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第2問

 甲は,平成14年3月20日に任意提出した尿の鑑定結果,友人Aの目撃供述及び自白に基づい て,「平成14年3月18日ころ,東京都内のA方において,覚せい剤若干量を注射して使用した。」 との訴因で起訴された。公判において,甲は犯行を否認し,Aは捜査段階における供述を覆す証 言をしたため,検察官は,上記鑑定結果等から,「平成14年3月上旬ころから同月20日までの 間,東京都内又はその周辺において,覚せい剤若干量を使用した。」との訴因に変更請求した。
 裁判所は,この訴因変更請求を許すべきか。

 

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一 本問において、裁判所は検察官による訴因変更請求を許すべき
 か。
 1(1)そもそも、本問で訴因変更が必要か。不要であれば、許す
   べきではないと思われることから問題となる。
  (2) 思うに、当事者主義を採る現行法(256条6項、298条
   1項、312条1項)の下では、審判対象は検察官の主張する具
   体的犯罪事実である訴因である。
    そして、訴因の機能は@裁判所に審判対象を明示するのみ
   ならず、A被告人の防御の範囲を明示することにある。
    とすれば、被告人の防御に一般的・抽象的に見て不利益を
   与えるほどの事実の食い違いがある場合に訴因変更が必要と
   なると解する。
  (3) 本問では、これまで甲は3月18日ころ、A方での覚せい剤使
   用を争えばよかったところ、3月上旬ころから20日までの間、
   東京都内又はその周辺における使用行為を争わねばならず、
   防御に一般的・抽象的にみて不利益を与えるといえる。
    よって、訴因変更が必要である。

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 2(1)としても、訴因変更は「公訴事実の同一性」を害しない限
   りで認められる(312条1項)。
    では、本問で「公訴事実の同一性」はみとめられるか、
   「公訴事実の同一性」の意義が問題となる。
  (2) 「公訴事実の同一性」につき争いあるも、基本的事実関係
   が同一であることをいい、判断基準として@事実の共通性、
   A事実の非両立性によるべきである。
  (3) これを本問についてみると、@旧訴因は3月18日ころ、A方
   での覚せい剤使用であるのに対し、新訴因は3月上旬ころから
   20日までの間であり、事実は概ね共通といえる。
    また、A検察官は最終一回の覚せい剤使用行為を起訴して
   いると考えられることから、非両立性も認められる。
    よって、基本的事実関係が同一であるといえ、「公訴事実
   の同一性」が認められる。
    とすれば、裁判所は訴因変更請求を許すべきとも思える。
 3(1)しかし、変更後の訴因は「3月上旬ころから同月20日までの
   間」、「東京都内又はその周辺」というような幅のある記載

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   がなされている。
    かかる記載は訴因のできる限りの特定を要求している256条
   3項に反する不適法な訴因ではないか。仮に不適法な訴因であ
   るとすれば、裁判所は不適法な訴因への変更を許すべきでは
   ないように思われることから問題となる。
 (2) 思うに、訴因の機能は前述のように@裁判所に対する審判
   対象の明示、A被告人に対する防御範囲の明示にある。
    とすれば、これらの機能を果たすためには、訴因はできる
   だけ厳格に特定されるのが望ましいといえよう。
    しかし、あまりに厳格な訴因の特定を要求すると、捜査の
   長期化につながり、また、自白強要のおそれもある。
    そこで、訴因を特定するのが困難な特殊事情がある場合に
   は、前述の訴因の機能を害しなければある程度幅のある訴因
   も適法であると解する。
  (3) 本問のような覚せい剤自己使用剤については、被害者なき
   犯罪であり犯罪の密行性が強いことから、訴因の特定が困難
   な特殊事情があるといえる。

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    そして、検察官が最終一回の使用行為を起訴したと釈明
   (規則208条)することで、@裁判所に対する審判範囲の明示
   として十分であり、また、A被告人の防御範囲の明示として
   も十分である。
    よって、本問では訴因が十分特定していると認められ、適
   法な訴因であるといえる。

二 以上より、裁判所は本問における訴因変更請求を許すべきであ
 る。
                          以 上