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一 Xは、Yに対し、594条1項に基づいて損害賠償請求をする
ことが考えられる。かかる請求は認められるか。
二1 まず、594条1項の要件をみたすかにつき検討する。
2 この点、Yはホテルの経営者であるから、「旅店・・・ノ主
人」といえる。
また、宿泊客たるXから車を屋内駐車場に入れておくよう依
頼され、車の鍵を預けられていることから、「客ヨリ寄託ヲ受
ケタル」にもあたる。
3 よって、不可抗力による滅失であることが証明されない限り
594条1項の要件をみたすことになる。
三1 しかし、本問では、Xは、Yに対して、バッグについて特に
何も告げていない。そこで、595条が適用され、XのYに対
する損害賠償請求は認められないのではないか。
2 まず、本問の約束手形が「有価証券」にあたるか。ここに有
価証券」とは、財産的価値を有する私権を表章する証券であっ
て、その移転および行使に証券を要するものをいうが、本問で
はいまだZに振り出されておらず、権利が表章されていないの
ではないか、権利の発生時期が問題となる。
思うに、わが国の一般私法理論上、債権債務は契約により発
生するのが原則であり、手形法に特別の規定がない以上、同様
に解すべきである。
よって、手形行為は手形の授受による契約であり、手形の交
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付によって手形上の権利が発生するものと考える。
とすると、本問ではXはZに手形を交付していない以上、権
利はいまだ発生していない。それゆえ、本問約束手形は「有価
証券」にはあたらない。
3 では、右手形は「高価品」にあたらないか。
この点、「高価品」とは、容積・重量に比して著しく価値の
高い物品をいう。
そして、右手形は、たしかに権利を表章していないが、権利
外観法理により200万円の手形上の権利を表章する可能性を
有している。とすれば、右手形は、容積が小さく軽いにもかか
わらず著しく価値の高い物品といえ、「高価品」にあたる。
4 とすると、本問では明告がない以上、原則として595条が
適用され、XはYに対して損害賠償請求をなしえない。
もっとも、本問では、不審者に屋内駐車場へ侵入させ窃盗を
させたことにつき、Yに重過失があるとも考えうる。そこで、
重過失による滅失の場合にも595条が適用されるのかがさら
に問題となる。
思うに、そもそも同条の趣旨は、明告を受けなかったために
十分な注意を尽くすことができなかった者に、損害賠償責任を
負わせるのは酷であるという点にある。とすれば、重過失によ
る滅失の場合には、明告があれば滅失を防げたといえるか疑問
であるし、また責任を負わせても酷ではない。
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よって、同条は、重過失ある滅失の場合には適用されないと
考える。
5 以上より、本問でも、原則として595条が適用され、Xは
Yに対して200万円の損害賠償請求をすることはできない。
もっとも、例外的に、Yが屋内駐車場の監視を著しく怠って
いた場合や、車に鍵をかけわすれたような場合には、Yに重過
失が認められるので、595条の適用はなく、XはYに対して
200万円の損害賠償請求をすることができる。
以上
※ 「明告がない」というところから、商行為がらみの問題である
ことはぴんときました。どの条文を使うのかは若干悩みましたが
寄託に近いかなと思って594条・595条を使いました。
※ もっとも、振り出す予定があっただけで、いまだ振り出してな
いという点もひっかかって、交付欠缺の話を書くべきかどうか、
迷いました。595条の「有価証券」に手形理論をそのまま持ち
込んでいいのかなぁ、と。創造説に寝返れば、どっちにせよ問題
なく有価証券なんでしょうけど、自説は通説なので・・・。結局
「ほんまかいな」とは思いつつも有価証券性を否定し、高価品性
を肯定しました。
※ 最後の重過失の処理は、去年の伊藤塾の直前答練で、運送人の
高価品の責任について書かれていたものを無理やり寄託者に流用
しました。これもかなり怪しいです・・・。 |