将来の志望と勉強の方法
甲斐素直
一 司法試験とロースクール
(一) ロースクールへの進学について
圧倒的に多数の諸君は、司法試験を目指していた。それにあたって、現行の司法試験を目指すのか、それともロースクールに進んで新司法試験を目指すのか、という問題で、迷っている諸君がかなり見られた。これについては、実は迷う必要はない。諸君は現行司法試験で現役合格をするべく、死力を尽くすべきなのである。在学中に合格することを目指して頑張ったが、わずかに力及ばなかった、というような程度の実力がない限り、ロースクールに現役で入学できる見込みはないからである。
すなわち、ロースクールの入試は、少なくとも第
1回を見る限り、現役学生にとり大変な難関で、どこのロースクールでも、現役学生はほとんど合格していない。各大学を比較したデータは、4月15日付の読売新聞朝刊3面に詳しく載っているので、それを参照して欲しい。また、日大ロースクールにおいては表1のとおりである。表
1 日大ロースクールの生年別分類
生年 |
既修者 |
未修者 |
計 |
1960年以前 |
8 |
4 |
12 |
1961〜70年 |
14 |
7 |
21 |
1971〜75年 |
14 |
13 |
27 |
1976〜80年 |
18 |
29 |
47 |
1981年 |
3 |
6 |
9 |
1982年 |
3 |
0 |
3 |
合計 |
60 |
62 |
122 |
ここに明らかなとおり、年齢層はきわめて分散しており、
81年生まれの学生を加えても、現役は1割にも達しないのである。ロースクール進学の厳しさが判ると思う。既修者は無理でも、未修者なら何とかなる、というような状態ではないのである。ついでに、日大ロースクールにおける学校別一覧のうち、
3名以上の合格者を出した上位7校の内訳を表2に示す。表
2 16年度出身校別一覧
学校名 |
既修者 |
未修者 |
計 |
早稲田 |
11 |
5 |
16 |
慶応 |
8 |
8 |
16 |
中央 |
11 |
5 |
16 |
日本 |
6 |
7 |
13 |
明治 |
7 |
3 |
10 |
東京 |
1 |
4 |
5 |
法政 |
2 |
1 |
3 |
上智 |
2 |
1 |
3 |
日大生であれば、日大ロースクールにはすんなり進学できると思っていた人もあるかもしれない。しかし、早稲田、慶応や中央などの学生との熾烈な戦いに、勝ち抜かなければ本学出身者といえども進学できないことが判ると思う。
16年度の場合、出身校は実は合計40校に達し、うち、25校は1名のみ、8校は2名の合格である。(二) 現行司法試験について
あくまでも現行司法試験に拘り、ロースクールへの進学を考えない、としている人が目立った。確かに、現行司法試験は
2010年まで存続する。したがって、その間にそれに合格すれば良く、新司法試験を考える必要はない、と思うのも無理はない。しかし、現役合格できなかった場合には、是非ロースクールへの進学を考えるべきである。なぜなら、現行司法試験は、現役合格できなかった場合に、浪人をして受けるにはあまりに危険な試験だからである。確かに試験そのものは存続するが、それは決していまと同じ合格者が、
2010年まで続くという意味ではないのである。現行司法試験と新司法試験での合格者比率をどのようにするかは、まだ正式決定されていないが、一つの試案として法務省から公表されているものを、表3として示した。表
3 司法試験における合格者数予測年度 | 現行試験枠 | 新試験枠 | 合計 |
2006年 | 500人 | 1000人 | 1500人 |
2007年 | 300人 | 1700人 | 2000人 |
2008年 | 250人 | 2150人 | 2400人 |
2009年 | 200人 | 2500人 | 2700人 |
2010年 | 100人 | 2900人 | 3000人 |
ここに明らかなように、年とともに合格者枠は、急速に新司法試験に置き換わっていくのである。しかも、この現行司法試験に残された狭き門に、ロースクールに入れなかった数万人が最後のチャンスを狙って殺到するのであるから、信じられないような過酷な試験になることは間違いない。ロースクールに進学できる能力がある者は、ロースクール進学を絶対に考えるべきなのである。
(三) ロースクール進学の財政問題
資金その他の理由からロースクールに進めない、としている人がかなりいた。しかし、実はロースクールに進む場合には、あまり財政的な問題はないということは知っておいて欲しい。
ロースクールは大学院なので、育英会奨学金も、学部に比べて比較にならないほど充実しているからである。大学院生は社会人なので、親の所得は問題にならない。本人に所得がなければ、奨学金の対象となる。そして、希望すれば、月額
20万円程度まで交付を受けることができる。これは、大卒の初任給を上回る額である。日大ロースクールの本年度の場合、奨学金を希望したものは、全員が交付されている。また、日大ロースクールだと、日大からの進学者は無条件で入学金の
100万円が免除される。さらに、合格者の上位
40%は授業料の200万円も免除される。本年度の場合、その境界線のところに数名の同点者がいたため、40%を超える人数に対して授業料免除が決定された。現行司法試験に現役合格する予定だったが、わずかに及ばなかったためにロースクールに進むというような諸君であれば、間違いなくこの特典が得られるのである。したがって、現役合格を目指しつつ、駄目だった場合には、ロースクールに進学するという心構えで勉強するのが正しい態度なのである。
(四) 司法試験に合格するためには
本学部から司法試験に合格するための第一条件は、法職課程に属していることである。過去
10年くらいの合格者を見ると、その7〜8割が法職課程出身者で占められている。第二の条件は、
1年生の時から司法科研究室に所属し、しっかりと勉強することである。過去10年くらいの合格者で、司法科にまったく属していなかった合格者はほとんどいない。司法科研究室に入室するためには、
4月14〜28日までの間に、3号館3階司法科指導員室まで、写真2枚(3×4cm)を添えて申し込まなければならない。また、ロースクールに進むための準備も大切である。入学前ガイダンスで私が説明したとおり、法学部では「法的思考能力訓練講座」を開講している。この講座の中身は、法科大学院適性試験(
LSAT)対策講座であるので、これに参加すれば、LSATに対しての訓練になる。そして、同時にこの講座によって論理的思考能力を身につけることにより、司法試験における専門科目の勉強にも大いに効果が期待できるのである。なお、この講座と、司法科研究室の各種講座は日程が重複しないように設定してある。二 公務員試験
(一) 公務員試験を志望するための条件
司法試験と公務員試験のどちらを受けようか、と迷っているとしている人がかなりの数に上った。これについては、話は簡単である。公務員試験の方がはるかに条件が厳しいので、その条件を満たしているかどうかを検討すればよい。
第一に、志望動機が大事である。公務員になるには、単に公務員試験に合格するだけでは足りない。さらに各省庁の面接に通らなければならないのである。試験合格者のうち、採用になるのは、平均すれば
40%程度である。実はそこにはかなりの学校格差があり、東大や京大では、10人の合格者に対して6人程度が採用になるのに対して、早稲田や慶応も含めて、私学の場合には10人の合格者に対して1人程度の割合でしか採用されていない。採用の決め手となるのは、公務員という仕事に対する非常に強い熱意である。特段の理由もなく、漠然と公務員を志望している人の場合には、断念することを薦める。詳しくは、学部要覧の公務員試験についての解説を読んで欲しい。第二に、現行司法試験と国家公務員試験を比べた場合には、明らかに国家公務員試験の方が難しい、ということも認識しておいて貰う必要がある。大学卒業者が受験できる国家公務員試験には、T種試験とU種試験の
2種類がある。そのうち易しいのはU種試験であるが、それでさえも、現役合格率は30%に過ぎない。これに対して、現行司法試験の場合には、毎年度25%〜30%程度が現役合格している。したがって、公務員試験の方が易しそうだから、というような志望動機は完全に間違いである。ちなみに受験者に対する合格率は、国Tで
5〜6%、国Uで10%程度で、これ自体は司法試験合格率の2.5〜3%よりも低くなっている。しかし、先に述べたように、公務員試験は合格即採用ではないので、そのことを加味して修正すれば、受験倍率の点からも、司法試験以上の難関であることが判る。では、公務員試験に合格するための基本的能力としてはどのようなものがあるだろうか。次の条件を満たしていることが、最低限度の条件といえる。
@ 新聞を読むのが好きで、これまでも
1日1時間くらいは読んでいる。A 英語は得意である。
B 数学は好きである。
以下、その理由を説明する。公務員試験の一般教養で、絶対に得点する必要あるものは、大きく三つの部分から成り立っている。
第一が、政治・経済・社会事情といわれるもので、現代社会の実態というものに対する広範な知識を持っていれば容易である。しかし、一朝一夕に身に付くものではないので、毎日新聞を熟読する、というような地道な努力が長期間にわたって必要なのである。新聞は、建前的には何新聞でも良い。しかし、本音ベースでいえば、日本経済新聞でなければならない。
第二に、公務員の場合には、英語力が鍵である。
TOEICで500点未満の学生は、採用につながる可能性はゼロといえる。できれば600点以上は欲しい。したがって、英語にまったく自信のない者は、司法試験に賭ける方が無難である。第三に、数的推理とか、資料解釈といった数学的思考が絶対に必要なもののウェイトも高い。
こうした条件を満たしていない場合には、たとえどれほど強く公務員を志望していても、公務員試験は断念し、司法試験を目指すべきである。
なお、法学部の学生諸君には、法務省で勤務することを希望して公務員を目指す諸君が良くいる。しかし、法務省の場合には、司法試験に合格し、検事に採用されたものから任用するので、そういう希望を持つ人は、司法試験を目指すのが正しい。
(二) 公務員試験に合格するには
本学部から、国家公務員試験T種法律職に合格するための第一の条件は、
1年生の時から行政科研究室に所属していることである。過去10年間で、行政科研究室所属者以外から、現役合格者が出た例は、ほとんどない。行政科研究室では、毎年春・秋の
2回、入れ替え試験を実施している。今年の春の入れ替え試験の受験申し込みは、4月21日〜5月11日までの間、3号館1階研究事務課の窓口で行っている。行政科研究室で受け入れるのは、国T法律職を目指す学生だけで、国Uや地方公務員上級職(地上)を目指すだけの学生は受け付けないので注意する必要がある。国Uや地上のみを目指す学生は、行政科研究室が実施している公務員受験講座に参加することが大切である。これは本学学生であれば、誰でも受講できる。申込窓口は、同じく研究事務課である。
なお、先に述べたように、国Uでさえも司法試験と同じ程度の苛烈な試験なので、かなり厳しい勉強が必要である。国Tは難しそうだから国Uという発想は間違っている。国Tを目指す勉強をしていれば、悪く行っても国Uは何とかなるが、国Uを目指して手を抜いた勉強をしていると、結局合格すらできないということになってしまうのである。
また、昔は俗に国U/地上といわれて、両者の難度はほぼ等しいといえた。しかし、地方の時代といわれる今日、地上のレベルは高くなっており、東京をはじめとする主要地方公共団体は、ほぼ国T並みの難度である。現実に、それらの合格者の大半は、国Tの合格者で占められている。したがって、地上を目指すなら、絶対に国T向けの勉強をする必要がある。
なお、国T、国Uの何れの場合にも、現役合格できなかった場合には、ロースクールに進むことを考えなければならない。政府では、ロースクールレベルの高い教養を持つ人材を欲しているからである。君たちの年代の場合には、単純に浪人して、公務員試験の受験を続けても、採用される見込みはないと思われる。
(三) 裁判所事務官について
裁判所事務官試験には、T種とU種の
2種類がある。T種試験は、倍率が
100倍程度に達し、司法試験合格者がばたばた落ちるという難関試験である。しかし、合格しても、司法試験に合格して任官してきた裁判官に奉仕する一生が待っているだけなので、特段の志望理由がある人を除いて、受験は薦めない。U種試験は、試験内容的に、先に述べた国U種試験とほとんど同じである。したがって、国Uを受ける一環として、これを受験するのが普通である。
なお、検察事務官試験というものはない。検察事務官になるには、国Uに合格して、検察庁の面接を受け、採用される必要がある。
三 司法書士
司法書士を考えている人がかなりいた。
この試験で認識しなければならない点は、第一に、これが現在わが国において、もっとも合格倍率の高い試験の一つである、ということである。合格率は過去数年
2.8%内外で、ほとんど司法試験と同率である。したがって、司法試験よりも易しそうだから、等という安易な気持ちで合格できる試験ではないことに注意する必要がある。第二に、この試験は、司法試験とはかなり受験科目がずれる。したがって、同時に両方共を受けることは、きわめて負担が大きいので、ほとんど不可能といえる。どちらかを選ぶ必要がある。
第三に、司法書士で行うことができる仕事は、弁護士資格を有すれば自動的に行うことができる。したがって、司法試験を合格することを目指しつつ、司法書士資格を得ることには、まったく実益がない。
第四に、司法書士は、不動産業界と結びつきを持っているなど、一定の条件を満たしいている場合には非常に素晴らしい職業であるが、そうでない場合には、この資格を持つだけでは、自営業としての生活を成り立たせることは難しいことも認識しておく必要がある。もっとも、この資格を有することで、企業への就職を有利に戦えることは確かである。
この試験に合格するには、これも
1年の時から、司法書士受験講座を受講して、しっかりと勉強する必要がある。これは課外講座として、やはり研究事務課で申し込むこととなる。現時点では、まだ詳細が決まっていないので、希望する人は、3号館研究所事務課の外の掲示板に注意している必要がある。四 行政書士
行政書士を希望する人もかなりいた。この試験は、国そのものではなく、財団法人行政書士試験研究センターが実施している。一定の点数以上をとれば、人数に関係なく合格できる制度であるため、試験問題のレベルと受験者のレベルの相関関係から、例えば平成
14年度は2割程度が合格できたのに対して、15年度は2%台に落ちるなど、合格率は年によってかなり激しく乱高下するが、基本的にはかなり易しい。国Tを目指して1年生から勉強していれば、3年生の時には大体合格している。しかし、公務員になって何年か実務を経験すれば、特に勉強しなくとも合格可能になる試験なので、わざわざ受験しなくとも良い。
公務員試験を受験せずに、これだけを目指す場合には、上記司法書士と同じく、関係する特定の業界と結びつきを持っていない限り、これだけで生活を成り立たせることは難しいので、あまり推薦しない。但し、これも就職戦線で有利に戦うための武器としては意味がある。
行政書士講座についても、研究事務課の掲示板に注意してほしい。
五 弁理士
ロースクールと並んで、近い将来に知的財産権大学院が設立される。したがって、弁理士試験の受験の中心は、今後はそちらに移行することになると思われる。これについては、弁理士研究室が取り扱っているので、研究事務課の掲示を見て、そちらに問い合わせて欲しい。