憲法統治機構 第1回

         甲斐 素直

統治の基本(その1) 自由主義と唯一の立法機関

 

 国会の持つ三つの地位

代表機関性(憲法前文)

立法機関性

最高機関性

 

一 国の唯一の立法機関

(一) 自由主義と立法権の意義 

 旧憲法の考え方=帝国議会のいう立法とは「法律」という法形式である。

憲法が「法律」事項としたもの〈憲法における「法律の留保」〉

 ⇒法律によらない限り行政は制限することができない。

法律事項としていないもの(例:信教の自由[28条])は行政限りで制限できる。

 

(二) 二重法律概念

○ 実質的意味の立法権=法規命令=Rechtsatz=を国会は独占する。

○ 形式的意味の立法については、国会は独占はしないが、国会が法律という形式 で定めた場合には、他の立法形式に優越する。

 法規命令を具体的にどのように理解するか→学説による差異

○佐藤幸治

「法規とは、国民の権利・義務を定める規範を重要な構成要素とするが、国家と機関との関係に関する法規範をも包摂する概念である。〈中略〉次に一般的性格を持つことを重要な構成要素とする。」『憲法』青林書院

○清宮四郎

「直接に国民を拘束し、または、少なくとも国家と国民の関係を規律する一般的法規範である」『憲法I』[第3版]有斐閣、法律学全集2

○芦部信喜

「およそ一般的・抽象的な法規範をすべて含む」『憲法』岩波書店

○戸波江二

「実質的意味の法律を、国民の権利義務に関する法規範と解するか、一般的抽象的法規範と解するかは、行政組織・作用に関する規定が法律事項となるかどうかという点をのぞいて、実質的に大きな違いはない。〈中略〉立法権の範囲を拡大しつつ、国民の権利義務関係を重視している権利義務説が基本的に妥当であると解される。」『憲法』新版、ぎょうせい

 

  1 区分のメルクマールその@

   対国民的な効力を持つ法規範か否か

  (1) 実質的意味の立法とは、

「直接に国民を拘束し、または少なくとも国家と国民の関係を規律する」法規範

  (2) 形式的意味の立法とは、

「国家機関内部だけを規律する」法規範(内部規則)

@ 立法機関内部を対象とする法規範=議院規則 (58条2項)

A 司法機関内部を対象とする法規範=裁判所規則(77条)

B 行政機関内部を対象とする法規範=行政規則 (講学上の名称)

    内部規則であって、国会が立法権を有する法規範

憲法66条  ⇒内閣法等、

憲法76条1項⇒裁判所法(76条1項)等

 

  2 区分のメルクマールそのA

   一般性ある法規範か否か

 ※一般性=2重の一般性

一般的な人々に対して、一般的な指図規律を行う。

実際には、法は人々を類型化し、その範囲内で同一の取り扱いを行うので、そのことを考慮すれば定義は「類型的に同じ範囲に属せしめられた人々及び生活関係について、類型的に平等な指図・規律を行う」とするのが実際的である。

  (1) 実質的意味の立法とは

 一般性ある法規範

  (2) 形式的意味の立法とは

個別具体的な法規範(特定性ある法規範)

@ 行政行為

A 司法行為

特定性ある法規範であって、国会が立法権を有する法規範

 予算(86条)

 

(三) 国会による「立法権の独占」原則の派生原則

  1 国会中心立法主義

  国の立法は、すべて国会によって行われる。

⇒国会が立法権を独占し、国会以外のものが立法する事を認めない

 

  (1)法規命令と行政立法の関係

     「法の支配」(法治主義)

       執行命令(第73条第6号本文)

       委任命令(同但し書き)

裁判所規則による執行命令ないし委任命令の制定(第77条第1項)

 

白紙委任の禁止(文字通りの白紙委任の外、網羅的な列挙も白紙委任である)

 ナチスに対する授権法(議会による立法権の放棄)

 人事院規則に委任した国家公務員の政治基本権の制限(国家公務員法102条)

 

←他の憲法原理による修正

地方公共団体の条例(地方自治法2条2項3項)

会計検査院規則  (会計検査院法38条)

 

  (2) 国会中心立法の例外ないし適用外

 

    制度の根拠
@ 議院規則 (58条2項) 内部規則
A 裁判所規則 (77条) 内部規則
B 条例 (94条) 地方自治
C 条約 (73条3号) 国際慣習法
D 憲法改正 (96条) 法律より上位の法規範

 

 

  2 国会単独立法主義

  国の立法は、すべて国会によって行われる。

⇒立法は、他の国家機関の関与なしに、国会の議決だけで行う

 

  (1) 憲法41条の59条1項による補足

   →大日本帝国憲法6条「天皇は法律を裁可し其の交付及び執行を命ず」

   37条「すべて法律は帝国議会の協賛を経るを要す」

41条及び59条1項が存在する結果、

○ 法律に対する主任の国務大臣の署名等(74条)は、立法の効力に影響しない。

○ 法律の、天皇による交付(7条1号)は、立法の効力に影響しない

 

  (2) 国会単独立法の例外ないし適用外

  

    制度の根拠
@ 地方自治特別立法 (95条) 地方自治
A  条約       (73条3号) 国際慣習法
B 憲法改正     (96条) 上位の法規範
C 内閣の法律案提出権(72条) 議院内閣制