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一1 甲は、Aが詐欺でBから取得した宝石を受領しており、盗品
等保管罪(256条2項)が成立しないか。甲は当初詐欺で取得
したものということを知らなかったことから、その後これを知
った場合にも盗品等保管罪が成立するかが問題となる。
2 思うに、盗品等保管罪は財産犯であることから追求権の侵害
をその本質とするとともに、本犯庇護的な性格も有する。
そして、盗品の保管を継続することは本犯庇護的行為といえ
る。
よって、盗品等保管罪は継続犯であり、当初盗品であること
を知らなかったとしても成立すると解する。
3 よって、甲に盗品等保管罪が成立する。
二1 次に、甲は宝石が詐欺により取得されたものであることを秘
してCに100万円でこれを売却していることから、詐欺罪
(246条1項)が成立しないか。時価が100万円の宝石を
100万円で売っていることから、財産上の損害がCに発生し
ていないのではないかが問題となる。
2 思うに、詐欺罪は個別財産に対する罪である。よって、たと
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え時価相当額で売ったとしても、もしその目的物が盗品である
ことを知っていたら買わなかったと考えられることから、時価
相当額で売却したとしても財産上の損害は発生していると解さ
れる。
3 よって、甲には詐欺罪が成立する。
三1 さらに、甲は宝石代金100万円のうち30万円を自己の借
金の返済のために使い、残りの70万円のみを渡している。こ
の場合、甲に横領罪(252条1項)が成立しないか。
もともとこの100万円というのはAが詐欺で取得した宝石
を売却した代金であるから、民事上Aは甲に対して返還請求権
を有しない(民法708条)。この場合にも横領罪が成立するで
あろうか、不法原因給付と横領罪の問題となる。
2 思うに、民法は私人間の利益調整を目的としているのに対し
て、刑法は犯罪者の処罰を目的としていることから、刑法上の
犯罪の成否は刑法独自の見地から判断すべきである。
よって、横領罪としての当罰性が認められる場合には横領罪
が成立しうる。
そして、委託者との委託信任関係を破って領得した行為は横
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領罪の当罰性が認められる。
したがって、不法原因給付の場合にも横領罪が成立すると解
する。
3 よって、甲には横領罪が成立する。
なお、甲はAに対して「70万円でしか売れなかった」と言
っていることから、詐欺罪にあたるとも思えるが、これは横領
を完成させる手段にすぎないことから詐欺罪は成立しない。
四 以上より、甲には盗品等保管罪(256条2項)、詐欺罪(246
条1項)、横領罪(252条1項)が成立し、これらは併合罪(45条)
となる。
以 上 |