憲法講義 第16回

      甲斐 素直

議院内閣制

 

一 議会制民主主義における議会と政府の関係

(一) 超然内閣制=旧憲法下の内閣

米国の大統領制では、内閣制度そのものがとられていないが、議会から超然としているという点では類似している。

  1 議員と国務大臣の兼任は禁じられる。

  2 国務大臣が議会に出席し、意見を述べることは禁じられる。

  アメリカ制度は、制限君主制における君主の役割を大統領に置き換えたもの

 

(二) 議院内閣制

国民公会制と超然内閣制の中間型

⇒内閣は議会から独立しているが、内閣の存立が議院の信任にかかっている。

 

  1 二元型=現在はフランス第五共和制が代表的

   君主(大統領)→議会 議会解散権

   議会       →大臣 不信任決議

 君主(=大統領)の一身は不可侵であるから、君主に対して政治責任を問うことはできない。そこで、大臣の責任を問うことを通じて間接的に目的を達しようとする。このためには一方で、

@ 君主は関係大臣の同意なしには行動できないという原則(大臣副書の制度⇒ わが憲法74条はその制度の名残)

他方で、

A 君主は議会の支持を受けるものしか大臣に任命し得ず、支持を失った大臣は 罷免するという原則

が存在することが必要である。

 

  2 一元型=日本、イギリス、ドイツなどが代表

 

 

(三) 議会統治制(国民公会)=現在はスイスが代表的

  1 政府は常に議会の指揮命令に従わねばならない。

 

  2 自らの意見と議会の指揮命令が食い違う場合に、政府として総辞職する自由を持たない。

 

二 議院内閣制の本質

  その本質に関する説の対立

(一) 民主主義を重視=内閣の議会に対する連帯責任を通じての、行政に対する民主的コントロールをもって議院内閣制の本質とする(責任本質説)

→総辞職の自由が認められれば、国民公会ではないとする。

 

(二) 権力分立制を重視=議会(立法)と内閣(行政)の権力の対等関係を確保することにその本質があるとする(均衡本質説)

→内閣に議会解散権が認められなければならないとする

 

三 衆議院の解散

(一) 憲法上の関連する規定

  1 7条3号(天皇による解散)→73条各号との比較

   単に形式的解散権の所在を示しているに過ぎない

  2 45条(衆議院議員の任期)

  3 54条(衆議院解散の効果)

  4 69条(不信任決議の際の、内閣の選択権)

   解散権の主体が誰であるかについては言及していない

 

 

(二)学説

  1 衆議院の自律解散権説(69条の場合の内閣の解散権は否定しない)

→根拠規定や比較法上の根拠等の不存在

→多数議員による少数議員の議席剥奪の効果

 

  2 69条限定説

→自由主義=内閣と議会との均衡要求であれば、その限度で十分

→国民主権理念の下、人民投票を禁ずる場合、同一効果を持つ解散の禁止

 

  3 一般解散権の承認説

    (1) 均衡本質説を採る場合

  二元的説明が必要

 ○ 69条⇒自由主義的要求と説明

 ○ いわゆる7条解散
     直接民主制的要求=国政の重要問題について民意を問う手段として解散の承認

(2) 責任本質説を採る場合には、

直接民主制的要求=国政の重要問題について民意を問う手段として解散の承認
とだけ説明することが出来る。