憲法 人権論
24回甲斐素直
平 等 権
一 法の下の平等の理念
法=law:法の支配rule of law 〜 法定手続保障due process of law
○ 自然法思想⇒自然法そのもの
○ 実証法思想⇒実体的正義
(一) 現行憲法の下における実体的正義=憲法の基本理念
基本原理=個人主義
派生原理
◎ 自由主義
形式的平等
機会の平等
機械的平等
◎ 福祉主義
実質的平等
条件の平等
結果の平等
*福祉主義に基づく平等は、14条ではなく、25条で読む考え方もある。
(二) 相対的平等
○ 憲法は私人間を拘束しない
⇒配分的正義を問題とする=絶対的な平等を要求するものではない。
”等しいものを等しく、等しからざるものを等しからざるように扱え”
法の一般性
⇒同一類型に属する人〜生活関係に対して、類型的に同一の指図規律を与える。
(三) 法の下の平等の意義
1 平等権か、平等原則か
平等原則=国政の指針を定めた客観的な法原則
平等権 =個人の主観的な公権
2 平等原則説(通説)
平等権は、常に他者との比較においてのみ成り立つものであり、したがって実体的な権利性を持たない。そこで、平等権はそれ自体としては無内容(あるいは無定型)であり、単一の権利概念としては成り立たないから、憲法14条は端的に平等原則を定めたものと解しておけば足りる。
⇒絶対的平等の否定=相対的平等
⇒関わり合いのある権利・利益に対する規制の不合理さをいっているに過ぎない
3 平等権説
@ 権利侵害といわなければ司法救済が得られないのではないか?
A 平等権として権利救済が得られるのは、平等原則違反の場合よりも狭い
⇒平等権侵害を主張できるのは列遇されているものだけであり、求める内容は標準的処遇までである。
○ 論文を書く場合に、平等権説に言及する必要はない。しかし、通説・判例である平等原則説に、このような反対説が存在することを意識して、きちんと理由付けをした文章を展開するよう、配意するべきである。
二 14条の立法権拘束性について
平等原則が、立法権をも拘束することは、それが実体的正義である以上当然のことである。単にその程度に触れれば十分であって、独立の論点として書くのは妥当ではない。
理由1: これは佐々木惣一説(佐々木「憲法学文選一」有斐閣31年刊、参照)を念頭に置いているが、現在、この説を採る人はいない。
理由2: 佐々木説によると、前段の「すべて国民は法の下に平等であって」までで切って、これが法律の適用における平等権を保障している、と読む。
後段の人種、信条以下の部分は、『生活規制無差別の権利』という平等権とは別の権利で、こちらの方は立法者も規制する権利と解釈する。すなわち、この説の場合にも全面的に立法者非拘束と読む訳ではないので、この説に論及する場合には、かなり複雑な議論をする必要があり、論文の焦点がぼける。
三 平等権の主体
一部の人々は、憲法上、あるいは実定法上不平等な取扱いが予定されている。
1 天皇・皇族
2 公務員、被拘禁者(特別権力関係)
3 未成年者
4 外国人
5 団体
一般に人権主体論として論じられるものであり、必ずしも平等権に密着した議論ではない。しかし、余裕があるときには、書けば点になる。事例問題として出題されている場合に、これらが主体となっているときは書かなければ合格点に達しない。
四 平等権における審査基準
(一) 米国の場合
1 社会的少数者に対する差別
⇒厳格な審査基準(キャロリーヌドクトリン)
2 その他一般的な差別の合理性が問題になる場合
⇒中間審査基準=厳格な合理性基準
3 ただし、経済的自由の分野における差別
⇒狭義の合理性基準
(二) 日本の従来の通説的理解=三分説
1 精神的自由権ないしそれに関連する権利
厳格な審査基準
2 経済的自由権ないしそれに関連する権利
狭義の合理性基準
3 両者の中間領域
中間審査基準=厳格な合理性基準
(三) 14条1項後段特別意味説=近時支持者を増やしている考え方
@ 精神的自由やその他の基本的人権及び、飲酒、信条、性別、社会的身分または門地」について、法が差別しているという主張がなされたときは、裁判所は、それが不快な差別にあたるとして、合憲性の推定を排除した厳格な審査を行うべきこと
A 差別されたと主張される権利や利益が右の範疇に含まれない場合でも、裁判所は、個別に、事件ごとに、単なる合理性の基準によらない厳格度を増した合理性の基準を採用すべきこと
(戸松秀典『平等原則と司法審査』
325頁より引用)この説の場合でも、経済的自由などについては、狭義の合理性基準が適用される。
参照:『憲法学説に聞く』(日本評論社2004年刊)28頁以下=戸松発言部分
(四) 芦部信喜説
「厳格な基準の適用が求められる憲法14条1項後段の列挙事由以外の事由(たとえば財産、学歴、年齢など)による取扱い上の差違が平等原則違反で争われる場合でも先に述べた『二重の基準』の考え方に基づき、対象となる権利の性質の違いを考慮して、立法目的と立法目的を達成する手段の二つの側面から合理性の有無を判断するのが妥当と考える。
すなわち、精神的自由権ないしそれと関連する権利(選挙権など)について平等原則違反が争われる場合には、原則として立法目的が必要不可欠なものであるかどうか、立法目的達成手段が是非とも必要な最小限度のものかどうか、を検討することが必要である。それ以外の問題、とくに経済的自由権の積極目的規制について平等原則違反が問題とされる場合には、国会に広い裁量が認められるので、立法目的が正当なものであること、目的と手段の間に合理的関連性(事実上の実質的な関連性であることを要しない)が存することを、をもって足りるとする基準(合理的根拠の基準)でよいと解される(ただし、消極目的規制の場合は『厳格な合理性』の基準が適用され、立法目的が重要なものであること〔ここに言う重要とは、政党よりも審査が厳しく、不可欠よりも弱い、という趣旨である〕、目的と手段との間に実質的な関連性が存することを要求されるものと考えられる。」
(芦部信喜・第3版125頁)
五 判例に見る平等原則
(一) 人〜生活関係に関する類型の設定が問題になる場合
1 薬局 の距離制限=違憲(最大昭和50年4月30日)百選4版202頁
2 公衆浴場の距離制限=合憲(最大昭和30年1月26日)百選4版194頁
3 小売市場の距離制限=合憲(最大昭和47年11月22日)百選4版200頁
(二) 指図〜規律に関する類型の設定が問題となる場合
1 尊属差別は合憲だが、尊属殺重罰規定は違憲
(最大昭和48年4月4日)百選4版62頁
2 議員定数差別は合憲だが、一定比率を超えては違憲
衆議院につき、最大昭和51年4月14日百選4版326頁
参議院につき、最大平成 8年9月11日百選4版330頁
3 法律婚が合憲だから、非嫡出子差別も合憲
最大平成7年7月5日百選4版64頁
上記の通り、最高裁判所の判例は、平等権に関しては、原則として狭義の合理性基準ないしそれを若干強化したものを審査基準として採用しているとみられる。
ただし、下級審では、通説的な立場を取るものが見受けられる。
参照: 非嫡出子相続分訴訟(東京高裁平成5年6月23日判決)
「社会的身分を理由とする差別的取扱いは、個人の意思や努力によつてはいかんともしがたい性質のものであり、個人の尊厳と人格価値の平等の原理を至上のものとした憲法の精神(憲法13条、24条2項)にかんがみると、当該規定の合理性の有無の審査に当たつては、立法の目的(右規定所定の差別的な取扱いの目的)が重要なものであること、及びその目的と規制手段との間に事実上の実質的関連性があることの二点が論証されなければならないと解される。」