憲法統治機構論 第3回
甲斐 素直
議院内閣制
一
議会制民主主義における議会と政府の関係(一) 超然内閣制=例えば、明治時代のわが国内閣制
1 議員と国務大臣の兼任は禁じられる。
2 国務大臣が議会に出席し、意見を述べることは禁じられる。
アメリカ制度は、制限君主制における君主の役割を大統領に置き換えたもの
(二) 議院内閣制
国民公会制と超然内閣制の中間型
⇒内閣は議会から独立しているが、内閣の存立が議院の信任にかかっている。
1 二元型=現在はフランス第五共和制が代表的
君主(大統領)→議会 議会解散権
議会 →大臣 不信任決議
君主(=大統領)の一身は不可侵であるから、君主に対して政治責任を問うことはできない。そこで、大臣の責任を問うことを通じて間接的に目的を達しようとする。このためには一方で、
@ 君主は関係大臣の同意なしに行動できないという原則(大臣副書制度)、
A 君主は議会の支持を受けるものしか大臣に任命し得ず、支持を失った大臣は罷免するという原則
が存在することが必要である。
参考 フランス憲法
第8条 共和国大統領は、首相を任命する。共和国大統領は、首相による政府の辞表提出に基づいてその職務を免ずる。
共和国大統領は、首相の提案に基づいて政府の他の構成員を任命し、また、その職務を免ずる。
第9条 共和国大統領は、閣議を主催する。
第50条 国民議会が不信任動議を採択し、又は政府の綱領若しくは一般政策の表明を否認するとき、首相は、共和国大統領に政府の辞表を提出しなければならない。
2 一元型=現代では、日本やイギリス、ドイツ等
その本質に関する説の対立
(1) 民主主義を重視=内閣の議会に対する連帯責任を通じての、行政に対する民主的コントロールをもって議院内閣制の本質とする(責任本質説)
→総辞職の自由が認められれば、国民公会ではないとする。
(2) 権力分立制を重視=議会(立法)と内閣(行政)の権力の対等関係を確保することにその本質があるとする(均衡本質説)
→内閣に議会解散権が認められなければならないとする
(三) 議会統治制(国民公会)=現在はスイスが代表的
1 政府は常に議会の指揮命令に従わねばならない。
2 自らの意見と議会の指揮命令が食い違う場合に辞職する自由を持たない。
参考:スイス連邦憲法
第174条 連邦評議会Bundesratは、連邦における最高の指導的執行機関である。
第175条 連邦評議会は、7名の評議員により構成される。
連邦評議会評議員は、国民議会会期ごとに連邦議会議員により選出される。
評議員は、スイス市民であって、国民議会議員の被選挙資格を有する者の中から4年の任期で選出される。
第176条 連邦大統領が、連邦評議会の議長を務める。
連邦大統領及び連邦副大統領は、連邦評議員中から任期1年で選出される。
連続した再選は禁止される。連邦大統領は翌年度に副大統領に選出されることはできない。
二 議院内閣制の現行憲法上の現れ
(一)内閣の国会に対する連帯責任(66条3項)
→主任の国務大臣の副書 (74条)
→天皇の国事行為に対する内閣の助言と承認(6条、7条)
(二)議会の内閣総理大臣の指名権(67条、6条)
内閣総理大臣の任期の、衆議院任期との原則的一致(70条、71条)
(三)閣僚と議員の兼職の必要性
内閣総理大臣→議員の中から選任される要がある(67条)
その他の閣僚→過半数が議員中から選任される要がある(68条1項)
(四)議会の内閣不信任決議権(69条)
1 通常の単純多数で議決可能である(特則の不存在)
2 衆議院の不信任決議のみが、内閣に対し、総辞職か解散を迫る効果を持つ
→参議院も不信任決議を行うことは出来る。
3 内閣信任決議や重要法案、予算の否決という形で表現することも可能
4 内閣総理大臣や閣僚個人に対する不信任決議という形で表現することも可能
(五)内閣の総辞職権
1 内閣は、随時総辞職する自由をもつ。
2 内閣の内部において、全員の意見が一致しないときは、内閣総理大臣が当該閣僚を罷免しない限り、内閣は総辞職しなければならない。
3 内閣と議会の意見が一致しないとき、内閣は総辞職をするか、議会を解散するかを選択する自由を有する(69条)。
(六)国務大臣の、議院出席権・義務(63条)
1 内閣官房副長官、政務次官、政府特別補佐人等の出席(国会法69条)
2 発言する場合の事前通告義務(国会法70条)
3 委員会の出席要求権(国会法71条、72条)