憲法統治行為論第15回
甲斐 素直
財 政(その1) 国会中心財政主義
一 国会中心財政主義(憲法83条)
権力分立制は、どのような政治制度とも両立しうる。
絶対王政の下においても、権力分立は存在していた
○立法の、その規制対象者の代表の同意=議会
租税(憲法84条)は、典型的な「立法」である
→既にマグナカルタにおいて、その原始的形態が見られる
○司法権の独立
○行政の消極的定義=全国家権力から立法権と司法権を除外した概念
財政権→主権者に属する
王政の下においては、財政権は王が保有する
→英国においては、今日でも、議会の財政権は、「租税の使途指定」に限定される
手数料収入や公債の発行は、王(内閣を通じて)の専権事項
国民主権→国民は「国会における代表者を通じて行動する」→財政権の国会への帰属
二 財政権の特徴
(一) 事前、同時、事後のすべての時点における全面的な権限⇔立法は原則=事前のみ
事前⇒予算(憲法85条、86条等)
同時⇒財政状況の報告受領(憲法91条)
事後⇒決算(憲法87条2項、90条)
(二) 三権のすべてにわたる全面的な権限
司法権でさえも、財政権の国会からの独立は認められれない
参照=二重予算制度 財政法18条2項〜19条
(三) 国家機関内部の活動だけを対象とする
立法権は、実質的意味の立法=法規命令(対国民的な法規範)=を専権とする
三 法律と予算
(一) 法律と予算の特徴
1 法律の権力分立制上の特徴は、「一般性」にある
→具体的指図・命令を法律で行うことを認めた場合には、三権分立は崩壊する
法律の定める要件に該当する事態が発生すれば、その都度、法律が適用される。
2 予算は、「具体性」に最大の特徴がある
○計数で示される
○一会計年度に限る
予算の項目に該当する事態が一年度中に複数回発生しても、繰り返し適用されることはない
⇒その全体を予算額で賄う必要がある。
(二) 法律と予算の関係
1 国会は国の唯一の立法機関である(憲法41条)
対国民的な効力を持つ法規範は、法律の形で議決されなければならない。
2 契約授権(憲法85条後段)
国が債務を負担するには、国会の議決を必要とする
⇒国会による契約権限の授与原則
抽象的契約授権
→法律<財政法4条但書その他、国の債務負担を認める法律>
具体的契約授権
→予算の全科目に跨る
3 支出授権(憲法85条前段)
国費の支出は、国会の議決を必要とする⇒国会による支出権限の授与原則
抽象的支出授権
→法律<生活保護法その他、国の支出を義務づける法律>
具体的支出授権
→歳出予算<法律に対応した予算の配賦>
4 例外
(1) 抽象・具体いずれも、予算に依る授権→予算の全科目に跨る
私経済活動に属する国の活動←実質的意味の立法に属さない。
(2) 抽象・具体いずれも歳出予算に依る授権⇒予算補助
実際の交付要件は、行政庁の内部規範<要項、要領>で決められる。
41条との関係で問題がある←実質的意味の立法に属する。