「記録は,命よりも大事だ」

部下に厳しく,被告人に厳しく,そして自分自身にも厳しい。

部長哲学に法曹のストイックさを学んだ,緊迫の刑裁修習。



「支払え」から「処す」へ
今日から刑裁修習です。修習期間が1年半に短縮され,カリキュラムが全体としてタイトになったため,各修習の間に休む間はありません。つい昨日までは「○×円支払え」の世界にいたのに,一夜にして「○×年に処す」の世界に来ることになったわけです。

さて,初日の今日は,部長から刑裁修習にあたっての留意点について説明を受けました。ここで,まず最初に叩き込まれるのが「秘密厳守」です。たとえば,食堂や裁判所の廊下で「あの事件の供述調書だけどさぁ・・・」等と事件の話をすることは絶対に許されません。万が一,近くに関係者がいたら大変ですからね。事件の話をするのは,裁判官室および書記官室の中のみです。刑事手続は,刑罰という人権侵害を正当化する手続なわけですから,民事に比べれば必然的にあらゆる面で厳しさが求められます。部屋全体もどことなく厳しい雰囲気で,民事部のように雑談が飛び交うこともないですし,お菓子の備え付けなんかありません(汗)。

説明を受け終わると,さっそく記録検討です。自分は,とある業務上過失致死事件の配転を受けました。・・・といっても,自分は検察修習以来,半年間ほど刑事事件から遠ざかっているので,もうすっかり刑事のことは記憶の地層の奥深くに埋まってしまってます。現場の写真を見たりするのも,あの頃は慣れてたはずなんですが,再び抵抗感が(汗)。来週から,また徐々に慣らしていきます。
Date: 2003/04/04



重厚長大
刑裁修習のファースト・インプレッションをひとことで言うと,「重厚長大」です。なんかかなりハードですよ。民裁と比べると,とにかく記録の量が多い! 始まってまだ1週間も経たないというのに,早くも広辞苑みたいに分厚い記録が7冊もある,ヴォリューム満点の事件を与えられました。高く積み上げられたその記録に,あっけにとられている自分の顔を見て,部長は非常に嬉しそう・・・(汗)。内容も重量もヘヴィな記録に囲まれて,心臓に悪い3ヶ月となりそうな予感です。(ただし,刑裁の場合は,検察官や司法警察職員の作成した公文書がメインであるため,民裁と比べると整った文章が多く,すらすらと読めていくのが救いですね。民事の本人訴訟とかだと,何回読んでも全然意味がわからない書面が結構ありますから・・・。)

刑裁修習のサイクルも,基本的には民裁と同じですね。まず,何曜日と何曜日に法廷傍聴をする,というのが決まっていて,それに備えてあらかじめ記録を検討しておきます。で,そういった記録検討や法廷傍聴の合間を見て,別途,与えられた判決起案を書くわけです。もちろん,証拠のひとつひとつから犯罪事実の有無を判断し,最終的な量刑も自分で決めます。(量刑については,一般に,検察官の求刑の7〜8割程度になることが多いと言われていますが,別にこれにこだわる必要はなく,自分の妥当と思うところの刑を下します。)

ひとつ特徴的なのは,民事事件と比べて1回の法廷の時間が長いことですね。今日は略取誘拐罪と詐欺罪がらみの事件を傍聴しましたが,中には3時間ほどの尋問もありました。これだけの時間,集中して話を聞き続け,供述の矛盾や不自然な点に気づくのは正直かなり至難の業・・・。自分のように,昼食後だからといって指をかんでいるようじゃあだめなんです(6月27日の日記参照)

※ なお,過去の日記については,このページの最下部の検索欄に 06/27 といった具合に日付けを半角文字で入力すれば,簡単に表示することができます。
Date: 2003/04/08



"Bucho-ism"(部長哲学)
被疑者・被告人が犯罪事実を認めている事件を「自白事件」,認めていない事件を「否認事件」と呼びます。修習生は勉強のためになるべく後者を扱いますが,実際の刑事訴訟においては,自白事件が圧倒的多数を占めています。そのため,証拠がまともに提出されていれば,訴訟関係人の関心は専ら量刑の点に集中するわけですね。で,具体的にどのような刑を科すのかについては,裁判官によっても微妙に差があるようですが・・・話を聞く限り,うちの部長はこの点につきかなり厳しそうです。初犯だからといって安易に執行猶予を付すのはどうか,証拠上明らかなのにまだ否認してる被告人の処遇をどうするか,などなど,長年の経験によって培われてきた部長哲学を色々話していただきました。・・・なお,民事部の部長とは異なり,ギャグは一切出てきません(笑)。

今日は,いつものように記録検討と起案をしたほか,令状審査もやりました。捜査機関が出してくる逮捕状請求,捜索差押許可状請求について,それぞれ法定の要件(逮捕の必要性,嫌疑の相当性など)をみたすか検討し,令状を発布すべきかどうか考えるというものです。令状審査は時間的余裕がないので,とにかく急いで記録を読んで問題点を発見しなければなりません。この点については,一般にも言われているように,令状請求が却下されることは実際には少ないです。捜査機関もばかじゃないですから,そんな無茶な請求はそうそうしてこないわけで・・・。ただ,それでもちょっと対象が広すぎたり,期間が長すぎたりするものについては,裁判官の側できちんと範囲を狭めた上で令状を発することは,決して珍しくありません。盲判(めくらばん)を押してるわけじゃないんですよー。
Date: 2003/04/10



長い長い一週間
慣れない環境というのは,本当に疲労がたまりますね・・・。この一週間は,なんか2倍くらいの長さに感じられました。刑事事件を扱うことのプレッシャーは,思った以上です。また,始まって1週間で早くも4つの起案を与えられ,もうあっぷあっぷしています。こんな調子で大丈夫なんやろうかと,不安の残る週末となりました。

今日は,午前中に殺人と覚せい剤の事件を傍聴し,午後からは例のヴォリュームある記録を検討しました。なんでこんなに分厚いんやろうと途方に暮れてたんですが,よく見たら,実際には写真がたくさん貼り付けてあって分厚くなってるだけの部分も多くて,少し安心。もしこれが全部供述調書だったら,それこそ,自分の刑裁3ヶ月はこの事件1つだけで終わってしまいますからね。・・・とはいっても,まだまだ読んでも読んでも終わらないという状態でして,起案にとりかかることができません。来週はなんとかメドをつけないとなぁ。ちなみに,部長は,「去年の修習生は,土・日も出てきて記録読んでたよ」と満面の部長スマイルでおっしゃいました(汗)。
Date: 2003/04/11



裁判所書記官から見た検察官・弁護士の姿
最近,どうも日記の更新が滞りがちで,週末にドカッとまとめて書くことが増えてきてしまいました。毎日見に来て下さる方,申し訳ありません。実は,今度の日曜日に情報処理技術者(シスアド)の試験を受けることになっていて,そのための勉強で結構時間をとられてるんです。テキストにチェックペンを引いたり,過去問を解いたりと,久々に受験生してるもんで(苦笑)。これが終われば,また少し時間ができるかな?・・・でも,いつもそう思っては,次々と新しい課題が生まれてくるので,結局なかなか時間はできないんですけどね。

今日は,記録検討と起案のほかに,裁判所書記官の仕事である口頭弁論調書・証人尋問調書の作成をやりました。これは,書記官が毎開廷ごとに作成する書面でして,法廷において実施された手続,当事者の主張,証人の供述の要旨などを記載するものです。なんだ法廷で行われたことを書くだけじゃないか,と思ったのですが,いざやってみると,これは相当大変な仕事ですね。特に尋問調書は,話し言葉のスピードについていかなければなりませんし,また,神経を常に集中していないと,うっかり言葉を聞きもらしかねません。・・・逆に,弁護士や検察官の立場から言えば,書記官に聞き取りやすいように,ゆっくりとはっきりした言葉で尋問することが非常に大事なわけですね。万が一,書記官が聞き取れなかったら,それは調書に残らないわけでして,事実上,その証言は「証拠」として存在しないに等しくなるわけですから・・・。今日の修習は,書記官事務を知ることができたと同時に,「書記官からみた検察官,弁護士の姿」を知ることもできて,なかなか意義深い修習でした。
Date: 2003/04/14



花粉症
今日は,午前午後ともに法廷傍聴がメインです。実は,自分,かなり重度の花粉症で,日頃からその症状に困っているんですが,不思議なことに刑事の法廷が始まるとピタッと症状がおさまるんですよ。おそらくは刑事法廷の緊張感のせいだろうと思います。「今ここでズルズルと鼻水をたらしてはいけない」という強い緊張感から,大脳が鼻の神経に対して「鼻水を出すな」という命令を送っているに違いありません。

刑事に限らず,法廷で花粉症の症状全開という人は,あまり見かけません。・・・というか,いまだ見たことがないです。尋問中,たまに咳払いをすることはあっても,鼻をズルズルとかむ人はまずいないですね。これも,先ほど述べた自分の見解からいけば,至極当然のことといえます。実際に代理人ないし弁護人をされている先生の緊張感は,修習生の比ではないはずですから・・・。鼻声で尋問をしていては,法曹としての威厳にすらかかわりかねないのでしょう。(ほんまか?)

そういえば,昔,映画女優のインタビューか何かで,「撮影の時,『汗をかいてはいけない』と強く念じれば,本当に汗をかかないんです。」という話が紹介されていました。・・・人間の体というのは,実によくできているなぁ,とつくづく感心してしまったのでした。
Date: 2003/04/15



訴訟費用0円!
今日は,刑事部に来て初めての合議に参加しました。「合議(ごうぎ)」というのは,特定の事件について裁判官同士で意見を交わし合う,まぁ会議みたいなもんです。民事部にいた時は,合議といっても単に隣で聞いているだけでよかったんですが,今度はそうはいきません。なんと,自ら合議用のレジュメを作成し,合議を進行しなければならないんです。やってることは,実質上,左陪席の裁判官と同じなわけですね。

・・・正直言って,このところ,別の大きな事件の判決起案で手一杯でして,この合議の対象である殺人事件のほうはあまりしっかりと目を通せていなかったんですよ。といっても,そんな言い訳は全く通用しないので。昨日の夕方ごろから大急ぎで合議メモを作成したり,他の同種事件をあれこれ調べて,どの程度の量刑が妥当なのかを考えたりしました。

で,いざ合議が始まると,もう,まな板の上のコイ状態ですよ。不十分な記録検討がたたって,案の定,あちこちのポイントで指摘を受けました。中でも特に格好悪かったのは,訴訟費用が全くかかっていない事件であるにもかかわらず,「訴訟費用を被告人に負担させない」とメモに書いてしまったことです。記録を精査できていないことが丸わかりです。これが二回試験でなくてよかった・・・(汗)。ちなみに,量刑の点で印象に残ったこととしては,思っていたよりも裁判官が「求刑」を意識していること,他の同種事件との均衡を考慮していること等ですね。裁判官個々人の恣意的な量刑とならないよう,慎重な姿勢をとっていることが窺い知れました。
Date: 2003/04/16



ゲラは命取り
金曜日は合議法廷の日なので,午前・午後を通じて,全員で法廷の傍聴です。刑事法廷では,民事のように修習生が壇上に座ることはありません。裁判官の横の一段低いところに,修習生用の椅子と長机が置かれていて,そこで傍聴することになっています。結構目立ちますので,ここで変なことをしたら大変なことになるわけですね。

・・・ところが。今日はとんでもないことをやらかしそうになりました。というのも,実は傍聴の直前に,友人の修習生がなにげなく言った冗談が妙におかしくて,笑いが止まらなくなってしまったんですよ。もう当事者も揃って,開廷直前のシーンと静まりかえった状況で,絶対に笑ってはいけない場面なのに,まだ止まらないんです。こんなとこで爆笑したら,それこそ裁判官から大目玉を食らうのみならず,退廷命令すら出されかねませんよ(汗)。本当に,どうしようかと思いました。いっそ始まる前にトイレへ逃げ込もうかと思いましたが,もう開廷1分前だったので,それもできない状況だったんですね。で,なんとか必死にこらえました。検事はひょっとしたら気づいてたかもしれません。ゲラは命取りです,ほんとに(注:ゲラというのは,関西弁で,笑い上戸のことです)。・・・もっとも,開廷後は,さすがにちゃんと審理に集中しましたよ。念のため。

夕方からは,頑張って居残りして,ようやく判決起案を1つ書き上げました。ま,事実認定にはそれほど争いがなくて,もっぱら量刑をどうするかが問題となるケースなんですけどね。それでも,やっぱりゼロっていうのは精神衛生上よくないですから,とりあえず1つ書き上げて気持ちが軽くなりました。来週からは,刑事模擬裁判の準備も入ってくるので,色々と忙しくなりそうです。
Date: 2003/04/18



守秘義務
57期司法修習生はネットに強い方が多いようで,ホームページを持っている方もたくさんいらっしゃいます。自分も,たまに覗いては,1年前の自分の姿をそこに重ね,「やっぱり,みんな同じようなこと考えてるんやなぁ」などと懐かしい気持ちに浸っています。・・・ただ,みなさん,守秘義務にだけは十分注意しましょうね。実務修習に来れば,いたるところで,本当に口うるさいほどに「秘密厳守」を叩き込まれます。ついつい「この程度なら,しゃべっても別にいいかな。実害はないし。」などと考えがちなんですが,そもそも守秘義務というのは実害の有無の問題じゃないと思うんですよ。「秘密にしてくれと人から頼まれたら,それを絶対に秘密にしておくことができる」ことそれ自体が,法曹としてすごく大事な資質だと思うんです。・・・いや,自分もそんな偉そうなこと言えた立場じゃないんですが,自戒も込めて書いておきます。

さて,今日は法廷傍聴がない日なので,記録検討と起案に専念した一日でした。前期修習の刑裁のノートをひっくりかえしていると,判決起案の注意事項の語呂合わせが出てきて懐かしかったです。「前後選・再法併酌」(54条1項前段→後段→刑の選択→再犯→法律上の減軽→併合罪→酌量減軽の順で法律を適用する)」とか,「趣味勧誘,没官費」(主刑→未決参入→換刑処分→執行猶予→没収→還付→訴訟費用の順で,刑をチェックする)とか・・・。今まで忘れてた自分もかなり問題ですが。なんにせよ,起案完成にはまだまだ時間がかかりそうです。

夕方ころになって,検察庁から急に電話がありました。聞けば,検察修習時代にお世話になった事務官の方が,副検事試験(論文)に合格したのだそうです。しかも,最年少・一発合格ということでした。すごすぎです。自分は,メール等で何度か質問にお答えした程度なんですが,合格祝いにお呼ばれしてきました。うーん,そう遠くない未来に,こういった指導担当官の方と法廷で会うこともあるんやろうか・・・と思うと,少し不思議な感じがします。
Date: 2003/04/21



記録は命
火曜日は合議法廷の日なので,午前,午後とも修習生4人で法廷傍聴です。で,傍聴と傍聴の間に起案をするわけですが,なかなか細切れの時間で起案というのは難しいですね。結局,全ての傍聴が終わってから,居残りして起案をするということが多いです。自分は,あさってにとある傷害事件の判決言渡しがあるので,昨日も今日も居残りで判決起案です。今回も量刑が争点になっているので,なんとか間に合いそうですが・・・。

ところが,この居残りがきっかけで,部長からお叱りを受けることとなりました。昨日,居残りをして帰る時に,記録を保管するロッカーの施錠ができてなかったらしいのです。自分は,鍵を差して確かに回した記憶はあるんですが・・・きちんとロックされているかまでは確認をしてませんでした。部長からは,「今度やったら,5時以降の記録貸出はもう認められないぞ。」とクギを刺されました。

記録がいかに大事か・・・。部長は,次のような話をして下さいました。

『昔,とある裁判官が,記録を自宅へ持ち帰って判決を書いてたんですね。で,ちょっと散歩に出たんですけど,その間に,なんと自宅が火事になってしまったんですよ。家にいた奥さんは,あわてて家の外へ逃げ出しました。しかし,その直後,書斎に記録が残されていることを思い出し,奥さんは,燃えさかる家の中へと戻っていったんです。その結果,奥さんは帰らぬ人となりました。』

・・・部長がまだ左陪席のころ,先輩裁判官から,こういう話を聞いたのだそうです。で,「それはやっぱり,戻らないほうがよかったんじゃないですか。」と言うと,その先輩裁判官からこっぴどく怒られたのだそうです。「記録に対する意識が低すぎる」と。・・・ま,極端な話ではあるんですが,そういう例え話が語り継がれるほど,訴訟記録というのは大事なものなんです。次からは気を付けましょう。
Date: 2003/04/22



悠々自適?
「判決言渡し」という締切に迫られて,ようやく2通目の判決起案が完成しました。そこで,さっそく部長に提出。すると,即日添削の上,返却を受けました。はやっ!・・・で,出来の方はというと。起訴後に保釈されてるのに未決勾留日数を算入してみたり,また,量刑の理由の中で実質的に余罪を処罰するかのような記載をしてみたりという状態でして・・・。非常に格好悪かったです(苦笑)。ま,それでも,こうやって丁寧に判決起案を添削・講評してもらわないと,自分の間違いに気付くことすらできないですからね。実を言うと,民事裁判の時に書いた判決起案は,ほとんど講評してもらってないんですよ。だから,やってはいけないミスを多数かましているのに,気付くことができないまま通り過ぎてきてしまったんではないやろうか,と,内心不安だったり。・・・民事部の部長は,6月までにはなんとか講評したいとおっしゃってたので,気長に待つことにします。

午後からは,部長による令状実務の講義,そして模擬裁判の説明が行われました。模擬裁判は,ゴールデンウィーク明けに行われます。検察官役や弁護人役の修習生は,連休中に証拠を精査し,証人尋問のやり方,尋問事項等を練る必要があります。また,冒頭陳述や論告,最終弁論の起案もしなければなりません。他方,裁判官役は,予断排除の原則から,事前に証拠を見ることができません。従って,模擬裁判の準備としては,刑事訴訟法や同規則の条文知識を頭に叩き込むのがメインとなります。自分は,今回も裁判官役をやることになりました。うっ・・・前期修習のトラウマが・・・(6月20日の日記参照)。まぁ,決まってしまったものはしょうがないので,頑張って訴訟指揮を身につけます。

修習が終わった後,部長の官舎にお呼ばれしてきました。部長クラスともなると,家中が本だらけなんやろうなぁ・・・と思いきや,意外や意外。アリーマイラブのDVDあり,プレステあり,熱帯魚の水槽あり,テニスのビデオありと,傍目には悠々自適の生活のようにも見える楽しいお部屋でした。そこからは,仕事に追いまくられてあっぷあっぷする裁判官像は,みじんも思い浮かびません。仕事は短時間でてきぱきとこなしつつ,他方で,時間を有効に使って自分の趣味も大事にする,みたいな感じですね。こういう生き方をしてる裁判官もいらっしゃるというのは,すごく意外で驚きでした。

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Date: 2003/04/23



宛名書き
模擬裁判は,カリキュラム上は刑事裁判修習の一貫とされていますが,同時に,いわば実務修習の集大成・締めくくりという側面があります。そのため,検察庁・弁護士会の指導官もこれを傍聴することになっているんですね。そこで,指導官の方々に対して案内状を送る必要があるわけですが,これをなぜか裁判官役の修習生が担当することになっています。まぁ,確かに裁判官役は,他の人たちに比べれば,準備にそれほど手がかからないので,この分担は全くもって正当なんですけどね。・・・他の修習生が冒頭陳述や弁論要旨を必死に起案しているのを横目に,こちらは必死で30通近くの封筒の宛名書き。実にシュールです(汗)。

今日は,いつものように記録検討や起案をしたほか,被疑者の勾留質問にも立ち会わせてもらいました。これは,捜査機関が被疑者を逮捕した後,さらに勾留したいと考えた時に,あらかじめ裁判官が被疑者の弁解等を聞く制度です。この手続は,被疑者と裁判官(と書記官)がサシで行うので,検察官や弁護士になってしまうと,もう立ち会うことができません。そのため,修習生のうちに見せてもらっておくことは,結構貴重な体験なんですね。具体的内容としては,人定事項を確認し,被疑事実を読み上げたうえ,あらためてその弁解を聴取します。

勾留質問手続に立ち会って,ひとつ驚いたこと。裁判官は,被疑者の弁解を聞いた直後に,その場で,「では,あなたを勾留することに決定します。」と被疑者に告げるんですよ。・・・うーん,いや,なんというか,これで被疑者はよく怒らへんなぁと思いました(苦笑)。もちろん,裁判官はあらかじめ捜査記録(検察段階での弁解録取書を含む)に目を通し,その際に勾留の必要性・相当性を十分検討してるんですよ。ただ,被疑者にしてみれば,「おいおい,ほんまにちゃんと俺の弁解をふまえて決定したんか?」とツッコミを入れたくなるような気が・・・。まぁ,このあたりの運用は,事案の内容や被疑者のタイプなどによって,ケースバイケースなのかもしれません。
Date: 2003/04/25



スコアを気にするのは10年早い
弁護士の方々に「英語の勉強とゴルフ,どっちが大事ですか。」と尋ねると,えてして「ゴルフに決まっとる」という返事が返ってきたりします(笑)。法曹たるもの,ゴルフも下手っぴじゃ格好がつかん!・・・そんなわけで,ゴルフレッスンに通い始めて半年。なぜか一向に上達する気配が見られないわけですが,ここらで一度ラウンドの経験もしておこうという話になりました。

今回挑戦したコースは,おおむね平坦で初心者向きとされている所だそうです。・・・が,いざ打ってみると,まっすぐに飛ばないんですよ,ほんとに。打つ球打つ球スライスして,吸い込まれるように藪の中へ入っていきます。直線距離が300ヤードくらいのコースでも,自分は右へ左へとジグザグしながら進むため,600ヤードくらい走ってるような気がします(苦笑)。で,もたもたしてると後続のグループが追いついてきてしまうので,ホールアウトしたらダッシュで次のホールへ走り去っていったり・・・迷惑かけつつ,どうにか18ホールを終えました。もうふらふらですよ。ゴルフというのは,下手であればあるほどハードになるスポーツだと思いました。・・・一緒に行ったのが修習生だけで,ほんとよかったです。

ちなみに,スコアのほうは,out=102,in=89の,合計191でした。もうやめちまえーって声が聞こえてきそうですが・・・(苦笑)。でも,とある先生が「スコアを気にするのは,10年早いっ!」っておっしゃってました。当面は,スコアよりも自然を楽しむゴルフになりそうです。
Date: 2003/04/29 (休日特別版)



後期修習の足音が聞こえてくる
研修所のほうから,後期修習の入寮申し込みに関する連絡がきました。1年なんて,本当にあっという間ですね。「いったん実務修習に来ると,もう和光へ戻るのが嫌になる」という噂は本当だなぁと,今まさに実感してます(笑)。・・・それは,1年間過ごした高松を去ることの寂しさに加えて,なにかと不便な寮生活に戻ることに対する不安,二回試験に向けて猛勉強モードに入ることに対する不安,そして,この1年間の実務修習で本当に法曹としてのしかるべき資質を身につけることが出来たのだろうかという不安,などなどが入り交じった,実に複雑な気持ちです。・・・まぁ,もし後期修習がなかったら,自分は今ごろ怠けまくってると思うので,そのへんの修習生心理を実に巧みに突いたカリキュラムだなぁと改めて感心させられるわけです。

さて,今日は,模擬裁判後にひかえている「刑事問題研究」の発表に備えて,あれこれと調べ物をしたり,レポートを作成したりしました(3月12日の日記参照)。あとは・・・訴訟指揮の勉強のために勧められた「刑事訴訟法教材」と「刑事尋問技術」を読んでました。中でも「刑事訴訟法教材」は,もう20年以上前に出版された本なんですが,今読んでもよくできた本だと思いますね。本の上半分に,ある刑事事件の小説が書かれていて,下半分には,各場面に応じた法律的な問題の説明が書かれている,という構成です。これまで勉強してきた刑事訴訟法の知識と実務の間の橋渡しにはうってつけの本だと思うので,これから実務修習に入る57期の方にもおすすめです。なお,物語の中では,憲法違反を理由とする異議申立てや,裁判官忌避の申立てまで出てくるなど,ストーリーに多少の無理はありますが(笑),そこはまぁ,多くの問題点を拾おうという平野先生の教育的配慮ということで・・・。

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Date: 2003/05/01



真剣勝負
いよいよ実務修習の集大成である模擬裁判です。修習生は,裁判官役3名,検察官役2名,弁護人役2名,被告人役1名にそれぞれ分かれて,互いの主張を戦わせます。もちろん,実際の刑事法廷を使って行うんですね。しかも,傍聴席には,高松地裁の所長と刑事部裁判官全員,次席検事,指導検事,弁護士会長,指導担当弁護士と,これまでお世話になった方々がズラリ顔を揃えます。物的にも人的にも,非常にコストをかけた一大イベントなわけです。

実務修習での模擬裁判が,前期修習のそれと最も大きく違うのは,「台本がない」ということです(6月20日の日記参照)。従って,結論も決まってませんので,検察・弁護それぞれの立証のやり方次第で,有罪にも無罪にもなりえます。裁判官役も,その場で心証をとって,ゼロから判決を書かなければなりません。まさに,真剣勝負です。

事案はとある建造物侵入・窃盗事件でした。いちおう実在の事件なんですが,研修所サイドで少し手を入れてあるため,有罪か無罪か非常に微妙な事案となっています。自分は,冒頭手続から1人目の証人尋問までの裁判長を担当しました。黒い法服を身にまとって,合議室から法廷に入ると,全員がこちらを見て一斉に起立しました。あの瞬間の緊張感といったら,すごかったですよ。手続なんて,いっぺんに頭から飛んでしまいます。・・・ま,そういう時のために,しっかりカンペを作って行ってたんですけどね(笑)。

人定質問,起訴状朗読,黙秘権告知は淡々とこなしたんですが,その後の罪状認否で,被告人が「メモを読んでもよろしいでしょうか」と申し出てきました。で,自分,全く予期してなかったもんで,何を血迷ったか,「ダメです」と指揮してしまいましたよ。・・・後から思えば,別に禁止する理由はないんですけどね。被告人役も,まさか禁止されるとは思ってなかったらしくて,ちょっと焦ったようでした。

その後,証拠調手続に入ってからも,かなり格好悪いミスを連発・・・。冒頭陳述と証拠申請のあと,検察官がなぜか証拠を提出してきたんですね。どうやら,証拠等関係カードと間違えて,証拠自体を出してきたようなのです。変だなぁとは思ったのですが・・・結局,弱気な自分は,取調前であるにもかかわらず証拠を受け取ってしまいました。もっとも,さすがに内容を見たらまずいやろうとは思ったので,両サイドの陪席裁判官に「見たらあかんで」とメモをまわしたんですが・・・完全に違法な訴訟指揮ですね。

証人尋問では,さらにハプニング続出でした。・・・実は,証人の役は高松地裁の職員が担当するんですけど,毎年ここで修習生にイジワルするのが慣例のようなんです(苦笑)。今年も,結構やられましたよ。まず,尋問の予定時間になってるのに,なぜか証人役が法廷に来ないんです。それで,あれ,どこ行ったんだ,みたいな雰囲気になって。で,ようやく来たかと思うと,今度は,なぜか証言台ではなく,わざと間違えて廷吏のほうへスタスタと歩いていくんですよ(苦笑)。おまけに,証人出頭カードをわざと白紙で出してきて,名前や住所も間違えて証言するという・・・そらもう徹底したイジワルぶりでした(笑)。(ちなみに,去年の証人役は,突然傍聴人を指さして「あの人がいる前では話したくありません。退廷させて下さい」とダンマリ決め込んだのだとか・・・。)

ま,そんなこんなで,自分が裁判長を担当する部分は午前中で終了。午後からは陪席の裁判官をやりました。なんか,横に座ると,思いのほか落ち着いて証言を聞くことができるので,驚きました。やっぱり,裁判長として真ん中に座るプレッシャーはものすごいんですねぇ。一見簡単そうに見える手続の進行とかでも,いざやってみるとパニクっちゃって,ホントに難しいんですよ。午後からは,訴訟指揮もする必要がないので,少しリラックスして裁判に臨めました。2人目の証人尋問,被告人質問,論告,弁論,最終陳述と,ほぼ予定どおりのタイムスケジュールで終えることができたのでした。

・・・が,めでたしめでたしではありません。裁判官役が本当に大変なのは,これからです。なにせ,判決言渡期日は明日なんですから(汗)。たった一晩で,判決を書かなければなりません。もう,今夜は徹夜ですよ。というか,徹夜しても,仕上がるかどうかわかりません。実際の裁判で,ホントにこうやって2日で事件処理できたら,「訴訟は時間がかかりすぎる」なんて批判はなくなるだろうなぁ。でも,ほとんどの裁判官は体壊して病気になっちゃうだろうなぁ。などと思いつつ,自分もこれから地獄を見ることになるのでした。

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Date: 2003/05/08



賽(さい)は投げられた
昨日,模擬裁判が終わった後のこと・・・。解放された検察官役と弁護人役の修習生は居酒屋で飲んでいたようですが,裁判官役はこれからが大変。疲れた頭にムチを打って,判決の内容をどうするか検討していました。3名で合議しながら,各争点について結論を出していくんですけど,これが非常に難航。有罪派1名と無罪派2名に意見が分かれたため,意見を一本化するのが大変でした。結局,4時間近くの議論の末,検察側の立証不十分ということで,一部は無罪,一部は懲役1年6月という判決を下す方針が固まりました。

この方針に従って,今度は判決の起案です。夜10時以降は裁判所から追い出されてしまうので,裁判官の官舎にお邪魔して,ひたすら判決起案しました。結局,判決が仕上がったのは,もう外がすっかり明るくなった午前5時30分。3名とも,ぐったりしながら家路についたものの,休む間もなく,朝9時に登庁。判決内容の最後のツメです。読み上げ用に,表現をわかりやすくしたり,誤字・脱字を訂正したりといった作業を行い,ようやく,本日言渡しの判決が出来上がったのです。

そして・・・。今日の午後1時30分。賽(さい)は投げられました。ついに判決宣告です。「主文 被告人を懲役1年6月に処する。」 主文に続いて,罪となるべき事実,補足説明,法令の適用,そして量刑の理由を簡潔に朗読していきます。・・・この時はまだ,まさか自分の判決にとてつもなく重大な瑕疵があることなど,知るよしもありませんでした。しかし,傍聴席で不穏な空気が流れていたことだけは間違いありません。

判決言渡しの後,検察庁・裁判所・弁護士会の各指導官による講評が行われました。起訴状から冒頭手続き,証拠調べと,順番に修習生の訴訟行為につき酷評が加えられていきます。そして,最後に判決の講評。刑事部の部長がひとこと。

「一部無罪の主文がありませんね。」

・・・あーあ,やっちゃいました。そう。一部無罪の場合は,主文の中で「窃盗の点については,被告人は無罪」と明記する必要があるのです。しかしながら,自分は,上記のとおり,単に懲役刑だけを言い渡してしまったため,なんと意図せずして完全な有罪判決を下してしまったのです(汗)。これは確かにマズいわ・・・。主文のミスは,2回試験だったら一発不合格になりかねませんから・・・。

その後に行われた懇親会でも,この判決は,法曹三者から集中砲火を受けることになります。
●某裁判官談
「これは,判決の脱漏として,絶対的破棄事由になるんですかねぇ。先ほどちょっと調べてみたんですが,そもそもこういう前例がありませんので,よくわかりません。(場内爆笑)」
●某検察官談
「この判決は,おそらく,いきなり無罪を宣告すると検察官役がショックを受けるので,裁判官役が気を遣って下さったんでしょう。(場内再び爆笑)」
●某弁護士談
「絶対的破棄事由となると,控訴審で未決を全部算入してもらえますから,これは弁護人にとっても非常にありがたい判決ですねぇ。(場内三たび爆笑)」

・・・いや,まぁ,でも,無罪判決なんて初めて書きましたからね。研修所の刑裁起案で,無罪判決を書くことなんてまずないですから・・・(5月22日の日記参照)。思わぬところでミスっちゃいました。まぁ,言い訳してもしょうがないんですけどね。徹夜で10時間近くも議論して生み出した判決が,高松修習の模擬裁判の歴史に名を残す珍判決となってしまい,非常に複雑な心境なのでした。

※ なお,過去の日記については,このページの最下部の検 索欄に 05/22 といった具合に日付けを半角文字で入力すれば,簡単に表示することができます。
Date: 2003/05/09



初の法廷撮影
今週いっぱいで,指導裁判官が部長から右陪席にチェンジします。聞くところによると,右陪席の方は,単独事件も全件傍聴するよう指導するそうなので,それまでに合議事件の起案は早く仕上げておかなければなりません(高松では,単独事件の判決を5件以上,合議事件の起案を1件以上というノルマが定められています)。今日は,刑裁修習に入って以来ずっと後回しにしてきた,身代金拐取等の判決を起案しました。いかんせん模擬裁判を間に挟んでしまったため,かなり内容を忘れてしまってます・・・(汗)。こういう時,迅速な裁判ってのは大事だなぁとつくづく感じますね。早くやらないと,どんどん忘れていってしまいますから。第一,実際に法廷で見聞きした印象と,後で調書として出来上がってきた活字から受ける印象は,かなり違うもんですしね。

ところで,今日はとある収賄事件の判決で,法廷にテレビカメラが入りました。裁判長の指示により,開廷前の2分間,法廷の撮影が許されます。この2分間は,法廷がシーンと静まりかえって,誰もぴくりとも動きません。その光景が,なんだか妙にこっけいで,ゲラの自分はまた少し笑いかけてしまいました。なんとかこらえましたけどね。ともあれ,半年ぶりのテレビ出演とあって(11月16日の日記参照),家に帰って,即,ローカルニュースをチェックしたのですが・・・。なんと! 自分が座った位置はちょうど弁護人の陰になっていたため,頭のてっぺんしか写っていませんでした。不覚です。次回は絶対に前列の左端に座ろうと,強く心に誓ったのでした。
Date: 2003/05/13



介護実習,再び
刑裁修習では数少ない社会修習。今日は,神経難病の治療で知られる国立療養所の見学をしてきました。

まず,午前中は,病院の機能と役割について院長の講義です。中でも印象に残ったのは,病院の「経営」という視点ですね。今まで,病院といえば,採算をある程度犠牲にしてでも患者を守る,というイメージをなんとなく持っていたので,「効率」とか「利益」といった発想を自分はあまり持っていなかったんです。でも,現実には,病院を経営していくためには,採算を取らなければならないわけでして。神経難病のように,高度かつ長期的な治療を要する不採算部門を扱うためには,同時に,一般外来のような採算部門も扱う必要があるということでした。現実は厳しいです。

午後からは,病棟での介護実習です。介護といえば,検察修習の時にずいぶんしんどい思いをした記憶がありますが・・・(7月11・12日の日記参照)。今回は,病室のシーツを交換したり,病室の掃除をするといった程度で,あとは職員の方の仕事ぶりを色々と見学させていただきました。班分けの都合上,自分は一般病棟を担当したのですが,神経難病の臨床の現場を見れなかったのは,少々残念でした。
Date: 2003/05/14



後の祭り
模擬裁判の判決書の提出期限が明日までということなので,今日は,裁判官役3名で集まって,判決書の細かい表現等を検討しました。(受験生のみなさんはご存じかと思いますが,判決の言渡しと判決書の作成は別物です。必ずしも言渡しの時点で判決書が作成されている必要はありません。)

で,改めて自分達の書いた判決を読み返してみて,つくづく説得力に欠ける判決だなぁと反省しました。主文のミス云々はともかくとして,内容面においてもかなり無理があるなぁ,と。客観的な事実をいくつも見落としていて,抽象的に供述の信用性を論じている,空中戦の判決になってしまいました。もはや後の祭りですが。

正直なところ,模擬裁判の講評を聞いてからというもの,どうしても有罪のような気がしてならないんですよねー・・・。しかし,だからといって,さすがに言渡した判決と異なる結論の判決書を作成するわけにはいかないので,強引なのは承知の上で,なんとか一部無罪で判決書を書きあげました。もしこれが実際の判決だったら,取り返しがつかないなぁ・・・と思うと,かなりぞっとします。
Date: 2003/05/15



いやー,映画って,本当に素晴らしいですねぇ
高松に来てから,一度も映画を見に行ったことがなかったので,今日は『CHICAGO』というミュージカル映画を見てきました。主人公は,とある売れない女性ダンサーです。「有名ダンスクラブのマネージャーに紹介してやる」などと甘い言葉に騙されて,冴えない男と情交を結ぶんですが,やがて嘘が発覚し,女性ダンサーは衝動的にその男を射殺します。その後,女性は逮捕されるものの,他方でマスメディアから「悲劇のヒロイン」として大々的に報道され,そのおかげで陪審の同情を得て無罪を勝ち取ってしまう・・・と。大略そのような話でした。

その無罪に至るプロセスについては,ぜひ実際に映画を見ていただきたいところですが,はっきり言ってしまえば,明らかな誤判です。「国民感情」を裁判に反映させることを目的とした制度を採る以上,このような誤判は避けることができないわけでして・・・。それでもいいんだ,と果たして言い切れるかどうかですよね。個人的には,一般国民が「もう許してやったらええやん」と思っている人間を,わざわざ国家が「いやダメだ,こいつは許さん」としゃしゃり出る必要は無いような気もします。・・・もっとも,現実には,逆のパターンが圧倒的に多いからこそ,その賛否は大きく分かれるんでしょうけど。ともかく,なかなか考えさせられる映画でした。無罪を得た後,彼女がどのような人生を歩むかについても,ぜひ映画をご覧になって下さい。・・・いやー,映画って,本当に素晴らしいですねぇ(古っ!)。
Date: 2003/05/18 (休日特別版)



「刑の執行をお願い致します」
火曜日は合議法廷の日です。合議法廷は原則として全件傍聴することになっているので,今日も朝から夕方まで法廷に居ずっぱりの一日でした。

そんな中,とある刑事事件で起きた出来事。弁護人側は,犯行に至る経緯や法解釈などの点について,激しく争っている事案でした。その日は,証拠調べ・論告・求刑も終わり,次は弁護人の最終弁論という段階です。弁護人は,これまでの主張に則って,被告人に数々の同情すべき点があることを蕩々と述べていきました。そして,弁護人は最後に一言,こう言ったのです。

「以上のような,被告人に有利な事情をご斟酌のうえ,刑の執行をお願い致します。」

・・・・・・・。いや,もちろん,単なる言い間違えなんでしょうけどね。おそらく「執行猶予をお願い致します」と言うべきところを,言い間違えたのでしょう。それはわかるんです。わかるんですけど,でも,弁護人が刑の「執行」を求めてしまったという,絶対にありえないその光景を目の前にして,ゲラの自分はまたも止まらなくなってしまったのです(苦笑)。自分,こんなんで秋から実務に出てしまって,大丈夫なんやろうか・・・。かなり不安です。顔色ひとつ変えずに,すかさず「弁護人,執行猶予ではないのですか」と冷静にツッコんだ裁判長は,さすがだと思いました。
Date: 2003/05/20



冷房が入ったそのワケは・・・
近頃,どうも日記をさぼりがちになってきてます。正直に言いますと,最近,時間が無くなってくれば無くなってくるほど,日記を書く時間がもったいないように思えてきて・・・。日記というのは,基本的に自分の知識・体験の範囲内で物を書くわけですから,自分自身にとっては新たに得るもの・発見はないんですよね。そうすると,むしろ,読書やら勉強やら音楽やらに時間をあてないと,もったいない気がするわけです。自分,色々な場面で,社会常識や教養が本当に無いなぁと気付かされるんですよね。昔から,あまり本を読まないタイプの人間だったため,物を全然知らない。だから,まだ余裕のある今のうちに,少しでも多くの本を読んで,一般的な修習生に追いつかないといけない。そんな焦燥感を感じています。(司法試験に合格した直後,ネットに入れ込みすぎる自分に対し,このHPの掲示板で警告を発してくれた方がいらっしゃいました。当時は正直腹立ちましたが,今になって,あの人の言っていたことはやっぱり正しかったと思います。)

しかし,そうは言うものの,人間というのは不思議なものでして,しばらく日記を書かないとやっぱり不安になってきます。この修習で感じたことをレヴューできる手がかりを残しておかないと,いつか後悔するかもしれない。いったん記憶から消え去ったら,もう二度とそれを掘り起こせないかもしれない。そんな不安も,一方であるわけです。今は,週に1回か2回書ければいいか,と,そんな風に思ってます。・・・まぁ,色々葛藤があるわけですよ,自分なりに。決して,単にさぼっているわけではないのです。

さて,今日は傍聴が1件も無い日だったので,記録検討と起案に没頭しました。まず,午前中は,明日の傍聴の準備として,5件ほど新件の記録を検討。「5件」というとなんかスゴそうに見えますが,そもそも第1回期日までは起訴状しかありませんから(起訴状一本主義ですね),それほど大変ではなく,午前中いっぱいで読み終えることが出来ました。とある覚せい剤事件の起訴状を読んで,「塩酸塩」と「塩類」の違いを初めて知りました。

午後からは,とある窃盗事件の起案にとりかかりました。記録は全部で3冊あって,単独事件にしては割と記録が多めです。公訴事実も結構多くて,力仕事になりそうな感じですね。もっとも,自分は,ついこないだまで合議事件で分厚い記録が7冊もある誘拐事件の起案を担当してましたから,気持ち的にはかなり楽ですよ。

で,黙々と起案をしていると,なにやら部屋に涼しい風が入ってきました。なんと,冷房が入ってるんです! これは驚くべきことですよ。役所というのは非常におカタいので,どんなに暑くても,5月にはクーラーを入れてくれません。ところが,今日は間違いなく冷房が入ってるんです。一体どうしたんだ?・・・と思ったら,今日は某最高裁判事が高松地裁を訪問に来られたようです。こういう時だけクーラーをつけるとは・・・やられました(苦笑)。
Date: 2003/05/28



速くて出来の悪い判決か,遅くて出来の良い判決か
今日の高松は,最高気温28度と夏の陽気。・・・しかし,昨日とは違って,今日は冷房はかかっておらず,窓が一斉に開け放たれていました(笑)。

さて,今日は午前午後とも,単独事件の法廷傍聴がぎっしりと詰まっていました。合議事件とは違って,覚せい剤や道交法違反など,比較的軽微な罪が多いです。そのため,第1回公判期日で証拠調べが終了することも結構あるんですね。これは,なかなか大変です。とにかく一発勝負ですから。法廷のわずかな時間で書証のポイントに目を通しておき,被告人のちょっとした言い逃れ(俗に言う「プチ否認」)や,口先だけの反省・謝罪の弁をその場で見抜かなければなりません。その分集中力がいりますし,また供述態度等を見る勉強にもなるわけです。

ただ,これだけ傍聴が多いと,判決起案になかなか手が回らないですね。裁判官から「こんな事件,丸1日もあれば書けるでしょ?」と簡単に言われて,かなり焦ってるんですが・・・。「速くて出来の悪い判決と,遅くて出来の良い判決だったら,前者のほうがまだマシだ。」という裁判官の言葉を聞いて,自分は,スピードというのがそれほどまでに重要だったのか,と結構衝撃を受けました。・・・まあ,そうは言っても,本当に内容がいい加減だったら,あとで思いっきり叱られることは当然ですが。

夕方からは,民事部裁判官との懇親会に参加してきました。前任地が東京地裁の知財部だった方としばしパソコントークをし,やっぱり次に買うならMacintoshだなーなどと考えていたのは覚えているのですが,その後はあんまりよく覚えてません。・・・しかし,どんなシャケでも大きくなると故郷の川へ帰ってくるように,どんな酔っぱらいでも自宅にたどりつけるから,不思議なもんです(笑)。
Date: 2003/05/29



若いモンは,理屈で負けてはいけない!
判決起案の締め切り日・・・。とある窃盗事件の判決を猛スピードで起案しました。そもそも,4〜6月は,模擬裁判で2週間,家裁修習で2週間,それぞれとられることになるので,本当の意味での刑裁修習は実質2か月間なんですね。そのため,前のクールに比べると,若干予定がタイトになります。しかも,傍聴と傍聴の間が30分くらいしかないので,まとまった時間がなかなかとれず,結局,夕方以降に居残りして一気呵成に判決起案を書くことが多くなるわけです。あとは,その30分のスキマ時間の活用ですね。パッと頭を切り換えて即座に集中できる力って,すごい大事やと思います。自分はできませんけど(汗)。部長は,それができるからこそ,毎日5時に帰宅できるんやろうなぁと思うわけです。

今回は,実刑か執行猶予か,やや微妙な事案でした。心情的には実刑にしたかったのですが,最終的には保護観察付きで執行猶予を付けることにしました。執行猶予をつける際の決め手となるのは,やはり「初犯であること」「示談が成立済み」「被害者の宥恕」でしょうかね。いや,もちろん,刑法25条にこんな要件は書いてないんですけど,やっぱり,同じことを何度も繰り返して,弁償もろくにせず,被害者も許してないような場合に,執行猶予をつけたって,被告人以外に誰も納得しませんよ。(・・・ただ,執行猶予も一応有罪判決なわけでして。懲役の年数が重くなると,果たして実刑とどちらが厳しいのか,よくわかりません。たとえば,懲役1年の実刑と,懲役1年の執行猶予付きなら,当然前者の方がキツイですよね。でも,たとえば懲役1年の実刑と,懲役3年の執行猶予付きと言われると,果たしてどちらの方がキツイのかよくわからなくなってくるわけです。うーむ。)

修習が終わってからは,指導裁判官と修習生4人で飲みに行ってきました。模擬裁判や日頃の起案の話になった際,裁判官は「若いモンは,理屈の面では絶対に負けちゃいけない。理屈というのは,よく調べ,よく準備したほうが勝つわけでしょ。経験の点で劣るぶん,徹底的に調べ抜いて,最低でも理屈の点では勝たなきゃいけないんだよ。」とおっしゃったのがとても心に残りました。これは全くそのとおりで,判例にしろ法令にしろ,リーガル・リサーチの力がないとこの世界ではやっていけないなぁと,たった1年の修習でもその重要性をひしひしと感じてますもん。これを機会に,来週からは,裁判所資料室とお友達になろうと決意したのでした。
Date: 2003/05/30



情けなさすぎ・・・
今日は,指導担当が交代してから起案した2つの判決について,講評を受けました。通常は,修習生2人がペアになって講評を受けるんですが,今日は自分のペアの相手がたまたま欠席。そのため,自分一人でつるし上げられることとあいなりました(汗)。

1件目は,とある窃盗の事案。実刑にするか執行猶予にするか迷って,何度もあちこち書き直していたため,なんと「量刑の理由」では執行猶予を付けてるのに,主文・法令の適用で執行猶予を書き忘れてしまったのです。模擬裁判に続いて,またも主文と理由が矛盾した判決を書いてしまいました。・・・その他にも,併合罪で,刑の短期を長期と同様に処理したかのような記載をしてしまったり,没収の適用条文を書き落としたりと,非常にまずいミスが多数です。

さらにまずいのは,2件目。とある道交法違反等の事案でした。なんと,在宅事件であるにもかかわらず,これを見落として,未決勾留日数(勾留されていた期間の一部を,懲役刑の執行部分から差し引いてあげる制度)を算入してしまいました。・・・これには,隣の席の修習生もさすがに思わず吹き出していたようでして・・・。

まずいですよ。いくら大急ぎで書いたとはいえ,ここまで初歩的なミスを繰り返していては,本当にまずいです。情けなさすぎです。怖くて起案できません。研修所の刑裁教官の怒り狂った顔が目に浮かびます。今日はもう,本当に,本当に反省しました。実務修習で,ぬるま湯につかりすぎました。あとわずかですが,心を入れ替えたいと思います。
Date: 2003/06/06



このままでは終われない
先日の起案のせいで,裁判官からの評価と信頼はもうガタ落ちですよ。「Otomoとしゃべってても,ラチがあかないしなぁ。」などと裁判官から言われる始末・・・。自分,刑裁修習に入って2か月経って,だいぶ慣れてきて,ついつい要領よくやろうとしてしまっていた面があったことは否定できません。判例ひとつとっても,資料室にこもって徹底的にリサーチするという姿勢が足りませんでした。時間不足だったとはいえ,書き上げた判決も十分見直さないまま提出せざるをえない状態でした。前期修習の最後の時,刑裁教官が「愚直に取り組め」とおっしゃっていましたが,今,その重要性をひしひしと感じてます。

このままでは終われません。あと3日しかありませんが,裁判官に頼み込んで,もう1件判決起案をさせていただくことにしました。今回は,とある放火事件です。(修習では,事件が偏らないよう,一度起案したことのある犯罪はもうまわってきません。窃盗や覚せい剤,交通事犯といった,比較的メジャーな犯罪をひととおり起案した後は,こういったちょっと珍しい犯罪の事件を起案させてもらうことになります)午前中にこの事件を傍聴させていただき,即日結審したので,さっそく午後から起案にとりかかることにしました。とにかく,形式ミスだけはもう絶対に避けなければ・・・。主文や法令の適用での記載ミスは論外。量刑の理由は,格好いい文章を書こうとせず,犯行態様の悪質性や結果の重大性など,必要かつ重要なものを取捨選択してコンパクトに。これまでの添削での指摘を無にしないよう,この数日間で最後の起案に取り組みます。
Date: 2003/06/09


最大の敵は自分である
「本屋さんに行くと,きまってトイレに行きたくなる」という方,いませんか? 自分,まさにこれなんですよ。調べ物をしようとして資料室へ行くと,5分くらいで必ずトイレに行きたくなってしまいます。・・・しかしながら,資料室の中にトイレはありません。トイレに行くためには,いったん受付を通って,廊下に出る必要があるんです。もし,毎日こんなこと繰り返してると,受付の職員に「あの人,いつもトイレに行くわよねぇ」などと噂されそうなので,うかつに出ることもできないんですよね。で,結局,自分はものすごい形相で耐えながら,ものすごい速度で目的の文献を探すことになります。そう,資料室での最大の敵は,自分自身なんです。・・・まぁ,相当長時間調べる必要がある時は,もう観念して,いったんトイレに行きますけどね。この生理的現象の理由は諸説あるみたいですけど,どうも本を印刷するのに使うインクのにおいが影響してるみたいなんですよねー。

そんな感じで(どんな感じだ),今日も一日,記録検討と判決起案をしてました。もう6月に入って,午後は部屋でじっとしてるだけでもかなり暑いです。そのせいか,今日は,巨大な扇風機が裁判官室に設置されました(笑)。そこまでするぐらいだったら,もう冷房つければいいのになぁ・・・と内心思いましたが。でも,いざスイッチを入れてみると,これが意外と涼しいんですよ。驚きました。なんか,小学生の時に祖父の家でアイスを食べながら扇風機に涼んだ,あの懐かしい涼しさなんです。冷房のようにヒンヤリとするわけではないんですが,こういうレトロな機械を使うのも悪くないなぁ,と思ったのでした。
Date: 2003/06/10



現行ログ/ [1]


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