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一 設問前段について
1 まず、Aの保護としては、Q社の取締役・監査役に対する責
任追及を認めることが考えられる。
(1) この点、Aは、Q社の取締役に対して、会社の被った損害
につき、代表訴訟を提起することができる(267条、26
6条1項5号、2項、3項)。
なぜなら、不当に低い価格で製品を売り渡すことは、忠実
義務(254条ノ3)違反といえるからである。
(2) また、Aは、Q社の取締役に対して、自己の被った損害に
つき、損害賠償請求(266条ノ3)をなしえないか。
この点、そもそも同条は、株式会社の重要性および取締役
の強大な権限に着目し、第三者を特に保護しようとした法定
責任であるから、同条にいう悪意・重過失は任務懈怠につい
て存すれば足り、また、任務懈怠と相当因果関係があれば間
接損害も範囲に含めてよいと考える。
ただ、株主が「第三者」といえるのかが問題となるも、肯
定すべきである。たしかに、間接損害については代表訴訟に
よれば足りるとも思えるが、代表訴訟は持株保有期間などの
要件があり、株主保護として十分でないからである。
よって、Aは、Q社の取締役に対して、自己の被った損害
につき、損害賠償請求(266条ノ3)することができる。
(3) さらに、Aは、Q社の監査役に対しても、代表訴訟の提起
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(277条、280条)および損害賠償請求(280条)をす
ることができる。
2 次に、Aの保護としては、P社に対する責任追及を認める
ことが考えられる。
(1) まず、Aは、PQ間の取引が利益供与にあたるとして、P
社に対して利益の返還請求をすることができる(294条ノ
2第4項、267条)。
ただ、親会社がその地位を確保するために利益を得ようと
することは一応正当といえるから、利益供与にあたるといえ
るためには、子会社の健全性を害する程度のものであること
が必要と考える。
(2) 次に、Aは、P社がQ社の事実上の取締役であるとして、
Q社に対して損害賠償請求(266条ノ3)をすることはで
きないか。
思うに、そもそも同条は、前述のとおり、取締役の影響力
の強大さに着目した法定責任であるから、事実上の取締役と
いえる者についても同条の責任を負わせてよいと考える。
よって、Aは、P社に対して、損害賠償請求(266条ノ
3)をすることができる。
(3) さらに、P社のQ社に対する影響力が極めて大きい場合に
は、信義則上(民法1条3項)、法人格否認の法理により、
P社に対する責任追及をすることも認めるべきである。
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3 以上のように、Aには、Q社の取締役・監査役に対する責任
追及と、P社に対する責任追及を認める、という保護が与えら
れる。
二 設問後段について
1 次に、本問取引が265条1項の取引にあたる場合にも、A
の保護としては、まずQ社の取締役・監査役に対する責任追及
を認めることが考えられる。
(1) この点、前段で述べた責任追及の方法は、ここでも同様に
あてはまる。
(2) また、取引が取締役会の承認を得てなされた場合には、2
66条1項4号の責任追及をすることも考えられる。
そして、この場合にも、266条1項5号責任は認められ
ると考える。
2 次に、Aの保護としては、P社に対する責任追及を認めるこ
とが考えられる。
(1) この点、前段で述べた責任追及の方法は、ここでも同様に
あてはまる。
(2) また、取引が取締役会の承認を得ずになされた場合には、
その取引は無効と解すべきである。
なぜなら、265条2項の反対解釈からはかように解する
のが素直であるし、また、P社は親会社であり事情を知って
いると考えられるため、取引安全を図る必要もないからであ
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る。
このように、取引を無効とすることで、Q社の会社財産が
回復され、Aが保護される。
3 以上のように、Aには、Q社の取締役・監査役に対する責任
追及と、P社に対する責任追及を認める、という保護が与えら
れる。
以上
※ 親会社が子会社を食い物にした場合については、後期A型答練
でも出題されていたので、書くべきことは比較的すぐに思いつき
ました。もっとも、法人格否認の法理は、一体誰の法人格を否認
して誰と同一視するのかよくわからず、でもたしか解答例には書
いてあったはずだから・・・という感じで書いてしまいました。
※ 後段は、一体どこがどう違うんやろう、と考えましたが、結局
よくわかりませんでした。ネオダイキョー訴訟の最高裁判決が一
応うかんだので、それをほんのちょっとだけ書きました。 |