憲法統治機構論 第10回

甲斐素直

内閣制度の本質と衆議院の解散

一 行政権の担当者としての内閣

(一)行政の概念

 現代社会における行政の複雑性

 典型的な行政活動

  侵害行政=租税行政、警察行政等

  給付行政=供給行政、社会福祉行政、資金助成行政

  社会経済活動=不動産・物品・債権等の調達、維持、管理、処分等

 準立法活動⇒政令以下の法規範の制定、執行、社会国家における法

 準司法活動⇒行政不服審査、海難審判、労働紛争、公害紛争

 1 積極説(目的説)

「行政とは、法の下に、法の規制を受けながら、現実に国家目的の積極的実現を目指して行われる、全体として統一性を持った継続的な国家活動である。」

               田中二郎『行政法総論』有斐閣、法律学全集6

 2 消極説(控除説)

  「国家の対人民的作用のうち、立法と司法を除いた残余の作用」佐藤幸治

@ 積極国家における行政の複雑性

    A 歴史的妥当性(絶対王政から立法と司法の脱落したもの)

  *この定義は、行政法における行政の概念とは異なる

=行政法は、当然に行政内部法も対象とするので、「対人民作用」がつかない。

     司法行政(裁判所内部における行政作用)や

     院内行政(国会や議院内部における行政作用)は含まない。

(二)行政権の特徴

 1 内閣が行政のすべてを自ら行うわけではない(内閣法第12条参照)

行政各部の指揮監督権(72条)

 2 法治主義 Gesetzmasigkeit

 形式的法治主義<戦前における考え方>

実質的法治主義(法の支配rule of law

  行政組織法律主義⇒国家行政組織法、各省庁の設置法(例:内閣府設置法)

 

二 国民主権の下における代表制度の類型

(一) 純粋代表

 1 人民の意思を議会に強制することが禁止される。

 議員は選挙人から議会における活動に対して責任を問われることはない。

  ⇒議員に対するリコールは認められない。

 2 特定時点の人民の意思を議会に忠実に反映する必要はない

  ⇒選挙制度をどのように決定するかは議会の裁量の問題

  ⇒選挙制度や有権者の範囲も議会が自由に決定できる。

  ⇒制限選挙や間接選挙の採用も可能である

 3 民選議会以外のものが国民意思を代表することが禁じられる。

  ⇒人民発案、人民投票、人民拒否等は当然に許されない。

  ⇒人民投票と事実上同じ機能を持つ議会の解散制度も、認められない

解散制度は次の二つの前提を持っている。

   @解散制度は民選議会よりも上位の意思が存在すること

   A議会の意思が誤っていること

  ⇒民選機関ではない裁判所による違憲審査権は否定される。

(二) 半代表

 1 人民の意思の議会への強制の禁止は依然として維持されている

    命令的委任の禁止

    議員の免責特権

    議員に対するリコールの禁止

 2 特定時点の選挙人団の意思の議会への反映

    少なくとも第一院については直接普通選挙が導入される

    ⇒事実上は議員の、その選挙区の利害への拘束、すなわち有権者集団の命令的委任の事実上の実現という現象が発生する

 3 議会の解散制度は導入される。

  ただし、議会と内閣の均衡を維持するのに必要な限度

  人民発案、人民投票、人民拒否等は許されていない

  裁判所の違憲審査権は認められない。

(三) 半直接代表

 1 人民の意思の議会への強制の禁止

 2 特定時点の選挙人団の意思の議会への反映

 3 民選議会以外ものによる国民の反映

    国民投票制度の導入

    ⇒衆議院の解散

 

三 内閣の本質

(一) 責任本質説

 民主主義を重視=内閣の議会に対する連帯責任を通じての、行政に対する民主的コントロールをもって議院内閣制の本質とする

(二) 均衡本質説

 権力分立制を重視=議会(立法)と内閣(行政)の権力の対等関係を確保することにその本質があるとする

 

四 解散権の所在の根拠条文について

(一) 憲法第7条第3号

 第7条の国事行為とは形式的行為を定めたものであって、その実質的な決定権の所在までも定めたものと言うことはできない。

(二) 第69条

 これを素直に読めば、内閣不信任案の可決があった場合に、内閣として総辞職と衆議院の解散という二つの選択が許されることを示しているに過ぎず、解散権の所在ないしその行使の方法を具体的に定めたものと読むことはできない。

 ⇒実質的な解散権の所在については直接の根拠はなく、理論的に解決するほかはない。

 

五 衆議院の解散の意義と性格

(一) 衆議院の解散とは、衆議院議員の任期満了以前に、その全員の身分を失わしめる行為である(第45条)。

(二) 半直接代表制の下における意義

 1 権力分立制は、その本質から、立法部と行政部の権力の均衡を保つことを要求

立法部が余りに強大になり、専断または行き過ぎに陥る等により、その権力が濫用された場合に、行政部の権力により、国民の自由を実質的に保障するための制度が必要

⇒衆議院の解散=必然的に解散権は内閣に属する

 2 国会は国政の最高機関←選挙を通じて国民の意思を反映している

何らかの理由で国会の意思が国民の意思と一致していないと考えられる事態が発生した場合、もしくは国政上の重要な問題であって新たに国民の意思を確認する必要が発生した場合には、速やかに直接国民の意思を問うことが妥当

⇒憲法改正の際の国民投票(96条)

⇒地方自治特別法の制定の際の住民投票(95条)

⇒解散?

(三) 自律解散の否定される根拠

 1 実質的理由としては、現時点での議会の構成が国民の意思を反映していないことが予想されることが民主主義に基づく解散権を承認する理由であるのに、自律的解散は、議会の多数派が議会の決定権を握ることを意味する点で、制度趣旨に背馳し、適切とは認められないこと。

 2 形式的理由としては、憲法は、第7条、第45条、第54条及び第69条で解散について言及しているが、そのいずれにおいても自律的解散を予定していないばかりか、むしろ受け身の形で使用されており、他律的解散のみを予定していると解することが適切なこと、及び、わが国憲法の母法と認められる欧米のいずれの法においても自律解散の制度はなく、現行憲法がそうした新しい制度の導入をめざしていた場合には当然その旨が明定されているべきであること。

 ⇒解散権はこの場合にも内閣が保有している。

(四) 解散権の行使を第六九条限定説

  第一の自由主義的根拠のみを解散権の根拠とする考え方

 これに対する批判説

  ⇒一般的な国民投票制度の存在していないわが国憲法の下において、解散の民主的機能を否定するときは、衆議院の場合、四年という比較的長期の任期と相まって、国会意思が有権者のそれと大幅に乖離するおそれがある。

  ⇒現行憲法は、国会の解散権が行使された場合には、総選挙を40日以内に行うこと、及びその後40日以内に国会を召集する事を憲法は要求している。そして、我が憲法はその新国会の冒頭で、内閣は総辞職を要求している。すなわち、超然内閣制ないし大統領制のように、行政府側が解散権を乱用して立法府を麻痺状態に陥れ、内閣が合法的にその地位に居座ることを許さない。したがって、69条に限る必要は存在していない。

(五) 一般的解散権承認説

(1) 均衡本質説を採る場合

 二元的説明が必要

 ○ 69条⇒自由主義的要求と説明

 ○ いわゆる7条解散

     直接民主制的要求=国政の重要問題について民意を問う手段として解散の承認

(2) 責任本質説を採る場合

     直接民主制的要求=国政の重要問題について民意を問う手段として解散の承認

とだけ説明することが出来る。

 

 参考資料

小嶋和司「憲法概説」良書普及会刊、305頁以下より引用

「昭和23年当時、衆議院では社会・民主・自由の3政党の勢力が鼎立し、同年10月、民主・社会両党連立内閣の総辞職の後を受けて成立した自由党単独内閣(総理・吉田茂)は、衆議院過半数の支持勢力を欠いていた。前内閣総辞職の理由は汚職容疑であったから、新内閣は、自党の勢力を伸長するため、制憲議会以来の政府説によって第7条第3号を根拠として衆議院を解散し、総選挙に訴えようとした。しかし、当時、日本政治の運営指導に当たっていた占領軍当局者は、3大政党の責任者を招いて第7条はそのような効果を持つものではなく、内閣によるそのような解散決定は許されないと指示した。(中略)その憲法論は日本側に納得されなかったが、占領軍の指示であるから、それに従って、第69条の要件を充足する議院手続きを成立せしめて解散を行った(ために「八百長解散」といわれる。)。(中略)占領が解除された昭和27828日、吉田内閣は憲法第7条のみを根拠として、与党の大多数すら予期しない解散を行った(そのため、「抜き打ち解散」と呼ばれる。)。「第7条解散」の最初の例である。」