維新の風雲財政録 幕末編

甲斐素直

[はじめに]

 従来、幕末と呼ばれる時代について語る時は、井伊大老と安政の大獄の関係を除くと、十把一絡げに幕府と薩長側の対立という把握をされていました。しかし、実はこの時代には、幕府側においては、それ以前の時代に比べると、めまぐるしいほどに政権の担い手が変わるのです。そして、政権の担い手が変わるごとに、幕府の内政、外交、財政に関する政策も、また激しく左右に揺れ動いていきます。

 また、それ以前の時代では、財政問題は、比較的独立性が強く、他の政策と切り離してそれだけを考慮することが可能でした。そこで、先に連載した「幕府財政改革史」では、まさに財政だけを取り出して検討の対象としていました。しかし、幕末にはいると、財政もまた、国の総合的な政策の一環として機能するようになります。

 そこで、本稿・幕末編においては、幕府における政権の担い手ごとに章を設け、それぞれの時代の内政・外交の動きを紹介し、それらを財政がどのように支え、またはそれらから財政がどのような影響を与えられたか、という点を関連づけながら、それぞれの時代について物語っていきたいと思っています。

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