今日は日曜日。なんとなく落ち着かない気持ちをこらえつつ、僕はLECへと足を運んだ。
玄関には、いつものように、ToshiとTakashiがいる。
Toshiは、相変らず大量の煙草を吸っており、周囲の迷惑だ。
Toshi「なんか、今日の天気は曇ってるな・・・。視界が悪い。」
Kenji「それは、あんたが煙に包まれてるからだろ。」
隣のTakashiも、相変らずノートパソコンに没頭している。
Kenji「おっ、やってるねー。・・・ん、このアンテナは何?」
Takashi「ああ、それね。盗聴機とパソコンを接続したんだよ。電話番号を入力すれば、その会話が盗聴できるよ。」
Kenji「何に使うんだ、一体? ・・・・・・はっ!! そうだ!!
実は昨日、S子さんの電話番号がわかったんだ。」
Takashi「おおっ、すごいじゃん! 早速やってみよう。」
六法に書かれていた番号を、パソコンに入力する。
Takashi「これでどうかな。」
盗聴機「ザー、ザー、・・・・もしもし、・・・・ザー。」
Kenji「S子さんの声だ!」
盗聴機「ザー、・・・・あっはっは、それでねー・・・。」
Takashi「相手は誰だろう?」
盗聴機「ザー、・・・・もー、Junichi君ってばー、ザー・・・。」
Kenji「えっ、Junichi!?」
盗聴機「ザー、・・・・それじゃ、今晩19時にロフトの前でね・・・」
プチッ。ツー、ツー、ツー・・・・。
Takashi「驚いた。まさか、あの生真面目なJunichiがこんな所で登場するとは。」
Kenji「二人は、つきあってるのかな?」
Takashi「19時にロフトだろ。行ってみたらどうかな?」
Kenji「うーん・・・・・。」
ガタン、ゴトン・・・、ガタン、ゴトン・・・
車掌「次は、梅田、梅田。終点です。お忘れ物のないよう・・・」
僕の足は、無意識のうちに、梅田のロフトへと向かっていた。無駄だとはわかっていつつも。時刻は18時55分。梅田駅からロフトまでは、わりと距離がある。道も入り組んでいて、時間
を食われる。間に合うか・・・。
人波をかきわけ、ようやくロフトの前にたどりついた時には、既に19時5分だった。周囲を見渡すが、S子さんの姿はない。もう行ってしまったのか?
その場に立ちつくし、ふと、わきに目をやった、その時−
駐車場に続く細い路地に、青い六法が落ちているのが見えた。
Kenji「なんであんなところに六法が?」
その瞬間、嫌な予感がした。
Kenji「ま、まさか!!」
僕は、その路地の向こうにある駐車場へと走った。
駐車場の奥の方から、叫び声がした。
S子「ちょ、ちょっと、やめてよ。何すんのよ!!」
S子さんがJunichiの車にムリヤリ連れこまれようとしている!!
僕はとっさにJunichiに突進し、殴りかかった。
Kenji「やめろぉーーーー!!!」
しかし、一瞬速くJunichiの右ストレートが僕の左頬をとらえていた。
ボコォッッ!!
「・・・・なさい、・・・・なさい!」
遠くから声が聞こえる。
「・・・・なさい! ・・・・でしょ!」
聞きなれた声。一体誰だ?
やっと目覚めた僕の左頬には、K子の右ストレートが炸裂していた。
K子「はやく起きなさい! 会社に遅れるでしょう!」
Kenji「??? ・・・・ゆ、夢だったのか?」
K子「いつまで寝ぼけてんの!! 」
ドスッッ!!
Kenji「いてっ!」
今度はK子の左ボディブローが入った。
そうだ。僕は、とっくの昔に司法試験をあきらめていた。今は、旅行会社で働くれっきとした社会人で、K子という妻もいる。何ら不自由のないその生活が、逆に窮屈で、あんな夢を見させたのだろうか。・・・いずれにせよ、早く起きなければ、次は右アッパーが飛んできそうだ。僕はあわててベッドから跳び起きた。
Kenji「司法試験、か・・・・。」
そうつぶやくと、窓から吹き込む爽やかな朝の風が、本棚の六法を揺らした気がした。
恋の六法・完 |