第一部 法の基本概念
甲斐素直
第1章 規範としての法
一 科学
(一) 自然科学の対象
自然の中に「現にある〔SEIN〕」現象を支配する法則=「存在の法則」
(二) 社会科学の対象
社会の中で、人が「人は〜すべき(またはすべきではない)
〔SOLLEN〕=当為」とすることを支配する法則=「当為の法則」
○法学は、社会科学の一分野である。
二 当為の法則の特徴
(一) 人間の行動だけが対象となる
※潮の干満の表を、国会が法律として議決しても、それは法律ではない。
(二) 必ず例外がある ※存在の法則では例外はない
すなわち、「〜べき」だということをわざわざ言う必要があるのは、それを守らない、ないしは守れない場合が当然予想される場合に限る。例えば学校では、遅刻する者があるので、「決められた時間に登校すべきだ」という規則を作る必要が生まれる。
→人の行動であっても、特に強制しなくとも誰もが守る場合には、当為は必要がない。
例:目が悪い人は眼鏡等を使わねばならない、という定めは必要ない。
三 「当為の法則」=「規範」
(一) 規範を支えるもの=価値観
価値観:人が、あることに対して
@事実上望ましいこととして欲する(あるいは是認、称賛、尊重等をされるべきこととして欲する)
A一般的に承認され、尊重されるべきだとみなすもの
○価値観には理屈がない。ある価値観の不当性を理屈から説得することは不可能
○価値観は、時代とともに変化する。
(二)規範の分類
生活規範:規範のうちで、人が生活を営む上で従う必要があるもの
1 個人規範:規範のうち、特定の個人を対象とするもの
例:人が、自分の健康維持のために、自分に課している一定の行動規範
2 社会規範:規範のうち、社会を対象とするもの
社会規範の分類(価値観を基準として)
(1) 「宗教規範」:特定の宗教の教えを基本にして作られた規範
例:キリスト教徒は、日曜日には労働すべきではない。
(2) 「倫理規範」:一定の倫理観、すなわち社会道徳を基本してに作られた規範
例:親には孝行をすべきだ。老人は敬うべきだ。
(3) 「習俗規範」:ある社会の風習を基本にして作られた規範
例:人が婚姻すれば結婚式を、死亡すれば葬式をすべきだ。
(4) 「法規範」
秩序ある状態に価値を見いだす
→「社会の秩序」を支えることを目的に作られた規範
○ 社会秩序=社会的な予測可能性
秩序があることによって、我々は、人の行動を予測し、それに基づいて自分の行動を調整することが可能となる。
○ 法による社会秩序の維持
→制度を形成維持することにより、秩序を支える。
(三) 規範の「内面性」と「外面性」
内面性:規範の規律の対象が心の内面の動きであるもの:宗教規範、倫理規範
外面性:規範の規律の対象が外部に現れた行動とするもの:習俗規範、法規範
外面性のある規範は、人の行為を支配するので、「行為規範」という。
以下の記述は、制度論(第二部第 四章)のところで詳しく説明するので、現在のところ理解する必要はない。しかし、外面性とはその様な議論と繋がりのある概念だ、ということだけはここで理解しておいて欲しい。
外面性ある社会規範は、制度の形成維持を、その主要な機能としている。
「社会生活において追求される各種の目的に応じて、その実現の役に立つところの行為の型が、社会規範によって提示され、これにより諸々の行為を合目的的に連結する社会的手段の機構が設定されるものを、社会制度もしくは単に制度という。」(恒藤恭『法の本質』岩波書店刊、181頁より引用)