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【午後の組・1番クジ】

Otomo

「10組134番です。よろしくお願いします。」

主査

(無言で椅子の方向に手を差し出す)

Otomo

(昨日とはうってかわって、こわそうな先生が2人・・・)

主査

「それじゃ、私の方から刑法の質問をします。」

Otomo

「はい。」

主査

「えーと、答えは原則として一問一答にして下さい。理由とか反対説とかを聞きたいときは、こちらの方から質問します。」

Otomo

「わかりました。」

主査

「じゃあ、事案を言いますので、よく聞いてください。甲は、制限速度60kmの道路を、時速60kmで運転していました。そして、その後、甲は制限速度40kmの道路に入ったのですが、この標識を見落としたため、引き続き時速60kmで運転しました。この事案で、甲の速度違反の罪の成否について、検討すべき問題点はありますか?」

Otomo

「はい。えーと・・・故意の有無が問題になると思います。」(全く自信なし)

主査

「故意・・・。なんで?」(と言って、何かメモしている)

Otomo

「はい。甲は、標識を見落としていたというのですから、自分が速度違反の罪を犯しているという点についての認識がないと考えられるからです。」

主査

「ふーん。じゃあ、あなたは、故意というものを、刑法の犯罪成立要件の体系上、どのように位置付けるの?」 

Otomo

「はい。故意は、構成要件段階と、責任段階に位置付けています。」

主査

「構成要件と責任・・・。じゃあ、違法段階はないということ?」

Otomo

(うっ、嫌なところを!)「えー、たしかに違法要素としての故意というのも聞いたことがありますが・・・。」

主査

「あるの、ないの?」

Otomo

(大塚説からは認めるはず・・・だけど、内容の違いとか尋ねられたら終わりだな・・・。)「うーん・・・。構成要件段階や責任段階とは別の内容を持った故意を、別途違法段階で検討するということはないと思います。」

主査

「ということは、違法段階ではないのね?」

Otomo

(早く質問を変えてくれー・・・)「はい。」

主査

「ふーん。で、本事案においては、どの段階の故意が問題となるわけ?」

Otomo

「はい。構成要件段階の故意が問題になると思います。」

主査

「構成要件? なんで?」

Otomo

「はい。速度違反の罪においては、速度違反が構成要件事実となりますが、本問の甲は、標識を認識していなかったため、自分が制限速度40kmの路上で60kmの速度を出しているという速度違反の認識を欠くからです。」

主査

「違反してるという認識が、構成要件段階の故意として必要なの? じゃあさ、たとえば、何々禁止っていう表示がされているところで、その表示があることを知らずにその行為をした場合、故意はある、ない?」

Otomo

「えっと・・・。その場合はあると思います・・・。」

主査

「この場合はあるの? どこが違うの?」

Otomo

「うっ・・・。確かに、道路に立入禁止といった表示がある場合と、変わりがないような気もしますが・・・。えー・・・。」

主査

「いや、別に、あなたの考え方が間違ってると言ってるんじゃないよ。あなたが両者は違うんだとおっしゃるから、じゃあどこが違うんですかと聞いてるんです。」

Otomo

(うひゃー、これじゃ撤回もできないし、逃げようがないな・・・)「はぁ・・・。やはり速度違反ということを認識していなければ、反対動機の形成可能性がないと思われるので・・・。」

主査

「だから、両者はどう違うの?」

Otomo

「えー、速度違反の場合は、それまでの路上では60kmで走ることが許されていたわけで、禁止区域と連続している点で、反対動機の形成可能性が違うと思います・・・。表示の内容によって結論が異なりうるのではないでしょうか。」(意味不明)

主査

「ふーん・・・。じゃあ、もし仮に、通常の禁止の表示と同じであると考えたら、どの段階の問題になりますか?」

Otomo

「はい。その場合は、責任段階の故意の問題になります。」

主査

「うん。で、その責任段階の故意というのは、構成要件段階とどう違うんですか?」

Otomo

「はい。構成要件段階の故意は、構成要件該当事実の表象・認容を内容とするのに対し、責任段階の故意は、違法性を基礎付ける事実の認識と違法性の意識の可能性を内容とします。」

主査

「違法性を基礎付ける事実・・・?」

Otomo

「あ、えっと、違法性阻却事由が存在しないということの認識です。」

主査

「えーと、じゃあ、あなたは、いわゆる違法性の意識の問題について、どのような立場に立つの?」

Otomo

「はい。違法性の意識は不要であるが、違法性の意識の可能性は必要である、という制限故意説に立ちます。」

主査

「なんで?」

Otomo

「はい。もし違法性の意識が必要とすると、常習犯の加重処罰や確信犯の処罰の説明が困難となります。他方、違法性の意識の可能性すら不要としてしまうと、可能性のないところに非難は成り立たない以上、妥当でないからです。

主査

「うーん・・・。でも、違法性の意識がなかったら、やっぱり反対動機の形成はできないんじゃないの?」

Otomo

「あ、はい。たしかに当該行為のみについて見れば、そのようにも思えます。しかし、そもそも責任非難の基礎は、第一次的にはその行為に現れた意思であるとともに、第二次的にはそのような法に無関心な人格を形成した点にも求められます。よって、そのような人格形成についての非難は可能だと思います。」

主査

「ということは、あなたはいわゆる人格責任論を採られるわけですか?」

Otomo

「はい。」

主査

「ほんとに?」

Otomo

「はい。」(まずいのかな・・・)

主査

「ふーん。ところで、違法性の意識について、議論されている条文は知ってる?」

Otomo

「はい。38条3項です。」

主査

「で、あなたは、その条文をどう解釈するの?」

Otomo

「はい。条文を知らないからといって、故意がないとすることはできない旨を定めた規定と考えます。」

主査

「但書は?」

Otomo

「はい。違法性の意識の可能性は一応あるが、違法性を意識することが困難であった場合の規定と考えます。」

主査

「ほぉー・・・。で、その場合の効果は?」

Otomo

「はい。刑の任意的減軽です。」

主査

「うん、減軽ね。じゃ、本事案では、違法性の意識の可能性はあるの?」

Otomo

「はい。あると思います。」

主査

「なんで?」

Otomo

「はい。道路標識は通常、運転手から見やすい場所に立てられていると考えられるので・・・。」

主査

「なるほど。じゃあ、事案を少し追加します。甲が時速60kmで走っていたところ、検問で警察官Aに呼び止められた。甲は、Aから肩をつかまれひっぱられたことに腹を立て、Aの顔を殴りつけた。この場合、成否が問題となる犯罪は何?」

Otomo

「はい。公務執行妨害罪です。」

主査

「うん。じゃあ、公務執行妨害罪が成立するかどうか検討するにあたって、本問で問題となる点は何?」

Otomo

「えーと・・・。(とりあえず言ってみよう)適法性の認識です。」

主査

「それだけ? 客観面は?」

Otomo

「うーん・・・。正当防衛でしょうか・・・。」

主査

「そもそも認識っていうのは、その対象がないと成り立たないんじゃないの?」

Otomo

「あっ! 適法性それ自体も問題となります。」

主査

「そうですよね。で、この職務の適法性っていうのは、条文には全く書いてないんだけれども、どうしてこれが要件とされるんですか?」

Otomo

「はい。えーと、違法な公務は保護に値しないので・・・。」

主査

「ふーん、そう考えるんだ・・・。」

Otomo

(他にどう考えるんだろ・・・?)

主査

「で、本事案ではどう?」

Otomo

「肩をつかんでひっぱる程度の行為は、社会通念上相当ですので、適法な職務だと思います。

主査

「なるほど。じゃあ、適法性の認識について、あなたはどの段階の問題と考えるの?」

Otomo

「はい。構成要件段階の問題と考えます。」

主査

「本事案では、適法性の認識はある?」

Otomo

「はい。えー、甲には、警察官の職務が適法であるということについての素人的認識はあると思われるので、適法性の認識ありといえると思います。」

主査

「具体的に、どんな事実を認識していればいいの?」

Otomo

「えー・・・。肩をつかんだ行為が適法であることの認識でしょうか・・・。」

主査

「肩をつかんだこと? もし、肩をつかんだことを認識してなかったらどうなるの?」

Otomo

「・・・・なおさら故意が認められますよね。」

主査

「でしょ。じゃあおかしいじゃない。」

Otomo

「はい。えーと、では、自分が適法な取調べの対象となっているということの認識で・・・。」

主査

「適法、っていうのは必要?」

Otomo

「あ、いえ、素人的な事実の認識で足りるので、適法という点については不要です。」

主査

「はい。それじゃ、私の方は終わります。」

Otomo

「ありがとうございました。」

 

<感想>

 かなり修羅場でした。特に前半は、全く自信がないにもかかわらず、それを前提として次の質問がなされ、それに対するさらに自信のない答えを前提としてさらに質問がなされ、・・・という感じで、まさに五里霧中という感じでした。こうして再現してみると、標識の見落としは、やっぱり法律の錯誤の問題にした方がよかったのかな・・・とも思います。