国際公務員を目指す人に

 国際公務員と一口に言っても、いろいろな種類がある。

 第一に、国連ないしはその機関で働く公務員である。

 第二に、わが国の在外公館で働く公務員である。

 第三に、JICA、JETROなどの政府関係機関で働く職員である。

 

1 国連で働く公務員

 国連職員は国連やその下部組織、専門機関などに勤務し、ニューヨークやジュネーヴなどの本部の他、世界中の開発途上国で活躍しており、専門職と一般職に分けられる。

 しかし、日本人から見た場合、別の観点から2種類に分けた方がよい。

 第一は、直接国連に応募して国連職員になった者である。このコースを希望する場合には、外務省国際職員人事センターに連絡し、情報を得ればよい。アドレスは次のとおりである。

 http://www.mofa-irc.go.jp/

 だが、この道は、普通の日本人にはかなり厳しい道であまりお勧めできない。すなわち、国連職員として活躍するには、少なくとも博士号を一つは持ち(二つ以上有る方が好ましい)、言葉を二つ以上母国語並みに操れ(これも当然三ヶ国語以上であることが好ましい)、自分が有能であることをたえず積極的にアッピールするような、能動型の性格が必要である。

 第二の道は、日本政府から出向の形で国連に出向くことである。この場合、能力的には普通の日本人以上の特別なものはいらない。もちろん、英語が日本語並みに扱えるのは当然であるが、特に大学院出身である必要も、博士号の必要もない。日本国内で係長の地位にあれば、国連でも当然に係長級の地位につけることが、課長補佐の地位にあれば課長補佐級の地位に、課長の地位にあれば課長級の地位に、それぞれつけることが期待できる。それ以上の地位に昇進する場合には、当然それなりの高い能力が要求されるが、その場合でも、日本国あげての支援が期待できるから、自力だけで昇進するのに比べれば、容易に昇進が可能である。

 この場合、諸君としては、国家T種またはU種で各省庁にまず採用され、採用後、できるだけ早い機会に人事課に国連への出向希望があることを伝えておけばよい。

 よく知られているとおり、わが国は国連費用に関し、アメリカについて第二の大口拠出国であるにもかかわらず、日本人の国連職員の比率はきわめて低いため、国として日本人国連職員の増加を促進するという政策をとっている。そのため、外務省では、日本人にふさわしい国連ポストの空きをキャッチすると、ただちに各省庁にその情報を流し、応募を促している。したがって、本当に強い希望を持ち、それを支えるだけの英語力さえあれば、確実に国連に出向できるのである。

 

外務公務員試験

(1) 外務公務員及びその他の国際公務員

 外務公務員は、外務省本省の各部局及び在外公館の職員として勤務する国家公務員である。本省には大臣官房の外、経済、条約など機能別の局(機能局)及びアジア、北米など地域別の局(地域局)からなる10局3部が設けられており、また、世界各地に合計187の在外公館(大使館、総領事館、政府代表部)が設置されて、本省の出先として活動している。

 外務省職員は、約40年の在職期間中、本省勤務と在外公館勤務を数年おきに繰り返すのが通例であり、国際政治、国際経済、経済協力、文化交流、在外邦人の保護等、広範な対外関係において交渉、調査等の業務に従事している。

 ただし、ここで注意しておく必要があるのは、在外公館でこうした活動を行っている者は、必ずしも外務省に直接採用された者ばかりではない、ということである。すなわち、各省庁に採用された者が、外務省に出向するという形で、在外公館職員として活動している場合は非常に多い。個別分野の外交はむしろ各省庁からの出向者によって行われていると考えた方が正しい。

 したがって、外交全般ではなく、たとえば経済外交など特定の分野の外交のみに関心を持つ者は、外務省を目指すより、そうした業務を行う省庁に採用された上で在外勤務を希望する方がよい。

 また、在外公館だけが公務員ないしそれに準ずる者として海外に在勤する唯一の道ではない。国際協力事業団、国際交流基金、日本貿易振興会、日本輸出入銀行など、国際的な業務を担当する政府関係機関もまた、海外に多くの事務所を持ち、多くの職員が海外で勤務している。

 国連その他の国際機関に勤務することも、また国際公務員として活躍する場である。国際機関職員として採用されるには、国内又は海外の大学院に進んで修士又は博士の学位を取得しておくことが採用及びその後の昇進にあたって有利である。

英語、フランス語など、国連公用語の高度の読解、会話、作文の能力を有していることが不可欠であるから、海外に留学してこれらの能力を磨いておく必要が高い。

 国際機関職員を目指す者に対しては、外務省国際社会協力部に設けられた国際機関人事センターが採用試験に関する情報の提供、斡旋等にあたっている。

 なお、国際機関には、国内関係省庁から派遣されるという道もあるので、特定の業務に関心がある場合には、そうした業務を行う省庁に採用された上で国際機関勤務を希望する方がよい。

(2) 国家T種から採用になる外務省

 以前は、外務公務員試験には、外務公務員採用T種試験と外務省専門職員試験とがあった。しかし、平成11年2月26日、外務省は、平成13年度より、外務T種試験を廃止し、国家公務員採用I種試験の主として既存の事務系の区分、即ち法律、経済、行政区分からI種職員を採用する

 次表は廃止前4年間の外務T種試験の結果及び13年度以降の国家T種職員の採用状況である。基本的に採用数に変化のないことが判る。

試験年度 9年 10年 11年 12年 13年 14年
受験申込者数
1,112 938 861 868    
325 271 272 283    
全科目受験者数 522 415 404 398    
107 67 84 97    
第次試験合格者数 62 60 70 70    
10 8 7 17    
最終合格者数 21 21 21 21 20 21
2 3 2 4 3 3

(各項目下段は女性内数)

(3)外務専門職採用試験

 専門職とは、語学や地域、更には各分野の専門家の確保を目的とする職員採用試験である。外務省では、約40の外国語の語学専門家を養成しており、また、多様化した国際情勢に応えるため、多くの地域別・分野別の専門家の養成に力を入れている。

 外務省専門職員採用試験に合格した職員は、現行制度下では1年間の本省勤務を経て2年目から語学習得のために2〜3年間の在外研修に出る。その後は、概ね3〜5年ごとに本省勤務と在外公館勤務を繰り返し、語学専門家として、また、右語学が使用されている国や地域の社会、文化、歴史等に精通した国・地域別の専門家として、或いは、経済、経済協力、条約等の分野別の専門家として活躍することが期待されている。

 受験申込書及び試験案内は、例年4月1日から交付を開始する。受験申込書の提出は、郵送に限る。受付期間は平成15年度の場合4月14日から30日までである。申込先は〒105-8519 東京都港区芝公園2丁目11番1号
外務省人事課採用班・電話 (03)3580-3311(大代表)内線2131である。

 外務省専門職員採用試験は、例年第1次試験を7月頃に、第2次試験を8月頃に実施している。

 受験資格としては受験をする年の4月1日における年齢が、20歳以上29歳未満の者であればよく、学歴は問わない。また、受験をする年の4月1日における年齢が20歳未満の者で、受験をする翌年3月までに短期大学又は高等専門学校を卒業する見込みの者及び人事院がそれと同等の資格があると認める者も受験が認められる。大学は当然これにあたる。

 試験は、大学卒業程度の学力を基準とし、知識のみならず理解力、判断力、表現能力並びに人物について、外務公務員としての適格性を判断する。

 試験科目は平成15年度の場合、次のとおりである。

第 1 次 試 験
試  験  日 試  験  科  目
第1日 6月28日(土) 憲法 国際法 経済学
第2日 6月29日(日) 一般教養 時事論文 外国語和訳
和文外国語訳
(場所の詳細は受験票に記載して通知する。)
(注)
1. 一般教養は多枝選択式、その他は記述式で行う。
2. 一般教養の試験において一定の合格点に達しない者は、他の科目の成績のいかんにかかわらず不合格となる。
3. 受験外国語は、英語・フランス語・ドイツ語・ロシア語・スペイン語・ポルトガル語・イタリア語・オランダ語・アラビア語・ペルシャ語・ウルドウ語・ヒンディー語・ミャンマー語・タイ語・ヴィエトナム語・インドネシア語・中国語・朝鮮語のうちから1カ国語を選択できる。(志望研修語との関連性はない。)

 参考として、近年における記述式試験問題を以下に示す。

13年度

憲法(3問のうち2問選択)

  1. 土地利用に対する規制のあり方をめぐって生ずる憲法上の問題点について、具体的事例をあげながら検討しなさい。
  2. 国会法と議院規則との関係について、その所管事項及び効力関係の問題を中心に論じなさい。
  3. 政党の日本国憲法における位置付け、機能及び問題点について論じなさい。

国際法(3問のうち2問選択)

  1. 同一の事項に関する一般的性格をもつ多数国間条約と特別条約の関係について、具体的な例を一つとりあげて、論じなさい。
  2. 国際人権規約上の義務違反を国家責任法の観点から論じなさい。
  3. コソボ問題を原因として行われた1999年のNATO軍によるユーゴスラヴィアへの空爆を、国際法の観点から論じなさい。

経済学(3問のうち2問選択)

  1. R. コースは、「診療所が菓子製造所の騒音の影響を受けて、医師が診療を続行できない」という例題を用いて、いわゆる「コースの定理」を導いた。
    (1) この例題を使って「コースの定理」を解説しなさい。
    (2) 「コースの定理」成立のための要件を吟味し、市場の失敗と政府の役割を論じなさい。
  2. 「流動性のわな」(Liquidity Trap)とはどのような状況を指すか。またこの状況下で、なぜ金融政策が無効になると考えられるか。
  3. 自国が固定為替相場を採用しているとき、以下の設問に答えなさい。
    (1) 自国は原油輸出国とします。初期の均衡が完全雇用均衡であり、外生的ショックで原油価格の下落が起こったとき、自国通貨のドルに対する為替レート切下げによる均衡調整を述べなさい。
    (2) 政府はしばしば自国通貨切下げを先延ばしにするが、人々が通貨切下げを予想するとき、この予想は自己実現的な予想であると言われる。この理由を簡単に述べなさい。

時事論文

 現在進行しているグローバリゼーションが国際関係にいかなる影響を与えていると考えるか述べなさい。

14年度

憲法(3問のうち2問選択)

  1. 放送の自由と出版の自由との異同について論じなさい。
  2. いわゆるクローン技術規制法は、人クローン胚やヒト動物交雑胚等を人又は動物の胎内に移植することを禁止し、これに違反した者を処罰することを定めている(10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金)。ここに含まれる憲法上の論点について検討しなさい。
  3. 次の2つの仕組みについて、憲法上の論点を対比しつつ検討しなさい。
    (1) 公正取引委員会等の行政機関が認定した事実は、実質上、司法裁判所を拘束するようにすること
    (2) 職業裁判官以外の一般国民が、刑事事件の事実認定を行ったり、訴訟事件の審理に参加したりるすこと

国際法(3問のうち2問選択)

  1. 国内における条約上の義務の履行について論じなさい。
  2. 個人の国際犯罪の処罰について論じなさい。
  3. 国際法規の定立を例にあげて、近代国際法と現代国際法の構造の違いを論じなさい。

経済学(3問のうち2問選択)

  1. 財には私的財のほかに公共財がある。横軸に数量、縦軸に価格という標準的なマーシャルの図表を用い、部分均衡市場が成り立つ範囲(つまり、「他の事情を一定とする」)で以下の問に解答しなさい。
    (1) 南瓜(かぼちゃ)は果実と種子をともに食べることができる。いま供給者が南瓜の果実と種子を切り分けて供給するとする。南瓜の果実と種子の需要曲線をそれぞれ同一図面に描き、南瓜全体の市場需要曲線を描きなさい。
    (2) A氏とB氏の二人しかいない社会で、A氏は大変富裕であり、B氏は大変貧しいとする。いま公共財が一つ供給されるとき、この社会の公共財にかんする需要曲線(集計的限界評価曲線)を描きなさい。
    (3) 公共財が市場供給された場合の需給均衡は、私的財の市場需給均衡とどこが異なるかを簡潔に述べなさい。なお、供給曲線は両市場ともに水平線であるとする。
  2. ハイパワード・マネーの供給は「信用創造」を通じてその一定倍のマネー・サプライをもたらすが、このメカニズムに関するつぎの設問(イ)、(ロ)に答えよ。
    (イ) 一定額のハイパワード・マネーの供給に始まる「信用創造」のプロセスを説明せよ。
    (ロ) 銀行の預金準備率を10%、非金融民間部門の保有する現金対預金の比率を20%とした場合、100億円のハイパワード・マネーの増加は「信用創造」のプロセスを通じてマネー・サプライをどれだけ増加させるか。
  3. 「関税と数量割当の同値定理」とはどのようなものか。また「小国の仮定」のもとでこの同値定理の成立を説明せよ。

時事論文

 2001年9月11日に発生した米国での同時多発テロはその後の国際関係にいかなる影響を与えたと考えるか述べよ。

 

 合格発表は、平成15年の場合、8月1日の予定で、8月9日だった14年度より1週間以上早まっている。合格者名を外務省及び外務省大阪分室内に掲示し、合格者本人に直接通知する。

 第二次試験は、平成15年は8月11日から22日までの間実施される。次の試験が行われる。

第2次試験
口述試験  外国語会話
人物試験  個別面接
身体検査  胸部レントゲン撮影などを含む一般的な身体検査

 外国語会話は、第1次試験で受験した外国語である。

 最終合格は、平成15年の場合、9月5日の予定で、これは14年と変わっていない。この場合も、合格者名を外務省及び外務省大阪分室内に掲示し、第2次試験受験者全員に合格又は不合格の旨を通知する。

 この試験は国家公務員試験と異なり、合格者全員が試験実施の翌年4月に外務事務官として外務省に採用される。

 なお、14年度までの受験状況を紹介すると、次の通りである。

試験年度 10年 11年 12年 13年 14年
受験申込者数 1,447 1,493 1,513 1,205 977
714 771 816 676 550
全科目受験者数 738 740 778 679 540
376 400 417 373 297
第1次試験合格者数 130 140 106 104 116
65 71 60 62 64
最終合格者数 58 60 42 41 41
29 28 21 20 21

 この試験に関する詳しい情報は次のホームページを参照。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/annai/saiyo/gaikokan/index.html

 

(4)在外公館派遣員制度について


 外務省では、その職員定員の不足を補う手段として、在外公館派遣員という制度をもっている。これは、外務省の外郭団体である社団法人国際交流サービス協会の職員という形で採用し、実際には在外公館で正規の職員と同様に活動してもらうという制度である。

 在外公館派遣員の募集については、社団法人国際交流サービス協会が年間2回(前期:5月上旬、後期:10月上旬)の募集を実施しているので、専門職試験に落ちるか、あるいは自信がないという人で、どうしても在外公館で働きたい、と考えている人にとっては考慮の余地のある制度である。

 募集についての詳しい内容及び在外派遣員制度についての詳細は、社団法人国際交流サービス協会ホームページを参照。

http://www.ihcsa.or.jp/hakenin/

 

3 政府関係機関で働く職員

(1) JICA 国際協力事業団

 国際協力事業団は、平成15年10月1日に「独立行政法人国際協力機構」として新たなスタートを迎えることとなっているので、今後採用される職員は、独立行政法人国際協力機構職員になる。

 開発途上国で、わが国開発途上国援助の先兵となって働くJICA職員は、誠実に日本や社会のために貢献したいと願っている若者の間では大変な人気で、最難関試験の一つとなっている。

(採用予定人員)………総合職 40名程度
事業部門、管理部門、在外事務所および国内機関などで案件の計画・実施管理・評価等を総合的に担当する職員として活躍することが期待されています。なお、勤務地や職域を限定した採用は実施しません。

詳しくは、次のホームページにアクセスしてほしい。

http://www.jica.go.jp/recruit/shokuin/bosyu/bosyu.html

 

(2) JETRO 日本貿易振興会

 JETROは、海外企業に対し日本への進出を促す一方、国内企業に海外でのビジネスチャンスを広げる機会を提供するなど、産業国日本の先兵といえる存在で、やはり15年10月1日に独立行政法人になることが予定されている。国内36箇所、海外60ヵ国に80事務所を構える

平成16年3月迄に大学院・大学・短期大学を卒業ないし、卒業見込みの方で、平成16年4月2日現在で大学院修了の場合は29歳以下、大学卒業の場合は26歳以下、短期大学卒業の場合は23歳以下の方。出身学部・学科については特に指定なし。

採用人数は毎年度20名内外である。

詳しくは、つぎのホームページにアクセスしてほしい。

http://www.jetro.go.jp/ge/j/saiyou/recruit_s/recruit_s.html