憲法統治機構論第13回

  甲斐素直

法律と規則

問題

 最高裁判所の規則制定権と国会の法律制定権の競合関係について、議院の規則制定権と国会の法律制定権の競合関係と対比しつつ、論ぜよ。

司法試験平成12年問題

 

論文の書き方のポイント

 ○ 論文の問題文には一語の無駄もないと考えよう。そこにある言葉の一つ一つの意味を真剣に考えよう。

 ○ 論文は、基本書全体の関連部分のダイジェストでなければならない。基本書のうち、ズバリ同じタイトルの部分だけを抜き書きしたのでは合格答案にはならない。ならい覚えた理論を地道に一つ一つ適用しよう。ただ、基礎部分はメインの論点ではない。そこをどのように簡略に書くかが、論文の成否を決める。

 

一 国会法及び裁判所法の法規範性

 ○ 二重立法概念を採用する理由を簡単に述べること

    ⇒実質的意味の立法=国会の立法権に属することの確認

 ○ 法規命令をどのように定義するかについては、本問の結論を直接左右する!

 

(一) 権利義務説(通説=たとえば戸波江二説)をとれば

 国会法の規定は、傍聴人等に関するごく一部の規定を除き、実質的意味の立法に該当しない

⇒実質的意味の立法以外の立法は、国会の独占は要求されない。ただ、その場合でも、国会が法律を制定することは妨げない。

○ 裁判所法には裁判所の組織に関する規定が必要(76条3項)だから、これに関しては、次の説と同一になる。<権利義務説を採る場合には、本問では絶対にこの点は書かなければいけない>

 

(二) 大綱説(佐藤幸治説)をとれば

 上記権利義務に加えて、国家の基本的な組織法は実質敵意意味の立法に属する

⇒現に国会法や裁判所法に属する法領域で、実質的意味の立法に属する範囲が広がることになる。しかし、それでも全体が実質的意味の立法概念に該当するわけではないから、やはり上述のような補足が必要になる。

 

(三) 抽象的規範説(芦部信喜説)をとれば

 一般的抽象的法規範はすべて実質的意味の立法概念に該当する

  ⇒国会法及び裁判所法のすべてが実質的意味の立法概念に属する

 

二 規則制定権の根拠

(一) 議院の自律権の概念

 二院制の意義⇒

  両院対等の原則(59条1項)

  両院独立活動の原則

 

(二) 司法権の独立

 権力分立⇒

  三権力対等原則

  三権力独立活動原則

 

三 国会法と議院規則

(一) 国会法の性格

 旧憲法第51条⇒議院法を予定

  ⇒各議院の自律に属する事項に関する法律を制定することが合憲

  ⇒議院法は、各議院規則に優越する

 

 51条に相当する規定のない現行憲法下で、国会法は合憲か?

  国会法は、

@ 明治憲法以来の慣行と便宜上の必要に基づいた存在で、合憲とする説

A 議院の自主性を害しない限り合憲とする説

B 議院の自律性を侵害するもので、違憲とする説

 

(二) 国会法及び議院規則の規制する対象範囲

  1 議院規則と法規命令

 公述人や傍聴人など一般市民を対象とした法は、実質的意味の立法概念に該当する

  ⇒議院規則は委任命令あるいは執行命令という性格を持つという説はない

  ⇒内部規則制定権は本来、組織体の当然の権限である

  ⇒憲法がわざわざ議院規則を予定した点から、憲法58条2項を、41条に対する特則

  2 国会法と内部規則制定権

  @ 内部事項についても、国会法と議院規則の競合的所管事項とする説

  A 内部事項については、議院規則の排他的、専属的所管事項とする説

 

(三) 議院規則と国会法の優劣

  1 対国民的関係

 国会法は議院規則に優位する

  2 対内部規律

  (1) 法律優位説⇒かってに通説

一院だけの議決で足りる議院規則よりも、両議院の議決を必要とする法律が優位するのは当然

  (2) 規則優位説⇒現在の通説

議院の自律を重視し、議院規則が一院だけの議決で完結的に成立するものだからこそ、院の内部自律に関しては規則のみが定めうる

 この視点に立った場合でも、いくつかの説の分かれがあり得る。

  @ 国会法=紳士協定説

国会法の定める内部規律に関する部分は、各議院がそれに従う限りにおいて有効であるが、これと異なる議院規則が制定された場合には、議院規則が当然に優越する

「議院規則で定めるべき事項を国会法で定めようとする場合、一院だけで決めることを意味する衆議院の優越は妥当せず、また、その国会法は道義的拘束力を持つにとどまり、法的に議院規則を排除する力を持ち得ないと解される」

(佐藤幸治三版193頁より引用)

  A 大綱説

佐藤幸治は、前に述べたように行政組織編成権は、法律の専管事項だと考えるから、その限りでは法律が優位すると考える。この立場から、大綱部分は国会法が優越し、具体的運用については規則が優越すると説く

  B 内部規則尊重説(芦部信喜説)

 芦部信喜の場合には、前に述べたとおり、内部規律であっても全面的に実質的意味の立法概念に該当すると考えるから、国会法の制定権をこのように強く否定することは辛い。そこで、議院規則を尊重しつつも、国会法の制定にあたっては、衆議院の優越を認めない、という点で調整しようとすることになる。

  注:芦部信喜新版281頁は、そのような慣行を確立せよ、と論ずるが、これは政治論であって、法律解釈論ではない。諸君としては、芦部説で論文を書く場合、明確に解釈論のレベルで記述する必要がある。すなわち、上述の佐藤幸治のように明確に衆議院の優越は妥当しないと書くか、逆に法律が優位し、法律である限りは国会法でも59条2項が機能する、と論ずるかの二つに一つである。

 

 ○ 実務は紳士協定説である

例:国会法25条・42条

「衆議院規則15条 常任委員長の選挙については、議長の選挙の例による。

          議院は、常任委員長の選任を議長に委任することができる。」

 

四 裁判所法・訴訟法と裁判所規則

(一) 裁判所法の性格

 裁判所法を制定しなければならないことは、憲法76条が予定

  ⇒法律そのもの合憲問題は起こらない

 

(二) 裁判所法及び裁判所規則の規制する対象範囲

  1 裁判所規則と法規命令

○ 訴訟に関する手続、弁護士など一般市民を対象とした法は、実質的意味の立法概念に該当する=各種訴訟法

  (1) 裁判所規則は訴訟法の委任命令あるいは執行命令という形で制定しうる

  (2) 訴訟法に規定がないときに、規則を制定することができる

⇒77条1項の41条に対する特則としての効果

  2 裁判所法と内部規則制定権

 ○ 基本的な組織に関しては、裁判所法で定めることになっている(76条1項)

 ○ 細則についてはどうか?

  @ 内部事項についても、裁判所法と裁判所規則の競合的所管事項とする説

  A 内部事項については、裁判所規則の排他的、専属的所管事項とする説

 

(三) 裁判所規則と裁判所法の優劣

  1 対国民的関係

   裁判所法・訴訟法は裁判所規則に優位する

  2 対内部規律(細則部分)

  (1) 法律優位説⇒かっての通説

裁判所規則よりも、法律が優位するのは当然

  (2) 規則優位説⇒現在の通説

裁判所の専門性を尊重し、かつ裁判所の独立に配慮して、裁判所規則の優位を認める

 

 ○ 実務は規則優位説である

裁判所法10条問題