憲法第22回
司法権の独立
甲斐 素直
一 問題の所在
(一) 議院の自律権との同質性=保障の二重構造
権力の担い手個人に対する保障
その個人を含む組織に対する保障
(二) 議院の自律権との異質性=非政治機関
自律権の制限の必要性と、それによる司法の独立の侵害危険性
二 裁判官の独立=個人に対する保障
(一) 裁判官の職権の独立(76条3項)
1 「裁判官の良心」の意義
ア 主観的良心説(19条の「良心」と同義とする説)
イ 客観的良心説
「裁判官が適用する法のうちに客観的に存在する心意・精神、いわゆる『裁判官としての良心』を意味する」
(清宮『憲法I』[第3版]357頁より引用)。
2 陪審制度
裁判官と裁判員
(二)裁判官に対する身分保障
1 裁判官の罷免事由の制限
@心身の故障により職務不能と裁判で決定された場合(78条)
A公の弾劾による場合(78条)
B最高裁判所判事の国民審査による場合(79条)
2 報酬受領権及び報酬が減額される事のない事の保障(80条2項)
3 裁判官がその意思に反して、免官、転官、転所、または職務の執行の停止を受ける事のない事の保障(裁判所法48条)
三 司法府の独立=組織に対する保障
(一) 自主立法権
裁判所規則制定権(77条)
(二) 自主行政権
下級裁判所判事の名簿による指名権(80条1項)
裁判官以外の裁判所職員の任免権(裁判所法64条)
→人事はすべて裁判所が行う
⇒人事院の管理に属させない(国家公務員法2条3項13号参照)
(三) 自主懲戒権
裁判官の懲戒は行政機関が行う事はできない(78条後段)
行政機関=権力分立における行政府
懲戒は裁判により行う(裁判所法49条)
懲戒免職は許されない←身分保障
「裁判官の懲戒は、戒告又は一万円以下の過料とする」裁判官分限法2条
(四) 自主財政権
国会中心財政主義(83条)により、国会に対しては認められない。
内閣に対する独立性は有する⇒二重予算制度(財政法19条以下)
四 司法権の独立の濫用とその防止制度
民主的基盤をもたない組織による国民の権利侵害の危険性
フランス革命時のパリ大法院の反動性
米国ニューディール政策とオールドコート
(一) 最高裁判所に関する民主的統制
1 最高裁判所判事任命権(79条第1項)→内閣
最高裁判所長官指名権(6条第2項) →内閣
2 最高裁判事に関する国民審査(79条2、3、4項)
←公務員を選定し罷免する権利(15条1項)
3 最高裁判所判事の定年(79条5項)
(二) 下級裁判所に関する民主的統制
1 下級裁判所判事任命権→内閣(80条1項第1文)
最高裁に名簿作成権が憲法上保障
2 下級裁判所判事の任期を10年に限定(80条1項第2文)
3 下級審判事の定年(80条1項但書)
(三) 裁判官一般に対する民主的統制
公の弾劾制度 public impeachment
民意を背景とする訴追行為に基づく、公権力による罷免手続き
参考 裁判官弾劾法2条 弾劾により裁判官を罷免するのは、左の場合とする。
一 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠ったとき。
二 その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき。
五 司法権独立の侵害可能性
(一) 行政府
裁判官任命権の濫用の危険
(二) 立法府
国政調査権の行使 浦和充子事件
(三) 司法行政機関
司法内部における干渉⇔検察一体の原則との相違
平賀書簡事件 飯盛裁判官事件
(四) 社会勢力
新聞等による裁判批判とその限界