憲法13回  第1部 人権論

                               甲斐素直

第11章 平 等 権

一 法の下の平等の理念

 法=law:法の支配rule of law 〜 法定手続保障due process of law

○ 自然法思想⇒自然法そのもの

○ 実証法思想⇒配分的正義⇒実体的正義

 

(一) 現行憲法の下における実体的正義=憲法の基本理念

 基本原理=個人主義

 派生原理

◎ 自由主義

     形式的平等、機会の平等、機械的平等、

◎ 福祉主義

     実質的平等、条件の平等、結果の平等

   *福祉主義に基づく平等は、14条ではなく、25条で読む考え方もある。

(二) 法の下の平等の意義

  1 平等権か、平等原則か

平等原則=国政の指針を定めた客観的な法原則

平等権 =個人の主観的な公権

  2 平等原則説(通説)

平等権は、常に他者との比較においてのみ成り立つものであり、したがって実体的な権利性を持たない。そこで、平等権はそれ自体としては無内容(あるいは無定型)であり、単一の権利概念としては成り立たないから、憲法14条は端的に平等原則を定めたものと解しておけば足りる。

⇒絶対的平等の否定=相対的平等

⇒関わり合いのある権利・利益に対する規制の不合理さをいっているに過ぎない

  3 平等権説(少数説=この存在を理解しておかないと、通説の意味がわからない)

@ 権利侵害といわなければ司法救済が得られないのではないか?

A 平等権として権利救済が得られるのは、平等原則違反の場合よりも狭い

⇒平等権侵害を主張できるのは列遇されているものだけであり、求める内容は標準的処遇までである。

(三) 相対的平等(平等原則として把握することから導かれる結論)

 ○ 憲法は私人間を拘束しない

⇒配分的正義を問題とする=絶対的な平等を要求するものではない。

”等しいものを等しく、等しからざるものを等しからざるように扱え”

  法の一般性

⇒同一類型に属する人〜生活関係に対して、類型的に同一の指図規律を与える。

 

二 平等権における審査基準

(一) 14条後段例示説

14条後段は、平等原則違反の典型例を示しているに過ぎず、それ以外の場合でも平等原則を侵害していれば、14条違反となる。

 三重の審査基準

@ 精神的自由に関連する平等原則違反の場合には、厳格な審査基準を適用する。

A 経済的自由に関連する平等原則違反の場合には、合理性基準を適用する。

B 両者のいずれにも属さない場合には、厳格な合理性基準を適用する。

 

(二) 141項後段特別意味説=近時支持者を増やしている考え方

  ⇒平等権における二重の基準論

  @ 精神的自由やその他の基本的人権及び、141項後段列挙事項について法が差別しているという主張がなされた場合には、裁判所は、それが不快な差別にあたるとして合憲性の推定を排除した厳格な審査を行うべきこと

  A それ以外の場合でも、裁判所は、個別に、事件ごとに、単なる合理性の基準によらない厳格度を増した合理性の基準を採用すべきこと

(戸松秀典『平等原則と司法審査』325頁より引用。ただし、一部修正)

 

三 判例に見る平等原則

(一) 人〜生活関係に関する類型の設定が問題になる場合

  1  薬局の距離制限=違憲(最大昭和50430日)百選4202

  2  公衆浴場の距離制限=合憲(最大昭和30126日)百選4194

  3  小売市場の距離制限=合憲(最大昭和471122日)百選4200

 

(二) 指図〜規律に関する類型の設定が問題となる場合

  1 尊属差別は合憲だが、尊属殺重罰規定は違憲

(最大昭和4844日)百選462

  2  議員定数差別は合憲だが、一定比率を超えては違憲

衆議院につき、最大昭和51414日百選4326

参議院につき、最大平成 8911日百選4330

  3  法律婚が合憲だから、非嫡出子差別も合憲

最大平成775日百選464