<1頁目>
一 小問1について
1 本小問の訴えについて、裁判所は司法権を行使することがで
きるか。
ここに、司法権(76条1項)とは、具体的な争訟について法を
解釈・適用してこれを裁定する国家作用をいう。
裁判所は個人の人権を保障するための機関であるから、司法
権の対象となるためには具体的な争訟でなければならない(法
律上の争訟、裁判所法3条1項)。
そして、法律上の争訟にあたるためには、@具体的な権利義
務の存否に関する争いについて、A法を解釈・適用することで
終局的に解決することができるものである必要がある。
よって、@・Aを満たす場合には、一定の場合を除いて裁判
所は司法権を行使することができる。
2 本小問についてみると、A法律は成立前であり、何ら権利侵
害がないから@具体的な権利義務の存否に関する争いではな
い。
よって、法律上の争訟にはあたらず、裁判所は司法権を行使
することができない。
二 小問2について
<2頁目>
1 本小問の訴えについて、裁判所は司法権を行使することがで
きるか。前述の@Aの基準について検討する。
2 まず、憲法第13条の個人の尊重に反するというのは@具体的
な権利義務の存否の争いであるとはいえない。
また、宗教上の教義の内容の判断については、A法を解釈・
適用することで終局的に解決できる事項ではない。
よって、法律上の争訟にはあたらず、裁判所は司法権を行使
することができない。
三 小問3について
1 本小問の訴えについて、裁判所は司法権を行使することがで
きるか。前述の@Aの基準について検討する。
2 まず、本小問の訴えは自己の納税分中自衛隊に支出した額の
返還請求という@具体的な権利義務の存否に関する争いであ
る。
また、憲法9条の解釈によって自衛隊が無効な存在とされれ
ば、返還請求権を肯定しうるのであるから、A法を解釈・適用
することで終局的に解決できる。
<3頁目>
そうだとすれば、法律上の争訟にあたり、裁判所は司法権を
行使できるとも思える。
3(1)もっとも、高度に政治的な事項については、民主的基盤の
ない裁判所よりも、民主的基盤のある政治部門の判断にゆだ
ねるべきと解される。
(2) そして、自衛隊は国家の国防を担う組織であって、その存
在は国家の存亡に関わる高度に政治的な事項といえる。した
がって、法律上の争訟にあたるとしても、例外的に、裁判所
は司法権を行使することができない。
以 上 |