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第2問

 Xは、得意先Zに対する売買代金支払のため、XがZにあてて振り出す予定で手形要件をすべて記載した手形金額200万円の約束手形1通を入れたバッグを携えて、自ら自己所有の車を運転して出張に出かけた。Xは、Y経営のホテルにチェックインし、Yに対し車をホテルの屋内駐車場に入れておくよう依頼して、車の鍵を預けた。その際、Xは、本件約束手形を入れたバッグを車の座席に置いたままにしてあったが、Yに対しては、バッグについて特に何も告げなかった。ところが、その後ホテルの屋内駐車場に何者かが侵入し、駐車されていたXの車がバッグとともに窃取されてしまった。
 Xは、Yに対し、車の損害のほかに、バッグに入っていた本件約束手形の手形金相当額200万円の損害賠償請求をした。この200万円に関する請求は認められるか。

 

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一 Xは、Yに対し、594条1項に基づいて損害賠償請求をする
 ことが考えられる。かかる請求は認められるか。

二1 まず、594条1項の要件をみたすかにつき検討する。
 2 この点、Yはホテルの経営者であるから、「旅店・・・ノ主
  人」といえる。
   また、宿泊客たるXから車を屋内駐車場に入れておくよう依
  頼され、車の鍵を預けられていることから、「客ヨリ寄託ヲ受
  ケタル」にもあたる。
 3 よって、不可抗力による滅失であることが証明されない限り
  594条1項の要件をみたすことになる。

三1 しかし、本問では、Xは、Yに対して、バッグについて特に
  何も告げていない。そこで、595条が適用され、XのYに対
  する損害賠償請求は認められないのではないか。
 2 まず、本問の約束手形が「有価証券」にあたるか。ここに有
  価証券」とは、財産的価値を有する私権を表章する証券であっ
  て、その移転および行使に証券を要するものをいうが、本問で
  はいまだZに振り出されておらず、権利が表章されていないの
  ではないか、権利の発生時期が問題となる。
   思うに、わが国の一般私法理論上、債権債務は契約により発
  生するのが原則であり、手形法に特別の規定がない以上、同様
  に解すべきである。
   よって、手形行為は手形の授受による契約であり、手形の交

<2頁目>

  付によって手形上の権利が発生するものと考える。
   とすると、本問ではXはZに手形を交付していない以上、権
  利はいまだ発生していない。それゆえ、本問約束手形は「有価
  証券」にはあたらない。
 3 では、右手形は「高価品」にあたらないか。
   この点、「高価品」とは、容積・重量に比して著しく価値の
  高い物品をいう。
   そして、右手形は、たしかに権利を表章していないが、権利
  外観法理により200万円の手形上の権利を表章する可能性を
  有している。とすれば、右手形は、容積が小さく軽いにもかか
  わらず著しく価値の高い物品といえ、「高価品」にあたる。
 4 とすると、本問では明告がない以上、原則として595条が
  適用され、XはYに対して損害賠償請求をなしえない。
   もっとも、本問では、不審者に屋内駐車場へ侵入させ窃盗を
  させたことにつき、Yに重過失があるとも考えうる。そこで、
  重過失による滅失の場合にも595条が適用されるのかがさら
  に問題となる。
   思うに、そもそも同条の趣旨は、明告を受けなかったために
  十分な注意を尽くすことができなかった者に、損害賠償責任を
  負わせるのは酷であるという点にある。とすれば、重過失によ
  る滅失の場合には、明告があれば滅失を防げたといえるか疑問
  であるし、また責任を負わせても酷ではない。

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   よって、同条は、重過失ある滅失の場合には適用されないと
  考える。
 5 以上より、本問でも、原則として595条が適用され、Xは
  Yに対して200万円の損害賠償請求をすることはできない。
   もっとも、例外的に、Yが屋内駐車場の監視を著しく怠って
  いた場合や、車に鍵をかけわすれたような場合には、Yに重過
  失が認められるので、595条の適用はなく、XはYに対して
  200万円の損害賠償請求をすることができる。
                           以上

 

※ 「明告がない」というところから、商行為がらみの問題である
 ことはぴんときました。どの条文を使うのかは若干悩みましたが
 寄託に近いかなと思って594条・595条を使いました。

※ もっとも、振り出す予定があっただけで、いまだ振り出してな
 いという点もひっかかって、交付欠缺の話を書くべきかどうか、
 迷いました。595条の「有価証券」に手形理論をそのまま持ち
 込んでいいのかなぁ、と。創造説に寝返れば、どっちにせよ問題
 なく有価証券なんでしょうけど、自説は通説なので・・・。結局
 「ほんまかいな」とは思いつつも有価証券性を否定し、高価品性
 を肯定しました。

※ 最後の重過失の処理は、去年の伊藤塾の直前答練で、運送人の
 高価品の責任について書かれていたものを無理やり寄託者に流用
 しました。これもかなり怪しいです・・・。