきますと、私は悪魔崇拝者ではありません。(笑)私の父は、河童の絵を描くのが好きだったため、妖怪の本や、悪魔の本をたくさん所蔵していました。(子供向けの本が多いけれど・・・。)これは、そんな中で仕入れたお話です。

 「権兵衛が種蒔きゃ、カラスがほじくる・・・。」
 神を崇拝していても、人生は自分の思い通りになりません。ときには、どんなに真面目に努力しても報われないことだってあるでしょう。信仰が足りないからと言わても、不条理には納得できません。(^^;

 億万長者になりたい。恋愛を成就させたい。成功者になりたい。と、強く願うとき、「鉛が黄金に変えられたら」、「惚れ薬を意中の人に飲ませることができたら」とか、「いっそライヴァルがこの世から消えてくれたら」、と考えるのも無理ありません。もちろん、頭で考えるだけで、実行はできませんが・・・。(^^;

 できるはずのないことを、あなたの代わりに実行してくれるのが、悪魔と契約した錬金術師、惚れ薬を調合してくれる魔女、運命を支配する悪魔であるわけです。
 彼らは、神よりも確実に仕事をこなします。(プロフェッショナルです。)ただし、その報酬として、あなたの命を要求します。(^^;

 ところが、いつの時代も、人間はずる賢いのです。いざ、欲しいものが手に入ると、今度は自分の命が惜しくなるのですね。実際には、ブタの心臓を自分の心臓だといって差し出したり、赤ん坊をさらって生贄にしたりしたのです。ところが不思議なことに、悪魔は間抜けで、いつもそれに引っ掛かってしまうのです。(^^;

 1代で大企業の社長に就任したり、数多くのライヴァルを押しのけて美女と結婚したり、人も羨むような成功者の影には、何かしら犠牲にしたもの、代償となったものが存在します。そういった人たちを妬んで、世間では、「あいつは悪魔に魂を売ったんだ!」などと陰口を叩くわけですが、悪魔とは人の心の中にあるもの。あながち嘘とはいえないですよね。(^^)

(2000年6月15日)



   

「クロスファイア」(CROSS FIRE)

矢田亜希子 主演、伊藤英明、徳山秀典、吉沢悠、原田龍二、長澤まさみ、長島敏行、桃井かおり他、
宮部みゆき 原作、金子修介 監督作品
2000年度作品/上映時間1時間55分

(原作と映画化)
 宮部みゆき原作の初映画化で、監督は「平成ガメラ・シリーズ」の金子修介。宮部ファンの私としては、正直いって、映画化によってイメージが壊れてしまわないかと心配だった。しかしながら、金子監督のガメラ・シリーズは、3作とも観ているのだが、怪獣映画を本格的なSF映画として甦らせた手腕は、高く評価している。

 この監督、耽美的ともいえる手法が特色で、ヒロインを舐めまわすかのごとく、カメラで追いかけていく。もし男性なら、自分の職場に自分好みの美しい女性がいたとすれば、どうしてもそこに視線が釘付けになるでしょう?でもそれじゃ仕事にならないし、相手にもうざったく思われて、かえって印象を悪くしてしまう。(男性はデリケートなんですよ!)

 ぼへーっと眺めてるわけにもいかないけれど、そこはそれ映画だから、スクリーンの中には常にその女性が映っているわけで・・・。いつのまにか金子マジックにハメられてしまうのだ。(^^;

 原作はかなりの長編なので、2時間枠に収めるために、はしょってしまったところもあるけれど、視覚的な本能に訴えて、ヒロインに感情移入させるということをやってのけている。原作ファンには食い足りないところもあろうが、宮部ワールドの根底に流れる、"法に守られて裁かれない悪"や、"国家権力に揉み消されてしまう悪"に対する正義感が強く描かれていることに注目したい。

 以前、「グリーンマイル」の映画評で、S.キングの勧善懲悪ともいえる正義感について書いたけれど、「クロスファイア」のパンフレットの中でも、宮部自身がやはり、S.キングへのオマージュとしてこの作品を書いたことを話していた。映画館の帰りに、書店に立ち寄って、「クロスファイア」の原作(上下2巻)を購入する。こんな長編、読めるんだろうか?(^^;

 しかし、そんなことはおかまいなしに、一気に読了してしまった。(^^;もう深夜の2時半である。実はこの「クロスファイア」、物語の続編であり、「鳩笛草」という単行本に収録されている「燔祭」という中編が、プロローグに当たるのだという。明日、早速その本を買いに行くことにしよう。(^^)ヒロインがいかにして誕生したのか?(生まれたという意味ではない。)そこのところが分からないと、何だかムズムズしてしまう。だからまだ、不完全な感想しか残らない。映画とは明らかにストーリーが違うのだが、今、それについて語るのは控えよう。(^^;

 さて、宮部みゆきの「鳩笛草」(光文社文庫)を購入。そして、短編「燔祭」を、一気に読み終えた。まず、"事件ありき"で、回想の形式でストーリーが語られていく。計算された無駄のない筆致で、完成度の高い、美しい短編だった。攻撃的な続編「クロスファイア」などは、ストーリー的に舌足らずの部分も多いなと感じてしまう。映画を観たときには、拙いと感じられた部分もあったのだが、こうして原作を読んでみると、小説の中で上手く描かれていない人間関係を、ずいぶん補っているのがよく分かる。そのためには、ストーリーの変更もやむなしと納得した。

(2000年6月22日)



   

「ミッション・トゥ・マーズ」(MISSION TO MARS)

ゲイリー・シニーズ主演、ドン・チードル、ティム・ロビンス他、
ブライアン・デ・パルマ監督作品
2000年度作品/上映時間1時間54分

(あらすじ)
 2020年、人類はついに史上初の火星有人ミッションを実現した。4人の乗組員はそこで、自然には発生し得ない形状の、巨大な丘陵を発見。探索を開始するも、恐ろしい砂あらしに見舞われ、地球との交信が途絶えてしまった。最後の交信、1人生き残ったルークは、とてつもなく恐ろしいものを見たと、伝えたのだった。
 6ヶ月後、ルークを救出すべくプログラムされたミッションには、マーズ1号に乗りこむはずだったが、妻を失った悲しみから、1度は任務を解かれたジムがいた。ところがステーションから飛び立ったマーズ2号は、思いがけぬエンジン故障から爆発。乗組員は命からがら脱出するも、火星軌道補給物資モジュール(REMO)に辿りつくため、船長のウッディは自らの命を犠牲にするのだった。夫を亡くした悲しみに泣きくれる乗組員のテリー。REMOはジムの技術によって火星に難着陸。補給物資の途絶えた火星で、ルークは生きているのか?そこで彼らが出会ったものは?宇宙に夢を馳せるブライアン・デ・パルマ監督が描くSFファンタジー。

 冒頭からいきなり、ロケットの発射シーンかと思いきや、ロケットは空中爆発!ミニチュアで作られた花火でした。脳天気なカントリー・ミュージックが流れ、そこはマーズ1号打ち上げ祝賀パーティー会場。乗組員と、地球に残される家族との絆が描かれていて、冷徹なSF映画ではなく、人と人との繋がりを大切にした優しい映画であることを伝えています。この辺り、何となく「アポロ13」を想わせてしまいます。ゲイリー・シニーズは、やはり「アポロ13」に乗れなかった宇宙飛行士役を演じていたのですから。(^^)

 ブライアン・デ・パルマ監督は、"いいとこどり"の名人なのです。かつて「アンタッチャブル」でも、「戦艦ポチョムキン」の"階段から乳母車が落ちていくシーン"をパクっていました。古風な宇宙服、宇宙ステーションの映像など、この作品でも、「2001年宇宙の旅」から、美しい映像を思う存分切り取っています。

 ストーリーも途中までは、「2001年宇宙の旅」や「アポロ13」をベースにしています。そして結末は驚くほど安っぽい(笑)ものに思えることでしょう。だけどそんなことは敢えて承知の上でやっているはず。これは映画という非現実空間に描かれた、美しい夢の映像なのだから・・・。

 星空に空想をめぐらす少年でなければ、この結末には苛立ちさえ覚えるかも知れません。グレイ(火星人)まで登場してしまうという・・・。(笑)でも、ディズニーやスピルバーグなら許せるんじゃないかな?(笑)だからこの映画は、親子連れで観に行くといいでしょう。サンタクロースを信じられること、地球以外の星にも生命が存在すること。大人になってからでは学べないものがたくさんあります。(^^)

(2000年6月29日)



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