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第2問

 Aは,平成14年4月1日,Bに対し,同年5月31日を満期日とする約束手形を振り出した。Bは, 同年4月10日,白地式裏書の方式で,この手形に裏書人(第1裏書人)として署名した上,Cに手 渡すべく,この手形をBの使用人Dに託した。ところが,Dは,無断でこの手形の満期日の記載を 「平成14年6月30日」と書き換えた上,Cに手渡さないまま,同年6月10日,この手形に自ら裏 書人(第2裏書人)として署名し,これをEに譲渡した。Eは,平成14年7月1日,この手形を支払 のために呈示したが,Aによりその支払を拒絶された。
1 Eは,Bに対し,手形上の責任を追及することができるか。
2 Eは,Dに対し,手形上の責任を追及することができるか。

 

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一 小問1について
 1 まず、Eは自分が形式的資格者であると主張して、Bに対し
  手形上の責任を追及すること(遡求)が考えられる。
   手形の所持人が形式的資格者であると認められるためには、
  裏書の連続する手形を所持していることが必要である(手形法
  77条1項1号・16条2項)。
   ここで、裏書の連続とは、受取人から最終の被裏書人に至る
  までの各裏書が間断なく続いていることをいう。
   そして、裏書の連続の有無は手形取引安全確保のため、外形
  的・形式的に判断すべきである。
   この点、本問では、形式的・外形的に見て、裏書が間断なく
  続いていることから、裏書の連続が認められる。なお、第一裏
  書が白地式裏書であっても、裏書の連続に影響はない(手形法
  77条項1号・13条2項)。
 2 これに対して、Bとしては、@EはBに対する権利を取得し
  ていないこと、Aたとえ権利を取得しえたとしても、遡求権を
  失っていることを主張して、Eの請求を拒めないか。

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  (1) @について  
    Eは無権利者たるDから手形を取得しており、Bに対する
   手形上の権利を承継取得することはできない。
    もっとも、EがDの無権利につき善意・無重過失であれ
   ば、かかる権利を善意取得できる(手形法77条1項1号・16条2
   項)。
  (2) Aについて
    Eは平成14年7月1日に手形をAに支払いのために呈示して
  いるが、A,Bとの関係では手形の満期は変造前の文言どお
  り平成14年5月31日であると考えられる(手形法77条1項7号・
  69条)。
   なぜなら、変造前の手形に署名したものが、変造後の文言
  の責任を負う理由はないからである。
    とすれば、7月1日になされたEの呈示は支払呈示期間経過
   後の呈示である請求呈示であり、遡求権保全効は認められな
   い(手形法77条1項4号・53条)。
    したがって、Eは遡求権を失っている。
  (3) 以上より、EはBに対し手形上の責任を追及することはで
   きない。

<3頁目>

二 小問2について
 1 本小問においては、変造したDとの関係においては、満期は
  平成14年6月30日となる(手形法77条1項7号・69条)。
   よって、7月1日になされたEの呈示は支払呈示期間内の呈示
  であり(手形法77条1項3号・38条1項)、遡求権保全効が認められ
  る。
   とすれば、EのDに対する責任追及が認められるとも思え
  る。
 2 もっとも、Dの前者であるBが前述のように手形上の責任を
  負わないことから、Dもこの影響を受けて責任を負わないので
  はないか。手形行為独立の原則(77条2項・7条)が適用されるか
  が問題となる。
  (1) 手形行為独立の原則は債務負担に関するものであるので、
   権利移転に関する裏書に適用されるであろうか。
    思うに、手形行為独立の原則は手形取引安全を確保するた
   めの政策的なものである。
    そして、裏書に担保責任が認められるのも(手形法77条1項
   1号・15条1項)、手形取引安全を図るためである。

<4頁目>

    とすれば、裏書にも手形行為独立の原則をみとめなけれ
   ば、手形取引安全という趣旨を達成しえなくなる。
    よって、裏書にも手形行為独立の原則が適用されると解す
   る。
  (2) もっとも、手形行為独立の原則は前述のように手形取引安
   全を図るために政策的に認められるものであるから、政策的
   保護に値しない悪意者には適用がないと解する。
  (3) したがって、本小問においてEが善意であれば手形行為独
   立の原則の適用があり、Dに対して手形上の責任を追及する
   ことができる。 
                          以 上