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第2問

 製薬会社の商品開発部長甲は、新薬に関する機密情報をライバル会社に売却して利益を得ようと企て、深夜残業中、自己が管理するロッカー内から新薬に関する自社のフロッピーディスク1枚を取り出した上、同じ部屋にあるパソコンを操作して同ディスク内の機密データを甲所有のフロッピーディスクに複写し、その複写ディスクを社外に持ち出した。その後、甲は、ライバル会社の乙にこの複写ディスクを売却することとし、夜間山中で乙と会ったが、乙は、金を惜しむ余り、「ディスクの中身を車内で確認してから金を渡す」と告げて、甲からディスクを受け取って、自己の車に戻り、すきを見て逃走しようとした。乙は、車内から甲の様子を数分間うかがっていたが、不審に思った甲が近づいてきたことから、この際甲を殺してしまおうと思い立ち、車で同人を跳ね飛ばして谷底に転落させた。その結果、甲は重傷を負った。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ。(特別法違反の点は除く。)

 

<1頁目>

一 甲の罪責について
 1 まず、甲は会社の機密データをフロッピーディスクに複写し
  その複写ディスクを社外に持ち出している。かかる行為につき
  窃盗罪(235条)が成立しないか。
  (1) まず、複写ディスク自体は甲が占有する甲所有の物である
   から、これを「他人の財物」ということはできない。
  (2) では、機密情報それ自体を「他人の財物」といえないか。
    思うに、そもそも窃盗罪は財物を奪取する犯罪であり、そ
   の客体は占有侵害という態様になじむものであることが必要
   である。
    よって、「他人の財物」とは、物理的に管理可能な物をい
   うと考える。
    とすると、本問の情報それ自体は物理的に管理可能とはい
   えないので、「他人の財物」にあたらない。
  (3) 以上より、甲には窃盗罪は成立しない。
 2 次に、甲の右行為について、背任罪(247条)が成立しな
  いか。
  (1) まず、甲は製薬会社の商品開発部長として機密情報の管理
   を委ねられており、「他人のためにその事務を処理する者」
   といえる。
    また、機密情報を、業務上の必要がないにもかかわらず無
   断で複写してこれを社外に持ち出すことは、「その任務に背

<2頁目>

   く行為」といえる。
    そして、「財産上の損害」は、経済的見地から全体財産の
   減少の有無を判断すべきところ、機密情報を社外に持ち出さ
   れることはそれ自体経済的見地からみて会社の損害といいう
   る。
    さらに、主観的にも、甲は機密情報を売却して利益を得よ
   としていたことから、図利目的も認められる。
  (2) 以上より、甲には背任罪(247条)が成立する。

二 乙の罪責について
 1 次に、乙は、「確認してから金を渡す」と告げて、甲からデ
  ィスクを受け取って、車に戻っている。これによって、乙はデ
  ィスクの占有を取得したものといえるが、かかる行為は窃盗罪
  (235条)と詐欺罪(246条)のいずれに該当するか。両
  者の区別が問題となる。
   思うに、窃盗罪と詐欺罪は、占有者の瑕疵ある意思に基づく
  占有移転か否か、すなわち、処分行為の有無によって区別され
  る。
   本問では、甲は、乙に確認をさせるために渡したにすぎず、
  処分行為があったとは認められない。
   よって、乙の行為は、窃盗罪の構成要件に該当する。
 2 さらに、その後、乙は甲を殺してしまおうと思い、車で甲を
  跳ねて谷底に転落させ重傷を負わせている。そこで、乙には、

<3頁目>

  (事後)強盗殺人未遂罪(240条後段、243条)が成立し
  ないか。
  (1) まず、乙は「強盗」といえるか。
    この点、前述のとおり、乙は「窃盗」であり、また、車で
   跳ね飛ばす行為は、相手方の反抗を抑圧するに足りるだけの
   暴行といえる。
    そして、右暴行は、数分後に窃盗の現場付近で行われたも
   のであることから、窃盗行為と時間的場所的接着性が認めら
   れ、窃盗の機会になされた暴行といえる。
    さらに、乙には、ディスクの返還を免れるという目的もあ
   る。
    よって、238条により、乙は「強盗」といえる。
  (2) 次に、乙は甲を殺してしまおうと思っていることから、か
   かる故意ある場合にも240条後段が適用されるのかが問題
   となる。
    思うに、同条は、強盗の機会に人の死亡という残虐な結果
   が生じることが刑事学上顕著であることから設けられた犯罪
   類型である。とすれば、故意ある場合も当然予定しているも
   のと解すべきである。
    よって、本問でも同条後段が適用されうる。
  (3) そして、強盗殺人罪の既遂・未遂の区別は、人の死亡の結
   果の有無によってなすべきである。

<4頁目>

    なぜなら、同罪は、人の生命の保護に重点があるからであ
   る。
    本問では、甲は重傷を負ったにとどまることから、乙の行
   為は未遂にとどまる。
 3 以上より、乙には、強盗殺人未遂罪(240条後段・243
  条)が成立し、前述の窃盗はこれに吸収される。
                           以上

 

※ どこに山場を設ければいいのかがよくわからず(というか、そ
 もそもその山場の存在にすら気づいてない)、淡々と構成要件に
 あてはめて結論を導いたという感じです。それでも結構な分量に
 はなりましたが。

※ 問題文最後にあるように、甲は、車に跳ねられて怪我をしたの
 ではなく、跳ねられて谷底に落ちて怪我したんですよね(よく生
 きてたなぁと思いますが)。そこが少し気になって、因果関係の
 話とかも問題になるのかなと思ったのですが、自分は強盗殺人未
 遂罪の問題としたので、そもそも因果関係の話に入りようがあり
 ませんでした。結局、この事情は無視して答案を作成せざるをえ
 ませんでした。