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一 甲の罪責について
1 まず、甲は会社の機密データをフロッピーディスクに複写し
その複写ディスクを社外に持ち出している。かかる行為につき
窃盗罪(235条)が成立しないか。
(1) まず、複写ディスク自体は甲が占有する甲所有の物である
から、これを「他人の財物」ということはできない。
(2) では、機密情報それ自体を「他人の財物」といえないか。
思うに、そもそも窃盗罪は財物を奪取する犯罪であり、そ
の客体は占有侵害という態様になじむものであることが必要
である。
よって、「他人の財物」とは、物理的に管理可能な物をい
うと考える。
とすると、本問の情報それ自体は物理的に管理可能とはい
えないので、「他人の財物」にあたらない。
(3) 以上より、甲には窃盗罪は成立しない。
2 次に、甲の右行為について、背任罪(247条)が成立しな
いか。
(1) まず、甲は製薬会社の商品開発部長として機密情報の管理
を委ねられており、「他人のためにその事務を処理する者」
といえる。
また、機密情報を、業務上の必要がないにもかかわらず無
断で複写してこれを社外に持ち出すことは、「その任務に背
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く行為」といえる。
そして、「財産上の損害」は、経済的見地から全体財産の
減少の有無を判断すべきところ、機密情報を社外に持ち出さ
れることはそれ自体経済的見地からみて会社の損害といいう
る。
さらに、主観的にも、甲は機密情報を売却して利益を得よ
としていたことから、図利目的も認められる。
(2) 以上より、甲には背任罪(247条)が成立する。
二 乙の罪責について
1 次に、乙は、「確認してから金を渡す」と告げて、甲からデ
ィスクを受け取って、車に戻っている。これによって、乙はデ
ィスクの占有を取得したものといえるが、かかる行為は窃盗罪
(235条)と詐欺罪(246条)のいずれに該当するか。両
者の区別が問題となる。
思うに、窃盗罪と詐欺罪は、占有者の瑕疵ある意思に基づく
占有移転か否か、すなわち、処分行為の有無によって区別され
る。
本問では、甲は、乙に確認をさせるために渡したにすぎず、
処分行為があったとは認められない。
よって、乙の行為は、窃盗罪の構成要件に該当する。
2 さらに、その後、乙は甲を殺してしまおうと思い、車で甲を
跳ねて谷底に転落させ重傷を負わせている。そこで、乙には、
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(事後)強盗殺人未遂罪(240条後段、243条)が成立し
ないか。
(1) まず、乙は「強盗」といえるか。
この点、前述のとおり、乙は「窃盗」であり、また、車で
跳ね飛ばす行為は、相手方の反抗を抑圧するに足りるだけの
暴行といえる。
そして、右暴行は、数分後に窃盗の現場付近で行われたも
のであることから、窃盗行為と時間的場所的接着性が認めら
れ、窃盗の機会になされた暴行といえる。
さらに、乙には、ディスクの返還を免れるという目的もあ
る。
よって、238条により、乙は「強盗」といえる。
(2) 次に、乙は甲を殺してしまおうと思っていることから、か
かる故意ある場合にも240条後段が適用されるのかが問題
となる。
思うに、同条は、強盗の機会に人の死亡という残虐な結果
が生じることが刑事学上顕著であることから設けられた犯罪
類型である。とすれば、故意ある場合も当然予定しているも
のと解すべきである。
よって、本問でも同条後段が適用されうる。
(3) そして、強盗殺人罪の既遂・未遂の区別は、人の死亡の結
果の有無によってなすべきである。
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なぜなら、同罪は、人の生命の保護に重点があるからであ
る。
本問では、甲は重傷を負ったにとどまることから、乙の行
為は未遂にとどまる。
3 以上より、乙には、強盗殺人未遂罪(240条後段・243
条)が成立し、前述の窃盗はこれに吸収される。
以上
※ どこに山場を設ければいいのかがよくわからず(というか、そ
もそもその山場の存在にすら気づいてない)、淡々と構成要件に
あてはめて結論を導いたという感じです。それでも結構な分量に
はなりましたが。
※ 問題文最後にあるように、甲は、車に跳ねられて怪我をしたの
ではなく、跳ねられて谷底に落ちて怪我したんですよね(よく生
きてたなぁと思いますが)。そこが少し気になって、因果関係の
話とかも問題になるのかなと思ったのですが、自分は強盗殺人未
遂罪の問題としたので、そもそも因果関係の話に入りようがあり
ませんでした。結局、この事情は無視して答案を作成せざるをえ
ませんでした。 |