憲法第4回
甲斐素直
精神的自由権総論
一 精神的自由権の分類
表現の自由の基本概念(国際人権B規約
19条2項)(一) 表現手段=口頭、手書き、印刷、芸術の形態、その他自ら選択する方法
その代表例=狭義の表現の自由(21条1項)
集会の自由
結社の自由
言論・出版の自由
(二) 表現場所=国境との関わりなく、すべての場所
その代表例
集会・デモ行進の自由⇒公道の上で表現する自由
外国人による政治的表現の自由⇒外国で表現する自由
(三) 表現内容=あらゆる種類の情報及び考え
(⇒思想、信条、信仰、意見、知識、事実、感情など個人の精神活動に係る一切のもの=以下、情報と総称する)
その代表例
思想、信条の自由=内心の自由(
19条)信仰の自由 =信教の自由(
20条)研究の自由 =学問の自由(
23条)(四) 表現形態
1 積極的自由
表現の自由 その代表例=学問の自由
@ 情報受領権 →学問的真実の研究の自由 A 情報収集権
教授の自由 B 情報発信権 →研究成果発表の自由
成果刊行の自由
2 消極的自由
@ 情報の受領を拒絶する権利→宗教上の行事参加拒否権(20条2項)表現しない自由 その代表例
A 情報を収集されない権利 →捜索を受けない自由(
38条)B 情報の発信を拒否する権利→思想・信条の表明拒否権(
19条)21条2項) 情報通信の秘密(
思想・信条に関する情報⇒絶対的保障
事実に関する情報 ⇒相対的保障
必要があれば、国は事実に関する情報の開示を要求することができる。例:不利益な供述を強要されない権利(
38条)、通信傍受法(21条2項)
二 精神的自由権の特殊性
(一) 裁判所は、法律の合憲性を審査できる(憲法81条)
どの限度で許されるか?
○ 日本は民主主義国家である。
○ 法律を制定する国会は、国民の直接の選挙によって選ばれた代表者により構成されている。
○ 裁判所の民主的基盤は、国会や内閣に比べると弱い。
⇒民主主義のプロセスが正常に機能している限り、裁判所は、立法の違憲審査に当たっては消極的に、自制した方がよい。(原則))
(二) 二重の基準(dubble standard)
「経済的自由を規制する立法の場合は、民主政の過程が正常に機能している限り、それによって不当な規制を除去ないし是正することが可能であり、それがまた適当でもあるので、裁判所は立法府の裁量を広く認め、無干渉の政策を採ることも許される。これに対して、精神的自由の制限又は政治的に支配的な多数者による少数者の権利の無視もしくは侵害をもたらす立法の場合には、それによって民主政の過程そのものが傷つけられているため、政治過程による適切な改廃を期待することは不可能ないし著しく困難であり、裁判所が積極的に介入して民主政の過程の正常な運営の回復を図らなければ、人権の保障を実現することはできなくなる。」 (芦部信喜『憲法学U』有斐閣、218頁)
@精神活動の自由の規制:厳しい基準によって合憲性を審査する。
A経済活動の自由の規制:立法府の裁量を尊重し緩やかな基準で合憲性を審査する。
(三) 精神的自由権に使用される審査基準
1 厳格な審査基準(strict scrutiny test)
@ 立法目的が正当であること、
A 立法目的を達成するために採用された手段が、立法目的の持っている「やむにやまれぬ利益
compelling interest)」を促進するのに必要不可欠であること、B そのことの挙証義務を立法者に負わせる という基準
○ 前科照会回答事件(最
3小昭和56年4月14日)百選T 44頁参照
2 厳格な合理性基準 strict rationality test(中間審査基準 intermediate standard)
@ 立法目的が重要な国家利益 important government interest に仕えるものであり、
A 目的と手段の間に
「事実上の実質的関連性 substantial relationship in facts」が存在することを要求⇒立法目的が、法によって用意された手段によって合理的に促進されるものであることを、国は事実に基づいて証明しなければならない。合理性基準を基本的に適用しながらも、事実上の実質的関連性の審査に当たって、問題の性質上、立法目的の合理性そのものの合理性に関しても審査できること、及びそれに当たって国家利益に適合するか否かを審査可能である点で、合理性基準よりも司法介入を強く認める点に特徴がある。
○ 猿払事件判決(最大昭和
49年11月6日)百選T 30頁参照「行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益にほかならないというべきである。〈中略〉公務員の政治的中立性を損うおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは、禁止目的との間に合理的な関連性があるものと認められる」
(四) 事前抑制禁止の法理
事後抑制に比べて、事前抑制は、害が大きいので、厳しく制限される
○ 北方ジャーナル事件(最大昭和
「表現行為に対する事前抑制は、新聞、雑誌その他の出版物や放送等の表現物がその自由市場に出る前に抑止してその内容を読者ないし聴視者の側に到達させる途を閉ざし又はその到達を遅らせてその意義を失わせ、公の批判の機会を減少させるものであり、また、事前抑制たることの性質上、予測に基づくものとならざるをえないこと等から事後制裁の場合よりも広汎にわたり易く、濫用の虞があるうえ、実際上の抑止的効果が事後制裁の場合より大きいと考えられるのであつて、表現行為に対する事前抑制は、表現の自由を保障し検閲を禁止する憲法二一条の趣旨に照らし、厳格かつ明確な要件のもとにおいてのみ許容されうるものといわなければならない。」
(五) 明確性の法理
曖昧な法の規定は、国民に萎縮効果
⇒実際に、どのような行動をとったかは問題にならない。
○ 徳島市公安条例事件(最大昭和
50年9月10日)百選第5版182頁参照
(六) より制限的でない他の選びうる基準
厳格な審査基準などの下で、立法目的は適切であるが、立法手段が問題となった場合、それが適切か否かを判断するには、より制限的でない他の選びうる手段
less restirctive alternatives=LRAがあるか否かを検討すればよい(LRA基準と呼ばれる)。