統治機構論第
18回甲斐素直
政党論(政党と財政憲法)
政党が民主政治において重要な役割を果たしていることにかんがみ,政党助成金の交付を受けるためには「党首を党員の選挙によって選出しなければならない」との条件を法律で定めたと仮定する。この法律の合憲性について論ぜよ。
(平成
15年度司法試験問題)一 政党の憲法的基礎
(一) 「政党」を、憲法
21条にいう結社の一種と理解する説「政党とは共通の政治的意見を持つ人々が、その意見を実現するために組織する政治団体である」(戸波江二『憲法』新版
「政党等の政治結社は、政治上の信条、意見等を共通にする者が任意に結成するものであって、その成員である党員等に対して政治的忠誠を要求したり、一定の統制を施すなどの自治機能を有するものであるから、各人に対して、政党等を結成し、又は政党等に加入し、若しくはそれから脱退する自由を保障するとともに、政党等に対しては、高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をすることのできる自由を保障しなければならない」(日本新党繰り上げ当選事件最高裁平成
7年5月25日判決)
(二) 現実の立法
現実の政党関連の立法では、しかし、上記のような単なる政治結社をすべて政党というという考え方はとられていない。
1 政治資金規正法
3条1項に言う「政治団体」「一 政治上の主義もしくは施策を推進し、支持し、またはこれに反対することを本来の目的とする団体
二 特定の公職の候補者を推薦し、支持し、またはこれに反対することを本来の目的とする団体
三 前二号に掲げるものの他、次に掲げる活動をその主たる目的として組織的かつ継続的に行う団体
イ 政治上の主義もしくは施策を推進し、支持し、またはこれに反対すること。
ロ 特定の公職の候補者を推薦し、支持し、またはこれに反対すること。」
2 政治資金規正法
3条2項にいう「政党」「一 当該政治団体に属する衆議院議員または参議院議員を
二 直近において行われた衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙若しくは比例代表選出議員の選挙または直近において行われた参議院議員の通常選挙若しくは当該参議院議員の通常選挙の直近において行われた参議院議員の通常選挙における比例代表選出議員の選挙若しくは選挙区選出議員の選挙における当該団体の得票総数が当該選挙における有効投票の総数の
3 政党助成法
2条にいう「政党」この法律において「政党」とは、政治団体(政治資金規正法
一
当該政治団体に所属する衆議院議員又は参議院議員を五人以上有するもの二
前号の規定に該当する政治団体に所属していない衆議院議員又は参議院議員を有するもので、直近において行われた衆議院議員の総選挙(以下単に「総選挙」という。)における小選挙区選出議員の選挙若しくは比例代表選出議員の選挙又は直近において行われた参議院議員の通常選挙(以下単に「通常選挙」という。)若しくは当該通常選挙の直近において行われた通常選挙における比例代表選出議員の選挙若しくは選挙区選出議員の選挙における当該政治団体の得票総数が当該選挙における有効投票の総数の100分の2以上であるもの
4 公職選挙法
86条に言う「政党」衆議院(小選挙区選出)議員の選挙において、次の各号のいずれかに該当する政党その他の政治団体は、当該政党その他の政治団体に所属する者を候補者としようとするときは、当該選挙の期日の公示又は告示があつた日に、郵便等によることなく、文書でその旨を当該選挙長に届け出なければならない。
一
当該政党その他の政治団体に所属する衆議院議員又は参議院議員を5人以上有すること。二
直近において行われた衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙若しくは比例代表選出議員の選挙又は参議院議員の通常選挙における比例代表選出議員の選挙若しくは選挙区選出議員の選挙における当該政党その他の政治団体の得票総数が当該選挙における有効投票の総数の100分の2以上であること。
二 トリーペルの
4段階説と政党の法的性格(一)
トリーペル(H.Triepel=1868-1946)政党に対して国法のとる関係
@ 敵視(Bekaempfung)段階
A 無視(Ignorierung)段階
B 承認及び合法化(Anerkennung und Legalisierung)段階
C 憲法編入(verfassungsmaessige Inkorporation)段階
(二) 政党概念の理念別分類
1 社会団体説
政党=21条にいう政治結社
○ 個人の自由権の延長線上で理解⇒任意的非営利集団=社会団体
2 公的性質説
単なる私的団体ではなく、一定の公的性格を有するとする理解
(1) 国家機関説
政権担当能力という面に端的に現れてくるところの国家機関としての側面を重視
⇒政党は、その根拠たる憲法秩序に適合されることが要請される
例:ドイツ基本法9条2項
目的または活動において刑法に違反する結社、または憲法的秩序若しくは国際協調の精神に違反する結社は禁止される。
例:イギリス野党の組織する影の内閣(Shadow Cabinet)
⇒国庫から報酬が支払われる
(2) 媒介機関説
「憲法の定める代議制民主制の下における議会主義政党(以下政党という。)は、代議制民主制の担い手として不可避的かつ不可欠の存在であつて、国民主権の理念の下に(1)公共的利益を目的とする政策、綱領を策定して、国民与論を指導、形成する(2)政治教育によつて国民の政治意識を高揚し、国民個人を政治社会たる国家の自覚ある構成員たらしめる(3)全体の奉仕者たる公職の候補者を推薦する(4)選挙により表明された民意に基いて政府を組織し、公約を実行する等の諸機能を営むことを本来の任務とし、まさに公共の利益に奉仕するものである。代議制民主政治の成否は、政党の右の任務達成如何にかかるといつても過言ではない。」
(八幡製鉄政治献金事件東京高裁昭和41年1月31日判決)
(三) 政党の性格と政党補助
1 社会団体と理解する場合、
そのうち、特定のものだけを補助対象とすることは、平等原則違反
⇒政治資金規正法や政党助成法は違憲となる。
2 政党に公的性格を承認する場合、その公的性格の故に補助の対象になる
(1) 国家機関性を承認=国家機関として負担している費用については、その実費を国家は補償する義務がある
(2) 媒介機関的性格を承認=媒介機関的活動に対しては、補助を与えても良い
三 財政憲法と政党助成
(一) 問題の所在
憲法
83条⇒国費を支出する場合には、その国費については国会のコントロールが及ばなければならない。
議会主義政党
43条)=博愛〈すべての人を平等に愛すること〉団体⇒全国民を代表する(憲法
憲法
89条⇒「公の支配に服さない限り」政党助成はできない。
(二) 政党の媒介機関性と政党内民主主義
今日の政党国家において、一般国民の有する選挙権は、実際にはどの政党を選ぶかの選択権に過ぎない。
⇒ 政党の内部における候補者選出過程が民主主義的に行われる保障が存在しなければ、公職選挙がいかに民主主義の理念に性格に則って行われようとも、為政者の選出にあたって民主主義的に行われていることにはならない。
⇒ 政党のその媒介機関性を重視するならば、政党の内部意思形成にあたっも、当然に民主主義的要素が重視されることになる。
⇒ 民主主義的な適正手続きが政党内で保障されていない限り、公的資金による助成を行うことは許されない。
「政党によるその所属員の除名について、その政党の規則、綱領等の自治規範において、除名要件に該当する事実の事前告知、除名対象者からの意見聴取、反論又は反対証拠を提出する機会の付与等の民主的かつ公正な適正手続が定められておらず、かつ、除名がこのような手続に従わないでされた場合には、当該除名は公序良俗に反し無効であると解すべきである。前記の日本新党による被上告人の除名は、日本新党の自治規範である党則の規定に除名について民主的かつ公正な適正手続が定められておらず、かつ、民主的かつ公正な適正手続に従ってされたものではないと認められるから、無効である。したがって、これが有効であることを前提としてされた本件当選人決定は、その存立の基礎を失い、無効に帰するものというべきである。」
(日本新党繰り上げ当選事件=東京高裁平成