憲法統治機構論第21回

甲斐 素直

地方公共団体及びその機関と権限

ポイント
 地方自治について、今日もっとも注意を要する点は、平成11年度に抜本的な改正があったことである。そのため、それ以前の憲法学説や判例は、今日の地方自治法を違憲といわない限り、採用することが不可能になっているものが多い。不注意に、昔の判例に盲従すると、自動的に落第答案になる。
 本日は、現行地方自治法の概略を説明する。

 

一 普通地方公共団体(地方自治法1条の3)

 都道府県=市町村の二重構造

(一) 市町村

   基礎的地方公共団体(2条3項)

 

(二) 都道府県

   市町村を包括する広域的地方公共団体(5項)

 

二 普通地方公共団体の事務(2条2項)⇒2000年から大改正

(一) 自治事務(2条8項)

 地方公共団体が自主的に処理すべき事務

 

(二) 法定受託事務(2条9項)

 法律又はこれに基づく政令により普通地方公共団体が処理すべきものとされる事務

国から地方公共団体への委託=対等当事者間の委託

○従来存在していた機関委任事務は全廃された

  国の指揮監督の下に、国の機関として地方公共団体の長が委任されていた。

 

三 普通地方公共団体の機関

(一) 議会と長

  1 二元的代表制の構造

 憲法93条

   議会の議員

   直接公選制

   行政部の長

      都道府県=知事、市町村=市町村長(139条)

 

   これは憲法上の要請である

→それ以外の地方自治は許されない。

 町村総会制(94条)はなぜ許されるのか?

住民自治→直接民主制

 

  2 議会の権限

  (1) 議決権→議決事件(96条)

議会はすべての事項に権限を有するのではなく、特に重要な事項に限られる。

議会は、条例により、議決事項を定めることができる。

  (2) 選挙権(97条1項)

  (3) 意見表明権(99条)

 公益事件に関する意見書の提出権

  (4) 同意権等

@ 同意権

 ○長の期限前の退職に対する同意(145条)

 ○長の行う、副知事、助役、出納長、収入役、監査委員、公安委員、人事委員、公平委員、教育委員等の選任に対する同意

 ○長の行う職員の賠償責任の免除に対する同意

A 承認権

 ○長の職務を代理する副知事又は助役の期限前の退職(165条1項)

 ○長の専決処分に対する同意(179条3項)

B 許可権

 ○議長・副議長の辞職(108条)

 ○議員の辞職(126条)

  (5) 諮問答申権(206条、229条、243条の2)

議会は、長の諮問があった事項について意見を述べなければならない。

  (6) 検査権(98条)

  (7) 調査権(100条1項)

@ 書類・計算書の検閲

A 報告の請求

B 監査の請求

  (8) 不信任議決権(178条)

  (9) 請願受理権(124条)

  (10) 自律権

 

  3 長の権限

当該地方公共団体を統括し、これを代表する(147条)

  (1) 担任事務(149条)の管理及び執行

  (2) 拒否権

@ 一般的拒否権

 条例(16条→176条1項〜3項)、予算(219条→176条1項〜3項)

A 違法な議決又は選挙の拒否権(176条4項)

B 不当な財政上の議決に対する拒否権(177条)

  (3) 専決処分権

議会の権限に属する事項を長が代わって行うこと

@ 法律の規定による専決処分権(179条)

A 議会の委任による専決処分権(180条)

  (4) 議会解散権(178条)

 

 

(二) 多元主義

 行政委員会制(同180条の5)

 1 都道府県&市町村共通に置かれる委員会

  (1) 教育委員会(同180条の8)→地方教育行政の組織及び運営に関する法律

  (2) 選挙管理委員会(同181条)→公職選挙法

  (3) 人事委員会(202条の2第1項)or公平委員会(同条2項)

  (4) 監査委員<独任制>(195条)

 2 都道府県に置かれる委員会

  (1) 公安委員会(180条の9)→警察法

  (2) 地方労働委員会(202条の2第3項)→労働組合法、労働関係調整法

  (3) 収用委員会(202条の2第5項)→土地収用法

  (4) 海区漁業調整委員会(同上)→漁業法

  (5) 内水面漁業管理委員会(同上)→漁業法

 3 市町村におかれる委員会

  (1) 農業委員会(202条の2第4項)→農業委員会等に関する法律

  (2) 固定資産評価審査委員会(202条の2第5項)→地方税法

 

(三) 地方有権者集団

 1 個々の有権者に認められる権利

  (1) 選挙権(18条)、被選挙権(19条)、

  (2) 住民監査請求(242条)→住民訴訟(242条の2)

 2 有権者の50分の1以上の請求で認められる権利

  (1) 条例の制定・改廃請求権(74条)

  (2) 事務の監査請求(75条)

 3 有権者の3分の1以上の請求で認められる権利

  (1) 議会の解散請求権(76条)

  (2) 議員の解職請求権(80条)

  (3) 長 の解職請求権(81条)

  (4) 役員の解職請求権(86条)

役員:都道府県の場合=副知事、出納長、公安委員

     市町村の場合 =助役、出納役

   両者共通   =選挙管理委員、監査委員、

  (5) 特別法により認められる役員の解職請求権

教育委員、海区漁業調整委員、内水面漁業調整委員

 

 

四 特別地方公共団体

(一) 特別区(地方自治法281条)

 通常の市の権限のうち、公共事務、団体委任事務及び行政事務の一部

 

(二) 地方公共団体の組合(284条)

普通地方公共団体又は特別区が、その事務を処理するにあたり、単独で処理するより共同で処理した方が行政上の効率を向上させ得る場合に、協力して設ける複合的地方公共団体

   ⇒組合構成員たる地方公共団体とは別の法人格が認められる点に特徴

  1 一部事務組合(284条2項、286条)

 普通地方公共団体又は特別区が、その事務の一部を共同して処理するため、これらの地方公共団体を構成員として設立する組合をいう。一部事務組合は、その協議により規約を定め、都道府県の加入するものにあっては総務大臣、その他のものにあっては都道府県知事の許可を得た特別地方公共団体であり、法人格を有する。すなわち、規約で定められた事務を共同処理するために必要な範囲において権利義務の主体となり得る。この場合において、一部事務組合内の地方公共団体につきその執行機関の権限に属する事項がなくなったときは、その執行機関は、一部事務組合の成立と同時に消滅する。

  2 広域連合(284条3項、291条の2)

  様々な広域的ニーズに柔軟かつ効率的に対応するとともに、権限委譲の受け入れ体制を整備するため、平成7年6月から施行されている制度。都道府県、市町村、特別区が設置することができ、これらの事務で広域にわたり処理することが適当であると認められるものに関し、広域計画を作成し、必要な連絡調整を図り、総合的かつ計画的に広域行政を推進する。

  3 全部事務組合(284条5項、291条の14)

  4 役場事務組合(284条6項、291条の15)

 全部事務組合及び役場事務組合については、昭和34年10月1日以降、現実には存在していない。

 

(三) 財産区(294条)

町村合併を推進する手段として、従来特定地域の住民の利用に今日されてきた旧町村の財産または公の施設について、新市町村に移管せず、従来の慣行に従ってその管理権を旧町村に残したため、これに独立の法人格を認めたもの

 

(四) 地方開発事業団(同298条)

普通地方公共団体が、新産業都市の建設など、地域開発の要請に応じて、その根幹となる事業を総合的、一体的に実施するため、二以上の地方公共団体が協力して設ける地方公共団体

⇒理事制を採用し、弾力的事業運営を可能にするため、予算制度、会計制度に特例を認めた点で、一部事務組合と異なる。