憲法訴訟論第14回
甲斐素直
違憲判決内容の種類とその必要性
一 違憲無効判決
自由権に対する規制立法の違憲性
⇒その違憲無効を判決が確定することで十分⇒自動的に、元の自由が回復する
第三者没収違憲、尊属殺違憲、薬局距離制限違憲、共有林分割制限違憲の各判決
二 違憲確認判決及びそれに基づく義務づけ判決
自由権以外の人権を保障するためには、国の作為又は不作為を必要とする
⇒違憲を確定するだけでは問題は解決しない
⇒作為又は不作為の義務づけ命令が必要である=実質的な立法行為・行政行為?
(一) 私権に関しては 妨害予防の訴え
権利確認の訴え 等が可能である。
違憲性を根拠として、国の活動に関して同様の訴えを提起することは可能か?
⇒対行政活動差し止め請求の許容条件
A 次第に実質を考慮すべきだとする考えに変化した 「行政庁の第一次的判断権」の尊重@ 初期の判例は、そのような判決をすることは、裁判所が行政庁に代わって行政行為をなす事を認めることになるとして、基本的に違憲とした。
その根拠 行政の統一性の保持
専門的判断の先行の保障
○ 事前の司法判断をするにあたっての要件(初期の判例の打ち立てたもの)
ア その行為をするべきか否かについて行政庁が法律上拘束されており、事実上自由裁量の余地がないこと
イ 事後の訴訟によっては救済を図れない特別の事情が存在すること
ウ 他に適当な救済手段が存在しないこと
このうち、イとウは訴えの利益の概念とつながる
47年11月30日⇒最高裁による要件の変更(いわゆる長野方式の勤評事件、最判昭和
行政判例百選第
4版482頁参照)「具体的、現実的な争訟の解決を目的とする現行訴訟制度の下においては義務違反の結果として将来何らかの不利益処分を受ける恐れがあると言うだけで、その処分の発動を差し止めるため、事前に右義務の存否の確定を求めることが当然許されるわけではなく、当該義務の履行によって侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度、違反に対する制裁としての不利益処分の確実性及びその内容または性質等に照らし、右処分を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に義務の存否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被る恐れがあるなど、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合は格別、そうでない限り予め右のような義務の存否の確定を求める法律上の利益を認めることはできない。」
→自由裁量か否かという要件は不要とされた。
(二) 原告適格の存在の必要性
原告適格の緩和→民衆訴訟(選挙訴訟、住民訴訟)の出現、
裁判所による柔軟な運用
国家賠償法に基づく訴えの提起
代表的な差止訴訟
堀木訴訟
長良川河口堰建設差し止め訴訟
大阪空港夜間離発着差し止め訴訟
三 違憲警告判決
自由権が問題となっている事件以外では、裁判所が違憲判断を示した場合にも、
@そこで問題となっている法令の規定や効力を否定するわけには行かない場合が多い。
A否定したからといって、当事者の救済には役に立たない場合も多い。
そこで、立法府や行政府に対策を講じるように、警告を発する機能を果たす判決を下す、という手法が出現することになる。
そのための手法には、様々なものが存在している。
(一) 事情判決
一般原則⇔行政事件訴訟法
31条51年4月14日)判例T 322頁⇒これは公職選挙法の明文で排除されており、したがって、これからは全く独立した一般原則として採用されたことに注意
衆議院議員定数違憲訴訟(最大昭和
「行政事件訴訟法の右規定は、公選法の選挙の効力に関する訴訟についてはその準用を排除されているが(公選法
219条)、〈中略〉本件のように、選挙が憲法に違反する公選法に基づいて行われたという一般性をもつ瑕疵を帯び、その是正が法律の改正なくしては不可能である場合については、単なる公選法違反の個別的瑕疵を帯びるにすぎず、かつ、直ちに再選挙を行うことが可能な場合についてされた前記の立法府の判断は、必ずしも拘束力を有するものとすべきではなく、前記行政事件訴訟法の規定に含まれる法の基本原則の適用により、選挙を無効とすることによる不当な結果を回避する裁判をする余地もありうるものと解するのが、相当である。」「本件選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ、選挙自体はこれを無効としないこととするのが、相当であり、そしてまた、このような場合においては、選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに、当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが、相当である。」
(二) 純粋将来効判決⇔一般的効力?
判決は、常に当事者に関しては遡及効がある。
→当事者についても将来効しかないものと扱えば、事情判決と同様の効果をもたらすことができる。
ドイツ憲法裁判所=石炭料判決
BVerfGE91.186抜粋「 連邦憲法裁判所法は違憲の効果として、規範の否定を例外なく定めているわけではなく、単なる違憲宣言を行うことも許容している(連邦憲法裁判所法
31条2項、79条1項)。無効宣言を行えば、第3次電力法に基づく調整公課金が追求している石炭発電という概念が、出し抜けにその根拠を失う事態を生じさせる。公共の利益は、ここでは、したがって、違憲状態から合憲状態への緩やかな過渡期を設けることを要請する。そこで、連邦憲法裁判所は、憲法違反宣言を行うにとどめ、同時に、連邦憲法裁判所法35条に従い、暫定的に効力を有することを命じる。」○ その場合、発生する訴訟当事者の不利益の救済方法
「 異議申立人の、調整公課金を支払いを命ずる判決については、いまや、違憲と宣言されている規定が暫定的に有効になるということになっているが、判決は、それにも関わらず破棄し、同様に費用請求に関しても破棄する。異議申立人は、破棄差し戻しにより、費用負担を免れるために、引き続き有効であるという観点から債権を承認することが可能である。」
わが国判例における同種意見
「是正措置が講ぜられることなく、現行議員定数配分規定のままで施行された場合における選挙の効力については、多数意見で指摘する諸般の事情を総合考察して判断されることになるから、その効力を否定せざるを得ないこともあり得る。その場合、判決確定により当該選挙を直ちに無効とすることが相当でないとみられるときは、選挙を無効とするがその効果は一定期間経過後に始めて発生するという内容の判決をすることもできないわけのものではない。けだし、議員定数配分規定の違憲を理由とする選挙無効訴訟(以下「定数訴訟」という。)は、公職選挙法
204条所定の選挙無効訴訟の形式を借りて提起することを認めることとされているにすぎないものであつて(昭和51年大法廷判決参照)、これと全く性質を同じくするものではなく、本件の多数意見において説示するとおり、その判決についてもこれと別個に解すべき面があるのであり、定数訴訟の判決の内容は、憲法によつて司法権にゆだねられた範囲内において、右訴訟を認めた目的と必要に即して、裁判所がこれを定めることができるものと考えられるからである。」60年7月17日、寺田治郎、木下忠良、伊藤正己、矢口洪一各判事の補足意見 百選4版328頁参照)(最大昭和
なお、公職選挙法205条5項参照
(三) 合理的期間の審査基準
衆議院議員定数違憲=昭和60年7月17日最高裁大法廷判決=百選4版328頁
「制定又は改正の当時合憲であつた議員定数配分規定の下における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数又は人口(この両者はおおむね比例するものとみて妨げない。の較差がその後の人口の異動によつて拡大し、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至つた場合には、そのことによつて直ちに当該議員定数配分規定が憲法に違反するとすべきものではなく、憲法上要求される合理的期間内の是正が行われないとき初めて右規定が憲法に違反するものというべきである。」
(四) 警告不存在のための合憲判決
参議院議員定数違憲=平成8年9月11日最高裁大法廷判決=百選4版330頁
「選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が当該選挙制度の仕組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達したかどうかの判定は、右の立法政策をふまえた複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき国会の裁量的権限の限界にかかわる困難なものであり、かつ、右の程度に達したと解される場合においても、どのような形で改正するかについて、なお種々の政策的又は技術的な考慮要素を背景とした議論を経ることが必要となるものと考えられる。また、昭和63年10月には、前記1対5.85の較差について、いまだ違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするには足りないという前掲第二小法廷の判断が示されており、その前後を通じ、本件選挙当時まで当裁判所が参議院議員の定数配分規定につき投票価値の不平等が違憲状態にあるとの判断を示したことはなかった。
以上の事情を総合して考察すると、本件において、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差が到底看過することができないと認められる程度に達した時から本件選挙までの間に国会が本件定数配分規定を是正する措置を講じなかったことをもって、その立法裁量権の限界を超えるものと断定することは困難である。
上述したところからすると、本件選挙当時、選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差等からして、違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ないが、本件選挙当時において本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものと断ずることはできないものというべきである。」