<1頁目>
一 小問1について
1 まず、Eは自分が形式的資格者であると主張して、Bに対し
手形上の責任を追及すること(遡求)が考えられる。
手形の所持人が形式的資格者であると認められるためには、
裏書の連続する手形を所持していることが必要である(手形法
77条1項1号・16条2項)。
ここで、裏書の連続とは、受取人から最終の被裏書人に至る
までの各裏書が間断なく続いていることをいう。
そして、裏書の連続の有無は手形取引安全確保のため、外形
的・形式的に判断すべきである。
この点、本問では、形式的・外形的に見て、裏書が間断なく
続いていることから、裏書の連続が認められる。なお、第一裏
書が白地式裏書であっても、裏書の連続に影響はない(手形法
77条項1号・13条2項)。
2 これに対して、Bとしては、@EはBに対する権利を取得し
ていないこと、Aたとえ権利を取得しえたとしても、遡求権を
失っていることを主張して、Eの請求を拒めないか。
<2頁目>
(1) @について
Eは無権利者たるDから手形を取得しており、Bに対する
手形上の権利を承継取得することはできない。
もっとも、EがDの無権利につき善意・無重過失であれ
ば、かかる権利を善意取得できる(手形法77条1項1号・16条2
項)。
(2) Aについて
Eは平成14年7月1日に手形をAに支払いのために呈示して
いるが、A,Bとの関係では手形の満期は変造前の文言どお
り平成14年5月31日であると考えられる(手形法77条1項7号・
69条)。
なぜなら、変造前の手形に署名したものが、変造後の文言
の責任を負う理由はないからである。
とすれば、7月1日になされたEの呈示は支払呈示期間経過
後の呈示である請求呈示であり、遡求権保全効は認められな
い(手形法77条1項4号・53条)。
したがって、Eは遡求権を失っている。
(3) 以上より、EはBに対し手形上の責任を追及することはで
きない。
<3頁目>
二 小問2について
1 本小問においては、変造したDとの関係においては、満期は
平成14年6月30日となる(手形法77条1項7号・69条)。
よって、7月1日になされたEの呈示は支払呈示期間内の呈示
であり(手形法77条1項3号・38条1項)、遡求権保全効が認められ
る。
とすれば、EのDに対する責任追及が認められるとも思え
る。
2 もっとも、Dの前者であるBが前述のように手形上の責任を
負わないことから、Dもこの影響を受けて責任を負わないので
はないか。手形行為独立の原則(77条2項・7条)が適用されるか
が問題となる。
(1) 手形行為独立の原則は債務負担に関するものであるので、
権利移転に関する裏書に適用されるであろうか。
思うに、手形行為独立の原則は手形取引安全を確保するた
めの政策的なものである。
そして、裏書に担保責任が認められるのも(手形法77条1項
1号・15条1項)、手形取引安全を図るためである。
<4頁目>
とすれば、裏書にも手形行為独立の原則をみとめなけれ
ば、手形取引安全という趣旨を達成しえなくなる。
よって、裏書にも手形行為独立の原則が適用されると解す
る。
(2) もっとも、手形行為独立の原則は前述のように手形取引安
全を図るために政策的に認められるものであるから、政策的
保護に値しない悪意者には適用がないと解する。
(3) したがって、本小問においてEが善意であれば手形行為独
立の原則の適用があり、Dに対して手形上の責任を追及する
ことができる。
以 上 |