憲法統治機構論第
17回甲斐 素直
財政(その
3)公の財産の支出・利用の制限(憲法89条)
一 前段→政教分離原則(憲法
20条3項)の財政的確認規定20条1項、3項、89条:⇒89条に言う「宗教団体」とは何か
(一) 欧米の考え方
国家と宗教団体の分離
(二) 日本の通説
国家と宗教の分離
欧米と同様の基準による場合
「憲法
(箕面忠魂碑=最判平成
5年2月16日=百選T 108頁)
学説
「宗教上の事業もしくは活動を行う共通の目的を持って組織された団体」
(芦部信喜『憲法』
282頁)」
二 後段→文字通りに理解すると、私学補助は違憲ということになる。
1 違憲説
○ 清宮四郎:
同旨:宮沢俊義、法学協会、青山武憲、槙重博等。
○ 伊藤正己:
補助を、経常費補助と非経常的な補助とに区分し、経常費補助については本説に従いつつ、非経常的な補助については公の支配に服しない団体にも支出可能とする
2 財政統制説
83条の国会財政主義の再確認に過ぎない、と理解する
小嶋和司:
「国家機関による財政上の処分については、個別的処分に対してまで詳細な執行統制がなさるべきものである。けれども、私的自主性を尊重すべき私的事業に対しては、それほど具体的な執行統制をなしがたい。しかも、慈善・教育・博愛の事業の場合には、その目的の公共性の故に、・包括供与・がなされやすい。アメリカにおいては、それがなされて私的団体や議員の利権行為となったが、そのような統制離脱行為を防止するところに本規定の目的が存し、したがって、本規定の言う・公の支配・とは、一般の財政処分が服するような執行統制にまで服することを条件とすると考えるべきものである。」
同旨:橋本公亘、佐藤幸治、中村睦男、阪本昌成等
3 公の性質説
「公の支配」という言葉を、教育基本法
6条の「公の性質」と読み替える。 兼子仁:「『公の支配』の概念も、教育条項との調整に基づく体系的解釈によって決する余地がある。そこで、現行教育制における私立学校の性質が問題となる。教育基本法によれば、国立私立を問わずすべて・法律に定める学校は、公の性質を持つもの・である(第6条第1項)。すなわち現行教育法は、国公立学校教育は公共的なものであるが、私立学校は私事である、という態度をとらず、両者をひとしく公共的なものとしているのである。・中略・補助条件は、私立学校が教育の自由を土台とする公教育制度として十分な規制を受けていれば足りることとなる。」とした上で、現行の私学は、第1に、私立学校法によりその設立主体は特別法人たる「学校法人」に限られ、その設立、管理組織、解散、合併、収益事業について法令の規律と所轄庁による監督がなされていること、第2に、学校法人として教育基本法等が国公立学校と同様に適用になること、および第3に公費補助を受けた場合には、それにともなう所轄庁の監督に服することを根拠に、公の支配に属していると結論する。
同旨:清水睦、上田勝美
これらの説の問題点
第1 憲法の邦文にも、そして次節に詳しくは述べるが、英文にも適合しない
第2 本条に国会中心財政主義を制約する機能は全く無く、無意味な規定となる
第3 教育以外の事業について、どの様に考えるのかが示されていない
第
4 現に行われている私大に対する経常費補助を合憲とすることは出来ない第
5 公金が支出された限度で、その使途に関して国会の財政監督に服する必要がある
4 公の監督説
「公の支配」という言葉を、「公の監督」と読み替え、公的監督制度が存在している場合には、
83条の財政統制が不可能な場合にも、公的資金の支出が可能と考える。