甲斐 素直
議院の権能とその行使
一 議院の自律権の概念
(一) 議院の自律権の根拠
1 二院制
2 権力分立制
議院の自律権の根拠は、各院の自律、特に参議院の衆議院からの自律という点に関しては、二院制である。他方、行政権や司法権からの自律という点に関しては、権力分立制によって説明しなければならない。したがって、どうしても二元的な説明が必要となる。
(二)自律権の分類
1 議院の組織権及び議院の運営権
普通の教科書では、この二分類で説明している。しかし、この分類だと、例えば議院規則制定権は、組織権としても運営権としても重要な機能として理解しなければならない。ところが、講義上はどちらで、たいていは先に話す組織権の一環として説明し、運営権では触れないことになるので、受講している者から見ると、運営権には該当しないような錯覚を与える。そこで、ここでは次の分類で講義する
2 憲法に則した分類=自主立法権、自主行政権、自主司法権及び自主財政権
二 自主立法権=議院規則制定権(58条2項前段)
旧憲法51条では議院法の制定を予定していた。ところがそうした特別の規定が存在しない現行法下においても、国会法が制定された。ここから、国会法と議院規則の関係が深刻な問題となる。
(一) 国会法の合憲性
@ 明治憲法以来の慣行と便宜上の必要に基づいた存在で、合憲とする説
A 議院の自主性を害しない限り合憲とする説
B 議院の自律性を侵害するもので、違憲とする説
(二) 国会法及び議院規則の規制する対象範囲
ア 議院規則は、法規命令を含みうるか?
イ 国会法は、内部事項を含みうるか?
@ 内部事項についても、国会法と議院規則の競合的所管事項とする説
A 内部事項については、議院規則の排他的、専属的所管事項とする説
(三) 議院規則と国会法の優劣
@ 法律優位説
A 規則優位説→国会法=紳士協定説
B 規則優位説→大綱部分は国会法の優越、具体的運用は規則の優越
実務は、規則優位で運営されている。
例 国会法 25条に対し衆議院規則は次のように定めて抵触している。
「第十五条 常任委員長の選挙については、議長の選挙の例による。
議院は、常任委員長の選任を議長に委任することができる。
参議院規則には16条にほぼ同文の規定がある。
三 自主行政権
(一) 自主人事権
1 議院役員の選任権(58条1項)→国会法16条
2 役員以外の人事権
(二) 自主執行権=自律的運営権
1 院内警察権
参考
衆議院規則
第208条 議長は、衛視及び警察官を指揮して議院内部の警察権を行う。
第5回(特別)国会昭和24年10月21日の議院運営委員会において協議の結果、議員会館及び議員宿舎は院外であって議院警察権の範囲外であると決定した。(衆先540)
第209条 衛視は、議院内部の警察を行う。
警察官は、議事堂外の警察を行う。但し、議長において特に必要と認めるときは、警察官をして議事堂内の警察を行わせることができる。
警察官をして議事堂内の警察を行わせた場合 第19回国会昭和29年6月3日、第34回国会昭和35年5月19日(衆先444)
第210条 議院内部において現行犯人があるときは、衛視又は警察官は、これを逮捕して議長の命令を請わなければならない。但し、議場においては、議長の命令がなければ逮捕することはできない。
参議院規則では、217、218、219条にほぼ同文の規定がある。
2 国政調査権
国政調査権は、普通の教科書だと、議院の自律権と並ぶ独立の権能として説明する。しかし、調査内容を議院が自ら決定し、遂行する、という点では、自律権に属するので、ここでは自律権の一環として説明する。但し、調査の対象が議院内にとどまらず、広く国政全般にわたり、特に個々の国民にも及びうる点で、大きな特徴があることを看過してはならない。
(1) 権限の性質
@ 独立権能説→国権の最高機関性(総合調整機能)から、国政の全般を対象
A 補助権能説(第1説)→立法機関性から法律制定に必要な事項を対象
B 補助権能説(第2説)
→立法機関性から法律案、議院内閣制から行政監督権、国会中心財政主義から財政全般をそれぞれ対象(独立権能説と結果的に一致する)
C 国民の知る権利への奉仕説
→主権者たる国民に国の保有する情報を提供する目的から広く認められる。
注意:国政調査権は、各国議会が保有する権限であるが、その制度の実体は国によりかなり違うので、わが国制度を論じるにあたり、安易に外国制度は引用しない方がよい。
(2) 調査権の限界
@ 司法権の独立による限界
浦和充子事件→具体的裁判における量刑の当否を検討
吹田黙祷事件→裁判長を証人として喚問
A 行政の中立性による限界
行政権は、議院内閣制及び国会中心財政主義という二つのチャンネルから議院として統制することが可能なので、司法権に比べると広く調査権が及ぶ。しかし、無制約ということではない。大きな限界として現れるのが次の二点である。
検察権の自律性=二重煙突事件、日商岩井事件(百選378頁参照)
公務員の守秘義務(国家公務員法第100条、議院証言法第5条)
B 証言拒否権による限界(第38条→議院証言法第4条)
A 答えると、自分や近親者等が刑事訴追を受け、あるいは有罪の判決を受けるおそれのある質問(証言法第4条第1項)
B 医師、弁護士等が職業上知り得た他人の秘密に関する質問(同2項)
C 適法でない質問
D 調査の限界を超えた質問
E 調査に関係のない質問
F 純粋に私事に関する質問
G 思想、良心、信仰など精神的自由に関する質問
3 議事運営と司法審査
議院の自律権と法案議決手続における瑕疵認定権
(警察法改正無効事件=最大昭和37年3月7日、百選U 400頁参照)
四 自主司法権
(一) 議員の懲罰権(第58条第2項後段)
1 懲罰の開始(国会法121条)
(1) 議長の意見 (1項)
(2) 委員会における事件については委員長の報告 (2項)
(3) 議員の動議(衆議院40人、参議院20人以上の賛成)(3項)
2 懲罰の種類(国会法122条)
(1) 公開の議場における戒告
(2) 公開の議場における陳謝
(3) 一定期間の登院停止
(4) 除名(3分の2以上の賛成が必要)
ただし、再び当選したものを拒むことは出来ない(国会法第123条)
3 会期末及び閉会中の事犯に関する特別措置
会期不継続の原則に対する例外(国会法121条の2、121条の3)
(二) 議員の資格争訟の裁判権(第55条)
当選して議員となった者が、議員の資格を備えているかについて争いがあり、その議院の他の議員から議院に対して裁断が求められた場合に発動される裁判権
1 議員の資格⇒法律で定める(44条)→公職選挙法10条、11条
2 具体的な手続き
@ 争訟の提起⇒議員から文書で議長へ行う (国会法111条2項)
A 委員会に依る審査 (同 1項)
B 2名以内の弁護士の選任権(1名についての国費での支弁)(同 112条)
C 本会議における3分の2以上の多数による議決(本人は投票権はない=同113条)
3 当選訴訟との関係
ある候補者を当選人とする決定行為の効力を争う訴訟(資格の有無も対象となる)
五 自主財政権
二重予算制度
六 会議の公開の停止(第57条)
(一) 秘密会の開始(国会法第62条)
1 議長の提案
2 10人以上の議員による発議
(二) 3分の2以上の多数による賛成(第一項)
(三) 記録の保存、公表義務 (第二項→国会法第63条)
七 請願の受理権(第16条→請願法)
国会法第9章