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一 本問において、裁判所は検察官による訴因変更請求を許すべき
か。
1(1)そもそも、本問で訴因変更が必要か。不要であれば、許す
べきではないと思われることから問題となる。
(2) 思うに、当事者主義を採る現行法(256条6項、298条
1項、312条1項)の下では、審判対象は検察官の主張する具
体的犯罪事実である訴因である。
そして、訴因の機能は@裁判所に審判対象を明示するのみ
ならず、A被告人の防御の範囲を明示することにある。
とすれば、被告人の防御に一般的・抽象的に見て不利益を
与えるほどの事実の食い違いがある場合に訴因変更が必要と
なると解する。
(3) 本問では、これまで甲は3月18日ころ、A方での覚せい剤使
用を争えばよかったところ、3月上旬ころから20日までの間、
東京都内又はその周辺における使用行為を争わねばならず、
防御に一般的・抽象的にみて不利益を与えるといえる。
よって、訴因変更が必要である。
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2(1)としても、訴因変更は「公訴事実の同一性」を害しない限
りで認められる(312条1項)。
では、本問で「公訴事実の同一性」はみとめられるか、
「公訴事実の同一性」の意義が問題となる。
(2) 「公訴事実の同一性」につき争いあるも、基本的事実関係
が同一であることをいい、判断基準として@事実の共通性、
A事実の非両立性によるべきである。
(3) これを本問についてみると、@旧訴因は3月18日ころ、A方
での覚せい剤使用であるのに対し、新訴因は3月上旬ころから
20日までの間であり、事実は概ね共通といえる。
また、A検察官は最終一回の覚せい剤使用行為を起訴して
いると考えられることから、非両立性も認められる。
よって、基本的事実関係が同一であるといえ、「公訴事実
の同一性」が認められる。
とすれば、裁判所は訴因変更請求を許すべきとも思える。
3(1)しかし、変更後の訴因は「3月上旬ころから同月20日までの
間」、「東京都内又はその周辺」というような幅のある記載
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がなされている。
かかる記載は訴因のできる限りの特定を要求している256条
3項に反する不適法な訴因ではないか。仮に不適法な訴因であ
るとすれば、裁判所は不適法な訴因への変更を許すべきでは
ないように思われることから問題となる。
(2) 思うに、訴因の機能は前述のように@裁判所に対する審判
対象の明示、A被告人に対する防御範囲の明示にある。
とすれば、これらの機能を果たすためには、訴因はできる
だけ厳格に特定されるのが望ましいといえよう。
しかし、あまりに厳格な訴因の特定を要求すると、捜査の
長期化につながり、また、自白強要のおそれもある。
そこで、訴因を特定するのが困難な特殊事情がある場合に
は、前述の訴因の機能を害しなければある程度幅のある訴因
も適法であると解する。
(3) 本問のような覚せい剤自己使用剤については、被害者なき
犯罪であり犯罪の密行性が強いことから、訴因の特定が困難
な特殊事情があるといえる。
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そして、検察官が最終一回の使用行為を起訴したと釈明
(規則208条)することで、@裁判所に対する審判範囲の明示
として十分であり、また、A被告人の防御範囲の明示として
も十分である。
よって、本問では訴因が十分特定していると認められ、適
法な訴因であるといえる。
二 以上より、裁判所は本問における訴因変更請求を許すべきであ
る。
以 上 |