憲法第25回

甲斐 素直

地方自治の本旨

一 地方自治と国民主権原理の緊張関係

(一) 封建政治と地方自治

 封建制の下において、各地方の自治権は、その固有の権利といえる。

(二) 国民主権原理の確立と地方自治の排斥

 主権はただ一つしかない

   =主権を分割することは不可能である→地方自治の否定(例えばフランス)

(三) 地方自治の黙認ないし法律レベルによる是認

 官選知事の下における地方分権

(四) 地方自治の憲法編入と、その法理論的根拠

   @ 全体主義の経験→過度の権力集中の危険性

     地方自治=国家権力の均衡と抑制のシステムを補完する役割を持つ

   A 人々に民主主義を身近なものとして認識させる=民主主義の学校

   B 政治の実験室

  1 伝来説

=主権がただ一つしかない以上、地方自治権は国が地方に授権した範囲においてのみ存在する→地方自治の範囲は法律の定めるところに依る。

  

  2 制度的保障説

=自治権は国から伝来したものであるが、法律によっても地方自治の中核を侵害することは許されない。

   →地方自治の不可侵の中核=地方自治の本旨(憲法92条)

⇒詳しくは後述

  3 新固有権説

伝来説の枠内に立ちつつ、できる限り地方自治を固有権に近づけて理解しようと試みる学説の総称。代表的なものをあげれば次のものがある。

  基本的人権説

国民は、基本的人権の内容として、適切な統治を国家に請求する権利を有する。それが適切かつ効率的なものであるためには、身近な行政ニーズに応える活動は身近な統治団体、すなわち地方自治体が行う必要がある。すなわちその固有の権限となる。

 

 

二 制度的保障の概念

(一) その基本的な問題意識

  1 硬性憲法の下で、人権等における法律の留保規定をどう理解するか?

「法律の定めるところに従い」

「法律の範囲内において」

→文字どおり理解すると、硬性憲法(=憲法が立法府の権限を制約する機能を持つ)で権利を保障した意義が失われる。

  2 制度的保障概念の内容

議会は憲法の定める制度を創設、維持すべき義務を課され、その制度の本質的な内容については法律によって侵害することも許されない

→保障の対象になっているのは制度自体であって、個人の人権ではない。

 

  現行憲法の下における例

   大学の自治(23条)、婚姻の自由(24条)、私有財産制(29条)

 

(二)地方自治における適用

 地方自治においても「法律の範囲内」という限定の意義

「制度的保障」概念の適用の効果

伝来説からは当然の結論(地方自治の形式や実質を法律で自由に制定しうる)を排除し、より強力な憲法上の保障を与えることが可能となる

 

(三) 地方自治の本旨=制度の中核=の具体的な内容

  

 ○ 団体自治⇒中央集権の打破=地方分権

その実体 ⇒地域団体自身の機関により、団体の名と責任の下に行われる

 ○ 住民自治=自己統治⇒民主主義の学校

 ○ 補完性原理:

第一義的には基礎的団体である市町村が行政を行い、それが不適切であるときに都道府県が、それが不適切であるときに国が行政を行う。

注:ここにいう地方自治の本旨概念は、あくまでも制度的保障説をとった場合にのみ導かれる概念であることを忘れてはいけない。

(四) 地方自治の主体=地方公共団体の意味

法律で地方公共団体と定めてあれば、すべて憲法上の地方自治体になるのか?

普通地方公共団体

=都道府県・市町村