「移送は,いそういで(急いで)やらなきゃいけません」

部長ギャグは,静謐な裁判官室のオアシス。

激務だからこそ明るく生きる裁判官を見た,民裁修習。



20×50
検察修習・弁護修習では,それぞれ訴訟の一方の視点で事件を見てきましたが,いよいよ今日からは,満を持して裁判修習のスタートです。高松の裁判修習は,とにかく忙しいという評判。あの怒濤の検察修習よりも忙しいそうですから,どうなることやら・・・。

高松修習生は全部で8人ですが,これを4人ずつに班分けし,1班が民事部,2班が刑事部で,3ヶ月間修習します。4月から今度は逆に入れ替わって,また3ヶ月間修習するわけですね。自分は1班なので,民事→刑事の順です。(・・・ちなみに,修習生の間では,刑事→民事という順序の方が人気ですね。なぜなら,後期修習の直前に要件事実を勉強したほうが,後期修習や二回試験で負担が軽くてすむから,だそうです。ほんとかどうかは知りませんが。)

さて,初日の今日は,裁判修習のオリエンテーションが行われました。裁判所内の部屋配置図を渡されたので,さっそく民事裁判官室を見てみると・・・。おや? なぜか修習生の座席が載ってません。刑事裁判官室にはちゃんと修習生の座席が載ってるんですが・・・。それで,おかしいなぁと思っていると,この後,説明の人の口から衝撃の事実が明らかになりました。実は,今年から高松の民事裁判官が増えたため,裁判官室には修習生が座る場所が無い,と。そのため,民事部の修習生は,なんと刑事部のラウンドテーブルで修習してくれと言うのです。・・・おいおい,そりゃないよ,と民事部の修習生4人は心の中でツッコんだことでしょう。フロアーはおろか,部署まで別の場所って・・・(汗)。

しかし,弁護修習を経た高松修習生は,すっかりたくましく,というか,すっかりずうずうしくなってました(笑)。4人とも,指示されたラウンドテーブルをほとんど使うことなく,民事裁判官室の中に居座って,裁判官のデスクのはじっこを少し片づけていただき,その小さな空間でずっと記録を読んでいたのでした。・・・この20cm×50cmという超機能的省スペース型修習生専用マルチデスクで,高松修習生1班の熱い冬が始まります。
Date: 2003/01/08



災難は,忘れた頃に・・・
弁護修習の最終日に,とある弁護士の先生がなかなか面白いことをおっしゃってました。「これから裁判所に行ってから,本当の弁護修習が始まります」と。・・・要するにですね,裁判修習に入れば,裁判所の立場から色々な弁護士の書面や訴訟活動を見ることができるため,単に裁判官となる者のみならず,弁護士となる者にとっても非常に意義深いんだと,そういう趣旨です。確かに,弁護修習では1人の先生にずっとついているため,色々なタイプの先生を見ることはできませんからね。それに加えて,裁判官室で色々と会話をしていると,裁判官の弁護士に対する評価,印象なども(かなり露骨に?)わかったりしますので,先のお話はなかなか的を射てるなぁという感じがするわけです。

さて,今日も,昨日と同じように裁判官室に居座って,修習生専用コンパクトデスクで修習しました。何をするかというと,既に弁論終結している事件の記録を読んで,判決を起案します。これが,なかなか遅々として進みません。研修所の民事裁判で勉強した要件事実をベースに主張の整理をすることはもちろん,それに加えて,証拠に基づいた事実認定も行う必要があるんですね。さらに,判決のスタイルも,研修所では旧様式(要件事実に沿った様式)を使うのに対して,実際の裁判所では新様式(一般人に対してわかりやすく工夫された様式)を使いますので,何をどう書いていいのやらさっぱり・・・。キーボードを打つ指も止まりがちでした。指導担当裁判官からは,おおよそ1週間をメドに書き上げるよう言われてますので,まぁこれから頭を切り換えていきます。

夕方から,久々に指導担当検事に呼ばれて,検察庁へ行ってきました。一体なんだろうと思っていると,なんと,提出したはずの検察事例研究(12月10日の日記参照)に,大量の付箋がついて返ってきました。指摘の箇所について書き直しの上,再提出とのこと(大汗)。災難は,忘れたころに・・・。

※ なお,過去の日記については,このページの最下部の検索欄に 12/10 といった具合に日付けを半角文字で入力すれば,簡単に表示することができます。
Date: 2003/01/09



運だめし
裁判所もあくまで役所ですから,修習生は,毎朝登庁するとまずハンコを押す必要があります。弁護修習ではこれが無かったので,その習慣が染みついてしまい,ついうっかりハンコを持っていくのを忘れてしまうんですね。もう既に2回ほど忘れて,手書きでサインしてるのでした・・・。ほんま,ずっと役所にハンコ置いといたろかと思いましたよ(笑)。

さて,来週からは本格的に法廷が始まるということで,その準備として,あらかじめ記録を読んでおくように指示されました。どかーんと積み上げられた事件記録は,全部で8件。これで1日分ですよ。指導担当裁判官は,「こんなの,まだ少ないほうだからね」とサラリと言ってのけるから恐ろしい(汗)。かといって,記録を読まずに法廷を傍聴したら,それこそさっぱりわかりませんから・・・。このように,大量の記録を読んだ上で法廷傍聴を繰り返しつつ,合間をみて判決起案をする,というのが,どうやらこの民裁修習の基本的なスタイルのようです。

5時で修習を終えた後,今日は,裁判官の方々と一緒に,カキを食べに志度まで行ってきました。ここのカキはおいしいと評判なんですけど,反面,必ず何人かはお腹を壊すと言われています。裁判所書記官の方から戴いた案内のビラにも「運だめし!」とか書かれてまして(苦笑),ずいぶんチャレンジングな企画をやるもんやなぁと思いましたが・・・。鉄板の上にスコップでどさどさどさっとカキを乗せる光景は壮観でしたよ。1人あたり30〜40個くらいは食べたんじゃないですかねー。さて,週明け,みんなちゃんと登庁できるんでしょうか(笑)。
Date: 2003/01/10



カルチャーとバラエティーの狭間で
なんだか最近,法律系のテレビ番組が静かなブームのようですね。古くからやっている有名なものとして「生活笑百科」(NHK)がありますけど,その他にも,最近では「ザ・ジャッジ」(フジテレビ),「行列のできる法律相談所」(日本テレビ)などがあります。中でも「行列の〜」は,タイプの異なる4人の弁護士を出演させてそれぞれの見解を戦わせるという,これまでにない手法を用いています。必ずしも一義的に決しうるものではない法の解釈適用の本質をうまく突いてますね。自分,ひそかにこの番組を毎週楽しみにしています。

ただ,この番組は,実際に起きている法律問題とは大きく異なる点があるんですね。それは,「事実」が存在することを当然の前提として議論が進む点です。この点,実際の事件においては,そもそも「事実」があったのかなかったのか,そこが問題となるわけですよ。金を貸したのか貸してないのか,浮気があったのかなかったのか,それこそが大きな問題となるわけでして,これを根拠づけるために様々な立証活動もあるわけです。しかしながら,この番組は,そういった事実認定の部分をすっとばし,「事実」それ自体は確定しているものとした上で,その「事実」に法を解釈適用するとどうなるかを議論します。

また,この番組で題材とされる相談は,たいてい「慰謝料を請求できるか?」とか「離婚できるか?」といったものです。これらは,いずれも一般条項的な要件(前者なら過失,後者なら婚姻破綻など)へのあてはめを問題とするものでして,要するに,「いかなる評価根拠事実があれば,一般条項的な要件をみたすといえるのか?」を議論しているものが圧倒的に多いです。これは,法の解釈というよりも,むしろ事実に対する評価の問題でして,人それぞれの価値観とか思想によって影響されやすいものと言えるでしょう。

要するにですね,この番組を見ていると,実によく工夫してある・・・というか,悪く言えば,実際の法律相談のごくごく一側面のみをクローズアップしてテレビ向けにあつらえているような,そんな感じがしてならないわけです。他にも,登場する弁護士の先生が「当然,慰謝料とれます」みたいに断定的な言い方をするのも,テレビ的な演出なんじゃないですかねー。ホントは,弁護士倫理上,依頼者に有利な結果を保証してはいけないことになってますので(弁護士倫理23条),あんまりああいう断定的な言い方はしないんじゃないかなぁという気が・・・。

あ,なんか番組にけちつけてるみたいになりましたけど,自分は,この番組を純粋に楽しむ視聴者の一人ですよ。テレビを見ながら,「これひどいなー」「それはいくらなんでも認められへんやろー」などとツッコミを入れ,自分の考えた答えと同じ見解の弁護士がいればその人を応援し,たまーに自分と逆の見解で弁護士全員が一致したような場合には,修習生のプライドがガラガラと崩れ落ちて大いにヘコむと(笑)。・・・ちょっと気の緩んだ日曜の夜に,ほどよく頭を使わせてくれる,カルチャーとバラエティーの狭間に生まれた良質番組だと思いますね。
Date: 2003/01/12 (休日特別版)



迅速性が命!
今日から裁判所が本格的に稼働し,先週とは様子が一変しました。まず,午前10時の開廷前に,書記官の方も交えて,今日行う8つの法廷全てについて打ち合わせをします。うちの指導裁判官は比較的早口な方ですので,もうあれよあれよと言う間に終わってしまいます。そして,その中の記録の1つを使い,支払督促手続について色々と教えて頂きました。ほとんど勉強したことがない分野だったため,初めて聞くようなことばかり・・・。しかも,自分は情けないことに,まだ全ての記録を読み切れていなかったため,密かにヒヤヒヤしてました(苦笑)。なんか,自分の甘さを痛感しましたよ。

そして,いよいよ裁判修習では初めての法廷です。ここでは,修習生も壇上に上がり,裁判官の隣に座るんですね。(なお,修習生が壇上に上がることについては異論もあり,裁判所によってスタンスが異なります。うちの場合,双方代理人の承諾があれば,修習生も壇上に上がるという運用がなされています。) 普段とは逆方向から見ることになるため,原告と被告がどちらなのか一瞬わからず,なんか違和感がありました(苦笑)。

で,審理が始まったわけですが,やはり今までとはずいぶん感じ方が違いましたね。手続として今何が行われているのかとてもよくわかりますし,またその1つ1つの手続がいかにスピーディに行われているかもよくわかります。・・・なんというか,こう,検察修習や弁護修習にいた時は「訴訟を動かしてるのは当事者だ。」と切に感じたものですが,いざ裁判修習になってみると「いやいや,やっぱり裁判所が交通整理やってるからこそ回っていくんだよ。」などという気になったりするから,人間というのは不思議なもんです(笑)。

さらに,夕方は,弁護修習時代の指導担当の先生とそのご近所の先生から新年会に招いていただきました。まだ1週間ですが,なんだかとってもノスタルジー。自分,お酒は全く飲まないのですが,こういった場でしか見れない先生の姿やお話というのもありますので,それなりに色々と楽しんできたのでした。
Date: 2003/01/14



まだまだ不景気
さすがに20×50ではいくらなんでも狭いということで,部屋の中央にある応接ソファーに移動してみました。部屋の中で一番年下の自分が,なぜか一番偉そうな場所に座っているという状態です。しかも,すぐ隣にお菓子まで置いてあるという,実に素晴らしい座席でして・・・・・・あ,いやいや,ここしか座る場所がないんですよ,ほんとに。全くもって,よんどころない事情によってここにいるわけです。どうかご理解下さい。(って,誰に弁解しているんだろう(笑))

今日は,指導担当の裁判官が破産の事件を担当されている日だったので,この手続に同席させていただきました。これは免責審尋というんですが,要するに破産決定を受けた人について,借金等の債務を免責してあげてよいかどうかを判断するため,必要な事項を質問する手続です。人それぞれに気の毒な事情もあり,しかもあんまり景気のいい話ではないので,こっちまで少々げんなりしそうになりました・・・。この人達を立ち直らせてあげるのは一体誰なんやろう,と。裁判所にできることにはどうしても限界があるわけですが,かといって,じゃあ代理人がそれをやってくれるのかと。あるいは,家族は受け入れるのかと。社会は受け入れるのかと。部屋を出て行く破産申立人の後ろ姿を見ながら,そんなことをふと思ったりしたのでした。

部屋に戻って,指導担当裁判官の方から,通常の民事再生と小規模個人再生と給与所得者等再生の違いについて,色々と教えていただきました。このあたりの制度は色々とややこしいのですが,条文を追いながら,違いが設けられている理由などもきちんと見ていくと,非常にためになります。今のうち,しっかり勉強しとかないと・・・。やらないといけないことはどんどん増えていくのでした。
Date: 2003/01/15



裁判所の駐車場が無くなる日
毎週木曜日は,裁判所の駐車場が無くなる・・・と言われています。実は,木曜日は,裁判所で「三者即日処理」という手続が行われるんですね。これは,交通違反者が裁判所に出頭してきて,警察・検察の取調べ→起訴→裁判→罰金の納付という一連の手続を一日でやってしまうというものでして,大量の交通違反者が裁判所に殺到します。もちろん,呼出状には「車で来ないように」と指示があるんですが,みんなおかまいなしに,車で来て裁判所の駐車場に止めていきます。そのため,あっという間に満杯になり,事実上駐車場が機能しなくなってしまうというわけです。

さて,今日は,指導担当裁判官がラウンドテーブル法廷の日でした。通常の法廷とは違って,円卓の周りに関係者が座り,主張や証拠の整理など審理の準備を行います。もちろん,修習生が傍聴するためには,あらかじめ記録を読んでおかなければならないんですが・・・自分は,木曜がラウンドテーブルの日ということをうっかり忘れていたため,ほとんど記録を読んでおらず焦るはめに。結局,記録読みを4件と,傍聴を2件やりました。別途,課題とされている判決起案をする時間を見つけるのも,なかなか一苦労です。・・・修習生の中には,指導担当裁判官の法廷を全件傍聴する人もいるらしいですけど,一体どんな時間の使い方をしてるのか教えてほしいですよ,ほんとに。
Date: 2003/01/16



弁論主義
3ヶ月の民裁修習の間に,一体いくつ起案ができるか。10個位という話も聞きましたが,そうだとすれば,9日に1通のペースということになります。自分,初日にもらった判決起案の課題もまだできていないというのは,非常にまずいわけですね。慣れてないとはいえ,そろそろ完成させないといけません。今日は,午前中,めずらしく「公式の」修習場所であるラウンドテーブルに戻って,とある損害賠償事件の判決起案に勤しみました。なんとなく弁論主義の第1テーゼが頭の中にあって,準備書面等で主張されている事実だけについて事実認定して大急ぎで起案を書き上げたんですけど,あとでふと考えたら,間接事実には弁論主義の適用はないんだった! ・・・あーあ,やっちゃったよ。なんかやけに短いとは思ったんやけどなー・・・。まぁ,出してしまったものは仕方ないです。時間も無かったですし。次,頑張ろう。

午後からは,法廷傍聴です。金曜日は,指導担当裁判官が通常法廷の日でして,しかも今日は人証調べ(当事者尋問)がありました。出てきた代理人は,こちらの地元で屈指の迫力をお持ちのベテランの先生です。そらもう,すごかったですよ。供述の矛盾や不自然な点を突く場面では「なるほど!」と思わされますもん(中には必ずしも争点と直接関係がないものもありますが・・・)。そうか,これだ。これこそが尋問なんだ,と。自分は,弁護修習の時,刑事事件(しかも自白事件)の被告人質問ぐらいしか見たことがなかったので,2時間にも及ぶエキサイティングな尋問は非常に勉強になったのでした。
Date: 2003/01/17



マルチ・タスク
裁判修習の印象を一言で述べるならば,「マルチ・タスク」,これですね。作業が同時並行的に進んでいくんですよ。たとえば,ある1つの起案を課題として与えられて,それをこなしたらまた次の起案へ・・・というテンポでは,到底やっていけません。次々とやるべきことが増えていきます。現在,自分も,前に与えられた起案の課題がまだ手つかずの状態に近いというのに,早くも次の起案,更にそのまた次の起案までも抱えているという(苦笑)。あるいは,裁判官室で記録を読んでいると,指導担当裁判官の方から「こんな事件もあるんだけど,興味ある?」といった感じで様々な種類の事件の記録を見せて戴けるんですね。そうすると,いくつものことをいっぺんにこなしていくことになるわけです。自分で何かを勉強するぶんにはシングル・タスクでも構わないわけですが,いざ仕事に就くとなれば,法曹三者のどれになるにせよ,やはりマルチ・タスクで動かなければ仕事が回っていかないでしょうね。自分は,複数のタスクをいっぺんにこなそうとすると頭がしばしばフリーズしてしまう,Windows98のような人間ですので,この機会に脳内OSをXPにアップグレードしたいと思います(笑)。

さて,火曜日は通常の法廷の日です。あらかじめ記録を読んでおいた4件ほどの事件を傍聴した後,とある貸金返還請求事件や売買代金請求事件等の判決起案をやりました。事件の中で問題となる事柄については,そのつど裁判官から教えていただくのですが,その時に,自分はうろ覚えの知識ばっかりやなぁとつくづく感じさせられます。たとえば,擬制自白について「争うことを明らかにしない場合」を「明らかに争わない場合」と言ってみたり,あるいは,利息制限法について「任意に利息を支払った場合は有効」と言ってみたり(条文は,返還請求を否定するのみ)・・・。受験を離れて1年半でここまで六法の知識が抜け落ちてることは実に恐ろしいと感じました。受験生のみなさん,受験で勉強した知識は決して無駄にはなりませんよー。

夕方から,ゴルフの初打ちでした。久々に運動して,かなりお疲れです。果たして,上達していってるんやろうか・・・。合計3万円のレッスン料が泣いてるような・・・。
Date: 2003/01/21



ネットオークション常習者から見た開札期日
裁判修習でも,単発モノの見学や社会修習がちらほらあるようです。今日は,地裁の執行係で行われている開札期日を見学してきました。「改札」ではなく,「開札」ですよ。不動産の競売で,最も高い値段をつけた人(落札者)を決める手続のことを「開札」というんですね。・・・なんちゅーか,見るからに不動産屋チックなおっちゃん達が狭い部屋に詰め込まれている異様な雰囲気の中,目の前で入札箱のカギが開けられ,その場でひとつずつ封筒を開けて,落札者を決めます。その様子をひととおり見た後,落札後の手続,次順位者の処理などについて,教えていただきました。

さて,この開札手続ですが,普段からヤフーオークションにハマってる自分としては,少々リスキーな感じがしました。というのも,たとえば,Aという物件があって,落札最低価格が100万円と定められたとしますよね。で,自分としては,他にも競争相手がいるであろうことを想定して300万円くらいで入札したとしましょう。ところが,その後開札してみると,実は入札したのは自分だけだった!・・・と。この場合でも,自分が入札したとおり300万円での落札として取り扱われてしまうんです。「ちきしょー,それなら100万円にしときゃよかったよ」と思っても,後の祭りなわけですね。

これに対し,ヤフーオークションであれば,当該入札額を上限とした「落札のために必要最小限度の価格」の落札として扱うんですね。つまり,先の例でいうと,他に競争相手がいなければ,いくらで入札しようと100万円での落札として扱われます。(もし他に200万円で入札した競争相手がいる場合には,201万円での落札として扱われたりします。いずれにせよ,即300万円ということにはなりません。) その分,入札する側としては安心度が増すんですね。・・・もっとも,裁判所の競売の場合,換価した上で債権者に配当しなければならず,少しでも高い金額で落札させるべき要請が強く働きますので,ヤフオクと同列に考えるほうがそもそもおかしいわけですが(苦笑)。
Date: 2003/01/22



書けない・・・
今日は,午前中にラウンドテーブルの法廷を3件傍聴し,午後からずっと記録検討と起案に専念しました。・・・が,どうにも判決が書けません。このままずっと書けなかったら,一体どうなるんやろう。時間だけがどんどん過ぎていき,気は焦るばかりで,記録を読んでいても,その内容が汗とともに頭からどんどん蒸発していってるような,そんな感じがした一日でした。

記録を読むときは,要件事実を念頭に置いて読む,争点がどこかを考えながら読む・・・と,頭ではわかっていても,実際にそれをやろうとすると簡単ではありません。そのため,記録を読むのにものすごい時間がかかってしまい,徐々に焦ってくるわけです。で,これじゃいかんということで,少しでも読む速度を上げようとすると,今度は読み方が雑すぎてポイントを拾いきれなくなってしまいます。それで,またしばらくすると,やっぱりこれじゃだめだということで,またじっくり読む。すると,また異様に時間がかかって・・・・・と,このループを何度も繰り返してるような気がします。結局,何も身に付いてないんですね。

まぁ,一晩寝れば,今日読んだ事件や判決についての記憶も,ある程度熟成されるかもしれません。今週もあと1日だし,頑張ろう。
Date: 2003/01/23



「刑事とえらい違いやなぁ」
今日は,午前と午後に1件ずつ,法廷で当事者尋問を傍聴しました。尋問の時も,修習生は法壇の上で座ることができますが,さすがに修習生が補充質問をすることは認められてません(笑)。もっとも,途中でメモを渡せば,裁判官が代わりに尋ねてくださることはあります。

尋問が終わった後は,裁判官から,代理人の尋問活動のポイントや,補充質問の意味など,色々と聞かせてもらえます。裁判官いわく,尋問では,「引くところで引く」のも大事なのだとか。つまり,おかしいじゃないか,矛盾してるじゃないか,とあまり厳しく突っ込みすぎると,かえって相手も意固地になってしまい,知らぬ存ぜぬで供述が固まっていってしまうわけです。むしろ,ある程度のところで,いわば「寸止め」するのもひとつの手だったりするんですね。なかなか興味深いお話でした。

そうそう,お昼に,裁判官との昼食懇談会がありました。民事部・刑事部の裁判官はもちろん,地裁・家裁の所長など偉い方々に囲まれ,なんともいえない雰囲気で(苦笑),昼食をとります。で,修習生が一人ずつ感想を述べていきました。刑事部の修習生4人は「裁判官の職務と責任の重さを切に感じました」といった堅い感じのコメントが続いたのに対し,民事部の4人は「これからも,ぶっちゃけた話を色々と聞かせて下さい」的な軽い調子のコメントが多く,まさに対照的。・・・民事部の裁判官の方からは,「刑事とえらい違いやなぁ」「教育の仕方がまずかったかなぁ」といった言葉がこぼれていました(苦笑)。
Date: 2003/01/24



100%の証明
検察修習の時と同様,裁判修習でも「修習日誌」というものを書いて提出することになっています(10月2日の日記参照)。これは,その日の修習内容や感想,希望事項などを記載するというもので,修習生が週替わりで担当しています。で,自分は先週が担当だったのですが・・・結局,この土・日で5日分まとめて書くはめに(笑)。おかげで,今日は一日眠かったです。

月曜日は合議事件の日ということで,修習生は記録検討がメインとなりました。記録を読んでいる時には,裁判官から色々と質問されたりします。今日,なかなか面白いなと思ったのは,「ある写真がいつ撮影されたものか(撮影年月日)を証明するためには,どうすればいいか。」という質問でした。・・・ほら,よく写真のはじっこにデジタル表示の年月日が入ってたりするでしょう。でも,あんなのはいくらでも捏造が可能なわけですから,確実性に欠けるわけです。

じゃあ,どうすればいいか?・・・あるんですよ,100%間違いなく撮影年月日を証明する方法が。それは,当該写真を撮影する前と後に,確実な日付が写る風景(証券取引所にある大画面など)を撮影しておくんです。その上で,証拠として,写真のみならずフィルム(ネガ)も提出します。すると,ネガの順番まで捏造することは通常できませんから(ネガを切り貼りしたら,一目でわかるでしょ(笑)),当該写真は,前後の写真の間で撮影されたものと証明することができるというわけです。立証活動というのは,実にクリエイティブだなぁと感心しました。

※ なお,過去の日記については,このページの最下部の検索欄に 10/02 といった具合に日付けを半角文字で入力すれば,簡単に表示することができます。
Date: 2003/01/27



「付箋を貼って指摘すること」
今日は,修習生2人がペアで,民事訟廷事務の修習をやってきました。これは,裁判所の受付で訴状のチェックをしたり,訴訟記録の管理をしたりといった仕事を実際に体験してみるというもので,書記官の方に色々と教えていただきました。訟廷事務のひとつひとつには,それぞれ法的根拠がありまして,たとえば「付箋を貼って指摘すること」「添付された印紙は直ちに貼ること」などといった具合に,通達やら規則やらできちんと定められているんですね。それ見た時,ここはすごいところやなぁと思ったもんです。

実際に裁判所に来てみると,思いのほか,書記官の方の役割が大きいことに気づきます。単に事務的なことをするだけではなく,事件の内容も相当に把握されており,裁判官の方と色々意見を交換する中で訴訟進行の方針が決まっていったりもします。また,執行や破産に関する手続面では,裁判官よりも書記官のほうが詳しかったりするのだとか。弁護士も,書記官と良好な関係を保つことが仕事の上で非常に重要だという話を聞いたことがありますね。

あと,目を引いたのが,「民事裁判事務処理システム」です。詳しいことはあまり書けませんが,要するに,事件の配転や記録の引継ぎなどを全てパソコンで管理してるんです。裁判事務のOA化はここまで進んでるんですね。実際に触らせてもらったところ,動作は少々重いんですが,あらかじめ表示されたドロップダウンメニューをクリックして選んでいくような感じで実にらくちん。これ考えた人はすごいと思いますよ。・・・ただ,そのパソコンの隣に置かれていたプリンターは,ふたが壊れてガムテープでとめられており,最先端のシステムとは対照的な何ともいえない哀愁を漂わせていました(苦笑)。
Date: 2003/01/28



ズシリと重い所長講話
裁判修習にも少し慣れてきた時期ということで,今日は,民事部・刑事部の修習生及び55期の新任判事補を集めて,裁判所長による講話がありました。当然のことながら,所長もずっと現場で裁判官をされてきてますので,その経験をふまえて,判決の書き方について話して下さいました。

「パソコンの前で,うーんと考え込んで止まってしまうのは,事案の読み込み方が足りない証拠だ」・・・うわ,耳いたっ!(苦笑) けど,確かにその通りなんですよね。事件を自分のものにできてないから,自分の言葉も思いつかないし,何をどう書いたらいいのかもわからない。他方で,記録をじっくり読んでたら,なんぼ時間があっても足りないと。自分の場合,記録に向き合う姿勢・意識に問題があるような気がしてるんですが,どうしたらいいか,今なお試行錯誤を繰り返してます。

「判決を書くのは,あまり時間をかけてはいけない。短時間で,一気呵成に書き上げてこそ,文章に迫力が出る」 厳しー。自分,1つの判決を書き上げるのに,どれだけ時間かかっとんねん(汗)。1ヶ月経ったのに,仕上げて提出できた判決はまだ1つだけですよ。夜も7時ころまで残って起案してるのに,なんでこんなに遅いねん,と。5時帰宅できる修習生がいるのが不思議ですよ,ほんと。・・・もう,この仕事をちゃっちゃとこなすためには,要件事実の知識や事実認定のポイントがしっかり頭にプログラムされている状態で,いわば頭に事件をインプットすれば,主張整理や心証がアウトプウットされてくる,まるで判決マシーンのような処理速度じゃなきゃいけないのかなぁ,と思えてしまいます。・・・いや,というよりも,自分の勉強不足だな,やっぱり。
Date: 2003/01/29



和解の心得
今日はラウンドテーブル法廷の日です。弁論準備や和解を3件ほど傍聴させていただきました。少し前に,ある裁判官の方から聞いたお話なんですが,和解の席上で代理人と当事者が出頭してきている時には,代理人にキツイことを言わないようにするのだとか。つまり,当事者本人が見てる前で,裁判官が代理人をコキおろしてしまうと,当事者本人は「この弁護士,ホントに大丈夫なんやろうか?」などと不安になってしまいますよね。そうすると,当事者と代理人の間の信頼関係にヒビが入ってしまい,話し合いが難しくなってしまうのだそうです。確かに,和解というのは,代理人が依頼者に譲歩を納得させることが最も重要なわけでして,信頼関係の存在が大前提ですからね。なるほどと思ったもんです。

さて,普段は夜7時ころまで起案や記録検討をやっているのですが,今日は,指導検事による「検察演習問題」の勉強会があったので,5時半で切り上げて,検察庁のほうへ行ってきました。この「検察演習問題」は,二回試験(卒業試験)のネタにもなってるらしいので,修習生はワラにもすがる思いで参加します。久々に検察庁の修習生デスクに座ると,過去の苦い思い出が走馬燈のように・・・(笑)。いや,でも,検察修習が終わったにもかかわらず,こうして色々と面倒を見て下さる指導検事には,ただただ感謝するばかりです。
Date: 2003/01/30



憩いの場
裁判所内で,自分がひそかに「憩いの場」としているのが,弁護士控室です。ここは,法廷が始まる前の打ち合わせや,終わった後に一服するために使われる部屋でして,弁護修習の時にはいつも先生と一緒にこの部屋へ来ていました。ここ,実に居心地いいんですよ(笑)。ふかふかのソファに座ってコーヒーを飲みつつ,新聞や法律書の新刊を読むのが,最近の昼休みの楽しみだったりします(笑)。たまに,弁護士どうしのぶっちゃけ内輪話が飛び出すことも・・・!

今日は,午前中に離婚事件の記録を1件検討し,午後からは貸金返還請求事件の起案に専念しました。この起案は今日が締切だったので,そらもう必死ですよ。部屋中央のお菓子に手を出す暇もなく,ひたすらキーボードを叩いてました。夕方になって,裁判官の方々が巻き寿司をまるかぶりしてる隣で,なおもキーボードを叩き続ける自分。・・・実にシュールです。シュールの256乗でした。それでも,類似事案の判例などを参考にしつつ,7時前ごろまでかけて,どうにかこうにか,判決起案らしき物体ができあがりました。ようやく民裁修習2本目の判決起案です。これで軌道に乗れる・・・かな?
Date: 2003/02/03



結局は声のデカいほうが得をしてしまうのか
裁判修習では,裁判所で行う色々な仕事を知ることができるよう配慮されています。今日は,簡易裁判所の調停を見学してきました。調停というのは,調停委員が間に入って,当事者双方の言い分をきき,話し合いによって紛争を解決する手続きです。本来非公開なのですが,修習生ということで特別に傍聴が許されました。

調停委員には,弁護士以外にも色々な方がいます。たとえば,交通事故関連の調停であれば元検察官や元警察官の調停委員,借金関係の調停であれば,元銀行員の調停委員といった具合に,ある程度専門化が進んでいます。さすが,感情的になる当事者間の話し合いをまとめられるだけあって,人生経験が豊かで人柄も温厚な方が選任されています。調停制度の内容や当事者の説得の際の苦労などについて,優しく教えて下さいました。

で,3件ほど調停を見学していて思ったこと。なんかやっぱり,結局は声のデカいほうが得をしてしまうのかなぁ,と。まぁ,話し合いによる双方の合意に基づく,という本質からいってやむをえないのかもしれませんが・・・。裁判上の和解のように,「あんた,もしこの事件で判決を下すとしたら,結果は保証できひんよ」的なニラミ(←誇張です)をきかすこともできませんしね。それでも,ある程度一方が折れているのに,他方が我を押し通しているために,紛争が長引いてしまうというのは,疑問を感じずにはいられませんでした。
Date: 2003/02/04



お宅訪問!
うちの指導担当裁判官はまもなく転勤されるということで,色々と忙しそうです。裁判官いわく「超ヘヴィー級」の事件がいくつも残っていて,修習に適した事件はあまり残ってないのだとか。後任の裁判官の負担をなるべく大きくしないよう,解決できる事件は解決してしまって転勤するのがこの世界のならわしのようです。

そんなわけで,今日は法廷傍聴はなし。一日中,記録検討と起案に専念しました。今回起案したのは,先月,自分も壇上から尋問を傍聴した金銭返還請求事件です。そのため,事件の内容や問題点についてはある程度把握していたつもりでしたが,いざ判決の形で文章にしようとすると,「あれっ,こんな事実もあったんだ。」とか「あーあ,尋問でこれも聞いとけばよかったなぁ」とか思うこともしばしばです。(似たようなことは,司法試験の論文でもありますよね。テキストを読んで,なんとなくわかったつもりになっていても,いざ答案で書こうとすると書けない,みたいな感じです) なんでなんでしょう。思考を可視化することによって,頭の整理がつくんですかね。あるいは,判決を書く段階までせっぱつまらないと,脳が真剣になっていないのか(苦笑)。・・・いずれにせよ,記録の検討や尋問の時から,既に判決で書くべき事を念頭に置いておかないといけないなぁという感じがするわけです。

さて,修習後は,裁判官のお宅に行ってきました。というのも,裁判官の自宅PCがウイルスに感染してしまったので,一度見てほしいのだとか。・・・で,案内されてお宅へ行ってみると,なんと一軒家の官舎! しかも庭付き!! 任官1年目の新任判事補で,この待遇ですよ。部長・所長クラスの方は,一体どんな家に住んでるんやろう。ヘリポートとか核シェルターまで完備されてそうな気がする(笑)。裁判官の身分保障の手厚さを目の当たりにしました。あ,ちなみに,裁判官のPCを調べてみた結果,感染はしてないようでした。めでたしめでたし。
Date: 2003/02/07



4300円のうどん?
さぬきうどんの店は県下に数あれど,「一番おいしい店はどこか?」と聞くと必ず名の挙がる店がいくつかあります。ところが,そういった超有名店は,得てして高松市外にあるんですね。それも,電車やバスといった公共交通機関すら無い僻地に・・・(汗)。香川県というのは,自家用車を持ってる人間を念頭に置いて街を作ってるんじゃないかと思うぐらい,観光スポットやショッピングモールがやたらと郊外にあります。

とはいうものの,せっかく高松で修習してるんだから,たまにはそういった老舗のうどんも食べてみよう!と思い立ち,少し遠出して「なかむら」といううどん屋に行ってきました。電車に揺られること20分。そこからさらにタクシーで20分。周りに田畑が広がるのどかな光景の中に,いかにも普通の民家のたたずまいで,そのうどん屋はありました。

ここは,裏の畑で採れたばかりのネギを,客が自分できざんで,好きなだけ器に入れるというところが受けて,評判のお店です。味の方は,塩っけがかなり強めでして,天ぷらとよく合うダシ。あと,うどんがかなり柔らかめ。さぬきうどんでは珍しいですね。澄んだ空気とのどかな山の風景が,うどんの味をひきたててくれます。実に4300円のうどんでしたが(天ぷらうどん300円+交通費4000円(笑)),価値ある1杯でした。
Date: 2003/02/08 (休日特別版)



ホコリの中で
今日は,記録検討と起案のほか,あれこれと調べ物をしながら民事保全の設例を検討しました。裁判修習で何か調べ物をしたいと思ったとき,まずは裁判官室の本棚から適当な本を調達します。この本棚,なかなか立派なシロモノですよ。後ろに本棚が4個くっついて並んでいて,その前にさらに車輪可動式の本棚が3個並んでいます。後ろの本を取り出すためには,前の本棚を動かすわけですが,この時の「ゴ,ゴ,ゴゴゴ・・・」という重々しい音が,なんとも裁判官室らしい威厳を醸し出しています。

裁判官室の本棚に適当な本が無いとなると,今度は資料室へ行きます。ここには,判例時報や判例タイムズといった雑誌から,戦前の法律書まで,たくさんの蔵書があります。ただ,あまり長時間この部屋にいることはできないんです。というのも,この部屋,非常にホコリっぽくて,喉がやられちゃうんですよ・・・。大昔の書籍や新聞まで置いてますからね。空気清浄機の導入を切に希望します(苦笑)。

修習が終わった後,今日は刑事部の新任裁判官のお宅にお邪魔してきました。外から見たところ,普通の団地という感じです。・・・が,中に入ってみると,やっぱり広っ! 1階あたり2人しか住んでませんからねぇ。そして,本棚でかっ!! やっぱり,実務家の本棚ですよ。うちにある本棚なんて,まだプロヴィとか入ってて,受験生の本棚から脱却できてないですもん(汗)。ま,裁判官の方は,家に帰っても仕事,仕事で,まさに殺人的な忙しさですから,家ぐらいはゆとりが必要なんだろうなと思います。(裁判官の方って,仕事がつらいとかキツイとか,あまり表には出さないですけどね)
Date: 2003/02/10



うどんの器の新しい形を提案する
高松のうどん屋では,天ぷらを揚げた後のコロモがたいていレジの前に置かれており,これを好きなだけ自分のうどんにかけることができます。うどんダシとのミクスチャーは絶妙ですよ。まさに,さぬきうどんの本場ならではのナイスなサービスです。

しかーし,このコロモは,うどんに入れてしばらく時間が経過すると,ふやけてヘナヘナになってしまうんですね。これがいただけない!・・・この点については賛否両論あろうかとは思いますが,自分は,食べ始めから食べ終わりまで,コンスタントにコロモのサクサク感を堪能したいんですよ。そこで,ぜひ,うどんの器に,コロモを一時的に保管するためのスペースをつけてほしいです。文章で表現するのは難しいんですが,なんかこう,やかんの口みたいな突起を器につけてほしいんです。そこにコロモをスタンバイさせておいて,一口分ずつうどんの中へ入れながら食べれるような,そんな器があればいいなと切に思うわけです。機会があれば,是非うどん屋に打診してみたい・・・。
Date: 2003/02/11 (休日特別版)



生涯,当事者
裁判官になると,節目ごとに(任官1年目,3年目など),司法研修所に戻って一定期間の研修を受けるシステムになっているそうです。修習生は,前期(4月〜6月)と後期(7月〜9月)にしか研修所を使いませんので,それ以外の時期は,裁判官の方々の研修等に使われているわけですね。で,今度,うちの民事部の裁判官が3年目研修に行かれるということで,その準備のレジュメを少し見せていただきました。レジュメでは民事執行法上の諸問題が紹介されていましたが,そもそも基本的知識すらおぼつかない一修習生には,いささか「猫に小判」でした(汗)。

夜10時半ごろになって,急遽,検察修習の時の指導係検事(前半の方です。8月30日の日記参照)と一緒に飲むことになり,近くの居酒屋へ。過去の捜査の思い出など,検事の熱いトークライブを久々に聞かせていただきました(笑)。法曹三者の中でも,検察官の「熱さ」というのはやっぱり群を抜いていますね。整然と法廷に提出される証拠の背景に,その何十倍もの現場の苦労や努力があることは忘れちゃいけないなと思うわけです。「俺は,生涯,当事者でいくんだ」と言ってはばからない検事の姿に,法律家としてのひとつのあり方を見ました。

※ なお,過去の日記については,このページの最下部の検索欄に 08/30 といった具合に日付けを半角文字で入力すれば,簡単に表示することができます。
Date: 2003/02/12



バレンタイン・デー/微妙な空気が漂う裁判官室
今日の午前中は,指導裁判官が宅調(裁判所には登庁せず,自宅で判決起案等をすること)でした。こういう時,ついでに修習生も宅調にしてもらえれば非常に嬉しいんですが(笑),当然そんなことはあるはずもなく,いつものように記録検討と起案に専念するのでした。

検討した記録のうち,1件はクレサラ(クレジット・サラ金)がらみの事件。本当に多いです。今まで起案した起案の中にも1件ありましたが,利息制限法の制限超過利息を元本充当する有名な判例理論がある一方で,貸金業法はその支払いを「有効な利息の支払い」とみなす余地を認めてるんですね。そうしないと,かえってヤミ金が横行してしまう,というのが立法趣旨だそうです。なんか,毒をもって毒を制するような感もしないではありませんが・・・。

さて,今日はバレンタイン・デーということで,裁判官室も何やら微妙な空気(笑)。女性職員の方がちょくちょく部屋に入ってきては,男性裁判官と何やら小声で言葉を交わし,袋包みを手渡して帰っていきます。そんな中,民事部の女性裁判官の方は,書記官を通じて修習生にもチョコを下さり,大変嬉しかったです。・・・が,他方で,修習生4名の脳裏には,あるひとつの疑問が。「なんで,裁判官のチョコレートを,書記官の方が配ってるんやろう?」と(笑)。・・・で,よく考えてみると,書記官の方は,部長→右陪席→左陪席→修習生と,明らかに序列の順にチョコレートを配っているわけです。その時,自分は悟ったんですよ。そうか,これが裁判所なんだ,と。裁判官のチョコレートを書記官が配る。配る時は,上司から部下へ。この徹底したストイックさこそが,裁判所の組織と威厳を支え,民主的基盤を有しない裁判官に対する国民の信頼の礎(いしづえ)となっているのだ,と。なにげない風景の中に,自分は現在の日本の司法制度の縮図を見た思いがしたのでした。
Date: 2003/02/14



「修習やる意味ないやん」
なんか週末あたりからお腹の調子がおかしかったんですが,今朝になっていよいよ腹痛がひどくなってきたため,途中で診療所に行ってきました。裁判所の診療所は基本的に無料なんですが,そもそもドクターがいるのは週に2日くらいのみ。しかも,昼の1時から3時だけ・・・。ドクターがいない時のほうが圧倒的に多いため,近所の民間の医院へ行く方が確実だったりします。うーん,まぁ,研修所の診療所もたいがいひどかったですけどね(5月16日の日記参照)。

あまり具合がかんばしくないので,とりあえず今日は5時で帰ろうと思いながら,いつものように記録検討と起案をしました。で,記録については,今日は,訴訟指揮上の問題点を考えるように指示を受けたんです。・・・ところが,自分は,当事者の主張の度重なる変遷や莫大な数の証拠などに惑わされ,そもそも事案を把握するのに時間をとられすぎて,訴訟指揮のことを考えるところまでは時間が足りなかったんですよ。そしたら,指導担当裁判官から,手厳しく叱られました。「単に記録読むだけやったら,修習やる意味ないやん」と。・・・確かにその通りです。単に読んでるだけだったら,それこそ図書館に行って5時まで本を読んで帰ってきてるのと変わらないですもん。裁判修習にもだいぶ慣れてきて,やっぱり自分の修習態度には問題があるなと,改めて考えさせられました。

そんなことがあったもんで,家に帰って,前期の民事裁判のノートをぱらぱら見返してみましたよ。一番最後のところに,実務修習での注意点として,様々な項目が挙がっていました。「黙って座ってないで,積極的に取り組むこと」「記録を読むときは,裁判官になったつもりで,どういう訴訟指揮をすればいいか,どういう和解で解決するのがよいかなどを考えよ」「起案の提出期限は厳守する」・・・ノートを読んでいると,実務修習を前に,期待に胸をふくらませていた当時の自分のことが思い出されます。高松に来て7ヶ月。今だからこそ,あのころの初心に帰ろう。初心に。

※ なお,過去の日記については,このページの最下部の検索欄に 05/16 といった具合に日付けを半角文字で入力すれば,簡単に表示することができます。
Date: 2003/02/17



被告・高松地方検察庁検事正・・・?
或る日の昼休みのことです。一般待合室に掲示されていた開廷表(本日開かれる法廷の一覧表です)をなにげなく見ていたら,目玉が飛び出るようなことが書かれていました。なんと,被告欄に「高松地方検察庁検事正」と書かれてるんですよ。しかも,事件名は「認知事件」!! まさか,高松地検のトップが,隠し子とかで訴えられたのか!? いや,いくらなんでもそれはないやろ!! 何かの間違いか!?

・・・などと考えてたら,やっぱり間違いでした(苦笑)。これは,講学上,「職務上の当事者」と呼ばれるものなんです。認知の訴えの相手方が死亡しているケースでは,人事訴訟手続法26条・2条により,公益の代表者たる検察官を相手方として訴え提起をすることになっているんですね。いやいや,一瞬焦りましたよ。

さて,今日の修習は,記録検討と法廷傍聴を10件ほどしてきました。尋問こそありませんでしたが,訴訟進行の方法に問題がある事件,新たな判例を作りかねない複雑な法律問題を含む事件,双方当事者とも本人訴訟の事件など,なかなか裁判官の腕の見せ所といった事件を見せていただくことができました。起案は・・・遅々として進まないですねぇ。今週末が締め切りなんで,明日あたりから気合い入れてやらないと,金曜は夜何時まで居残りすることになるやらわかりません(汗)。
Date: 2003/02/18



二回試験に向けていよいよ始動
今日は,午後から簡易裁判所での少額訴訟見学がありました。簡裁と地裁では,やっぱり雰囲気が少し違いますよ。法廷に入ると,両脇に植木が置 いてあったり,少しムーディーな照明がつけてあったりと,微妙な気配りがなされてます。また,中央にはラウンドテーブルが置かれていました。ただ し,もともと通常の法廷として使っていた場所をそのままラウンドテーブル法廷にしているため,異様にだだっ広くて天井の高い(しかも裁判官が座る法 壇までそのまま置いてある)場所にポンとラウンドテーブルが置かれていて,少々アンバランスではありますが・・・。

で,あらかじめ記録を読ませてもらった上,実際に目の前で少額訴訟の手続を見せてもらうことに。なんか,役に立ちそうな証拠が全然と言っていいほ ど無いのに,一体これでどうやって1回結審するんかなぁ・・・と思いつつ手続を見ていると,さすが裁判官は慣れたもんです。とにかく,裁判官がグイグ イと当事者を引っ張っていくんですよ。あたかも裁判官が当事者に対して反対尋問をするかのような感じで,的を射ない当事者の話の中から必要な事 項を引き出していき,とにかく1回結審までこぎつけます。・・・とはいうものの,証拠が極めて薄いことに変わりはないですから,事実認定にあたって は,極めて柔軟かつ弾力的な証拠評価が行われることになります(苦笑)。これは,費用対効果の問題もありますし,ある程度はやむをえないところで すけどね。

さて,夕方からは,新任の裁判官の方に講師をお願いして,要件事実の勉強会をしました。いよいよ二回試験対策を本格的に始めます。55期の新任裁判官は,ついこないだまで修習生だっただけあって,我々と近い目 線で講義をして下さって,大変わかりやすかったです。研修所があまり教えたがらない,いわゆる「起案の書き方」的なことも教えて下さり,目から鱗と いう感じでした。3時間にわたって講義をしていただき,久々に頭を使った自分は知恵熱が出たのでした(笑)。
Date: 2003/02/20



やっつけ仕事
なんだか最近,週末にまとめて日記を書くことが増えつつありますね・・・。色々理由はあるんですけど,ひとつは帰りが遅いことがあります。夜の7時 半とか8時ころまで居残りすることもしばしばです。家に帰っても,各種勉強会に備えての予習や,二回試験対策(←ようやく重い腰を上げました (笑)),六法の復習,コンピュータやネットワーク関連の勉強など,やることはいっぱいでして,そうするとなかなか日記も書けないわけです。修習で感 じたことを文章の形で留めておきたいのはやまやまなんですが・・・。

今日の修習は,記録検討・起案と,法廷傍聴を7件。なんと,7件とも本人訴訟という,珍しい一日でした。本人訴訟の場合,法律に詳しくない当事者を 裁判官がサポートする必要があるため,手続や主張の意味を丁寧に説明しながら進行していきます。しかし,法律家の常識は一般人の非常識とはよく 言ったもので,「法律ではこうなります」と説明しても,「なんでやねん。そんなんおかしいやろ!」と納得してくれないことも少なくありません。そういえ ば,裁判修習に来てから,裁判官・書記官・弁護士の会話ばかりを聞いていたので,こういうふうに法律に詳しくない人を説得することの難しさみたいな ものを忘れかけてました。その意味で,今日の傍聴は意味があったと思いますね。

さて,今日で民事裁判修習も折り返し地点です。裁判修習では,途中で指導担当裁判官が交代することになっているんですね。やっぱり,訴訟指揮に せよ和解にせよ,人によってスタイルが違いますから,色々なタイプの裁判官を見てもらおうとの配慮が働いているようです。そのこと自体は,修習生に とっても大変ありがたいことなわけですが,ひとつだけありがたくないことが・・・。それは,指導官が交代する以上,前の指導官の下で指示された起案 は当然今日までに仕上げなければならないということです(汗)。しかし,「期限厳守」は,研修所でもさんざん叩き込まれている至上命題。いつものよう に遅くまで居残って,明らかにやっつけ仕事であることがばればれの「判決起案らしき物体」を仕上げて提出してきたのでした。
Date: 2003/02/21



こんなこっといいな,でっきたらいいな♪
修習でパソコンを使っていると,「こんなソフトがあったら便利やのになぁ・・・」と思うことがしばしばあるんです。そこで!今日は,自分の日頃のアイディア(?)をいくつかここで書いてみたいと思います。スキルのある方,プログラミングしてもいいよという方,随時募集中です(笑)。

<人物関係図らくらく作成ソフト>
民事事件の記録を検討していると,当事者が多数出てくることがしばしばあります。特に相続がらみの事件などは,その典型ですね。で,自分は事件メモをいつも一太郎でとってるんですが,この手の人物関係図を作ろうとすると,文字機能と作図機能を行ったり来たりして時間をロスりまくるんですよ。そこで,もっとラクに作れたらいいなと。つまり,名前だけバシバシ入力していて,相互の関係をドロップダウンメニューで選べば,自動的に見やすい人物関係図ができあがる!みたいな,そんなソフトがあればいいなと思うわけです。

<時系列らくらく作成ソフト>
法律相談にせよ,記録検討にせよ,事実の時間的関係を把握することは極めて重要です。そして,そのためには,時系列の作成が非常に有効なことは言うまでもありません。しかし,いざPCで時系列を作ろうとすると,なかなかうまくいかないんですね。エクセルを使うにしても,いちいちセルを移動させたり,過去の事実が出てくるたびに「行挿入」機能を繰り返したりで,いまひとつクイック感に欠けます。そこで,日時・場所・主体・客体・事実をテキストボックスに次々入力していくだけで,自動的に過去から未来へと整列してくれるソフトがあれば,もう笑っちゃうほどクイックでしょう。

<公用文対応用字用語校正ソフト>
起訴状とか判決などの公用文については,漢字・かなの使い分けについて独特の取り決めがなされています。(たとえば,「従って」という言葉は,「したがって」とひらがなで表記しなければならないとされています。また,「等」という漢字は,「トウ」と読む場合にのみ用い,「など」と読む場合はひらがなで表記しなければならないとされています。) しかし,当然のことながら,こういった表記のルールを全て覚えることは不可能です。かといって,起案してる最中にいちいち調べてたら時間がかかりすぎます。そこで,このルールと違った表記をした場合に,自動的に補正ないし指摘してくれる校正ソフトがあったらいいなと思います。

<文書限定単語学習機能(ATOK)>
やたらと長い単語や,難しい単語が出てきた場合,この入力をラクにするため,ATOKの辞書に単語登録しておくことがあります。(たとえば,「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・フアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・シブリアーノ・センティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ(ピカソの本名)」というのが起案の中に何度も出てくるような場合,その都度入力するのは極めて面倒ですので,「ピカソ」とだけ入力すれば自動的に変換されるよう学習させておくわけです。) しかし,この学習機能は,他のあらゆる場面でも適用されてしまうため,実に不便。普通に友人にメールを打つときにも,「ピカソ」と入力しただけで上記の長ーい名前が出てきてしまっては,かえって困るわけです。そこで,「特定の文書ファイルを作成する限りにおいて,当該単語を学習する」という限定的な学習機能があればいいなと思うわけです。はい。

なんか,指導官から,「ラクすることばっかり考えるな」とお叱りを受けそうですが・・・(笑)。
Date: 2003/02/22 (休日特別版)



法律家に必要なのは,知力か,体力か。
小学生の頃のこと。自分は運動神経が鈍く,体育の時間が大嫌いだった。春のドッジボール大会,夏の水泳大会,秋の運動会,冬のマラソン大会,みんなみんな大嫌いだった。クラスでチーム分けを決める時,運動神経のいい人たちが各チームのリーダーとなり,リーダー同士がじゃんけんをして,チームに欲しい生徒を1人ずつとっていく。その時も,運動神経の鈍い自分はいつも最後まで余ってしまい,挙げ句の果てに「こいつ,いらない」と言われ,結局,じゃんけんで負けた人のチームへ入れられていた。子供というのは,正直な分,残酷である。あの時のやり場のない気持ちは,10年以上経った今でも忘れない。

・・・と,そんな回想はさておくとして,法律家になってもなお,運動と無縁ではいられないようです。体がへばってしまっては,頭脳労働もできませんからね。弁護修習の時,指導担当の先生が,「法律家にとって,体力は大事だ。少々の知力なんかよりも,体力がある方がいい。(ずばぬけた知力なら,話は別だが)」とおっしゃってたんですよ。あれは,まさにその通りだと思います。それで,運動嫌いの自分も,ゴルフを始めたり,ジムに通ったりするようになりました。

そういった経緯から,今日は,淡路島うずしおマラソン全国大会に参加してきました。参加種目は,他の修習生に押し切られ,無謀にもハーフ!(21km) しかも,高低差50m以上もあるという,アップダウンの激しい無茶苦茶なコースでした。もう,走る前からうんざりするわけですが(苦笑),せっかく淡路島まで来たので,覚悟決めて走りました。

走り出して最初の10kmくらいまでは,まだ割と余裕があったんですけど,その後さすがにだんだんと足が重くなっていきました。15kmを過ぎてからは,1kmがめちゃくちゃ長く感じましたね。こんなん,お金もらったってやりたくないぞと。ましてや,参加費を3000円も払ってこんな苦行を強いられている自分は,一体何なんだ,と思ったもんです(笑)。それで,何度も何度も立ち止まりそうになりながらも,給水所でスポーツドリンクを補給してゾンビの如くよみがえり,死ぬ一歩手前のところで(笑),なんとか完走することができました。2時間39分3秒でした。366人中309位という,決して誉められた成績ではありませんが,そんなことはどっちでもいいんです。とにかくあきらめずにやり遂げた,それで十分だと思うんですよね。・・・あれほどまでに自分を突き動かしたのは,10数年前のあの時の記憶だったかもしれないと,今になって思います。
Date: 2003/02/23 (休日特別版)



裁判官,十人十色
今日から指導担当裁判官が交代し,自分は,民事部で部長をされている裁判官のもとで修習することになりました。部長は非常に温厚な方でして,今の民事部の和やかな雰囲気も,部長あってのものという気がします。また,会話の端々でだじゃれを織り交ぜて下さるんですね。あの同音異義語検索の素早さは,おそらく他の追随を許しません(笑)。それだけに,法廷での当事者とのやりとりの際の厳しい雰囲気とのギャップに,自分はまず驚きました。

さて,今日は午後から,弁護士の先生の講演がありました。この方は,元高松地裁の所長をされていて,裁判官を退職された後に弁護士へ転身した,いわゆる「ヤメ判」の先生です。内容としては,裁判官時代の印象に残った事件のことや,刑事事件における量刑判断の問題点など。思いのほか,裁判制度の現状批判的なお話も結構されたので驚きましたが,通りいっぺんの話をされるよりは遥かに印象に残りましたね。

裁判官にも本当に色々な人がいて,「裁判官というのはこういうタイプの人間だ」と一概に言うことは到底不可能です。裁判官は,真面目で大人しくて従順で・・・というのは,まさに偏見と言わなければならないでしょう。
Date: 2003/02/24



最強の抗弁
今日の修習は,記録検討と法廷傍聴が3件でした。貸金返還請求訴訟などの記録を見ていると,被告側が,「金がないから支払えない」という主張をしていることがままあります。特に,弁護士がついていない本人訴訟で,こういった主張がたまに見られますね。この主張は,俗に「手元不如意の抗弁」などと呼ばれていまして,法律上は全く無意味です(厳密には,そもそも「抗弁」ですらありません)。被告に金があろうがなかろうが,請求に理由があれば,原告勝訴の判決が下されますからね。・・・しかし,勝訴判決が下されても,被告に財産が無ければ強制執行をかけることはできません。すなわち,いかに裁判所といえども,無い袖は振れないわけでして,結局,勝訴判決も絵に描いたモチとなってしまうわけです。その意味で,「手元不如意の抗弁」は,最強の抗弁と言われています(苦笑)。

このように,判決というのは必ずしも紛争の適切な解決をもたらさない場合があるわけでして,そういった場合には,和解が大きな意味を持ってきます。たとえば,上述のような被告側に金がないケースであっても,和解であれば,借金を一部免除してあげた上で残額を無理のない範囲で分割払いとする・・・などの柔軟な解決案を作ることができます。このことは,被告の支払能力という点からも,被告の納得という点からも,履行可能性が高いので,絵に描いたモチの判決なんかよりはよっぽど意味があるわけです。

一般に,和解というと,白黒はっきりつけずうやむやにするようで,あまり良いイメージが持たれていません。が,トータルに見て,関係者の利害を最もよく調整しうるのは和解であり,和解こそが紛争解決の原則的形態といっても過言ではないでしょう。判決に比べて,裁判所の負担も軽くなりますし,ついでに修習生の負担も軽くなると(笑)。ともあれ,法律家の仕事というのは,「文章を書く仕事」というよりも,「人と接する仕事」という方が適切であるような気がしてならないわけです。
Date: 2003/02/26



世の中は幸せな人ばかりではない
裁判修習ではごぶさたの社会修習。今日は,一日みっちり詰め込んで,3ヶ所を見学してきました。社会修習は,あまり分散させると本来の修習に差し支えるため,このようにまとめて実施した方が確かに効率的ではあります。あと,今回は,なぜか高松地裁の所長も同伴ということで,かなり緊張感ありました。こんな時に居眠りでもしようもんなら,そらもう大変なことになるでしょう(苦笑)。

まず,午前中は,少年鑑別所の見学です。重々しい扉と鉄格子で仕切られたその空間は,検察修習の時に見学した精神病院の雰囲気と重なるものがありました(9月18日の日記参照)。廊下を歩くと,壁を隔てて,大声でやりあっているのが聞こえてきます。一通り施設を見て回った後,会議室で説明を受けます。その説明によると,この鑑別所へ送られてくる少年の実に半数以上は,両親が揃っていないのだとか・・・。この数値が,少年非行に内在する根本的要因を物語ってる気がしますね。

午後からは,女性相談センターと児童自立支援施設へ行きました。前者は,近時DV法で問題となっている家庭内暴力などの相談を受け付け,女性を保護する施設です。(プライバシーの問題もあり,内部は見せていただけませんでしたが。)被害者と日頃から直接接している相談員の方のお話は,実に生々しく,被害者の悲痛な訴えをかいま見ることができました。端で聞いていてあれこれ言うのは簡単ですけど,いざ自分が相談を受ける立場になった時,何をどうアドヴァイスしてあげられるのか・・・と,考えさせられたのでした。

※ なお,過去の日記については,このページの最下部の検索欄に 09/18 といった具合に日付けを半角文字で入力すれば,簡単に表示することができます。
Date: 2003/02/27



読んで読んで読みまくれ!
先月書き上げた判決起案を返していただいたので,さっそく目を通してみました。・・・見事に原型をとどめてません。「この1ヶ月半で,起案能力が全然伸びてないじゃないか」とお叱りを受けそうですが,それでも,自分では,徐々に頭が判決の思考様式になりつつある実感はあります。自分は,基本的にエンジンがかかるのが遅いので,慣れるまでに時間がかかるんですよ。今後,部長のもとで,少しでも成長した判決起案を書いていきたいと思います。

さて,今日は,模範六法ほどの分厚さの記録が3冊もある損害賠償請求事件を,一日かかって検討しました。双方の主張を読んでみても,原告の主張内容が今ひとつよくわからないんですね。確かに原告が怒る気持ちもわかるんですが,それが法律上どのような意味を持つのかが見えてこないんです。記録を読んでると,こういうこと,しばしばあるんですよ。「確かに気の毒だが,法律的にはどうしようもない」というケース。こういう時が,一番判断に迷います。こういうケースで,紋切り型の結論になるのを防ぐためにも,和解というのは重要な役割を果たすといえます。この業界で言うところの「和解相当事案」というのには,そういった意味合いが込められてるのだと思いますね。
Date: 2003/02/28



鍋の中に浮かぶものは・・・
世の中には,脳の構造が全く異なる方がいるものです。今日,とある医療機関がらみの訴訟に出てきた代理人は,なんと弁護士にして医師免許も持っているのだとか! 医師というスキルを手にしながら,なお司法試験にもチャレンジしようという気になったところがすごいと思いますねー。これから法曹人口が増えていけば,弁護士はジェネラリストではやっていけない,スペシャリストでなければ駄目だ(なんでも屋ではなく,特定の専門分野を持った弁護士になれ,の意)と言われています。・・・まぁ,一般事件をこなせてこその専門分野だとは思うんですけどね。

さて,今日は,おとなりの高知県から,地裁所長および修習生が修習行事としての旅行で香川県まで来ていたので,こちらの裁判官・修習生と合流することになり,飲み会が実施されました。所長お気に入りの店ということで案内されたのが,すっぽん料理のお店。席に着き,鍋の中を見ると,亀の首や甲羅がぷかぷかと浮かんでいます(汗)。向かいの席から所長が「一度食べたらやみつきになるぞー」とさかんに勧めて下さるのですが,いかんせん見てくれが見てくれだけに躊躇するわけです。結局,すっぽん自体はひと口ふた口ほどいただきまして,あとは白菜やネギを大量に消費するベジタリアンと化したのでした。
Date: 2003/03/04



そこまで言う!?
今日の修習は,講義2本立てです。まず,午前中は,DNA鑑定に関する講義です。DNA鑑定といえば,刑事事件における科学的捜査として有名ですが,最近では民事事件の証拠としてもよく使われるんですよ。特に親子関係の立証などに使われることが多いですね。口の中をスプーンで少しこすって,粘膜をとるだけで,鑑定できるのだそうです。・・・が,その鑑定の仕組みたるや実に難解でして,聞いたこともない単語が連発。高校で生物を選択していなかった自分には,もう何が何やらさっぱりです。おまけに,全部英語で書かれたスライドが次々と登場(汗)。ふと気づくと,自分は,何やら現実の世界とアナザーワールドの境目をうろうろしておりました。

午後からは,薬物依存症に関する講義です。こちらは,比較的わかりやすく話をして下さいましたね。覚醒剤,大麻,コカイン,モルヒネなど各種薬物の症状などについて勉強しました。「シャブ」という俗称は,常用者がしゃぶるように服用することが由来らしいです。あと,法的には,覚醒剤使用者の責任能力が問題となるわけですが,一般には心身耗弱とされることが多いようです。もっとも,医学者の中にはこういった実務に問題を感じる方も少なくないのだとか。「何が何でも責任能力を肯定したいという司法官の欲求が,似非(エセ)精神病理学を援用しているだけだ」とまで言う強烈な批判もあります。・・・どちらが正しいのか,自分にはわかりません(汗)。
Date: 2003/03/05



起案スピード大幅アップなるか?
今日から部長が出張なので,自分は一人でとある交通事故の記録検討と判決起案です。記録検討をしている時,一応そこで心証形成はするのですが,いざ判決起案をしてみると,いろいろ心証が右往左往することがあります。たとえば,最初は「請求認容のスジで書こう」と思って書き始めても,証拠や間接事実を打ち込んでいくと,「ありゃ,よくみたら被告の方が正しいんじゃないの」と思えてきて,結局,最終的に請求棄却の判決起案になってたりとか(笑)。・・・まぁ,修習生は別にそれでもいいわけですが,実際の裁判官の方は,和解の場で当事者に心証をそれとなく開示したりするので,あとで「やっぱり気が変わった」というわけにもなかなかいかないんじゃないかなぁと思います。

午後からは,裁判所が実施するメンタルヘルスの教室に参加してきました。なんか部屋に入ると女性だらけで,えらく場違いなもんに参加してしまったとこの時は少々後悔しましたが。・・・で,しばらくすると,香川県で唯一(自称)というアロマテラピーの先生が登場。「仕事の効率が上がる香り」とかいう瓶をいただいてきました(ローズマリー,ペパーミント,レモンの3種をブレンド)。これで,明日から起案の速度が5倍くらいになること間違いなし!・・・だといいなぁ(笑)。
Date: 2003/03/06



裁判官2人,検事1人,弁護士2人
民裁修習も終わりに近づいたかと思えば,最近にわかに社会修習が増えてきました。今日は,高松地裁の観音寺支部の見学です。他の修習生は,弁護修習の時に来たことがあるらしいのですが,自分はたまたまそういった機会がなかったため,今回が初めてということになります。

支部は,高松市の本庁に比べるとかなり小規模だとは聞いていましたが,いざ行ってみると,その建物は民家の中にまぎれて,あたかも町の公民館のようなたたずまいで建っていました。裁判官は,支部長が1人と簡裁判事が1人。ちなみに,お隣の検察庁には,正検事が1人もいません(副検事が1人いるだけ)。・・・高松市内から車でわずか1時間半ほどの所なのに,これだけ法曹人口が激減するとは,かなり衝撃的でした。ちなみに,弁護士は2人だけだそうです。弁護士の数があまりにも少ないため,市民は,法律相談を求めて裁判所を訪れ,裁判所の職員がこの相談に応対しているのだとか。これほどの現状を見せられては,さすがに法曹人口の大幅増加もやむなしという気がしてきます。

観音寺支部を見学後,地元の酒造会社を見学させていただきました。ここの社長さんが地裁で調停委員をされている縁で,例年,修習生を受け入れてくれているのだとか。工場内で,米を発酵させて最終的にアルコールにする過程を見せていただいた後,やはりというか,案の定というか,この会社で作られたお酒とグラスが修習生の目の前に登場しました。いや,自分はお酒全く飲まないので関係ないんですが,他の修習生には大いに関係があるわけでして(笑)。・・・何やら帰りのマイクロバスはアルコール臭に覆われていたのでした。
Date: 2003/03/10



迷いと決断
指導担当裁判官がチェンジしてから,1通も判決起案が仕上がっていなかったのですが,気合いを入れ直して,今日ようやく書き上げました。今回は,証拠から心証を形成するのに結構時間がかかった感がありますね。というのも,前半の指導担当裁判官の時は,かなり結論めいた心証まで教えていただいてたんですよ。そのため,「自分で考える」とはいっても,事実上,指導担当裁判官のバイアスがかかった思考になっていたというのが正直なところです。それは,ある意味で「ラク」をしてしまっていたわけで・・・。今回は,部長にあれこれと尋ねながらも,全くバイアスのない状態で,どちらの言い分を認めるかを自分で決断しなければならなかったため,そこにかなり時間がかかったんですね。(いや,それが当たり前やろと突っ込まれそうですけど,なかなか理想どおりに現実はいかないわけです。)

こういう言い方が適切かどうかはわかりませんが,迷って迷ってどこかで決断する,というのが法律家の仕事の面白いところだと思いますね。昔,とあるベテラン裁判官の方が,「どっちの言い分を正しいと認めるべきか,本当に迷う時がある。もう,双方の主張書面を天井に投げ上げて,先に地上に落ちてきた方を勝ちにしてやろうかと思うくらい,迷う。」と冗談で話されていたことがあるのを思い出しました。長年この仕事をやっていてもなおそういった迷いと決断の場面が尽きないところが,この法律家の仕事の魅力だと,自分は思うわけです。

さて,判決起案を書き上げて気分よく一日を終えた後は,週1回のゴルフレッスンです。「そうじゃ,これがショットじゃ!」が口癖の先生に教わり続け,早くも4ヶ月。ようやく,前に飛ぶようになってきました。自分の場合,(1)左手を強く伸ばす,(2)ヘッドを元の位置へ戻す,(3)軸を固定してその場で腰を回す,という3点を全て意識できた時に,いいショットが出ることが多いですね。(たいてい,どれか1つぐらい忘れて,へんな方向に飛んでいくんですが・・・) 果たして,実務修習が終わるまでに,コースを回れるレベルになるんでしょうか。
Date: 2003/03/11



受験知識はあなどれない
午前中は,とある抹消登記の事件を記録検討です。この事件の当事者尋問は,ひさびさに壇上にのぼって傍聴することになっているので,人物関係や時系列などのメモを丁寧に作って,疑問点等を検討しました。・・・とりわけ尋問前には,事件の概要を本当にしっかり叩き込んでおかないと,尋問を聞いてる途中で「あれ,そうだったっけ?」となってしまいます。あと,前期の裁判教官もおっしゃってたのですが,尋問の前の晩はよく寝ること,これ非常に大事ですね(笑)。いや,ほんと,睡眠不足の状態で尋問なんて聞けないですよ,絶対。実感としてそう思います。

午後からは,「刑事問題研究」に参加しました。これは,刑事裁判修習の4人がそれぞれ特定のテーマについてレポートを発表し,それについて意見を交わすというものです。証拠開示命令,自白の任意性など,受験勉強の刑事訴訟法で出てきそうなテーマに,実務的な話がプラスされていくというのは,なかなか面白かったですよ。たとえば,自白の任意性であれば,どのような証拠でこれを立証するのかと。取調官の証人尋問や被告人質問はもちろん,取調経過報告書,留置人出入簿,日記など実に色々な証拠が考えられるわけです。なるほどなぁと思いました。・・・もっとも,基本的な知識の部分をかなり忘れてしまっている「逝ってよし」な自分は,受験時代の六法の知識をまず総復習する必要があることにも気づいたのでした。
Date: 2003/03/12



「フロッピーディスクは,読み込みランプが消えてから抜かないと,壊れます」
近年,裁判実務は急速にOA化が進みつつあります(その利便性,効率の程度については色々な意見もあるところですが・・・)。もう,この時代の流れは止められないと言ってよいでしょう。今日は,修習生及び裁判所職員のパソコンスキルを高めるための行事として,1日パソコン講習がありました。講習のテーマは,「トラブルシューティング」です。

教室に入って,待つこと20分。講師として,ばりばりの讃岐弁を話すおっちゃんが現れました。で,一体どんな話をするのかと思えば・・・。やれ,「フロッピーディスクは,読み込みランプが消えてから抜かないと壊れます」とか,「フリーズしないようにするためには,アプリケーションをあまりたくさん起動させてはいけません」とか,いくらなんでもそのくらい知ってるやろというような話が,午前中えんえんと続くんです。そもそも高松の修習生は比較的みんなパソコンに通じているので,その程度のレベルの話では,すっかりモチベーション下がりまくりなわけでして・・・。で,勝手にインターネットに接続して遊ぶ始末(笑)。

ところが,午後になると,なんか急に話のレベルが上がって,エクセル関数の練習問題を,何の説明もなくいきなり解かされました。うちらの午前中のヤル気の無さが,おっちゃんに伝わってしまったんでしょうか(苦笑)。そもそも,エクセルの関数って,「トラブルシューティング」じゃないやん(汗)。まぁ別にいいんですけど。こちらはなかなか実用的で,初めて聞くような話も多く,自分もまだまだエクセルを使いこなせてないなぁと反省させられたのでした。おっちゃん,午前中は馬鹿にしてごめんなさい(修習生一同)。
Date: 2003/03/14



そこに「山越」があるから
讃岐うどんランキング1位で,香川県下のうどん屋721軒の頂点に立つ店。それが「山越うどん」(綾歌郡)です。しかし,なにぶん市内から遠く離れた郡部にある上,公共交通機関も整備されていないため,車を持たないペーパードライバーの自分は,これまで一度も食べに行くことができませんでした。

しかし,今日は特別に,高松市内の百貨店に出張営業しているという情報を指導担当裁判官から聞きました。自分も高松で1年暮らした以上,これは是非とも行っておかなければならない。香川県民に課せられた法的義務である。いかなる用事があろうとも,絶対に行く必要があるのだ。理由なんてない。そこに「山越」があるから,行く。それだけだ。(?)

まぁ開店の45分前ごろに行けば大丈夫だろうと思って,某百貨店へ行きました。すると,何やら見るからに長そうな行列が・・・。イベント会場を突き抜けて隣のフロアーまで続き,さらにその隣のフロアーにも続き,さらにそこから非常階段をつたって下の階の下の階まで,実に200人がもう既に並んでいたのです。これには参りました。幸い,この日は300食用意されていたので,なんとかセーフでしたが・・・。さらに待つこと1時間。ようやく山越の釜玉うどんにたどりついたのでした。

が,食べてみると・・・。うーん。確かにおいしいんですよ。ダシが醤油チックで,卵と非常によく合ってます。さすが,評判通り,けちの付けようのない味です。・・・だけど・・・。何か違うんですよ。何だろう。なんかこう,百貨店のイベント会場で,人だかりにもまれながら,警備員に誘導されてシステマチックに食券とうどんを交換し,プラスチック製のイベント用テーブルの上で山越うどんを食べても,どこか味気ないんですよ。食べ物の味というのは,その場の雰囲気に少なからず影響されるようです。やはり,高松市内ではなく,そこ(綾歌郡)に山越があるから,行くんだなと。有名なうどん店の多くが,交通の不便な郡部にある理由も,そこらあたりのような気がしてなりません。
Date: 2003/03/16 (休日特別版)



真実はひとつ
1週間ほど日記をお休みしてしまいました。ちょっと帰宅の遅い日が続いたため,なかなか書く時間が無くて・・・。で,いったんサボると,再び書き始めるのが非常に大変なわけです(苦笑)。ま,とりあえず,先週の分は折を見て書き足していくということで,今日の分からリスタートします。

さて,今日の修習は,記録検討を2件やったほか,とある離婚事件の判決起案を一気に書き上げました。離婚事件を書いたのはこれが初めてなんですけど,本当に難しかったです。というのも,証拠らしい証拠なんて無いことが多いんですよ(12月18日の日記参照)。せいぜい,夫婦の戸籍謄本と,双方の言いぶんを書いた陳述書ぐらい。あとは,当事者尋問で話を聞く程度でしょう。それで,夫と妻が違うことを言えば,結局水かけ論のような状態になるわけです。だからといって,証明責任を使って請求棄却するというのも,(とりわけ本人訴訟においては)ドライに過ぎますしねぇ。ケースによっては,子供の話を聞くというのもひとつの手かもしれません。個人的には,「子供が最終的にどちらの味方についたか」っていうのは,結構大きいと思うんですよねー。・・・いや,自分が子供のころも,両親の喧嘩が絶えなかったもので。

なお,余談ですが,離婚請求事件は身分関係を扱うものであるため,いわゆる請求の認諾が認められないんですね。そのため,原告の離婚請求に対して,被告が反訴としてさらに離婚請求をするという,妙な現象がたまに起こります(原告の離婚請求権と,被告の離婚請求権は訴訟物が異なる)。そもそも協議離婚が認められている以上,離婚するか否かは当事者の意思に委ねられているとも思えるんですが,一般に身分関係はその性質上,自由な処分を許さないものと會されていますので,このような現象が起こるわけです。なんかちょっと違和感ありますが・・・。

※ なお,過去の日記については,このページの最下部の検索欄に 12/18 といった具合に日付けを半角文字で入力すれば,簡単に表示することができます。
Date: 2003/03/24



積極的になれなかった修習生
朝から体調がすぐれず,頭がぼんやり・・・。今ひとつ能率が上がりませんでした。こないだ証人尋問を終えた事件の判決起案を今日から書こうと思ってたんですけど,まだ尋問調書ができあがってなかったので,急きょ予定変更。とある労働がらみの事件の記録検討と法廷傍聴,賃貸借がらみの事件の記録検討等をしました。部長の下に来てからは,検討する事件の量自体はぐっと少なくなり,その分,ひとつひとつの事件について,簡単な主張整理やブロックダイヤグラム(当事者双方の事実主張を,要件事実に沿った形で整理し図表化したものを,研修所ではこのように呼びます)を作るなど,じっくり丁寧に取り組んでいる感じです。「丁寧」でかつ「速く」が,一番理想なんですけど・・・。

修習終了後は,民事部で今年転勤される裁判官・書記官の方の送別会に参加してきました。前半にお世話になった右陪席の指導担当裁判官と,非常に温厚で色々教えてくださった左陪席の裁判官が転勤されるということです。まだまだ先のことだと思ってましたが,時間が経つのは速いもので,もうそんな時期なんですね・・・。3ヶ月前に初めて裁判官室に足を踏み入れた時の自分と,今の自分は,裁判官の目には違って映っているのでしょうか。それとも,全然成長してなくて,変わり映えしないんでしょうか(苦笑)。

送別会もつつがなく終了し,帰ろうとした時,その転勤される左陪席の方がポツリとおっしゃいました。「結局,今年の修習生とは,一度もサシで飲まなかったね。去年やおととしの修習生とは結構飲んでたんだけど。」と・・・。それは,なにげない言葉だったんですけど,自分には,重く,重く,頭にのしかかりました。この3ヶ月間,自分なりに頑張ってきたつもりではあるけど,やっぱりそれでも,受け身というか,消極的に過ごしてしまっていたのかなぁと。もっと,修習時間外にも徹底的に裁判官に食らいついて,色々話を聞いて,少しでも多くのものを吸収してやるぞ!みたいな執着心が欠けてたのかな,って・・・。その裁判官と飲む機会があったかどうかということではなく,結局,姿勢の問題なんですよね。「修習生なんだから,もっとハングリーに行ったほうがいいよ。」 その言葉は,まさに自分の人間性を見透かしたような一言に思えたのでした。
Date: 2003/03/25



もっと座学を
朝,登庁すると,デスクの上にお煎餅が置かれている・・・というのは,よくある光景です。実は,書記官の方が出張や旅行で遠方へ行かれると,必ずお菓子をおみやげに買ってきてくださるんですね。で,それを裁判官の方に配って回られるわけです。その際に,なぜか修習生もお菓子を分けていただくんですね。・・・そりゃもう,裁判官の日常を疑似体験してこそ裁判修習ですから,お菓子もしっかり疑似体験してるわけでして(笑)。朝から,ちょっぴり幸せな気分で修習をスタートできます。

今日の修習は,本人訴訟の法廷傍聴を2件。その後,右陪席の裁判官による破産事件の講義がありました。民裁修習の中では,もちろん破産事件の記録検討や手続傍聴をすることもありますが,やはりウエイトとしては一般民事事件がメインとなります。そのため,破産法の知識も非常に断片的かつ不十分なものしか身に付いていないというのが正直なところなんですね。そんな中にあって,今日の講義は,破産事件の実務上の処理を条文とつきあわせながら,非常に丁寧な解説をしていただきました。これだけ知ってるだけでも,破産事件の見方は変わるし,また独学へのとっかかりにもなります。・・・実務修習に来ると,ついつい,時間があれば1件でも多くの記録検討と起案をやろうという発想になって,座学がおろそかになりがちなんです。でも,今日は改めて,座学の重要性を思い知らされたのでした。
Date: 2003/03/26



「破産が破産です」
破産事件がたまってくると,うちの部長が必ず言うギャグ。「破産が破産です」(破産事件が大量にたまってしまって,その処理に首が回らなくなりそうだ,の意)。・・・そんな言葉が出るほど,破産事件は激増してるんです。いわゆる「集団免責審尋」(破産者の借金等を免除してあげるために必要な事情聴取を,何十人まとめていっぺんにやってしまうという制度)を採用せざるを得ない背景には,そういった現状があるんですね。

それはともかくとして,今日は,破産事件の記録その他を検討しました。先日の破産法の講義以来,自分は少しずつ破産法の本(白表紙ではありません(笑))を読んでるんですよ。それで,今日もあえて希望して,破産事件の記録を読ませていただきました。やっぱり,ちょっとでも知識があると,かなり違いますね。申立て→宣告→債権者集会→債権調査期日・・・といった手続の流れを勉強した後に,事件記録をこれにあてはめていくと,面白いほどよく頭に入ります。あと,破産手続における管財人の苦労とか大変さも,自ずと見えてきますね。なにせ,4tトラックが5000円くらいで買いたたかれてますから(苦笑)。債権者には気の毒ですが,財産の確保は一般に極めて困難なのが現状です。

そうそう。話は変わりますが,今日まで8年間使い続けてきた眼鏡が,とうとう壊れました。高校から大学受験,司法試験受験と,ずいぶん長くつきあってきただけに,フレームの金属疲労も相当進んでいたようです。・・・ただでさえ貧しい生活を送っているというのに,2万円近くも臨時出費をする余裕はとても無いんですが,かといって裸眼で0.02の視力では修習に著しく差し支えるため,泣く泣く新しい眼鏡を買うことにしました。・・・それにしても,家財道具をヤフーオークションで売りさばいて,それを食費や法律書の購入にあててる修習生は,おそらく自分ぐらいやろうなぁ。破産宣告受けないようにしないと(笑)。
Date: 2003/03/28



プロジェクト・U(うどん)・・・「待ち伏せ」
それは3日前のことです。裁判官と書記官の方々で,「うどん食べ歩きツアー」をやろうという話が持ち上がりました。これは,休日を使って,田舎のうどん屋を車で巡る企画です。この企画は,当初,修習生も同行してよいという話だったのですが・・・その後,書記官の方で参加希望者が増えたらしく,修習生が正式に参加希望を出した時には「もう遅いよ。だめだめ。」と一蹴されてしまいました。

・・・しかし,この一件が,修習生のうどん魂(?)に火を付けたのです。ツアー同行が駄目なら,修習生は独自で車を用意して,うどん巡りをしよう。それも,裁判官・書記官の方とあえて同じ時間帯・同じ店を選び,かつ,その店へ先回りしてうどんを食べてやろう,と(笑)。・・・実に子供じみた発想ではあるんですが,裁判官の驚く顔が見たくて,その計画は動き出しました。

目的達成のためには,裁判官グループよりも早く店へ着かなければなりません。店までの距離や道路状況,渋滞の程度等を考慮して,今朝は6時半に起床。その後,7時半には集合して,レンタカーで高松を出発しました。目指すは,仲多度郡の「やまうちうどん」。地図を見ながら慎重に道のりを重ねていきます。それほど道に迷うこともなく,1時間ちょっとで店に到着。中へ入ると,まだ裁判官グループはいませんでした。これで,あとはうどんを食べながら,ここで粘り強く張り込むだけです。

・・・で,待つこと10分,20分,そして30分。しかし,裁判官グループは現れません。おかしいなぁ,急に予定を変更したんやろうか・・・と少し不安になってきました。そして,さらに10分ほど待って,もう1杯うどんをおかわりしようかと思ったその時,ガラス戸の向こうに見慣れた人影が映ったのがわかりました。

「よし,来たッ!!」

その集団は,まぎれもなく裁判官グループでした。あとは,向こうがこちらを見つけて,驚愕するのを待つだけです。さぁ来い,さぁ来い・・・。こちらはもうすっかり勝利感にひたりながら,お冷やを飲んでる状態です。すると,裁判官がこちらに近づいてきました。そして,ついに,裁判官の口から言葉が・・・!

「おう。やっぱり,みんな,最初に行くうどん屋は同じなんやなぁ。」

あれっ・・・ぜんぜん驚かれてないやん(汗)。こんな田舎のうどん屋で偶然遭遇したというのに,なぜだ?! ・・・実は,あとで聞いたところによると,この直前に,修習生がうどん屋の外のトイレに行った際,たまたま書記官の方の1人とはちあわせになってたらしいんですよ。その瞬間に,こちらの存在は向こうにばれてしまっていたのです。あぁ,なんたる不覚!!(笑)

ともあれ,一応目的を達成した我々は,足早にそのうどん屋を後にしました。以後は,裁判官グループとは別の店へ行くことにし,結局,合計6時間かけて4件のうどん屋をハシゴ。これでもかというぐらいにうどんを堪能して,のどかな町並みをあとにしたのでした。
Date: 2003/03/29



「飲めない」のではなく,嫌いだから「飲まない」
民裁修習も,ラスト1週間。自分も,3ヶ月間の集大成ともいえる最後の起案にとりかかりました。実は,まだ尋問調書が出来あがってきてないんですが(3月25日の日記参照),さすがにここまでせっぱつまってきたら,もうそんなこと言ってられないので,自分のつたない傍聴メモだけをたよりに起案を書くことにしたんです。・・・でも,やっぱり間接事実の拾い上げが不十分になるんじゃないかというのが心配ですね。事実を拾えてないと,なんか唐突に結論が出てくるような,実に説得力のない判決起案になってしまうので・・・。とある詐害取消の事案なんですが,これまでで一番手強い判決起案になるかもしれません。

夕方からは,年度末ということもあって,民事部の飲み会が実施されました。ここんとこ,色々なところで飲み会が続いているので,今日はお酒の話をひとつ・・・。

自分は大の酒嫌いでして,飲み会の類にすすんで参加することはあまりないし,また参加してもソフトドリンク等でやり過ごすことがほとんどです。で,そうすると,必ず周囲から「Otomoくんは,お酒飲めないんやねー。」などと言われるんですが・・・。この言葉,自分は非常に抵抗を覚えます。いいですか。「飲めない」んじゃなくて,嫌いだから「飲まない」んです。これがもしタバコだったら,「Otomoくんは,タバコ吸えないんやねー。」という言い方はしないでしょう? 普通,「吸わない」と言うはずです。

要するにですね,「飲めない」という言葉は,あたかも,「酒を飲まない人間が,飲む人間より劣っている」かのようなニュアンスが込もっていて,おかしいと思うんですよ。酒は単なる嗜好品であって,飲まないことを非難されるいわれはどこにもありません。かえって,飲みまくって人にまで無理矢理酒を勧めるような人の方が非難されてしかるべきでしょ。それなのに,こちらが「飲めない」よばわりされる筋合いは全くないわけでして・・・。

そこで提案。「飲める」「飲めない」ではなく,「飲まずにいられない」「飲まなくてもいられる」という表現に改めましょう。これなら納得です。うん。

※ なお,過去の日記については,このページの最下部の検索欄に 03/25 といった具合に日付けを半角文字で入力すれば,簡単に表示することができます。
Date: 2003/04/01



デスクはもらったけれど・・・
年度替わりで,裁判官の方が2名異動になったため,空いたスペースにようやく修習生専用デスクが設置されることになりました(1月8日の日記参照)。が,この机がまた小さくて,パソコンと事件記録を縦に並べて置くことすら出来ません。今まで使わせてもらっていた裁判官の脇机よりも,もっと狭くなってしまいました。あと,修習生が1.5m×1.5mの中に密集しているので,妙な圧迫感が・・・(汗)。

でも,それより何より残念なのは,裁判官との距離が遠くなってしまうことです。裁判官の隣にいると,そのお仕事の様子が非常によくわかるんですよ。とりわけ書記官と裁判官のやりとりは,事件の見通し等についてかなりストレートな話をされていて,どういう訴訟活動が裁判官にどういう印象を与えるのかとか,もろにわかったりします。また,起案している事件のことなどについて,ちょっとしたことでも割と気軽に(?)尋ねたり,あるいは単なる雑談(うどんの話とか(笑))をしたりすることもできたんですね。

自分的には,裁判官デスクの端っこを間借りさせていただくやり方のほうがずっとよかったのになぁ・・・と感じてます。ま,どっちにせよ,民裁修習はもう明日で終わりなんですけどね。でも,おそらく,全国どこを探しても,裁判官デスクで修習をさせてもらえる裁判所はないわけでして,実に貴重な体験をさせていただいた3ヶ月だったなぁと,今になって思います。

※ なお,過去の日記については,このページの最下部の検索欄に 01/08 といった具合に日付けを半角文字で入力すれば,簡単に表示することができます。
Date: 2003/04/02


恩返し
いよいよ民裁修習も最終日。思い起こせばこの3ヶ月間,我々修習生は民事部裁判官室のお菓子を大量に消費してきました(1月15日の日記参照)。このお菓子は,裁判官の方々が通勤途中にコンビニ等で購入して適宜補充して下さっていたものです。しかし,あろうことか,修習生は今まで一度も補充したことがありません。一番食ってるくせに(笑)。・・・そこで,民裁修習を終えるにあたって,今までの分をまとめてお返ししようということになりました。昼休みに商店街のコンビニへ買い出しに出て,買い物袋めいっぱい3個ほど買い込んだお菓子をまとめて裁判官室に持ち帰ると,裁判官の方は爆笑。部長からも「いやー,こんなおかしい(お菓子)ことは初めてですねー。」と軽快なギャグが飛び,ようやく修習生一同,肩の荷が下りたのでした。

さて,修習のほうは,午後から進行協議期日の見学ということで,隣のさぬき市まで出張に行ってきました。裁判官の仕事は,当然裁判所内がメインとなるわけですが,時にはこうして裁判所外に出ることもあるんですね。進行協議は,口頭弁論の期日外で打ち合わせする手続ですから,別に法廷でやる必要はないわけです。むしろ,実際に現場を見て,当事者と裁判所が共通認識に立った上で,今後の訴訟進行や主張立証について決めたりするのが適当ということもあるんですね。・・・ちなみに,この時,裁判官は,お茶やお菓子を出されても決して口をつけないそうです。そうでないと,一方当事者から便益を受けて不公平な判断を下した,と言われかねませんからね。

夜は,このたび異動になる裁判官の方を誘って,一緒に食事に行きました。何度か飲み会はありましたけど,サシで話をする機会はこれが初めてです(3月25日の日記参照)。・・・もっとも,ここんとこ数回の飲み会で聞く限り,今年の修習生に対する評価はあまり高くないようでして・・・。「もっと裁判官を引っ張ってきて講義をせがんだり,昼や夜も食事に引っ張らないと」「去年の修習生はもっと積極的だった」「君たちは無口すぎる」「悪いけど,君たちチームワーク悪いよ」と,去年の修習生を引き合いに出されて,ダメ出しの連発です。・・・やっぱり,お酒を飲んで膝をつき合わせて本音を聞くというのは,とても大事なことだなぁとつくづく思ったのでした。指導裁判官の方々,ありがとうございました。

※ なお,過去の日記については,このページの最下部の検索欄に 01/15 といった具合に日付けを半角文字で入力すれば,簡単に表示することができます。
Date: 2003/04/03



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