憲法 第19回
甲斐 素直
議院の権能とその行使
一 国民主権原理と二院制(第42条)
(一) 二院制は国民主権の下においてのみ、考えられる。
1 人民主権の下では、議会の決定が国民の意思とずれている場合には、国民自らが活動して、是正することが可能である。
2 国民主権では、国民そのものは抽象的概念で、自ら活動することはない。
⇒議会がより正確に国民の意思を反映するためには、二院が必要となる。
@ 第一院の軽率な行動の抑制
A 民意の忠実な反映→第一院とは異なる選挙方法(第46条)
B 第一院不存在時の代行(参議院の緊急集会)
(二) 第二院の存在形態
1 貴族院型 (イギリス、旧日本)
2 連邦型 (アメリカ)
3 第二次院型(フランス、イタリア、現日本)
(三) 両院相互の関係
1 両院対等の原則(59条1項)
憲法が定めている例外=衆議院の優越が認められる場合
普通の優越
@ 法律案の議決 (59条2項)
強い優越
A 予算案の先議権と議決 (60条)
B 条約の承認 (61条)
C 内閣総理大臣の指名 (67条)
法律で、衆議院の優越を導入することは許されるか?
2 両院同時活動の原則(54条2項本文)
憲法が定めている例外=参議院の緊急集会(54条2項但書)
3 両院独立活動の原則(55条、56条、57条、58条、62条)
憲法が定めている例外=両院協議会(59条3項、60条2項、61条)
弾劾裁判所(64条)
二 議院の自律権
(一) 自主立法権=議院規則制定権(58条2項前段)
会議その他の手続き及び内部の規律に関する規則
1 国会法の性格→旧憲法第51条との相違
国会法は合憲か?
(1) 明治憲法以来の慣行と便宜上の必要に基づいた存在で、合憲とする説
(2) 議院の自主性を害しない限り合憲とする説
(3) 違憲説
2 議院規則の規制する対象範囲
議院規則は、法規命令を含みうるか?
(1) 内部事項についても、国会法と議院規則の競合的所管事項とする説
(2) 内部事項については、議院規則の排他的、専属的所管事項とする説
3 議院規則と国会法の抵触
(1) 法律優位説
(2) 規則優位説→国会法紳士協定説
(二) 自主行政権
1 人事権(58条1項、国会法16条以下)
2 院内警察権(国会法114条以下)
(三) 自主司法権
1 議員の懲罰権(58条2項後段)
懲罰の種類(国会法122条)
@ 公開の議場における戒告 A 公開の議場における陳謝
B 一定期間の登院停止 C 除名(3分の2以上の賛成が必要)
2 資格争訟の裁判権(55条)
当選して議員となった者が、議員の資格を備えているかについて争いがあり、その議院の他の議員から議院に対して裁断が求められた場合に発動される裁判権
⇒当選訴訟との関係
ある候補者を当選人とする決定行為の効力を争う訴訟(資格の有無も対象)
(四) 自主財政権
内閣に対しては認められる→二重予算(財政法19条)
三 国政調査権(62条)
(一) 権限の性質
1 独立権能説→国権の最高機関性(総合調整機能)から、国政の全般を対象
2 補助権能説(第1説)→立法機関性から法律制定に必要な事項を対象
(第2説)→立法機関性から法律案、議院内閣制から行政監督権、国会中心財政主義から財政全般をそれぞれ対象(独立権能説と結果的に一致する)
3 国民の知る権利への奉仕説→主権者たる国民に国の保有する情報を提供する目的から広く認められる。
(二) 調査権の限界
1 司法権の独立による限界
浦和充子事件→具体的裁判における量刑の当否を検討
吹田黙祷事件→裁判長を証人として喚問
2 行政の中立性による限界
検察権の自律性=二重煙突事件
公務員の守秘義務(国家公務員法第100条、議院証言法第5条)
3 証言拒否権による限界(第38条→議院証言法第4条)
(1) 自分や近親等が刑事訴追等を受けるおそれのある質問(証言法4条1項)
(2) 医師、弁護士等が職業上知り得た他人の秘密に関する質問(同2項)
(3) 調査目的を逸脱したり、調査権を乱用した質問は拒否できる
(4) 人権に基づく証言拒否も可能である
例:沈黙の自由、信教の自由、プライバシー等