口述再現・刑事系

【午前の組】

Otomo

「○○番です。よろしくお願いします。」

主査(刑裁)

「はい。じゃ,かけて下さい。」

Otomo

(なんか厳しそうな先生だ・・・)

主査

「それでは,刑事裁判の立場から質問します。えー,被告人に対する住居侵入窃盗被告事件の公判期日において,証人が次のような証言をしたとします。『私は,友人Fが“被告人が被害者宅の窓から侵入するのを見た”と話しているのを聞きました。』・・・この証言に証拠能力は認められますか?」

Otomo

「いえ,認められません。」

主査

「なぜですか?」

Otomo

「はい。被告人が被害者宅に侵入するところを見たというのは,証人F自身が体験した事実ではないからです。」

主査

(えっ?という顔をして)「証人F?・・・Fは友人なんですが。」

Otomo

(しまった!)「あっ。」

主査

「Fが体験した事実であって,証人自身が体験した事実ではないという意味ですか。」

Otomo

「はい,そうです。」(あー,FriendのFか・・・)

主査

「それで,伝聞法則が適用されるから,証拠能力がないと。」

Otomo

「はい。」

主査

「ところで,伝聞法則の適用については,証明の対象が何であるかによって違いが生じるという話がありますよね。ちょっと説明してもらえますか?」

Otomo

「はい。まず,供述内容の真実性を証明するために用いる場合には,伝聞法則が適用されます。これに対して,供述の存在自体を証明するために用いる場合には,反対尋問によるテストが必要ないので,伝聞法則は適用されません。」

主査

「うん。じゃ,そこの六法見てくれるかな。ヒモが差し込んであるページ。」

Otomo

「はい。」(机上の六法を開く。刑事訴訟法320条あたりが載っていた)

主査

「今の事例を,320条の条文に即して説明してもらえますか?」

Otomo

「はい。えー,本件は,『公判期日における供述に代えて・・・公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とする』場合にあたると思います。」

主査

「うん,公判期日外の供述ね。ところで,先ほどあなたが説明してくれた,供述内容の真実性を証明する場合とかいう話は,この条文には書いてないですよね。」

Otomo

「はい,書いてないです。」

主査

(ニヤリと笑って)「どうして書いてないんでしょうね?」

Otomo

「・・・(数秒間沈黙)。えーと,これはですね,公判廷外の証言を使う場面では,通常,内容の真実性を証明するケースが多いと思われますので・・・。そのような通常の事態を想定したことから,わざわざ条文には書かなかったのかと思うのですが・・・。」(意味不明)

主査

「そうですか? ま,じゃ,これはいいや。」

Otomo

「・・・。」(違ったか)

主査

「じゃ,次の質問です。先ほどと同じ住居侵入窃盗の事例で,証人が次のような証言をしたとします。『私は,被告人が“あの家の窓は開けやすそうだなぁ”と言っていたのを聞きました。』・・・この証言に証拠能力は認められますか?」

Otomo

「はい。この場合は認められます。」

主査

「どうして?」

Otomo

「はい。この場合は,先ほど述べました供述の存在自体を証明するために用いる場合にあたるからです。」

主査

「そう? この場合の要証事実は何?」

Otomo

「えー,要証事実は・・・被告人が被害者宅の窓から侵入することを計画していたこと,だと思いますが・・・。」

主査

「計画していたこと・・・。でもね,そうすると,やっぱり,被告人が『あの窓は開きやすい』と実際に考えていたかどうか,その点の真実性が問題となるんじゃない?」

Otomo

「?(数秒間沈黙)。・・・被告人のそのような発言が存在すること自体から,被告人の侵入計画が推認されると思うのですが・・・。」

主査

「あぁ,間接事実みたいに捉えてるわけですか?」

Otomo

「はい。」

主査

「間接事実ならいいの?」

Otomo

(何を聞かれてるんだろ?)「・・・えー,この場合,原供述の真実性といえば,被害者宅の窓が本当に開けやすいのかどうか,その点の真実性だと思います。しかし,本件では,そういう使い方をしていないことは明らかですから,やはり,供述の存在自体を問題とする場面だと思うのですが・・・。」

主査

「うーん。じゃあ,こう聞こうか。伝聞証拠の証拠能力が否定される根拠として,ある4つの過程を経ることが根拠とされているよね。」

Otomo

「はい。知覚,記憶,表現,叙述です。」

主査

「うん。その点から,さっきの2つの事例の違いを説明できないかな?」

Otomo

「あっ! そうでした。2つ目の事例では,原供述の知覚・記憶の正確性が問題とならないので,その点では反対尋問によるテストを経る必要がありません。」

主査

(大きくうなずく)「うん,そうだね。それじゃ,今の1番目の事例についてだけれども,このような証言がなされた直後に,弁護人から異議が出たとします。この場合,裁判所としてはどうしますか?」

Otomo

「はい。伝聞例外にあたるか否かを検討します。」

主査

「うん。具体的には何条ですか? 六法見ていいですよ。」

Otomo

「えー・・・。はい,324条2項です。」

主査

「2項ですね。で,もし伝聞例外にあたらないと判断した場合,裁判所としてはどのような措置をとりますか?」

Otomo

「はい。証拠排除します。」

主査

(何かメモしつつ)「うん,証拠排除ね。じゃあ,もし逆に,弁護人から全く異議が出ないまま証人尋問が終了し,その後,結審までむかえた場合,裁判所は,判決中において先ほどの証言を犯罪事実の認定に用いることができますか?」

Otomo

「はい,できます。」

主査

「どうして?」

Otomo

「はい。弁護人から異議が出なかったことをもって,黙示の同意があったものと解しうるからです。」(これは新実例刑訴に載ってたな)

主査

「なるほど。そういう風に言ってる判例があるわけですか?」

Otomo

「あります。」(新実例に載ってるぐらいだから,たぶんあるんだろう)

主査

「・・・ほんとにありますか?」

Otomo

(やばっ)「・・・そう言われると・・・。はっきりしませんが・・・。」

主査

「(笑) 私からは以上です。」

Otomo

「・・・。」

副査(検察)

「それでは,次に,検察の立場からお尋ねします。とある傷害事件について,被疑者を取調べたところ,被疑者が氏名を述べることを拒絶しました。ところで,そもそも氏名に黙秘権は認められますか?」

Otomo

「・・・認められます。」(たしか包括的黙秘権だよなぁ)

副査

「認められる? 判例知ってる?」

Otomo

「はい。弁護人選任届の有効性が問題となった事案がありました。」

副査

「どんな内容?」

Otomo

「氏名のない選任届は無効だという判断でした。」

副査

「うん。とすると,君は,最高裁判例に反する立場をとるわけですか?」

Otomo

「あっ,いえ,えーと・・・反するつもりは・・・ないんですが・・・。」(たしか論理必然じゃなかった気がする)

副査

「氏名に黙秘権が及ばないとして,何か被疑者に不利益ある?」

Otomo

「・・・えーと,場合によってはあるかもしれませんけど・・・」

副査

(さえぎるように)「通常はないですよね。」

Otomo

「は,はい。」(そっか。検察の立場だし,これでいいのか)

副査

「では,被疑者があくまで氏名を言わない場合,取調官としてはどのような方法をとればよいですか?」

Otomo

「はい。えーと・・・とりあえず目撃者だかを連れてきて・・・。」

副査

(いぶかしげに)「氏名ですよ,氏名。」

Otomo

「あっ,はい,そうですね。・・・えっと,そうだ,指紋で照会をかけます。」

副査

「うん,指紋ね。前科があればいいけどねぇ。他には?」

Otomo

「はい。免許証等の所持品を調べます。」

副査

「免許証ね。はい。私からは以上です。」

Otomo

(えっ,もう終わり?)

副査(刑弁)

「それでは,次に,刑事弁護の立場からお尋ねします。ある万引きの事案で,被疑者が現行犯逮捕され,その後,起訴されました。犯行については全面的に認めています。この場合,あなたが弁護人として保釈請求をするとすれば,どのようなことを保釈請求書に書きますか?」

Otomo

「えー・・・。罪証隠滅のおそれなし,逃亡のおそれなし,でしょうか。」

副査

「はい。じゃあ,罪証隠滅のおそれがないことについて,具体的にはどのような事実を挙げて記載しますか。」

Otomo

「はい。まず,被告人は犯行を全面的に認めていること,捜査段階で既に証拠収集は十分行われており,目撃者等の調書もとられていると考えられること等を挙げます。」

副査

「はい。それでは,保釈請求をした後の話ですが,検察官が保釈意見を出しますよね。弁護人としては,この意見書をぜひとも見たいわけですが,これを見ることはできますか?」

Otomo

(聞いたことないなぁ)「見れません。」

副査

「えっ,見れない?」

Otomo

「あっ,いえ,えーと,裁判官に面接などして,その時に裁判官から直接聞くことができると思います。」(まずいな)

副査

「うん,それはそうなんだけどね。でも,やっぱり意見書を直接見たいわけですよ。見れるという条文はないかな?」

Otomo

「えーと・・・訴訟記録の中に綴られていれば,閲覧できると思うのですが・・・。」

副査

「40条で見れますよね。」

Otomo

「あっ,はい,そうでした。」

副査

「終わります。」

Otomo

「ありがとうございました。」

 

<感想>

 民事系と比べると,あまり露骨に「正解」ということを言ってくれず,二の矢三の矢が飛んでくるといった感じの印象を受けました。それでも,かなり誘導はしてくれます。 なお,刑事系では,学者の見解みたいな回答は必ずしも喜ばれません。むしろ,検察なら検察,弁護なら弁護の立場に立って,なるべく有利な主張をするほうがスムーズに進んだ気がします。