憲法統治機構第16回
甲斐 素直
財 政(その2) 予算の法規範性
一 予算の法規範性
ミクロの法規範性
1 支出授権
歳出予算は、議会が行政庁に対して、国費を支出する権限を授与する点に法規範性を有している(この点については、異説はない。)
予算と法律の不一致
抽象的支出授権は法律の権能⇒法律がない限り、予算が成立していても支出はできない。
具体的支出授権は予算の権能⇒予算がない限り、法律が成立していても支出はできない。
法律は長期の国益を考えて制定される。
予算は、その年度の国益を考えて制定される。
⇒不一致はそのずれから発生する。問題を熟考する第二のチャンスといえる。
2 契約授権
予算は、議会が行政庁に対して、国に債務を負担させる権限を授与する点に法規範性を有している。(通説は、法律もそうした権限授与の効力を持っているから、予算だけの性質ではない、と考えている。⇒財政法15条参照)
予算に依る契約授権の種類
○予算総則<債務保証など、原則として支出を必要としない場合>
○歳出予算<物品購入など、その年度に支出を必要とする場合>
○歳入予算<国有財産売払など、その年度の歳入原因となる場合>
○継続費<自衛艦建造など、契約対象期間が数年間に跨り、年割額がある場合>
→支出授権は、それぞれの年度の歳出予算に依り行われる。
各年度の歳出予算の使用残額の翌年度以降への繰越ができる。
○繰越明許費<建物建築など、契約の対象期間が2年間に跨る場合>
→支出授権は、契約の行われた年度の歳出予算に依り行われる。
○国庫債務負担行為<上記以外の国の債務負担を目的とする場合>
→契約対象期間が2年以上5年以下で、年割額がない場合
継続費との違い
各年度に必要となる支出授権が予算上明らかにされていない点、
各年度の歳出予算の使用残額の翌年度への繰越が原則としてできない点
(二) 予算法律説について
上記の「具体性」という予算の本質を把握していない点で誤っている。
立法論として、予算法律説を導入することの問題点について
○ 諸外国で、予算を法律としている→予算の修正は予算にしかできない。
⇒法律と予算の不一致を防止できない=予算を法律とする実益はない。
○ 予算で法律を改正できるとする制度を憲法的に導入することは可能(例:仏)
⇒租税法を、予算用の簡略な手続きで改正できるという欠陥が生ずる。
○ <その逆の場合>法律で予算を定めることができる
⇒決算を見ない限り、特定年度の財政規模の全体が見えないことになる(例:米)
二 内閣に予算提出「権」があるとする見解について
問題点
○ 国会中心財政主義に反する。
○ 憲法87条は、明らかに「義務」についての規定である
⇒権利の根拠規定と解するのは文言上無理がある。
○ 内閣の作成する予算案は、内閣の指揮監督下にある行政庁に限られない
→衆議院、参議院に加え、裁判所、会計検査院までも含まれている。
⇒内閣の本来の権限と見るのには無理がある。
三 予算の増額修正について
国会は、自由に増減額修正を行うことができる。
⇒国会中心財政主義の必然の結論
予算には、歳出予算ばかりでなく、歳入予算その他の科目も存在する
→そのバランスを保ち、また、予算の持つ国民経済全体に対する影響も考慮 しつつ修正すること自体が国会の責務となる。
参考:英、仏、独では、議会に増額修正権は原則として認められていない
四 予算の定義
(一) 通常の定義
「予算とは一会計年度の歳入歳出の見積もりを内容とする財政行為の準則」
問題点
○ 歳入歳出予算以外を予算で定めている現在の予算は違憲となる
○ 見積もりであって、法的規範性を否定している
(二) 私見による予算の定義
「一会計年度にかかる、国の支出及び債務負担に関する権限を行政庁に授与することを目的とする具体性ある法規範を、悉皆的にとりまとめたもの」
○ 財政準則という表現を排した
○ 「具体性」を要件とした
○ 「悉皆性」を要件とした
○ 「法規範性」を明確に認めた