統治の基本構造第14

                        甲斐素直

司法機関の組織と権限

一 裁判所の組織及び権限

(一) 簡易裁判所

 1 所在地

   大幅な整理統合が進行中であるが、現在のところ、全国で438庁ある。

地方裁判所に併設されているもの 253

独立の簡易裁判所 185

 2 権限

(1) 民事事件=訴額が140万円未満の事件(裁判所法第33条第1項第1号)

ア 簡易裁判所の訴訟手続きに関する特則(民訴270条以下)

イ 少額訴訟の特則(民訴368条以下)

 裁判所は,債権者の申立てによって,金銭の支払を命ずることができる。

(2) 刑事事件

ア 法定刑が罰金以下の刑事事件(同第2号)

イ 法定刑に罰金が選択刑として定められている罪について、罰金以下の刑を言い渡す場合

ウ 刑法130条の罪若しくはその未遂罪、同186 の罪、同235 の罪若しくはその未遂罪、同252 、第254条若しくは第256条の罪、古物営業法31条〜33 までの罪若しくは質屋営業法30条〜32 までの罪に係る事件又はこれらの罪と他の罪とにつき刑法541 の規定によりこれらの罪の刑をもつて処断すべき事件においては、三年以下の懲役を科することができる。

エ 令状の発付(刑訴199条等)

○ 略式手続き(刑訴461条以下)

刑事事件に関しては,被告人に異議がないときに限り,検察官の請求により,その管轄に属する事件について証拠書類だけを調べて50万円以下の罰金又は科料を科することができる。

 3 簡易裁判所判事(裁判所法45条)

 多年司法事務にたずさわり、その他簡易裁判所判事の職務に必要な学識経験のある者は、前条第一項に掲げる者に該当しないときでも、簡易裁判所判事選考委員会の選考を経て、簡易裁判所判事に任命されることができる。

 4 民事調停委員(民事調停法第3条)

 

(二) 地方裁判所

 1 所在地

   本庁=都道府県庁所在地+函館、旭川、釧路の計50

   支部=本庁の事務の一部を本来の所在地を離れて処理する施設。現在203庁ある。

 2 権限=第1の事実審

(1) 第1審事件=高裁または簡裁が第1審とされているもの以外の事件

   ア 行政事件(裁判所法3311号括弧書き)

   イ 訴額が140万円を超える民事事件(同1号)

   ウ 不動産に関する訴訟(裁判所法241号)

   エ 訴額の算定ができない事件(民訴82項)=非財産権上の事件等

   オ 罰金より重い刑に当たる刑事事件(ただし内乱罪を除く)

(2) 控訴事件=簡裁が第1審の民事事件

 3 単独制(原則)

   但し、次の場合に合議制の例外となる(裁判所法第26条)

   ア 法定刑が短期1年以上の懲役もしくは禁固以上の罪に係る刑事事件

   イ 簡裁が第1審である民事事件の控訴事件及び抗告事件

   ウ 他の法律で合議事件とされる事件 例:裁判官の除斥忌避(民訴23条以下)

   エ 合議体で審理及び裁判をする旨の決定を合議体でした事件

(三) 家庭裁判所

 1 所在地

   本庁 =地裁所在地に同じ(併設されている場合と別にある場合とがある)

   支部 =地裁支部に併設されており、したがって全部で203庁ある。

   出張所=家事審判事件のみを取り扱う出先機関。全部で 79庁ある。

 2 権限

(1) 家事審判事件(家事審判法参照)

(2) 少年事件(少年事件)=一部の支部ではこれを取り扱わない。

   ア 少年保護事件

   イ 少年に関する成人の犯罪に関する刑事事件(少年法第37条第1項)

 3 人事訴訟法(平成164月からの新権限)

 婚姻の無効及び取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消しの訴え並びに婚姻関係の存否の確認の訴え

 嫡出子の否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法773条の規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え

 養子縁組の無効及び取消しの訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効及び取消しの訴え並びに養親子関係の存否の確認の訴え

 4 単独制の原則と合議制の例外

(四) 高等裁判所(旧制度の控訴院に相当)

 1 所在地

   本庁=東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松の8カ所に設置

   支部=金沢(名古屋)、岡山、松江(広島)、宮崎、那覇(福岡)、秋田(仙台)

 2 権限

(1) 控訴事件(裁判所法第16条第1項第1号)=第2の事実審

   ア 地方裁判所の第1審判決に対する控訴

   イ 家庭裁判所の少年法371項に関する判決に対する控訴

   ウ 簡易裁判所の刑事判決に対する控訴

(2) 抗告事件(同第2号=判決以外の裁判である決定及び命令に対する上訴)

   ア 地裁及び家裁の決定及び命令に対する抗告

   イ 簡裁の刑事に関する決定及び命令に対する抗告

(3) 上告事件(同第3号)

=法律審=事実関係についての原審判断の拘束(民訴321条)

      簡裁が第1審となる民事事件の上告

(4) 第1審事件

ア 内乱罪に関する事件(同第4号)

イ 特別の法律で、高裁が第1審とされているもの

・選挙または当選の効力に関する訴訟(公職選挙法第203条以下)

・地方公共団体のリコールに関する訴訟(地方自治法第85条)

ウ 東京高等裁判所が第1審裁判所とされているもの

・公正取引委員会による審判(独占禁止法第85条)

・公害等調整委員会の裁定に対する訴訟(鉱業権等に係る土地利用の調整手続き等に関する法律第57条)

・高等海難審判庁の裁決(海難審判法第53条)

・特許庁の審決(特許法第178条等)

・電波法に基づく総務大臣の処分または決定(電波法第97条)等

 3 合議制(裁判所法第18条) 原則として3名(内乱事件については5名)

(五) 最高裁判所

 1 組織

(1) 大法廷(裁判所法第9条) 15名の最高裁判所判事全員で組織

(2) 小法廷(同上) 5名の最高裁判所判事で組織(第1〜第3

大法廷と小法廷の職務の分掌については裁判所法10条参照

(3) 付置機関

   ア 事務総局(裁判所法13条)

   イ 研修機関(裁判所法14条〜14条の3

  司法研修所、裁判所書記官研修所、家庭裁判所調査官研修所

   ウ 最高裁判所図書館 (同第14条の4

 2 権限(裁判所法第7条)

(1) 上告事件=法律審(民訴311条、刑訴405条)

   ア 権利上告(民訴312条、刑訴405条)

⇒上告却下(民訴316条)、上告棄却(同3172項)

   イ 上告の裁量的受理(民訴318条、刑訴406条)

(2) 特殊な上告

ア 飛躍上告(民訴3112項、刑訴406条)

イ 特別上告(民訴327条)=簡易裁判所が第1審事件の高等裁判所における上告審判決に対し、憲法違反を理由とする場合に限り認められる最高裁への上告

(3) 抗告(民訴328条、刑訴411条等)

二 審級制

上級審が、上訴に基づいて下級審の裁判を審査するにあたり、

(一) 事実審:原審の事実認定の当否をも見直す場合をいう。

控訴裁判所の事実取調の権限(例えば刑事訴訟法393条、民事訴訟法293条)

(二) 法律審:原審の手続や判断に違法があるかどうかだけを審査する場合をいう。

上告理由の制限(刑事訴訟法405条、406条、民事訴訟法312条)

  •   実質的証拠法則:法律審は、自ら事実についての調査を行うことはないが、事実審の行った事実に経験則等に反して合理性がない場合には、さらなる調査を命じて差し戻す権限がある。

  •  

    三 行政機関による裁判

     「行政機関は終審として裁判を行うことはできない(762項後半)」

    (一) 行政機関は前審として裁定を行うことができる

    (1) 公正取引委員会による審判(独占禁止法)

    (2) 海難審判庁による海難事件審判(海難審判法)

    (3) 特許庁による特許審判(特許法121条以下)

    (4) 公害等調整委員会の活動の一部

              (鉱業権等に係る土地利用の調整手続き等に関する法律57条)

    (二) 実質的証拠法則を導入することもできる

    私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律80条参照