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 Xが麻薬購入目的でYから金銭を借りた場合、動機の不法で契約は無効です。とすると、XはYにお金を返さないといけないですよね。
 でも、よく考えてみると、契約をそのまま有効としても、Xは契約に基づいてYにお金を返さないといけないんですから、結局、無効としても有効としても、結論が同じになりませんか。(p.89)

 なるほど。これは、後のほうで出てくる議論とクロスする部分ですので、わかりにくいですね。

 公序良俗違反として無効になった場合は、708条の不法原因給付といって、もはやお金の返還請求はできないんです。この点で、公序良俗に反するかどうかを論じる実益があるわけです。

 これが公序良俗違反ではなく錯誤無効であれば、たしかに無効としても有効としても返還請求ができることになります。ただ、この場合でも、有効とすると返済期限までは「返せ」とは言えないですよね。これに対し、無効と考えれば、返済期限に関係なく即座に「返せ」と言うことができます。

    

 94条2項にいう「第三者」の要件として、新たな・独立の・法律上の利害関係を有することとありますが、独立の具体例がわかりません。(p.89)

 典型例は、金の取り立て役です。

 A−(94)→B→C

 @Aが金銭債権を持っているとしましょう。AAは、この債権を通謀虚偽表示でBに譲渡しました。(あとで習いますが、債権の売買もできるんです)Bその後、Bは、その金の取り立てをCに依頼し、債権もCに譲渡した。

 さて、この場合のCは、94条2項の「第三者」でしょうか? この場合、Cは、単なる金の取り立て役にすぎませんね。取り立てた金は、Bに返さないといけません。このようなCには、独立の利害関係がないのです。

 

 「要素」の錯誤の意味がわかりません。

 たとえば、ブランド品のバッグと誤信して、ニセモノのバッグを買ってしまったとしましょう。(動機の錯誤は、クリアしたものとします。)

 まず、「意思表示の内容の主要な部分」とは、表意者が重要視している点、という意味です。本事例では、ブランド品であることは、表意者が重要視している点であると考えられますね。

 そして、「この点について錯誤がなければ、@表意者は意思表示をしなかったであろうし、かつ、A意思表示をしないことが一般取引の通念に照らして至当と認められる」とは、@表意者の立場、A一般の人の立場に立ってみて、その勘違いさえなければ意思表示なんてしなかっただろうよ、ということです。本事例では、ニセモノだとわかっていれば、表意者本人は「買う」とは言わないだろうし、また一般の人でも「買う」とは言わないだろうと思われます。よって、要素の錯誤ということになるんですね。 

 

 「権利保護要件としての登記」という意味が分かりません。(p.94)

 ああ、これ、急に出てきますもんね。

 94条2項や96条3項などの「第三者」として保護を受けるためには、登記まで備えている必要がある、という考え方があるんです。登記がこのような意味で用いられる場合に、「権利保護要件としての登記」という表現をします。

 しかし判例は、虚偽表示をする奴や詐欺される奴は帰責性が大きいこととの均衡上、権利保護要件としての登記不要説に立っています。(なお、541条では必要説に立ちます)

 

 詐欺取消後の第三者を94条2項類推適用で保護するという説に対しては、「取り消さずに放置しておく方が、すぐに取り消す者よりも保護されることになって不合理である」という批判がなされていますが、これはどういう意味ですか。(p.121)

 うーん・・・。おそらく、次のような意味だと思います。

 つまり、94条2項類推適用説に立つと、取消後の第三者は94条2項類推で、取消前の第三者は96条3項で保護されることになりますよね。すなわち、@取り消さずに放置した場合=取消前→96条3項、Aすぐに取り消した場合=取消後→94条2項類推という処理になるわけです。

 さて、ここで、96条3項は善意無過失が必要だが、94条2項は単なる善意で足りるという学説に立ってみましょう。すると、@取り消さずに放置した者は善意無過失の第三者に負けるわけですが、Aすぐに取り消した者は単なる善意の第三者にも負けてしまいます。すなわち、@取り消さずに放置していた方がトクしちゃうわけです。

 もっとも、判例・通説は、96条3項も94条2項も、単なる善意で足りるとしているので、そう考えた場合には、この批判は全くピントはずれということになります。

 

 詐欺と第三者の処理について、「取消前・取消後」で区別する立場のほかに、それ以前の「登記除去可能時前・登記除去可能時後」で区別する立場があるとされています。でも、そもそも、取消よりも前に、登記を除去することなんてできるんですか。

 なるほど。この書き方だと誤解を招きやすいですよね。

 これ、「登記除去可能時」というのは、「取り消した上で登記を取り除くことができた時点」という意味なんです。だから、「取消可能時」と考えた方がわかりやすいですね。もちろん、取消よりも前に登記を除去することはできません。

 

 復帰的物権変動説の、「取消の遡及効は法的な擬制にすぎない」ということの意味がよくわかりません。

 たしかに、これをさらにわかりやすく説明しろと言われると、ちょっとつまってしまいますね・・・。

 たとえば、土地を売った後に、その契約を取り消せば、土地は再び自分のものとなりますよね。遡及効は、このような現象を法的・理論的に説明するため技術にすぎない、というほどの意味だと思います。

 

 「無効主張できない」などという文章をよく見かけますが、そもそも無効というのはそういった状態を表す言葉なのだから、誰々から主張できる、というのはおかしいのではないですか。(p.125)

 これはおもしろい質問ですね。

 たしかに、無効というのは、誰の主張も待たずに、当然かつ絶対的に効力がないことをいいます。取消のような意思表示は不要なんですね。

 ただ、実際に裁判で争う場面を考えてみてください。仮に、当該契約が無効であるならば、それをきちんと裁判官に示さないとダメですよね。何も言わず黙ってたら、認めてもらえません。「あれは錯誤により無効なんだ」と言うことで、はじめて訴訟のまな板に乗っかるんですね。その意味で、無効主張ということを観念するんです。

 

 契約の取消がなされた場合、無能力者の返還義務は現存利益に制限されます(121但)。でも、生活費にあてたら返さないといけないのに、ギャンブルですったら返さなくてもよい、というのは、どうしても納得がいきません。(p.129)

 なるほど。一般の感情からすれば、変ですよね。

 でも、生活費にあてたってことは、その分のういたお金があるはずでしょう。だから、それを返還することは可能です。

 これに対して、ギャンブルですった場合は、もうそのお金は残ってませんからね。返還しろっていうのは無能力者に少し酷なわけです。無能力者は、取消を躊躇してしまいますね。

 同条但書の趣旨は、まさにこのような躊躇なく取消を出来るようにする点にあるのです。