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一 法律上強制加入とされている団体が、多数決により、特定の政
治団体に政治献金をする旨の決定をした場合、その決定は、構成
員の政治的思想・良心の自由(19条)を侵害するものとして、
無効ではないか。
二1 まず、そもそも私人たる団体と構成員との間に人権規定が適
用されるのであろうか。人権規定は本来、国家と国民の間を規
律するものであることから問題となる。
2 思うに、現代においては社会的権力により人権が脅かされる
おそれがある。しかし、他方、私的自治も無視できない。
そこで、私法の一般条項を媒介として、人権規定の価値を私
人間に及ぼすべきと考える。
3 本問では、決定が「目的ノ範囲内」(民法43条)といえる
かを検討する中で、人権規定の価値を考慮することになる。
三1 では、団体が特定の政治団体に政治献金をする旨の決定は、
「目的ノ範囲」外として無効となるのであろうか。
2 この点、たしかに構成員には思想・良心の自由が保障されて
いる(憲法19条)。
しかし、他方、今日においては法人も活動する社会的実体で
あり社会の重要な構成要素であることから、法人にも人権保障
が及ぶ。そこで、団体にも、政治活動の自由(21条)の一環
として、政治献金の自由が保障される。
よって、特定の政治団体に政治献金をする旨の決定も、一律
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に無効とするのではなく、@団体の目的、A団体の性質、B権
利の内容を考慮して、団体ごとに「目的ノ範囲」内かどうかを
決すべきである。
3 以下、法律上強制加入とされている団体の場合について、株
式会社及び労働組合の場合と比較しつつ検討する。
四 法律上強制加入とされている団体の場合
1 まず、法律上強制加入とされている団体についてみるに、@
団体の目的は公益目的であることが多い。たとえば税理士会で
あれば、税理士業務の改善進歩という公益目的を有する。
そのため、団体に政治的中立性が要請され、政治活動を広く
認めることはできない。
2 次に、A団体の性質としては、法律上強制加入とされており
脱退の自由が保障されていない。
そのため、団体が構成員に対して協力を求めることのできる
範囲は狭く解すべきである。
3 さらに、B権利の内容についてみると、政治献金をするか否
かの判断は投票の自由と密接に関連するものであり、個人の政
治的思想・良心に任されるべき重要なものといえる。
4 以上より、法律上強制加入とされている団体が、多数決によ
り、特定の政治団体に政治献金をする旨の決定をした場合、そ
の決定は「目的ノ範囲」外のものとして無効である。
五 株式会社の場合
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1 これに対し、株式会社の場合は、たしかにB権利の内容が重
要である点は、法律上強制加入とされている団体と共通する。
2 しかし、@団体の目的は、前述の税理士会などとは異なり、
営利目的である(商法52条)。
そのため、政治的中立性が要請される度合いは比較的小さく
政治活動をある程度広く認めることも許される。
3 また、A団体の性質としても、株式会社は強制加入ではなく
株式譲渡による脱退の自由も保障されている(商法204条1
項)。
そのため、団体が構成員に対して協力を求めることのできる
範囲もある程度広く解することができる。
4 以上より、株式会社が、多数決により、特定の政治団体に政
治献金をする旨の決定をした場合、その決定は「目的ノ範囲」
内のものとして有効である。
六 労働組合の場合
1 さらに、労働組合の場合も、B権利の内容が重要である点は
法律上強制加入とされている団体と共通する。
2 また、@団体の目的は、労働者の地位向上という公益性のあ
る目的である。たしかに、労働者の地位向上のためには、使用
者との交渉のみでは必ずしも十分でなく、一定程度の政治活動
が必要な場合もあるが、それは労働者の地位向上という目的に
対して間接的なものにすぎず、公益性を重視すべきである。
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そのため、団体にある程度の政治的中立性が要請される場合
といえる。
3 そして、A団体の性質としても、労働組合においては28条
団結権確保のため、加入強制が認められ、構成員の脱退の自由
が保障されていない。
そのため、団体が構成員に対して協力を求めることのできる
範囲は狭く解されるべきである。
4 以上より、労働組合が、多数決により、特定の政治団体に政
治献金をする旨の決定をした場合、その決定は「目的ノ範囲」
外のものとして無効である。
七 このように、法律上強制加入する団体は、@公益目的である点
およびA脱退の自由が保障されていない点で、株式会社と異なる
ことから、結論を異にする。
これに対し、労働組合との関係では、ある程度政治活動が認め
られるかどうかという違いはあるものの、@公益目的である点、
A脱退の自由が保障されていない点で共通することから、結論を
同じくする。
以上
※ 三者の比較であるため、どのような構成にするか悩みました。
二者なら平行して書いてもいいんですけど、三者だとかえって読
みにくくなるかな、という感じがしたので・・・。結局、個別に
検討した後で比較をまとめるという形をとりました。(もっとも
本問は対等な比較ではなく、あくまで強制加入団体がメインであ
って、株式会社と労働組合はサブにすぎないと捉える方が素直な
気もします。そう考えると、このような構成は、あまり良くなか
ったかなという感じもします)
※ 労働組合の結論はどっちにしようか迷いました。自分は、「2
8条は加入しない自由を認めないところに意味がある」という択
一知識から、じゃあ脱退の自由がないのかなと思い、無効の結論
に持っていきました。
※ なお、この再現答案では、条文の引用や(
)もすべて全角で
書いているため、実際に書いた答案よりもやや分量が多めになっ
ています。ご了承ください。 |