憲法統治行為論 第5回

甲斐素直

    国会議員の権限と活動

国会法や公職選挙法は、憲法を具体化する法規範として重要である。その内容は、憲法に関する短答式で聞かれることも良くあるので注意しよう。どのあたりまでが注意すべきポイントか、という点を今回の講義では特に留意して行う。

一 国会議員の身分

(一) 憲法43条 「全国民を代表する」「選挙された議員」

  1 全国民を代表する

   国民主権説は、この文言から命令的委任の禁止を読む

人民主権説は、この文言から命令的委任の禁止を読むことを拒否する



  2 選挙された議員

日本新党繰り上げ当選事件(最高裁判所平成7年5月25日=百選336頁)

平成8年度司法試験問題
 政党を基礎にした拘束名簿式比例代表制について、「選出された国会議員が、自発的に党籍を離脱した場合又は所属政党から除名された場合は、当該議員は議員の地位を失う。この場合、当該議員が所属していた政党の名簿上の順位にしたがい、繰り上げ当選人を決定する。」という趣旨の規定が法律で定められたと仮定する。この規定に含まれている憲法上の問題点について論ぜよ。

平成15年度国家公務員T種法律職試験問題
 最近の改正で付加された公職選挙法第99条の2は,衆議院及び参議院の比例代表選出議員が当選後に当該選挙で争った他の政党等に所属を変更したときは当選を失うものとした。また、国会法第109条の2も,同様に所属を変更した比例代表選出議員について退職者となることとした。
 これらの改正規定の趣旨を説明し,これに含まれる憲法上の論点について論述せよ。

 国民主権説からの主張の例

「議員の所属政党変更の自由を否認したり、党からの除名をもって議員資格を喪失させたりすることは、自由委任の原理に矛盾する。2000年の法改正で、衆議院および参議院の比例代表選出議員が当選後に所属政党を変更した場合には議員の地位を失うことになった。この規定は、議員資格の喪失を自発的な党籍変更の場合に限定することすらしておらず、自由委任の原理との関係で問題をはらんでいる。」(芦部『憲法』第3版、岩波書店268頁より引用)

 人民主権説からの主張の例

「『人民代表制』のもとにおいては、政党とその公約を媒介として『人民』とその単位に対する議員の従属が維持されているのであれば、議員に所属する政党を変更する自由が否定され、政党の変更や党議拘束・政党公約の違反を理由とする除名により議員の地位を喪失することが原則とならざるを得ないはずである。とりわけ、比例代表制下においては、そうである。」(杉原『憲法U』有斐閣法律叢書170頁より引用)
 

(二) 選挙権(44条)←普通選挙の制限

公職選挙法9条(選挙権)、

同     21条(選挙名簿への被登録資格)

 

(三) 議員の身分の得喪

1 議員の身分の取得

(1) 議員の資格(第44条)

公職選挙法第10条、第11条、

(2) 選挙による当選(第47条)

衆議院の当選:公職選挙法第13条(別表第1・第2)

参議院の当選:  同    第14条(別表第3)

今回の講義では論及している時間的余裕がないが、議員定数違憲訴訟では、この別表なども重要な論点となるので、気を付けて読んでおこう。

衆議院及び参議院選挙区選出議員:同第95条

衆議院及び参議院比例選出議員 :同第95条の2(ドント式)

ドント式がどのような計算方式かと言うことも、一度じっくりと具体的数字を使って計算して理解しておこう。

(3) 繰り上げ当選

選挙区選出議員の繰り上げ当選:97条

比例選出議員の繰り上げ当選 :97条の2

(4) 任期の開始

衆議院→原則として総選挙の期日より起算(公職選挙法第256条)

参議院→原則として任期満了の翌日より起算(  同  257条)

(5) 全員同時に始まり、同時に終わる(ただし、参議院議員については半数)。

→補欠議員は残任期のみ在任する(公職選挙法第260条第1項)

補欠選挙の実施:同34条⇒40日以内に実施

但し 任期終了前6ヶ月以内の場合は実施しない。

 

2 議員の身分の喪失

(1) 任期満了(衆議院:第45条本文、参議院:第46条))

(2) 議員の非選挙資格の喪失:公職選挙法第99条 国会法第109条

(3) 議員が他の議院の議員になった場合:国会法第108条

但し 公職選挙法第89条(公務員の立候補の制限)

   公職選挙法の方が特別法と考えられる。

(4) 裁判による資格の喪失

    @ 資格争訟の裁判(第55条→国会法第111条〜第113条)

    A 選挙に関する訴訟の裁判:公職選挙法第204条以下参照、特に251条以下

なぜ資格争訟の裁判が存在しているのに、当選訴訟も認められるのか?

(5) 辞職(国会法第107条)

(6) 除名(第58条第2項但し書き→国会法第122条)

(7) 衆議院の解散(第45条但し書き)

 

二 国会議員の特権

1 不逮捕特権(第50条)

その具体的内容=国会法第33条 現行犯逮捕 令状逮捕

不逮捕特権の目的に関する説の対立

議員本人の特権

  or

議院の審議権の保護=議院の自律権(次回に説明)

 

  2 発言等の免責特権(第51条)

その目的

@ 命令的委任の禁止

A 国会における発言の自由の確保

その限界

@ 議院からの懲罰

A 所属政党・組合・会社等からの懲罰

B 政治責任の追及

免責特権と国家賠償請求の関係

⇒否定 在宅投票事件 =最判60年11月21日百選U426頁

病院長自殺事件=最判平成9年9月9日 百選U 376頁

⇒肯定 病院長自殺事件=平成5年7月16日札幌地方裁判所判決

「 憲法五一条は、国会議員が議院で行った演説等に違法の点があっても、民事・刑事等の法的責任を負わない旨を規定したのみで、右違法がなくなる等の趣旨を含むものでないことは明らかである。したがって、憲法五一条が妥当したとしても、そのことから当然に国家賠償法一条一項所定の『違法』がないことにはならない。」

 

3 歳費を受ける権利(第49条)

  その具体的内容=国会法第35条

普通選挙の実質的保障=財産のない人間でも議員活動が可能となる。

 

三 国会議員の権限

1 単独で行使できるもの

   @ 質問権

一般質問(国会法第74条、75条)

緊急質問(同76条)

    なお、議院規則に根拠のある権利として(現に議題となっている議案に限定)、

質疑権 討論権

   A 表決権(第51条、第57条第3項)

2 一定数の賛成者を必要とするもの(国会法第56条以下)

  

発議権 衆議院 参議院
@ ア 議案 20人 10人
  イ 予算を伴う法案 50人 20人
A ア 議案の修正動議 20人 10人
  イ 予算を伴う法案の修正動議 50人 20人
B 予算の修正動議 50人 20人
C 委員会が会議に付さないとした議案の会議付託 20人 20人