criminal2.gif (4392 バイト)
 

第1問

 詐欺事件で捜査中の警察官は「磁気テープ、光磁気ディスク、フロッピーディスク、パソコン一式その他本件に関係する一切の物」を差し押さえるべき物とする捜索差押許可状を請求しその発布を得た。警察官は、この令状に基づいて、捜索差押の現場で、その内容を確認することなく、フロッピーディスク100枚を差押さえた。
 以上の手続に含まれる問題点について論ぜよ。

 

<1頁目>

一1 まず、本問令状には、差し押さえるべき物として「その他本
  件に関係する一切の物」との記載がなされている。そこで、か
  かる記載が、物の特定性(219条、憲法35条1項)の要請
  をみたすのか。
 2 思うに、そもそも差し押さえるべき物の特定性が要求された
  趣旨は、捜査機関の権限濫用によって国民のプライバシーや財
  産権が侵害されるのを防止すべく、一般令状を禁止する点にあ
  る。かかる趣旨からすれば、包括的な記載は許されないとも考
  えうる。
   しかし、捜索は捜査の初期段階で行われることも多い。その
  ため、あまり厳格に特定を要求すると、捜査機関に困難を強い
  ることになるし、また、取調中心の捜査を助長するおそれもあ
  る。
   そこで、両者の調和から、できるだけ具体的な物件を例示し
  た上で、これに準ずる物を指すことが明らかな場合は、ある程
  度包括的な記載であっても、物の特定性の要請をみたすものと
  考える。
 3 本問についてみると、磁気テープ・光磁気ディスク・フロッ
  ピーディスク等の情報媒体が具体的に例示されており、これら
  に準ずる情報媒体を指すことが明らかといえる。
   よって、本問令状のような記載であっても、物の特定性の要
  請をみたす。

<2頁目>

二 次に、そもそもフロッピーディスク等のような磁気情報媒体が
 差押の対象たる「証拠物」(222条1項、99条)にあたるの
 かが問題となるも、肯定すべきである。
  なぜなら、たしかに磁気情報それ自体は有体物とはいえないが
 媒体それ自体は有体物であり「証拠物」に含まれるからである。

三1 しかし、さらに本問では、警察官は、内容を確認することな
  く、フロッピーディスク100枚を差し押さえている。そこで
  かかる包括的差押の適法性が次に問題となる。
 2 この点、捜査機関の権限濫用を防ぐべく一般令状を禁止した
  法の趣旨からすれば、被疑事実と関連のある物のみを差し押さ
  えることができるのが原則である。
   しかし、フロッピーディスクにおいては、磁気情報それ自体
  は不可視である。
   そのため、アウトプット(222条1項・111条「必要な
  処分」)などによって逐一内容を確認していたのでは、時間が
  かかる。
   また、電磁的記録は消去が容易であるため、証拠隠滅のおそ
  れもある。
   そこで、かかるフロッピーディスクの特殊性から、例外的に
  @差押の対象とされたフロッピーディスクの中に被疑事実に関
  連する情報が記録されている蓋然性があり、A実際に関連情報
  が記録されているかを確認していたのでは罪証隠滅のおそれが

<3頁目>

  ある場合には、フロッピーディスクの包括的差押も適法となる
  と考える。
 3 これを本問についてみるに、@本問の詐欺事件がたとえば物
  品の販売による詐欺事件等であれば、顧客リストや販売リスト
  をフロッピーディスクで管理していることは十分考えられ、関
  連情報が記録されている蓋然性を認めうる。
   また、A本問ではフロッピーディスクが100枚もあり、そ
  の内容確認には莫大な時間を要する。そのため、すきをみて、
  被処分者が記録されている情報を瞬時に消去しうるプログラム
  を入手しているような場合には、罪証隠滅のおそれがあるとい
  える。
   よって、かかる@Aをみたす場合には、フロッピーディスク
  100枚の包括的差押も適法となる。
                           以上

 

※ これは以前からヤマだヤマだと言われていた問題ですね。もっ
 とも、問題文に具体的な事情があまり挙がっていないので、どの
 ようにあてはめをやればいいのか少し困りました。