第10回 憲法人権の基礎理論
甲斐素直
報道の自由とマス・メディアへのアクセス権
7年問題)放送法は、放送番組の編集にあたって「政治的に公平であること」「意見の対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」を要求している。新聞と対比しつつ、視聴者及び放送事業者のそれぞれの視点から、その憲法上の問題点を論ぜよ。
(司法試験平成
一 マスメディアと表現の自由
報道機関には、本来は、表現の自由が認められる
意見表明の自由が認められる⇒社説
編集の自由 が認められる。
12条)。編集:
新聞、雑誌、テレビ・ラジオ番組等を作るために、素材(例えば取材によって集めた事実)を一定の方針の下に取捨選択し、形式を整えて配列すること。そこに創造性が認められる結果、編集者に著作権が認められる(著作権法
しかし、巨大マスメディアについて、なおそう言えるか
⇒マスメディアの保有する報道の自由とは、客観的事実の報道の自由
二 マスメディアの報道の自由における特権的地位
(一) 取材の自由とその特権
1 わが国における具体的権利化
本会議における傍聴(憲法57条)⇒国会法52条(委員会の傍聴)
裁判所における傍聴(憲法82条) 参照→レペタ事件百選T 156頁
2 博多駅事件取材フィルム提出命令(昭和44年11月26日)百選T 158頁
3 西山記者事件(最判昭和53年5月31日) 百選T 162頁参照
(二) 発表の自由とその特権
1 月刊ペン事件(最判昭和56年4月16日=百選146頁参照)
公共の利害に関する事実を緩やかに認定する。
2 夕刊和歌山時事事件(最判昭和44年6月25日=百選144頁参照)
真実性の証明ができなかった場合の救済策
3 北方ジャーナル事件(最大昭和61年6月11日=百選148頁)
事前抑制禁止の法理
三 巨大マス・メディアにおける表現の自由の制限
情報の発信者が極端に特定のマスメディアに限定されている社会にあって、当該マスメディアに意見表明の自由や編集の自由を認めるときは、その社会の構成員の「知る権利」が大きく侵害されることになる。
(一) 電波メディアにおける基本的独占性と表現の自由の制限
電波はきわめて限られた周波数しか使用可能ではない、という意味で、貴重な公共の財産であり、そのような貴重な公共材の私物化はとうてい許容できない。その結果、表現の自由は大幅に制限されることになる。
1 電波メディアは、放送法の定めるところにより、政治的問題等に関して、特定の党派の主張を支持するような社説を表明することは許されない。
報道内容が、特定の党派に有利になったり不利になったりすることは許されない。
⇒テレビ朝日報道部長放言事件と国会喚問
2 視聴者に特定の印象を与えるような編集権の行使は許されない。
⇒TBS報道特集におけるサブリミナル手法使用事件
3 誤った放送と、その訂正義務
これらの原則に反する報道がなされた場合、どのようにして是正したらよいか?
テレビ朝日事件における国会の喚問のように、国家権力の介入による不偏不党の確保は、形を変えた検閲という事態に過ぎず、角を矯めて牛を殺すものとなる。
考えられる対策
@ 中立機関による介入・・かっては電波監理委員会という独立行政委員会が設け られ、これが放送の監視に当たっていたが、廃止になった。
A 国民自身の手により実質的に不偏不党性を確保する、情報管理の手法が何か考えられる必要がある。真実に反する報道により被害を受けた者自身がマスメディアへ直接アクセスし、正しい放送を行わせる権利を認めればよい。
⇒放送内容の訂正請求権(放送法4条)
(二) 印刷を利用した巨大マスメディア(=新聞)に、どこまで、この法理は類推適用 されるか?
1 不偏不党性
新聞協会倫理綱領によって貫かれる必要があるとされている。
2 真実に反する報道が行われた際に、被害者からのアクセス権は認められるか。
名誉毀損と謝罪広告の強制(判例T 78頁)
3 サンケイ新聞事件(判例T 166頁)
自由民主党が産経新聞に、共産党を狙い打った意見広告を掲載したのに対して、共産党が産経新聞に、同じ位置に同じ大きさの広告を無料で乗せるように請求した事件
4 投書欄、投稿欄等による読者の意見の紙面への反映
四 マスメディアへのアクセス権の法制化
法律で、要件等を明確化すれば、国民の知る権利が非常に強い事項に関して、情報を保有する者は、その保有する情報の発信手段として、マスメディアを利用できる。
実例:公職選挙法150条
○ アクセス権が存在する場合、マスメディアは報道の義務を負うから、その限度で、マスメディア側の編集権は縮減する。
⇒NHK政見放送編集事件(最判平成2年4月17日=百選346頁)
参照=放送法
第1条(目的) この法律は、左に掲げる原則に従って、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達をはかることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由 を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発 達に資するようにすること。
第2条 (定義) 略
第2条の2 (放送普及基本計画) 略
第3条(放送番組編集の自由) 放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることはない。
第3条の2(国内放送の放送番組等) 放送事業者は、国内放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと
二 政治的に公平であること
三 報道は事実を曲げないですること
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにす ること
2項 放送事業者は、テレビジョン放送による国内放送の放送番組の編集に当たつては、特別な事業計画によるものを除くほか、教養番組又は教育番組並びに報道番組及び娯楽番組を設け、放送番組の相互の間の調和を保つようにしなければならない。
3項 放送事業者は、国内放送の教育番組の編集及び放送に当たつては、その放送の対象とする者が明確で、内容がその者に有益適切であり、組織的かつ継続的であるようにするとともに、その放送の計画及び内容をあらかじめ公衆が知ることができるようにしなければならない。この場合において、当該番組が学校向けのものであるときは、その内容が学校教育に関する法令の定める教育課程の基準に準拠するようにしなければならない。
4項 放送事業者は、テレビジョン放送による国内放送の放送番組の編集に当たつては、静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するための音声その他の音響を聴くことができる放送番組及び音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組をできる限り多く設けるようにしなければならない。
第3条の3(番組基準) 放送事業者は、放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準(以下「番組基準」という。)を定め、これに従つて放送番組の編集をしなければならない。
2項 放送事業者は、国内放送について前項の規定により番組基準を定めた場合には、総務省令で定めるところにより、これを公表しなければならない。これを変更した場合も、同様とする。
第
3条の4(放送番組審議機関) 放送事業者は、放送番組の適正を図るため、放送番組審議機関を置くものとする。2
項 審議機関は、放送事業者の諮問に応じ、放送番組の適正を図るため必要な事項を審議するほか、これに関し、放送事業者に意見を述べることができる。3
項以下 略
第4条 放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によって、その放送により権利の侵害を受けた本人又はその直接関係人から、放送のあった日から二週間以内に請求があったときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項が事実でないかどうかを調査して、その真実でないことが判明したときは、判明した日から二日以内に、その放送をした放送設備と同等の放送設備により、相当の方法で、訂正又は取消の放送をしなければならない。
放送事業者がその放送について真実でない事項を発見したときも前項と同様とする。
2項 放送事業者がその放送について真実でない事項を発見したときも、前項と同様とする。
3項 前二項の規定は、民法 (明治二十九年法律第八十九号)の規定による損害賠償の請求を妨げるものではない。
第45条 協会がその設備又は受託放送事業者の設備により、公選による公職の候補者に政見放送その他選挙運動に関する放送をさせた場合において、その選挙における他の候補者の請求があつたときは、同等の条件で放送をさせなければならない。
第52条 一般放送事業者がその設備により又は他の放送事業者の設備を通じ、公選による公職の候補者に政見放送その他選挙運動に関する放送をさせた場合において、その選挙における他の候補者の請求があつたときは、料金を徴収するとしないとにかかわらず、同等の条件で放送をさせなければならない。
第56条 第4条第1項の規定に違反した者は、50万円以下の罰金に処する。
2項 前項の罪は、私事に係るときは、告訴がなければ公訴を提起することができない。