憲法人権編第14回

     甲斐素直

学問の自由と大学の自治

一 学問の自由の概念内容

(一) 学問の自由の分類

表現の自由 学問の自由
@ 情報受領権→ 学問的真実の研究の自由
A 情報収集権→
B 情報発信権 → 研究成果発表の自由  教授の自由
成果刊行の自由

 情報受領者として、学生の存在は、学問の自由の当然の構成要素である。その意味で、学生は当然学問の自由の主体ということができる。

(二) 学問の自由の限界

  1  「公共の福祉」の制約に服することは当然

    心臓移植

    P4問題(遺伝子操作) 学問研究が社会に深刻な影響を与える可能性がある

   ダイナマイト・原爆

    遺伝子操作・クローン

  問題は、公共の福祉の判断権者

「時の政府の政策に適合しないからといって、戦前の天皇機関説事件のように、学問研究への政府の干渉は絶対に許されてはならない。『学問研究を使命とする人や施設による研究は、真理探究のためのものであるという推定が働く』と解すべきであろう。」(芦部信喜156頁)

⇒時の為政者に判断権を認めることは許されない

通説

 「研究者の自主的・倫理的な自己規制に委ねるべきである」

(注解法律学全集 憲法U 121頁)

     学問内部における自主規制?  倫理委員会等

「人クローンについて、クローン技術等の規制に関する法律」の合憲性

  少数説

「知の統制という重要な人権を規制するという点でも、倫理的・社会環境的に逸脱した研究を明確にするという点でも、法律によって規制することが必要である。法律でルールが設定されることによって、研究の限界が明らかにされ、かえって研究が促進されるという効果も期待される。」(戸波江二279頁)

  2 国公立大学教授の研究成果発表の自由と国家公務員法102条

(三) 初等・中等教育機関の教員と教授の自由

 判例=限定的な肯定説

「子どもの教育が教師と子どもとの間の直接の人格的接触を通じ、その個性に応じて行わなければならないという本質的な要請に照らし、教授の具体的内容及び方法につきある程度自由な裁量が認められなければならないという意味においては、一定の範囲における教授の自由が保障されるべきことを肯定できないではない」

として、23条の教授の自由が教員にも存在するとしつつ

「大学教育の場合には学生が一応教授内容を批判する能力を備えていると考えられるのに対し、普通教育においては、児童生徒にこのような能力がなく、教師が児童生徒に対して強い影響力、支配力を有することを考え、また、普通教育においては、子どもの側に学校や教師を選択する余地が乏しく、教育の機会均等をはかる上からも全国的に一定の水準を確保すべき強い要請があること等に思いをいたすときは、普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されないところといわなければならない」

として、文部省による画一教育の必要性を優越させている

(旭川学テ事件=最大51年5月21日より引用=百選U300頁参照)

 疑問点その1 新たな研究ではなく、他人の作った教科書を判りやすく教えることが学問的研究成果の教授と言えるか?

 疑問点その2 捕らわれの聴衆に教授する自由を、憲法が保障することがありうるか

→教授の裁量権は、23条ではなく、26条教育を受ける権利の内容として、教員側に認められるべきものである(佐藤幸治第3版510頁)。

(四) 家永教科書訴訟と研究成果刊行の自由(百選T 190頁及び192頁参照)

  1 教科書として出版する自由と検閲の該当性

  2 メディアの種類による情報伝達力の差異

 

二 大学の自治〈制度的保障〉

(一) 制度保障説にいう制度の核心

○ 制度的保障説は、数ある学説のひとつに過ぎない。

@制度的保障説の他に、A機能的自由説(高柳信一他)、B23条・26条説(兼子仁、永井憲一他)、C教師団自治説(佐藤功)、D結社の内部運営の自由説(阪本昌成)等

○ 他説からの制度的保障説に対する批判点

 第一に、制度的保障といいながら、その不可侵の中核が何かを論じていない。

 第二に、仮に大学制度が、制度的保障にいう制度であるとするならば、小学校教育から大学教育までの全ての制度が制度的保障の対象となるのではないか。

 →論文を書くにあたっては、こうした批判を意識して理由付けを行う要がある。

(二) 団体自治

  井上正治九大学長事務取り扱い発令延期事件

(東京地裁昭和48年5月1日判決=百選188頁)

(三) 大学の自治の主体(研究者自治)

 わが国における大学の自治における慣行=教授会が最終的な意思決定機関として活動

   →教授だけが大学の自治の主体ではない。

 →助教授、講師、助手、大学院生については異論がない

  ○ 学部学生の主体性

   ポポロ事件最高裁判例(百選T 184頁参照)

    =学生は、単に大学という営造物の利用者であって、自治の主体ではない

   疑問点=教授の自由としての学生の存在の不可欠性

しかし、学生は教授の自由の対象として考慮すれば足り、独立の主体として評価する必要はない。

(四) 大学の自治の範囲

  自治の4要素

    自主立法権、

自主行政権、

自主司法権(内部的懲罰権)、

自主財政権

 特に問題となるのが、自主財政権が国立大において、どの限度で認められるかである。

⇒独立行政法人化は一つの回答である。

 

三 大学の施設管理権と警察権

東大ポポロ事件

(一)行政法上の警察の概念

  1 行政警察とは

 一般に「公共の安全と秩序を維持するために、一般統治権に基づき、人民に命令し、強    制し、その自然の自由を制限する作用」(田中二郎『行政法』下Uより引用。)

⇒特別権力関係による命令ではなく、一般統治権に基づく命令である点に特徴

  警察概念の細分類

交通警察:交通の円滑と安全保持のための警察作用(陸上、海上、航空)、

警備警察:社会、公共の安全、特に要人の警備等を中心とする警察作用、

保安警察:上記以外の一般的な警察作用、例えば風俗、少年、暴力団、公害、麻 薬、選挙、地域活動等に関するもの

公安警察:国家組織の安全に対する障害又は危険の除去のために行われる警察作 用、例えば政治的な集会、結社、言論、出版、集団示威運動の取締り等

  したがって、警察活動を行うのはいわゆる「警察」だけではない。

   ⇒ほとんどの省庁が警察活動を行う

総務(特に消防・防災監督)厚生労働(薬品・麻薬・食品衛生監督等、労働基準監督等)、経済(鉱山保安監督)、農水(森林警察等)、国土交通等

 《参考》司法警察:犯罪の捜査・被疑者の逮捕等を目的とする刑事司法権に従属する作 用を言い、行政警察とは基本的に異なる概念である。cf.刑訴法189〜190条

  2 警察作用の限界に関する原則

    警察作用は典型的な侵害行政に属するので、厳しい制約が課せられる。

  (1)警察消極の原則:警察権の行使は自由主義のもと、厳密に法の定める目的に限って行使可能である。例えば、食品衛生法上の警察権はあくまでも食品衛生を確保する限度においてのみ行使が認められ、食品店相互間の過当競争防止などの福祉目的に使用することは許されない。

  (2)警察責任の原則:警察は、警察違反Polizeiwidrigkeitの状態にあるときにのみ、その状態発生に関して警察責任Polizeihaftungある者に対してのみ発動しうる。この原則から、重要な三つの派生原則が導かれる。すなわち

 ア 私生活不可侵の原則

 イ 私住所不可侵の原則

 ウ 民事不介入の原則 である。

  (3)警察比例の原則:警察権は、除去されるべき障害に対比して、普通の社会人を標準として是認できる程度にとどまらなければならない。例えば、その発動は、通常の社会人をして耐え難いとみなすほどの障害が発生して初めて是認され、その際に認められる強度も侵害の程度に応じて最低必要限度にとどまらなければならない。

(二) 大学構内における警察権の行使

 大学は治外法権を有するものではない以上、一般的に警察権行使の対象となる。

   ⇒大学は、少なくとも一般私人が警察権の行使を拒むことができる限度において、 学内への警察権の介入を拒む権利を有する

  例:パトロール中不審者を見つけてこれを追跡したところ、大学構内に逃げ込んだ場合、警察は速やかに大学職員等の了解を得、あるいは立ち会いの下でなければ大学構内の捜査はできない。

(三) 大学構内における警察目的の情報収集活動と東大ポポロ事件について

 一般人に公開されている大学構内の、一般人を対象として実施されている祭事に警察が平穏に出席することが、問題となるか。

四 部分社会の法理と大学の自治

   昭和女子大生退学事件(百選T 26頁)

   富山大学経済学部単位認定事件(百選U 404頁)