ドイツにおける法曹養成制度改革について

-制度の概要-

甲斐素直

目次

[はじめに]

一 法曹という用語について

二 改革の経緯

三 ドイツ裁判官法の改正内容

一) 第5条 裁判官職就任資格(Die Befähigung zum Richteramt

(二) 第5a条 大学教育(Studium

三) 第5b条 実務修習(Vorbereitungsdienst

四) 第5d条 試験(Prüfung

四 試験の実態

(一) 司法試験(Erste Juristische Staatsprüfung

  1 実施時期

  2 正式受験

  3 空打ち受験

  4 必修科目について

  5 大学実施重要科目試験の内容について

(二)  実務修習(Vorbereitungsdienst

(三) 2回試験(Zweite Juristische Staatsprüfung

[おわりに]

 

[はじめに]

 わが国において、法科大学院制度の導入に代表される法曹養成制度の改革が現在進行中であるが、ドイツでも、時を同じくして法曹養成制度の改革が進行中である。

 すなわち、法曹養成制度改革法(Gesetz zur Reform der Juristenausbildung)は、2002321日に連邦議会で可決され、同年426日に連邦参議院の同意が得られたことから、法律として成立し、同年717日に公布された(BGBl. I S.2592)。これにより、法曹養成制度に密接に関連するドイツ裁判官法(Deutsch Richtergesetz)及び連邦弁護士法(Bundesrechtsanwaltsordnung)並びに大学枠法(Hochshulerahmengesetz)の三法が同時に改正され、これらは200371日に発効した。

 ドイツでは、第2次大戦後、今日までの間に、何度か小規模な制度改革は行われてきた。しかし、今次改革は、「19世紀以来の抜本改革」であり、「大学における法学教育の根本的な位置づけ改革であり、新しい学問段階への出発ないし回帰」であるとまで評価される大規模な改革である*1。このように、わが国と同時期に、同様の大規模改革が実施されているのであるから、それを他山の石として研究、紹介することは、わが国の今後の法曹養成制度の健全な発展にも大いに記するところがあると信ずる次第である。

 ドイツは連邦国家であり、教育権は各州に属する。すなわち上記に紹介した連邦法は、いわゆる枠立法(Rahmengesetz)である。したがって、具体的な法曹養成制度の改革は、この立法の枠内で、各州がそれぞれに独自の法曹養成法等の名称の州法ないし大学教育に関する州法などを定めることで、現実の制度が成立することになる。

 しかも、この枠立法によれば、詳しくは本文で述べるが、各大学でそれぞれ重要科目を決定し、それについての司法試験は、各大学で実施し、最終合格に対して30%の比重を持つとされている。

 したがって、ドイツにおいて現在行われている法曹養成制度改革の内容は、各州レベルにおけるそれらの法律、さらに、個別の大学ごとに行われている現実の改革を把握しない限り、理解できないことになる。筆者は、その観点から、バイエルン州及びミュンヘン大学、ハンブルク市及びブチリウス・ロースクール*2、ノルトライン・ヴェストファレン州及びビーレフェルト大学の各制度の実態を調査した。本稿においては、連邦レベルにおける枠立法に沿った形で、その概要を紹介することとしたい。

一 法曹という用語について

 日本において、法曹という用語を使用する場合には、一般に法曹三者、すなわち、裁判官、検察官及び弁護士のみを意味することが多い。しかし、ドイツで法曹(Jurist)というときには、一般にこれよりも広義に使用される。上記法曹三者に加え、行政官(Verwaltungsbeamte)、すなわち日本でいえば国家公務員Ⅰ種採用試験合格者(法律職)に相当する者、経済法曹(Wirtschaftjurist)、すなわち日本でいえば企業内弁護士といわれる職種、公証人(Notar)、大学教員(Hochschulleher)、国会・大学・教会の行政担当者(Parlamentsverwaltung, Universitätsverwaltung, Kirchverwaltung)という広範囲の職種を、法曹と呼ぶのが一般である。

 なぜなら、以下に説明するとおり、これらはいずれもドイツ裁判官法が規定する同一の法曹資格試験制度に合格することより、その職に就くことが可能になるからである。特に、一般の弁護士と、経済法曹を区分して論ずるのは、これが、実務修習(Vorbereitungsdienst)を、それぞれ異なる場で受けることになるからである*3

 ドイツの場合には、第2次大戦後、「はじめに」でも述べたとおり、法制養成制度の改革が繰り返されている。前回の改革は、19921120日公布(BGBl. I S.1926)の法曹養成短縮法(Gesetz zur Verkürzung der Juristenausbildung)によるものであった。同法では、法曹養成期間がそれまでより短縮され、同時に必修範囲が縮減された。以下の説明においては、同法との比較を適宜行う。

二 改革の経緯

 そもそも、ドイツにおける法曹教育は、その根拠法がドイツ裁判官法であることに端的にしめされるとおり、もともと裁判官養成を目的とするものであった。しかし、第2次大戦後、ドイツにおける法学部進学者が急増したこともあって、現実問題としては、法学部で法曹の基礎養成コースを終了した学生の大多数は、経営者やジャーナリスト、外交官など多方面に進み、現実に法曹への道を歩むものは、比較にならないほどの少数に留まるようになったのである*4。そこに今回の改革の基本的な必要性が存在していた。

 改革に向けた議論は、上述した法曹養成短縮法が成立した直後から、早くも始まった。改革に向けて特に重要な影響を与えたのが、1997年に公表された、いわゆる「ラーデンブルグ・マニフェスト(Ladenburger Manifest)」*5である。これは30人以上に上る大学教授、連邦憲法裁判所長及びその他5つの連邦最高裁判所長並びに弁護士会の代表が加わって作成したものであった。また、1998年にブレーメンで開かれた司法学会でも、「法曹養成制度」という部会を設け、その時点における法曹養成制度の問題点を指摘した*6

 こうした流れの中で、自由民主党(FDP)は、ドイツの政党としては最初に、法曹養成制度の改革法案を2000年にまとめた(以下、「FDP案」という。)*7

 EU法相会議は、20001123日、ブリュッセルで開かれた会議で、当時の2段階法曹養成方式の改善を決議した。ついで、トリーアで2001611日から13日まで開かれた会議で、より詳細度を増した改善方向を決議した。連邦参議院では、これを受けて、2001927日に、ドイツ裁判官法及び連邦弁護士法の改正案を決議した(以下、「連邦参議院案」という。)*8

 当時、連立政権を構成していた社会民主党(SPD)と連帯90BÜNDNIS 90/緑の党(Die Grüne)は、連邦参議院決議を参照しつつ、独自の法案を作成した(以下、「与党案」という。)*9。この与党案、連邦参議院案、それにFDP案の3案を対象に、20021月、連邦議会での審議が開始された。法務委員会(Rechtsausschuss*10 では、公聴会を実施した上で、勧告案を議決した(以下「法務委員会勧告」という。)*11。これに基づき、与党案をベースにした法案が連邦議会に提出された。これに、FDPは反対し、民主社会党(PDS*12は棄権したが、与党にキリスト教民主同盟・キリスト教社会同盟(CDUCSU)も含めた賛成多数で、2002321日に可決、成立することになる*13。さらに、連邦参議院も、同年426日に同法を承認した結果、200371日から施行されることとなった。

三 ドイツ裁判官法の改正内容

 今次改正に基づく法曹資格試験制度は、ドイツ裁判官法のうち、裁判官職への就任資格を定めた第5条と、それに続く5a条、5b条及び5d条の枝番として、定められている。以下、各条文と、その改革以前との相違点等を逐条に説明する*14

(一) 第5条 裁判官職就任資格(Die Befähigung zum Richteramt

1)裁判官職に就任する資格は、大学において法学教育を受けた者が、司法試験*15に合格し、引き続いて実務修習(Vorbereitungsdienst)に従事した後、第2回試験に合格することにより得られる。司法試験は、大学による重要科目試験と国による必修科目試験により構成される。

2) 大学教育及び実務修習は、その内容を相互に調整しなければならない。

[解説]

  1 司法試験受験のための要件

 わが国では、旧司法試験においては、大学における一般教養の履修(ないし司法試験1次試験に合格すること)のみが受験資格であった。新司法試験制度の導入に伴い、始めて、法科大学院において法学教育を受けることが要件化された。これに対し、ドイツでは、従来から司法試験を受験するためには、大学において法学教育を受けることが条件とされていた。今次改革においても、この点は変更がない。

  2 司法試験の構成

 わが国の法曹教育では、司法試験と、その合格に引き続いて行われる司法修習、及びその終了時に行われる一般に2回試験と呼ばれる試験に合格することによって法曹資格が得られる。ドイツにおいても、同様の制度をとっていることが、この第1項第1文に書かれている。ここでは実務修習と訳したが、それは、基本的に、旧司法試験における修習生と同様に、国家から給与を支給される等、公務員(Beamte)類似の身分を持っている。内容的には、わが国司法修習と同種の、実務を習得させるための研修である。ただし、わが国司法修習との最大の相違は、わが国では司法研修所と呼ばれる特定施設に全合格者を集めての講義期間がある為に、その施設の収容力が第1回試験合格者の上限になるのに対し、ドイツの場合には、わが国でいう地方修習に相当するもののみであるために、そうした上限が存在しない点にある。

  3 大学実施重要科目試験

 今回の改正の最大の特徴は、第1項第2文に現れている。すなわち、従来の司法試験は、必修科目試験と選択科目試験に分かれていた。今次改正でもその点に違いはない。しかし、従来の選択試験を、大学実施重要科目試験という制度に改革した点が、最大の特徴である。すなわち、従来は選択科目試験についても州が実施主体である点では、必修科目試験と違いはなかった。それに対し、大学実施重要科目試験とは、何が選択科目に属するかを各大学が決定し、さらに、それに対する実際の試験も、各大学が主体となって実施するということを意味する。

 このように、大学に司法試験そのものに関与する権限を認める試験制度を新たに導入した狙いについて、与党案は、次のように説明している。

「法曹養成制度改革の基本的に指向している要素は、大学教育を締めくくる試験(Studienabschlussprüfung)を形成することである。それは同時に、大学教育の組織をより効率的なものとし、できれば養成教育に向けて一歩を踏み出す効果も有する。〈中略〉選択科目試験の実施を大学に委託することは、法学部の責任を強化する。それは同時に、選択科目領域における教育内容及び試験内容が、最近の発展を迅速かつ柔軟に反映する。法学部は、従来の重要科目が持っていたよりも著しく広い領域を取り込むことが可能になるので、それにより大学間の“質の競争(Qualitätswettbewerb)”を導入し、若き法曹が重要科目の中から自らの素質に適合した科目を選択することを可能にする。」*16

 大学教育の締めくくりの試験というレベル設定は重要である。わが国では、司法試験が、大学の講義を受けてまじめに勉強しているだけでは合格できない高いレベルの試験問題が出題されるようになっていた。そのことが法曹養成制度改革の根本的な理由であったにもかかわらず、新司法試験の問題は、依然として極めて高い難度を示しており、未修者で3年間法科大学院で勉学しただけのものはもとより、既修者として、法学部と通算すれば6年間の勉学でも、与えられた2時間ないし3時間の枠内では、合格答案を書くのが困難な試験になっていることは明らかだからである。

 もちろん、ドイツの場合、司法試験のための浪人は、授業料の不要な大学での在学期間を延ばす効果を持ち、そのために直接国家の負担になることが、こうした問題意識を国家が持つ大きな原因である(今次改革の一つ前の改革が、法曹養成短縮法であったことを見れば、これが一連の改革の原動力になっていることが判る)。

 しかし、単にそうした財政面における理由だけではなく、そもそも大学で学ぶことを大事にするという政府・与党の姿勢が、今次改革で大学実施重要科目試験という新制度を導入させたのである。

 筆者としては、この意欲的な実験が成功することを祈っている。なぜなら、これは、わが国においても必要な改革と考えるからである。筆者の勤務する日本大学法科大学院を例にとれば、法科大学院設立時に、医療、知的財産、環境権その他、社会のニーズに対応した様々な科目を豊富に用意した。受験生もそれに魅力を感じて入学してきたことは、入試時の面接に明らかであった。それにも関わらず、新司法試験が本質的に旧司法試験と変わらない厳しい試験であることが明らかになるとともに、新司法試験で選択科目とされた科目以外の受講者が極端に減少し、さらにはまったくいないという状況に転落していったのである。いま仮にドイツと同じような大学実施重要科目試験というものが、わが国にも存在していたならば、このような法科大学院としての独自性発揮のために開設した各科目は、その枠内で受験することになるから、新司法試験の選択科目に入ったか否かによる跛行現象は起こらずに済んだはずである。そうした意味でも、この制度は、極めて魅力的なものということができる。今後の推移を見守る価値があるであろう。

 ここで問題は、その導入が、本当に与党案のいうような質の競争が導けるのか、という点である。今回の調査にあたり、筆者がインタビューした各大学の教授のうち、研究所長のような指導的な立場にある教授は、どこの大学の方も、きわめて肯定的な態度をしめした。これに対し、これは単なる理想主義であり、実際には大学が自らの受験者の合格率を高めるために、低レベル化の競争を招くだけだ、という見解を筆者に漏らしたシニカルな姿勢を示す教授もいた。どちらが正しいかは、今後の時間の流れが決定することになるであろう。

  4 司法試験事務局

 国による試験という場合の、具体的な実施機関は、各州が設置している司法試験事務局である。日本では、司法試験事務局は、法務省の管轄下にあるが、ドイツの場合には若干入り組んでいる*17。すなわち、大半の州では、司法試験と2回試験は、同じ司法試験事務局が担当し、それは州法務省の管轄下にある。

 しかし、ブレーメン市、ハンブルク市、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州及びノルトライン・ヴェストファレン州では、司法試験と2回試験で実施機関を異にし、事務局の所属機関についても複雑になっている。

 すなわち、ブレーメン市、ハンブルク市及びシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州では、司法試験については、それぞれの州が事務局を有しているが、2回試験については、この21州の合同事務局を設けている。このうち、ブレーメン市の司法試験事務局は、州法務省(Senator für Justiz und Verfassung)所属であるのに対して、ハンブルク市及びシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州では、州最高裁判所所属機関とされている。

 ノルトライン・ヴェストファレン州では、司法試験事務局については州最高裁判所所属であるが、2回試験事務局については州法務省所属である*18

 いずれの州の場合にも、試験事務局設置の基本法には、その独立性を確保するために、様々な規定をおいている。

 

(二) 第5a条 大学教育(Studium

1) 大学における就学期間は4年とする。この期間は、大学における重要科目試験及び国による必修科目試験受験認可を受けるのに必要な業績を上げたことを証明した場合には、下回ることができる。少なくとも2年間は、本法の適用対象となる大学に在籍しない限り、受験資格を失う。

2) 大学教育の対象は、必修科目及び選択可能性のある重要項目の範囲である。これに加え、外国語による法学的催事(Veranstaltung)に参加するか、もしくは法学指向的な外国語の語学コースに参加したことを証明しなければならない。州法により、語学に関する専門知識を他の方法により証明することを定めることができる。必修科目は、民事法、刑事法、公法並びに民事、刑事、行政事件及び欧州法に関する訴訟法の中核部分、法学、法哲学、法史学及び法社会学の基礎である。重要項目の範囲は、必修科目と関連して大学教育を補完し、深化し、並びに法の学際的、国際的な知見を与えることに役立つものである。

3) 大学教育の内容は、司法的、行政的及び法助言的実務を考慮し、それには交渉管理、対話指導、修辞学、紛争調停、仲裁、事情聴取実習及び情報伝達能力等の鍵となる資格を含むものでなければならない。講義の空き時間には、実務教育の時間が、少なくとも合計3ヶ月間、持たれなければならない。州法において、実務教育を特定の場所でまとめて開催することを定めることができる。

4) 詳細は、州法で定める。

[解説]

  1 法学部の在籍期間

 ドイツにおいては、大学のほとんどを占める州立大学において授業料が徴収されないことも大きな原因となって、学生が5年以上の長期にわたって在学することが問題とされてきた。そのため、今回の改革に先行する法曹養成短縮法では、法曹養成のための大学教育の期間を、3年半と定めていた。今回の改革では4年とされて、半年延長となった。これについて与党案は、詳しくは後述するとおり、本条において、司法試験の内容が、従来より詳しく定められたので、それを考慮したものと説明している*19

 この4年間という期間の意義について、法務委員会報告は、司法試験は、大学教育を締め括るものという性格を有するのであるから、各州は、試験対象の範囲を、4年間の教育で習得可能な範囲に制限しなければならないと述べている*20

 第1項においては、それ以外の点は改正されていない。速やかに単位を取得して卒業することは好ましいとの観点から、最低在籍期間を2年間としているが、この点は従来から変わっていない。

  2 中間試験(Zwischen Prüfung)について

 中間試験とは、法学部における4年間の在籍期間の中間、すなわち、2年目の終了時に行われる試験という意味である。

 連邦法は、中間試験について、上述のとおり、全く述べていない。また、今回調査を行った3州のうち、バイエルン州の司法試験法は、同じく、中間試験について何も述べていない。それに対し、ハンブルク市とノルトライン・ヴェストファレン州の司法試験法は、大学実施重要科目試験の受験資格に中間試験に合格することを要求している。また、バイエルン州の場合にも、少なくとも調査を行ったミュンヘン大学の場合には、ミュンヘン大学規則において、中間試験を実施することを定めている。したがって、おそらく、一般に、ドイツのほとんどの大学に、中間試験制度が存在するのではないかと想像している。その意義及び内容については、根拠法等にしたがい、若干の差異があるので、以下個別に説明する。

  (1) ハンブルク市における中間試験

 ハンブルク市司法試験法*21第4条は、中間試験に関し、1項から6項までにわたる極めて詳細な規定をおいている。その述べていることを要約すれば、中間試験は、養成教育に必要な専門的な資質が存在していることを確定することを目的とするものであること、中間試験の細目自体は各大学の規則にゆだねられること、中間試験科目は、司法試験の必修試験の科目であること、中間試験を受験するためには、法学部入学後2年間に、必修科目に含まれる科目のうち、少なくとも3科目について単位を取得していること、中間試験の採点法は必修科目試験と同一であること、中間試験に合格するためには「4」以上の成績を取ること等が定められている*22

 要するに、大学に入学して2年経った段階で中間試験を受験し、これに落ちれば、もはや司法試験の受験資格そのものが失われるのである。厳しい制度ではあるが、法曹への適性を持たない者を早めに排除することは、本人にとっても利益になるということを考えれば、温情ある制度とも言える。

 これを受けて、ブチリウス・ロースクールでは、中間試験及び大学実施重要科目に関する学内規則を定めている*23。これは全体では27箇条あり、しかも各条が詳しい内容をもつため、A4版で11頁にわたるものである。そのうちの中間試験に関する規定は2条から8条までであるが、それを見ると、受験資格としては、入学後2年を経過した時点で、民事法4科目、公法3科目及び刑事法2科目について単位を取得していること(3条)としていて、州法に比べてかなり要件が加重されている。これを受けて、それが具体的にはどのような科目かということも、別途規定されている(4条)。公法系の場合であれば、憲法Ⅰ、Ⅱ以下、合計6科目である。また、この試験に落ちたものは1回に限り、再受験できる旨の規定もある(7条)。

  (2) ノルトライン・ヴェストファレン州における中間試験

 ノルトライン・ヴェストファレン州司法試験法*24第28条は、大学実施試験と題し、その下で、中間試験と重要科目試験を定めている。

 中間試験の内容は、少なくとも必修科目のうち、民法典、刑法典及び国家法から出題するものとし、重要科目試験の受験資格として、中間試験の合格を要求している。しかし、それ以外の細部については、すべて大学の定める規則に委託している。

 これを受けて、ビーレフェルト大学では、法学部履修及び試験規則*25を定め、その第4章(21条~27条)が中間試験について定めている。それに依れば、中間試験は可能であれば、入学後第4学期目、遅くとも第5学期に受験する(26条)。中間試験の合格は、単に大学実施重要科目試験の受験資格であるだけでなく、その後、法学部で履修を続ける要件とされている(211項)。

 試験は、監督下で行われるものと、自宅でのレポート作成に分かれる。監督下で行う試験は、民事法が3科目、公法が2科目、刑事法が同じく2科目とされている。自宅でのレポートは、学生の選択にしたがい、民事法、公法及び刑事法の中から、2科目を選択するものとされている。また、基礎法学についても監督下の試験を実施する(212項)。

 これらの科目が具体的にはどのようなものかにつては、詳しい規定がある(214項)。公法の場合、モジュールAとして統治機構論と基本法、モジュールBとして行政法総論と行政事件訴訟法、モジュールCとして欧州法が用意されている。

 ビーレフェルト大学の場合には、受験資格として、事前に一定の単位修得は要求されていない。中間試験の成績が、そのまま単位として認定される(27条)。そのためもあって、成績評価方法について、本試験と同一内容のものがわざわざ規定してあり(223項)、試験官に対し、普通の期末試験のように、合格、不合格という表記をしてはならないとされている(4項)。中間試験の合格基準は「4」以上である(6項)。

  (3) ミュンヘン大学における中間試験

 バイエル州司法試験法は、前述のとおり、中間試験について何も述べていないが、ミュンヘン大学は、ミュンヘン大学法学部における「司法試験受験に関する履修及び試験規則*26」は、その第4款を中間試験と題し、24条から36条までの、他大学と比べて、比較にならないほど詳細な中間試験に関する規則を定めている。

 第24条は適用範囲と目的と題し、次のように述べる。

「中間試験は、法律学習における基礎学習を締め括るものである。それはさらに学習を続けるための適性を検査するために行われる。それに加え、法律知識及び能力が、法律を理解し、応用できることも、証明されなければならない。中間試験の合格は、さらに法律教育を受けるための前提条件である。」

 受験するには、法学教育を受け始めてから4学期目の終了までに受験届けを行う必要がある。試験はすべて監督下の試験で、自宅レポートはない(25条)。民事法、公法、刑事法の3科目に関して、少なくとも2時間以上の試験時間がある筆記試験である(282項)。試験の採点は、二人の試験官が独立して連邦司法試験評価基準にしたがって採点し、4以上が合格である(同3項)。落ちた者は一回に限り、再受験できる(33条)。

(三) 第5b条 実務修習(Vorbereitungsdienst

1) 実務修習は2年間行われる。

2) 養成教育は、次の各号に定める必修機関で実施する。

 1.通常裁判所における民事修習

 2.検察官署もしくは裁判所における刑事修習

 3.行政官署

 4.弁護士事務所

 並びに一ヶ所ないし複数の、専門的な教育が保障される選択された機関

3) 養成教育は、適切な範囲においては、超国家的な、国家間的な、もしくは外国の養成機関ないし外国の弁護士の下でで行うことができる。ドイツの大学における法学部及びシュパイヤーの行政官養成校も、その場所とすることができる。州法により、第2項第1号における養成教育は、部分的には労働裁判所で、また同3号による養成教育は、行政裁判所、財政裁判所もしくは社会裁判所において行うことができると定めることができる。

4)必修的養成期間は最低限3ヶ月、弁護士の下における期間は9ヶ月とするが、州法において、第2項第4号による養成期間は、3ヶ月は公証人の下で、3ヶ月は企業、団体その他の養成機関で行うことを定めることができ、そこでは実務上の法助言活動に関する修習を行う実務修習は、個々的事情により避けられない理由がある場合には延長することができるが、学習成果が不十分であることを根拠にすることはできない。

5) 養成期間中に、養成講習課程を、合計3ヶ月設けることを予定しなければならない。

6) 詳細は州法により定める。

[解説]

 先に説明したとおり、実務修習は、わが国でいう司法修習に相当するものであり、その終了時点で2回試験が行われるのも、わが国と同一である。わが国の場合には、当初2年間であった修習期間が、逐次短縮され、新司法試験では1年とされている。

 ドイツでは、一般に公務員(Beamte)に就任することに対して実務修習を受けることを要求する。すなわち、連邦公務員権利統一枠法(Rahmengesetz zur Vereinheitlichung des Beamtenrechts142項の定めるところによれば、高級官職(gehobener Dienst)の場合には実務修習は3年であるのに対し、同5項の定めるところにより、中級官職(höherer Dienst)は2年とされる。したがって、司法試験の場合の実務修習期間は中級官職相当であることになる。農業技官や建築技官なども、同様の扱いとなる。

 今回の法改正の第1は、2項において、「並びに」以下の文章が追加された点である。与党案は、今時改革の目的は弁護士業務の遂行力を高めることにあるので、実務修習においても弁護士教育に力点が置かれなければならないとする。

「今回の法曹養成制度改革の根本的な目的は、法曹後継者に対し、職業上の要求、特に弁護士の実務に関する実務修習を改善することである。したがって、実務修習の枠内において弁護士教育に対し、より大きなウェイトを掛けることが必要である。従来の実務修習は、その修習を受ける機関の数及び種類において、また試験の準備において、あまりにも将来における判検事としての必要性を指向していた。それは修正されねばならない。将来に役立つ養成を保障するためには、修習生が、自らが養成を受ける上での重要領域は判検事なのか、弁護士なのか、あるいか行政官なのかの選択に応じて、修習を受ける場所を選ぶことを認めなければならない。」*27

 第2の修正点は、第4項である。この点については、与党案は、上に引用した箇所に引き続く形で、次のように述べている。

「弁護士指向型の要素は一般的に強化されることを必要とし、そのため、弁護士領域における義務的修習期間はすべての修習生に対し、12ヶ月に延長されなければならない。」

 しかし、現実には12ヶ月までの延長は実現できず、9ヶ月にとどまった。これは法務委員会報告が、修習の柔軟性を要求したためである*28

(四) 第5d条 試験(Prüfung

1) 国家試験及び大学による試験は司法的、行政的及び法助言的実務を考慮したものであって、第5a条第3項第1文にしたがい、必要な基準としての品質を有するものでなければならない。第5a条第2項第2文に抵触しない限り、試験は外国語の資格を考慮したものとすることができる。試験内容及び試験成績評価の統一性は、確保されなければならない。連邦法務大臣は、連邦参議院の同意を要する法律により、個々の試験の得点及び試験全体についての総得点を定める権限を有する。

2) 大学実施重要科目試験及び国による必修科目試験の素材は、4年半に及ぶ大学教育期間を締めくくるものであるよう、決定されなければならない。大学実施重要科目試験の少なくとも1科目は、筆記試験により行われる。国家試験としての必修科目試験は、筆記試験及び口述試験により行われる。州法で、大学在学中に試験の受験を認めることができる。ただし、それは少なくとも2年半の間、大学教育を受けた後でなければならない。司法試験の合格証明書は、大学による重要科目試験に合格したという結果と、国家試験としての必修科目試験に合格したという結果に加え、総得点を示すものであり、その得点においては、国家試験としての必修試験合格の結果は70%、大学による重要科目試験の結果は30%反映する。国家試験に合格したという証明書は、州により与えられる。

3) 第2回試験の筆記試験は、最も早い場合には養成教育期間が18ヶ月、もっとも遅い場合にでも21ヶ月目に行われるものとする。それは、少なくとも、養成教育機関における養成教育と関連する。州法が、監督下で行われる試験のほかに、自宅で作成するものを予定している場合には、その提出は最後の養成期間での養成教育が終了した後でなければならないと定めることができる。口述試験は、すべての養成教育と関連する。

4)国家試験においては、試験機関は自らの決定により、数値により算定された総得点を、総合的な印象によりその受験者の達成段階をより正しく反映すると認められた場合には、排除することができるが、この排除は、試験の合格自体には何らの影響を与えない;この場合において、第2回試験において、実務修習の成果は考慮される。排除は、平均点の3分の1以上を上回ることはできない。口述試験の成績の総得点に対する割合は、40%を上回ることはできない。追加された養成教育に対し数値により算定された点数を、第2回試験の総得点に加算してはならない。

5)国家試験は、一回に限り繰り返すことができる。国家試験に失敗したことは、受験者がこの試験を早期に出願し、予定されていた試験成績に欠落がない場合には、受験したものとはみなさない。詳細、特に出願期間、外国における大学教育期間の追加、疾病、休学及び試験の中断については州法でこれを定める。州法は、受験を、成績向上のために繰り返すことを予定することができる。

6)詳細は州法で定める。

[解説]

  1 本条2項の規定中で、もっとも問題になったのは、州が実施する必修試験及び大学が実施する重要項目試験のそれぞれに、最終合格に当たり、どれだけのウェイトを認めるかであった。与党案はそれぞれ50%ずつを予定していた。これに対し、連邦参議院案は必修試験75%、重要項目試験75%を提案していた。結局、法務委員会勧告が、その中を取る形で必修試験70%、重要項目試験30%を提案し、これが最終的に法律となったのである。

  2 本条第5項第1文は、司法試験の受験は2回までしか認められないことを定めている。3回の受験を認めるわが国現行新司法試験よりも厳しい。それを受けての第2文及び末文の規定は、日本の常識では理解しがたい。これは、俗に“空打ち(FreischussFreiversuch)”と呼ばれる受験を意味する。

 すなわち、十分な成績を上げることができても、合格と扱う必要がないということを、試験事務局に明示した上で受験することができるのである。この場合、それは受験回数に数えないので、なお2回の受験が可能になる。第2文のいう、合格できるかどうか試すための空打ちはともかく、末文にある、より成績を向上させたいという理由に基づく空打ちは、日本の常識では理解しがたい。しかし、ドイツの場合、これまで説明したように、日本に比べて司法試験合格率が高いために、合格すること自体よりも、より高い席次で合格することが重視されるため、こういうことが行われるのである。話が少しそれるが、通常の法学部が授業料が無料であるにも拘わらず、ブチリウス・ロースクールに高い授業料を払っていく者が多いのも、同校からの受験者は確実に高順位で合格していることに理由がある。

 

四 試験の実態

 上述のような法制度の下において、現実に法曹養成試験はどのように行われているかを以下紹介したい。必要に応じて、適宜ドイツ連邦法務省が公表している司法統計のデータを紹介する*29

(一) 司法試験(Erste Juristische Staatsprüfung

  1 実施時期

 わが国では、司法試験は年に1回しか行われない。これに対し、ドイツの場合には一般にかなりの回数行われるところに特徴がある。当然ながら、これは各州により異なる。

 今回調査した州についていうと、バイエルン州は年に2回である(5月及び9月)。ノルトライン・ヴェストファレン州では、文書では確認できなかったが、ビーレフェルト大学教授の話では、毎月1回実施されているということである。

  2 正式受験

 司法試験の正式受験者総数は、2005年度における12,353人で、合格者は9,015人であるので、平均合格率は73%である。州によるばらつきはかなりあり、最高はヘッセン州の83.9%、最低はザクセン=アンハルト州の60.2%となっている。

 ちなみに、2004年度の場合には受験者総数11279人で、合格者は9639人であるので、平均合格率は85.5%である。最高はブレーメン市の88.5%、最低はメクレンブルク=フォラポメルン州の75.4%となっている。

 このように、わが国に比べると遙かに合格率が高いから、ドイツの場合には、単に合格するだけでは不十分で、より良い成績で合格することが重視される。そこで、成績別の分布を紹介すると、表1のようになる。

表1 2005年度司法試験合格者の成績別一覧

  成績  人数(割合%)
sehr gut (特に優れた成績) 30人(0.2%)
gut (平均よりも著しく良い成績) 366人(3.0%)
vollbefriedigend (平均よりも優れた成績) 1560人(12.6%)
befriedigend (平均的な要求水準にかなう成績)  3392(27.5%)
ausreichend (平均には届かないが、一応満足できる成績) 3667(29.7%)
  計  9015人(100%)

 

  3 空打ち受験

 司法試験の空打ち受験者は、ドイツ全体で4398人なので、全正式受験者の356%に相当する。このうち欠落がなかったという成績を得たのは3634人(826%)である。合格レベル(ausreichend以上の成績)に達していたものは、そのうち2560人(582%)である。他方、成績に欠落があって、空打ち扱いされなかった受験者は764人(174%)である。

  4 必修科目について

  (1) 試験における必修科目の内容について

 第2項は、旧法に比べてきわめて大きな改正が行われている。前述の通り、従来から、試験科目として、必修科目(Pflichtfach)と選択科目(Wahlfach)の区別は存在していた。しかし、今次改正は、それぞれの意義及び内容を大きく変更したのである。

 必修科目に関しては、従来は「民事法、刑事法、公法並びに欧州法を含む訴訟法の中核部分」という、現在に比べると若干簡略な表現であったが、実質的には同一の内容といえるであろう。法学以下の基礎科目については、変更はない。問題は、そこにいう、「中核部分」とは何を意味するか、である。第4項に定められているとおり、それについては、具体的には各州が、その制定する法律(以下「司法試験法」と総称する。)で定めることになる。

 各州司法試験法の必修試験の内容に関する記述は、どの州もきわめて詳細なものであり、かつ、州による相違が非常に大きい。筆者は、バイエルン州司法試験事務局*30のご好意により、同局が内部作業用に作成した、ドイツ各州の全体像を一覧できる資料の提供を受けることができた。しかし、各科目ごとに巨細にわたって差異を示すものなので、それはきわめて膨大なものであって、紙幅の関係から、とうていここにそのすべてを紹介することはできない。そこで、筆者が専門とする憲法領域に関して抜き書きすることにより、全体の雰囲気を想像していただこうという意図から作成したのが、表2である。

 これを見ると、憲法の基幹というべき統治機構論と人権論については、各州とも例外なく、無制限項目として取り上げている。これに対し、憲法に深い関連を持つ個別の法律となると、ザクセン・アンハルト州が基本的知識を問う科目として取り上げているのを唯一の例外として、他に取り上げる州はない。

 憲法訴訟論は、今の日本ではもっとも活発に議論され、司法試験レベルの論文では、例えば人権論の問題が出題された場合には、先ず例外なく論点として取り上げる必要があるほどに重要性の高い領域である。まして、ドイツの場合には、れっきとした憲法裁判所が存在し、憲法訴訟法という実定法も存在しているから、より重要性は高いように思われる。それにも拘わらず、ドイツ各州の司法試験では、除外されている割合が意外に高い。すなわち、ハンブルク市及びシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州*31が無制限科目としているのをわずかな例外に、他の州ではせいぜい基本的知識を問われるに留まる。バーデン・ヴュルテンベルク州及びニーダーザクセン州の2州では、そもそも必修試験の出題対象とはされていない*32

 同様のばらつきが、本条で必修科目とされた、民事法以下のすべての法律科目について存在しているのであるから、対比表が膨大なものにならざるを得ないことが、ご理解いただけるであろう。

表2 司法試験必修科目:憲法領域における各州別の中核部分

 

 

 

統治機構

 

 

人権

 

 

国家法(政党法、集会法等)

憲法訴訟論

 

機関訴訟

 

抽象的及び具体的規範訴訟

憲法異議

 

連邦・州間訴訟

州憲法

バーデン・ヴュルテンベルク州

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バイエルン州

             

ベルリン市

 

         

ブランデンブルク州

 

         

ブレーメン市

 

       

ハンブルク市

   

 

ヘッセン州

 

   

メクレンブルク・フォアポメルン州

 

 

 

 

 

 

ニーダーザクセン州

             

ノルトライン・ヴェストファレン州

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラインラント・プファルツ州

 

 

 

 

ザールラント州

 

         

ザクセン州

 

         

ザクセン・アンハルト州

         

シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州

 

 

 

 

 

 

チューリンゲン州

 

         

●:制限無く、その全領域が出題されるもの

○:基本的な点ないし概括的知識が問われるもの

  (2) 必修科目の試験方法について

 連邦法は、司法試験に関する限り、必修科目の試験をどのような方法で行うかについては、全く定めていない。その結果、どのような方法で実施するかについては、各州の決定に委ねられることになる。表3は、ドイツ連邦法務省の作成した2005年度司法統計*33に含まれている、試験の実施方法とその最終結果に占める割合を示したものを、翻訳・転記したものである。ご覧のように、例えば筆記試験一つをとっても、最高がベルリン市など2州の9問、最低がハンブルク市など2州の3問と大変ばらつきがある。筆記試験が少ない場合には、その分、口述試験やレポート提出の比重が高まる。したがって、学生として、その得手、不得手に応じて、どこの州で司法試験を受験するかは、合否や席次に直結する重大問題となる。

表3 司法試験における試験の種類と成績評価に占める比重の概観

 

試験の種類

種類ごとの比重

バーデン・ヴュルテンベルク州

筆記試験7

口述試験(レポート提出を含む)

70

30

バイエルン州

筆記試験8

口述試験

23

13

ベルリン市

筆記試験9

口述試験

60

40

ブランデンブルク州

筆記試験9

口述試験

913

413

ブレーメン市

 

筆記試験5

レポート提出

口述試験

45

30

25

ハンブルク市

 

筆記試験3

レポート提出

口述試験

36

24

40

ヘッセン州

 

筆記試験4

レポート提出

口述試験

13

13

13

メクレンブルク・フォアポメルン州

筆記試験8

口述試験

23

13

ニーダーザクセン州

 

筆記試験4

レポート提出

口述試験

40

20

40

ノルトライン・ヴェストファレン州

筆記試験4科目

レポート提出

口述試験

40

20

40

ラインラント・プファルツ州

筆記試験8

口述試験

23

13

ザールラント州

筆記試験7

口述試験

1217

517

ザクセン州

筆記試験7

口述試験

23

13

ザクセン・アンハルト州

 

筆記試験7

口述試験(必修3問)

口述試験(選択1問)

63

21

16

シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州

筆記試験3

レポート提出

口述試験

36

24

40

チューリンゲン州

 

 

 

 

筆記試験8科目

口述試験

  ないしは*34

筆記試験5科目

レポート提出

口述試験

72

28

45

27

28

 

 この表は、しかしながら、各州の複雑な司法試験制度を、連邦法務省が、その結果だけを捉えて、かなり大胆に集約して作成しているので、その読み方が難しい(後述のとおり、内容に誤りのある場合もあるが、出典を尊重し、そのまま転記してある)。

 そこで、それぞれの州の実施方法は、実際にはどのようなものなのかについて、調査した3州の場合について紹介する。

① バイエルン州の場合

 同州は、表2では、筆記試験は8問となっている。実は、これはこの統計表が2005年現在で作られているためである。正確には2006年までは、筆記試験は8問であった。しかし、20071月以降においては、司法試験規則*35によれば、筆記試験は6科目とされている (281項)。口述試験が1科目である点は変更がない (同32条)。

② ハンブルク市の場合

 同市は、表2では、筆記試験は最低の3問となっている。

 A 同市の司法試験規則*36の定めるところに依れば、試験は、まずレポート提出1問と筆記試験3問について行われる(10a条)。

 レポートは、最終的には自分独自の判決を書くのが目的である。出題は必修科目の出題分野とされているもの及び重要科目の領域から受験者が自ら選択した分野を考慮してなされる(11条)。市が受験者に配布している「司法試験のための情報書*37(以下、「情報書」という)」によると、レポートの作業時間としては4週間が与えられる。レポートは、タイプされたものを、しっかりと綴じたものでなければならない。FDFaxE-Mailによる提出は認められない。

 筆記試験は、民事法、刑事法及び公法から出題される(同12条)。情報書によると、試験は1科目について1日が当てられ、5時間を回答に使うことができる。試験会場に、司法試験事務局が許可したコンメンタールや法令集を持ち込むことができる*38

 この試験及第者が口述試験に進むことができる。情報書によると、筆記試験1問及び筆記によるもう1問の試験(これにはレポートを含む)が、少なくとも4点以上であること、筆記試験の合計点が8点を超えていること、レポートの結果を2倍にした上で行うすべての筆記による試験の平均が3.5点を超えていることである。

 口述試験は、筆記試験終了後可及的速やかに行われる。試験委員は3名ないし4名で構成され、うち少なくとも1名は大学教員、1名は実務家である(情報書によると、委員が4名の場合には各2名、委員が3名の場合には教員1名、実務家2名になる)。同時に口述試験を行う受験生は5人を限度とする(同18条)。試験は、4つの部分(Abschnitt)から構成され、それは3つの必修科目及び受験生の選んだ選択科目である。試験は、受験者に対しそれぞれ約1時間行われ、所定の休憩時間が入る。口述試験は、法学部学生その他、正当な関心を持つものに対し、公開で行われる(同19条)。

 B 以上の説明は、冒頭に記したとおり、ハンブルク市司法試験規則に基づいて行った。それに対し、先に中間試験について説明した際には、同市司法試験法に基づく説明を行っている。これは、同市司法試験法49条(経過規定)が、200671日までに第1回試験の受験登録を行ったものに対しては、第1回の国による試験に関しては、同法が成立するまでの間、同市の司法試験を規律していた司法試験規則によるものと規定されているからである。

 したがって、2007年以降の司法試験については、上記説明とは異なる方法で行われることになる。それについて、以下説明する。

 主要な変更点は、筆記試験が6科目に増え、代わりにレポート提出が廃止されたことである(同法15条)*39。その6科目とは2問が民事法(商事法を除く)、1問が商事法、2問が公法、1問が刑事法である。各問の回答にそれぞれ1日が当てられることなど、実施方法は基本的に変更はない。

 筆記試験後に、口述試験が行われる。口述試験受験資格は若干の変更がある。すなわち、筆記試験で平均少なくとも3.8点以上であり、民事法及び商事法で少なくとも4点以上をとっており、かつ大学実施重要科目試験に合格していることである(18条)。

 口述試験の期日は、その実施の少なくとも2週間前に受験生に通知される。口述試験委員は原則として3名である。1回の口述試験に参加する受験生は、4人を超えることはない。

③ ノルトライン・ヴェストファレン州の場合

 同州は、表2では、筆記試験は4問とされ、また、レポート提出があるとされている。しかしながら、これは現行制度の説明としては誤りである*40

 同州司法試験法に依れば、国による専門科目試験は、筆記試験と口述試験で構成される。筆記試験は、口述試験受験の前提とされる(101項)。筆記試験は6問で構成される。うち、3問は民事法、2問は公法、1問は刑事法である(同2項)。レポート試験は、後述する大学実施重要科目試験ではあるが、国による試験では行われていない。口述試験は試験は、講義(Vortrag)と質疑応答(Prüfungsgespräch)で構成される。講義の出題は、民事法、公法もしくは刑事法のいずれからなされる(同3項)。

 試験委員は3名である。うち、少なくとも1名は大学教員、1名は実務家である。同時に出席する受験生は6人を限度とする(151項)。口述試験前に、受験生の人となりを知るために、個々の受験生ごとに話し合いの時間を設ける(同3項)。講義の問題は、試験日当日に受験生に渡され、準備時間を1時間与えられる。講義の時間は12分を超えてはならない(同4項)。質疑応答の時間は、各受験生ごとに約30分である。所定の休憩時間が入る。口述試験には、全試験委員が参加する(同5項)*41

  5 大学実施重要科目試験の内容について

 大学実施重要科目試験は、従来の制度は選択科目と呼ばれたものに相当し、国家試験の一環であった。従来の文言は「必修科目との関連において、学習を補充し、深める」という単純なものであったが、今回の改正で、上述のように詳しいものとなった。その実態は、第一に各州が司法試験法でどのように定めるかによって異なる。さらに第二に、各大学がその州法の定めた基準に基づいて自由に決定しうるので、当然、最終的にはドイツ全土の大学の数だけの種類があり得る。

 その実態を一覧にしたものは、筆者の知る限りでは、現在のところ存在していない。したがって、個別の大学のそれを見て、全体を推し量るほかはない。今回、実際に調査を行ったのは、ミュンヘン大学、ブチリウス・ロースクール及びビーレフェルト大学の三校であるので、その具体的な内容を紹介する。現実問題として、この3大学の所在するバイエルン州、ハンブルク市及びノルトライン・ヴェストファレン州の司法試験法は、大学実施重要科目については、連邦法の規定を簡単になぞっているだけであるので、少なくともこれらの大学については、重要科目はもっぱら大学自身の決定するところとなっている。他の州も同様であるか否かについては、調査が徹底していない。

  (1) ミュンヘン大学

 ミュンヘン大学が定めている重要科目は、表4通りである*42。全体は非常に詳細勝つ膨大なものなので、ここでは表題のみを紹介している。この具体的内容については、規則の付録という形で、必修科目と一元化して、具体的な講義計画の形で付されている。

 その内容を、最初に取り上げられている「法学の基礎」を例に紹介すれば、必修・深化科目としては、制度的歴史、近代憲法史の二つが講義科目として、法哲学講読コースが演習科目としてあげられている。選択必修科目としては、刑事法史以下9科目が講義科目としてあり、またいずれかのゼミがそれに加えられている。さらに、補完科目として筆記試験形式の問題演習が、古代ギリシャ・ローマ法史、近代ドイツ・欧州法史、法哲学・法社会学について設けられ、また、法人類学の講義がある。

表4 ミュンヘン大学の重要科目の概観

1.法学の基礎

2.刑事司法、刑事弁護及び予防措置

3.競争法、無体財産権、通信法

4.企業法:会社法、市場法、破産法

5.企業法:労働法、社会法

6.企業法:国家間、国際的および欧州における租税法

7.国際的、欧州及び外国における私法及び訴訟法

8.ドイツ及び欧州における財政法

9.欧州及び国際公法

  (2) ブチリウス・ロースクール

 ブチリウス・ロースクールの定める重要科目は、表5の通りである*43。これもまた膨大なものなので、ここに紹介したものは、表題のみである。同校の場合には、これはさらに中心講義科目と、その他の講義科目に分かれる。最初にあげてある「欧州法及び国際法」を例にとって説明すれば、中心講義項目は、欧州及び国際人権保護、欧州競争法、国際法の基礎の3科目であるが、その他の講義科目は、欧州憲法以下19科目が列記されており、しかもこれは例示とされていて、他のものが加わりうることになっている。なお、同校の場合には、司法試験対策については、別途特別講座の形で対応している。

表5 ブチリウス法科大学院の重要科目の概観

1.欧州法及び国際法

2.企業及び租税

3.経済、労働、社会

4.経済、通信、行政

5.経済刑法

6.国際取引法

  (3) ビーレフェルト大学

 ビーレフェルト大学の定める重要科目を、表題のみ紹介すれば、表6の通りである*44。同大学は、弁護士指向型教育というものを、今回の法曹養成制度改革に先行して率先して実現しようとしてきており、その経験が、この重要科目にも現れて、きわめて実務指向型の重要科目になっていると言える。最初にあげた「民事法形成と民事訴訟」を例にとって、実際の内容を紹介すれば、これは、具体的には消費者法、不動産法、家族法、相続法、民事訴訟法及び法廷外の調停手続きなどを対象とすると説明している。さらに、学生の希望があれば、企業法、国際私法及び国際民事訴訟、ないしは労働・社会法などを含めるとしている。

表6 ビーレフェルト大学の重要科目の概観

1.民事法形成と民事訴訟

2.経済法の助言

3.国際貿易と国際取引

4EUにおける財政法

5EUにおける環境法・工業法・計画法

6.移民と社会統合

7.労働と社会保護

8.刑事学

9.刑事訴訟と刑事弁護

(二)  実務修習(Vorbereitungsdienst

 わが国の旧司法試験後における司法修習と同様に、ドイツの場合には現在も修習生には俸給として国費が支給される(現在は月額900ユーロ=14万円程度)。修習期間は丸2年間である。わが国と異なり、司法試験は、わが国でいうところの国家公務員1種法律職試験でもあるので、本人の将来に対する希望により、修習先には行政庁もあるなど、きわめて多様である。ビーレフェルト大学では、コンパクトコースと称する短期法曹養成講座を開講しているが、これに参加しても、その期間、修習を受けたことになるなど、柔軟性ある制度設計となっている。

三) 2回試験(Zweite Juristische Staatsprüfung

 修習期間の最後に、2回試験があることは、わが国司法試験制度と同様である。ただし、ドイツの場合には、先に条文を示したとおり、完全に終了した時点ではない。

 2005年度の場合、2回試験受験者は、ドイツ全体では11016人で、合格者は9400人であったから、合格率は85.3%である。州によりばらつきがあり、もっとも合格率が高いのはハンブルクの922%、最も低いのはザクセン=アンハルト州の73.5%である。

 司法試験同様、2回試験の試験方法を決定する権限も州政府にある。その結果、試験方法のばらつきは表7のとおり、かなり大きなものとなっている。

表7 2回試験における試験の種類と成績評価に占める比重の概観

 

試験の種類

種類ごとの比重

バーデン・ヴュルテンベルク州

筆記試験7

口述試験(口頭弁論を含む)

70

30

バイエルン州

筆記試験11

質疑応答

75

25

ベルリン市

筆記試験8問

口述試験

60

40

ブランデンブルク州

 

筆記試験8問

口述試験

口頭弁論

813

4/13

1/13

ブレーメン市

 

筆記試験8問

口述試験

小弁論

813

4/13

1/13

ハンブルク市

 

筆記試験8問

口述試験

小弁論

813

4/13

1/13

ヘッセン州

 

筆記試験8問

弁論

口述試験

60

16

24

メクレンブルク・フォアポメルン州

筆記試験8

口述試験(口頭弁論を含む)

質疑応答

10/15

1/15

4 /15

ニーダーザクセン州

筆記試験8問

小弁論及び質疑応答

60

40

ノルトライン・ヴェストファレン州

筆記試験8科目

質疑応答

小弁論

60

30

10

ラインラント・プファルツ州

筆記試験8

口頭弁論及び質疑応答

23

13

ザールラント州

 

 

筆記試験7

口頭弁論

重要項目に関する質疑応答に基づく単独評価

質疑応答

10.5/16.5

1.5/16.5

1.5/16.5

/16.5

ザクセン州

筆記試験9問

口述試験

7/10

3/10

ザクセン・アンハルト州

 

筆記試験8問

質疑応答4

小弁論

60

30

10

シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州

筆記試験8

口述試験

小弁論

813

413

113

チューリンゲン州

 

筆記試験10

質疑応答4問

口頭弁論

10/15

4/15

1/15

 この表において、口述試験(mündliche Prüfung)と質疑応答(Prüfungsgespräch)、口頭弁論(Aktenvortrag)と小弁論(kurz Vortrag)を使い分けているが、これは原語を尊重したためであって、実際の内容の違いを反映したものではない。より正確には、その名称の下に、どのような試験を実施するかは各州の伝統等により異なっており、統一的な概念として存在している訳ではない模様である。

 筆記試験の試験科目についても、司法試験と同様に、各州に大幅な裁量が認められており、各州ごとにかなりの差異がある。さらに、現在、改革が進行中ということもあり、同一の州においても、毎年のように試験範囲の見直しが細かく行われている。このような状況にあるため、これについては、司法試験のような統一的な資料を入手できなかった。そこで、一つの例としてバイエルン州の場合を示すに止める。

 同州では、2005年度は、大分類のレベルでは、民事法(労働法及び社会法を含む)、刑事法及び刑事訴訟法、公法(行政手続法を含む)の3科目であり、租税法を除外するとされている。2006年度も基本的にはこの大分類が維持されているが、民事法に民事訴訟法を追加している。この大分類の下に、例えば民事法における債権法というような個別の法領域が列記されているが、民事法では2005年度の場合全26領域であったのが2006年度では33領域に増加し、刑事法では同じく全16領域が14領域に、公法では全16領域が13領域にそれぞれ減少し、全体としての領域数は微増に留まっている*45

 2回試験の結果として、全国的なデータは、連邦司法省が2005年度については公表している*46ので、次に紹介する。

表8 2005年度2回試験合格者の成績別一覧

試験成績

  人数(割合%)

sehr gut (特に優れた成績)

13人(0.1%)

gut (平均よりも著しく良い成績) 238人(2.2%)
vollbefriedigend (平均よりも優れた成績)

1609人(14.6%)

befriedigend (平均的な要求水準にかなう成績) 3972(36.1%)
ausreichend (平均には届かないが、一応満足できる成績) 3568(32.4%)

  計

9400人(100%)

[おわりに]

 ドイツの改革後の司法試験は、以上に紹介したように、中間試験、第1回試験、第2回試験という3段階の試験で行われている。先に紹介したように、それぞれの試験では平均7~8割の合格率であるが、この合格率を互いに乗じた総合的な合格率は、5割を切る程度となる。

 この平均合格率は、日本で2006年度に行われた第1回新司法試験合格率と同程度であり、今後、浪人の蓄積により急速により合格率が低下することを考えると、相対的に高い比率であるといえる(ドイツでは再受験を1回しか認めない)。しかし、中間試験に代表されるように、無駄に若者に青春を浪費させることなく、優秀な人材を見いだそうとして、できるだけ早い段階から、段階的に法曹に不適格な者をふるい落とす姿勢が徹底しているように思われる。

 冒頭に述べたとおり、わが国における今次司法試験制度改革は、形式的にアメリカ型の法科大学院制度を導入したのみで、アメリカにおける法科大学院制度を支えている最も重要な要素を看過しているように思われる。それは、わずか3年の法科大学院における勉強で平均8割程度が合格できる易しい試験である、ということである。それ故に、学生は法科大学院を卒業すると、司法試験を受験する前に、まず裁判所、検察庁あるいは弁護士事務所に採用になる。そこで、現場で実務訓練を受けつつ司法試験を受験するということである*47。わが国の今次改革は、いたずらに難しい試験を実施することで、その機会を学生から奪っているという意味において、間違ってもアメリカ型の制度とはいえない。他方、半端に司法修習を残すのみで、実務訓練を法科大学院に期待しているという奇妙な制度である点で、ドイツ方の制度とも言えない。いわば両者の短所を集めたようなものとなっている。アメリカのように、試験を大幅に簡素化することは、わが国の国民性から考えても期待できない以上、今一度、ドイツ型の試験の長所の導入を検討する必要がある、という思いを、今回の調査により強くした次第である。


*1 文中に引用した文言は、いずれも2003年にビーレフェルト大学で開催された、第5回ゾルダン弁護士指向法学教育会議におけるフーバー教授(Prof. Peter. M. Huber)の発言より引用している。

 Die Inhaltliche Neuausrichtung des rechtwissenschaftlichen Studiums -- 5. Soldan-Tagung zur anwaltsorientierten Juristenausbildung 25. April 2003 in Bielefeld S.31

Bielefelder Schriftenreihe für Anwalts- und Notarrecht Band 11 Verlag Dr. Kovac

 なお、フーバー教授は、ドイツ法学部協会(Deutsche Juristen-Fakultätentag)の代表理事であり、上記発言はその立場で行われたものである。また、ミュンヘン大学法学部公法・政治学研究所長である。

 また、この会議は弁護士・公証人の活動を支援することを活動目的とするゾルダン財団の後援により毎年度開催されているものである。

*2 ブチリウス・ロースクール:同校は、自らBucerius Law Schoolと称しているので、それを尊重してそれをそのまま日本語表記にしたものを本稿では使用している。しかし、同校は、米国やわが国のロースクールとは異なり、法的地位は通常の単科大学であって、大学院ではない。今次法曹養成制度の改革に対応する形で設立された、ドイツでは非常に珍しい私立大学である点に大きな特徴がある。以下、簡単に同校について説明する。

 同校は2000年にツァイト財団のゲルト・ブチリウスによって設立されたため、設立者の名を取って校名としている。法人の形式としては公的有限会社(gemeinnützige GmbH)である。

 同校の入学試験は、毎年7月中旬にハンブルク市で行われる。試験では、3段階選抜を行っている。第一段階として、ドイツにおける統一的な高校卒業資格であり大学入学資格であるアビトゥアにおいて131というトップクラスの成績を取っていることに加え、英語における試験(TOEFL, IELTS,又はCPE)において、一定以上の成績を取っていることを要求する。第二段階として、同校が自ら開発したLSATに当たる筆記試験が約5時間行われ、これに加えて45分間の小論文試験がある。これを突破した200人について、面接試験が行われ、最終的に100人が合格する。通例、受験者総数は500人程度という。

 学期制に特徴がある。すなわち、年2学期制ではなく、3学期制をとっている。1学期あたりの講義時間は、2学期制でも3学期制でもほぼ等しいので、同校の学生は1年につき他大学の法学部生の1.5倍の進捗度を示すことになる。ただ、現実問題として、ハンブルク市は同校の存在を考慮し、市の司法試験法で、試験の受験資格を2学期制であれば8学期、3学期制であれば12学期と明記しているので、早めに受験することはできず、3学期制をとることによって発生した余力は、学生の能力向上に向けられることになる。また、講義とは別に試験に向けた特別講義を実施している。こうしたことから、2006年に行われた第1回の新司法試験では、同行からの受験者は、平均得点が112と、マスコミに反響を呼ぶほどの高位合格を果たしている。

 専任教員は17名おり、民事法6名、公法5名、刑事法3名、税法1名、法学1名、経済法1名となっている。

 学生の授業料は、1学期あたり3300ユーロである。したがって、年にその他諸雑費を含め約1万ユーロ(160万円)を必要とすることになる。しかし、財政としては大幅な赤字であり、2006年の場合、経費の69%はツァイト財団が負担している。

*3  本文に述べたとおり、法曹が広い概念であるとはいえ、一体的な活動を示すという意味で、その中心となるのは、日本と同様の、いわゆる法曹三者である。これらについては人数が把握できるので、参考までに紹介する。

1.裁判官は、200412月末現在で、連邦レベルで464人(内、女性は75人)、州レベルで19,931人(同6,349人)、計20,395人(同6,424人)である(200412月末現在の裁判官の人数は、連邦司法省の統計BMJ/RB6 Az.:3110/6 R5838/2005による。なお、州レベルの裁判官人数は、他の職務との兼職者がいるため、1人未満の端数があるが、45入している。)

参照:http://www.bmj.bund.de/files/020b07a468feb4f411b58a8dda10516b/1196/2006-04-11%20Richter%202004.pdf

2.検察官は、同じく連邦レベルで92人(同14人)、州レベルで5,014人(同1,727人)、計5106人(同1741人)となっている。なお、この他に、日本でいえば訟務検事に当たる者(Vertreter des öffentlichen Interesse in der Verwaltungsgerichtbarkeit)が、連邦レベルで6人(同0人)、州レベルで21人(同7人)、計27人(同7人)となっている。出典は裁判官の場合と同一である。ただし、こちらでは、連邦レベルでも、1人未満の端数があり、同様に処理している。

3.弁護士は、200511日現在で、132,569人(内、女性は37,953人)である。なお、弁護士については200611日現在、138,104人(同40,440人)となっていて、増加率は4.18%(同6.55%)となっている。弁護士に関する数値は、ドイツ弁護士会(Bundesrechtsanwaltskammer)の提供している統計資料による。

参照:http://www.brak.de/seiten/08_02.php

*4 フーバー教授は、これをY字型モデルと呼んでいる。注1前掲書35頁参照。

*5  ラーデンブルガー・マニフェストの原文については、Neue juristische Wochenschrift NJW 1997, S.2935ff参照。

*6 討論の内容については、次の文献を参照。

 Verhandlungen des 62. Deutschen Juristentages 1998, Band II/2, S. N. 108 ff. und 239ff.

*7 FDP案の具体的内容についてはBundestags-Drucksache 14/2666 S.2

 なお、このFDP案も含め、以下の注において、多数の連邦議会(Bundestag)の印刷物(Drucksache)を紹介するが、それらについては、次のアドレスにアクセスすれば、ダウンロードすることができる。

http://dip.bundestag.de/parfors/parfors.htm

*8 連邦参議院案の具体的内容についてはBundestags-Drucksache 14/7463参照

*9 与党案の具体的内容についてはBundestags-Drucksache 14/7176参照

*10 連邦法務省を所管する連邦議会の常任委員会である。

*11 法務委員会勧告の具体的内容については、Bundestags-Drucksache 14/8629 参照

*12 民主社会党(Partei des Demokratischen Sozialismus ):東ドイツにおいて一党独裁を行っていたドイツ社会主義統一党(Sozialistischen Einheitspartei Deutschlands)の、ドイツ再統一後の党名。その後2007年に左翼党(Die Linkspartei)と改名しているので、この名の政党は今はない。

*13 成立した法律についてはBundestags-Drucksache 14/8629参照

*14 以下の条文説明から第5c条「上級業務のための養成教育の追加(Anrechnung einer Ausbildung für den gehobenen Dienst)」を省略している。同条は、次のように定めている。

1) 上級の司法業務もしくは非技術系の行政業務のための養成教育を成功させるために、要請により、18ヶ月まで、養成教育の期間を追加することができる。ただし、実務修習期間は、6ヶ月以上追加してはならない。

2) 詳細は州法で定める。

 これを見れば判るとおり、同条は、一般的な法曹養成制度とは関係がなく、今次改正でも修正されていないので、説明を割愛したものである。

*15 この試験の名称を直訳すれば第1回試験であるが、わが国において司法試験と呼ばれる試験と同じ性格なので、こう訳することとする。

*16 与党案(Bundestags-Drucksache 14/7176) S.9参照。

*17 各州の司法試験事務局の名称等については、次の書を参照。

 Greßmann "Die Reform der Juristenausbildung" 2002 Bundesanzeiger Verlag, S.107

*18 ノルトライン・ヴェストファレン州の司法試験事務局については、

 Gesetz über die juristischen Prüfungen und den juristischen Vorbehaltdienst vom 11. März 2003

の第3条を、2回試験事務局については、同じく第48条を参照。

*19 与党案Bundestags-Drucksache 14/7176 S.10参照

*20 法務委員会報告Bundestags-Drucksache 14/8629 S.12参照

*21 ハンブルク市司法試験法は、ドイツ語では次のように表記される。

 Hanburugishces Juristenausbildungsgesetz(HmbJAG) verabschiedet von der Hamburugischen Bürgerschaft am 4. Juni 2003

*22 成績をどのような点数で示すかは、基本的には連邦司法試験評価基準(Verordnung über eine Noten- und Punkteskala für die erste und zweite juristische Prünga von 3. Dezember 1981 =BGBl. I S.1243)によるので、改めて州法で定めている場合もあるが、内容は各州とも共通で、次の通りである。

評価基準 素点
sehr gut (特に優れた成績) 1618
gut (平均よりも著しく良い成績) 1315
vollbefriedigend (平均よりも優れた成績) 1012
befriedigend (平均的な要求水準にかなう成績) 79
ausreichend (平均には届かないが、一応満足できる成績) 46
mangelhaft (著しく不足している点があり、取り上げられない成績) 13
ungenügend (全く取り上げることのできない成績) 0

 

以上の通りで、本試験において4以上の成績を取れば及第できる。したがって、「4」を要求しているとは、中間試験でも、本試験の最低及第点と同じものを要求していることになる。

*23 ブチリウス・ロースクールの中間試験に関する規則は、ドイツ語では次のように表記される。

Prüfungsordnung der Bucerius Law School für dei Zwischenprüng und die Schwerpunktbereichsprüfung gemäß §§4 und 30 ff. HmbJAG vom 22. Oktober2003 in der Fassung vom 25. Mai 2005, zuletzt geändert am 22. November 2006

*24 ノルトライン・ヴェストファレン州司法試験法は、ドイツ語では次のように表記される。

Gesetz über die juristischen Prünfungen und den juristischen Vorbereitdienst (Juristenausbildungsgesetz Nortrhein-Westfalen - JAG NRW) vom 11. März 2003 (GV. NRW 2003 S. 135)

*25 ビーレフェルト大学の法学部履修及び試験規則は、ドイツ語では次の通り表記される。

Studien- und Prüfungsordnung für den Studiengang Rechtswissenschaft der Fakultät für Rechtswissenschaft der Universität Bielefeld vom 15. September 2004

*26 ミュンヘン大学法学部における司法試験受験に関する履修及び試験規則は、ドイツ語では、次のように表記される。

Studien- und Prüfungsordnung der Ludwig-Maximilians-Universität München für den Studiengang Rechtswissenschaft mit dem Abschluss Erste Juristische Prüfung vom 1. Juni 2004

*27 与党案(Bundestags-Drucksache 14/7176S.11参照

*28 法務委員会報告(Bundestags-Drucksache14/8629S.13参照

*29 ドイツ連邦司法省の法曹養成制度に関する司法統計については、次のホームページを参照。

http://www.bmj.bund.de/enid/3219707d199881df738db0354620c5f6,33d0e45f7472636964092d0933303334/Statistiken/Ausbildung_67.html

 本講執筆時点における最新の統計は2005年度のものなので、以下に紹介するのは、原則的には、この年度のものである。

*30 バイエルン州司法試験事務局は、ドイツ語での表記は次の通りである。

Landesjustizprüfungsamt bei dem Bayerischen Staatsministerium der Justiz

*31 これら2州については、表の読み方に注意が必要である。憲法訴訟論に続く4項目は、憲法訴訟論の中の細目ともいうべきものなので、すべての細目で無制限出題が予定されているこの2州では、憲法訴訟論のところに印が付いていないのである。

*32 憲法訴訟論が、本文に述べたとおり、各州の司法試験において重視されていない理由について、ビーレフェルト大学のグシ(Gusy)教授が、筆者に説明したところによれば、次のような事情がある。すなわち、連邦憲法裁判所の裁判は、きわめて特殊化しているために、憲法訴訟を専門とする弁護士は、全ドイツでも10数名に過ぎない。そして、重要な事件ともなれば、多くの場合に、弁護士ではなく、各大学の憲法教授が担当している。また、州レベルの憲法訴訟については、毎年1000件程度の訴訟があるバイエルン州、100件程度の訴訟があるベルリン市を例外にすれば、ほとんど行われていない状況にある。例えばビーレフェルト大学のあるノルトライン・ヴェストファレン州の場合、2006年度の憲法訴訟件数は3件に過ぎない。したがって、弁護士として憲法訴訟法を知っている必要が低いのである。

*33 ドイツ2005年度司法試験統計は、次のものによる。

Übersicht über die Ergebnisse der erstenjuristischen Staatsprüfung im Jahre 2005

*34 チューリンゲン州に関するこの2段書きは意味不明である。上段が新制度、下段が旧制度の可能性が高いが、他州でもそれは一緒であり、何故同州だけがこのように書かれているのかは、原典にも説明がない。

*35 バイエルン州司法試験規則のドイツ語表記は、次の通りである。

*36 ハンブルク市司法試験規則のドイツ語表記は、次のとおりである。

Juristenausbildungsordnung (JAO) vom 10. Juli 1972 [GVBl. S. 133,148,151; zuletzt geändert am 3. Juli 2002, GVBl S. 122]

*37  ハンブルク市が受験者に配布した情報書とは、ドイツ語では次の名称のものである。

Informationen zur Ersten Juristischen Staatsprüfung nach der JAO a.F.

*38 ハンブルクの情報書が、試験会場に持ち込み許可を与えているコンメンタールの名称を次に示す。

 Palandt "Kommentar zum BGB"

 Lackner "Kommentar zum StGB"

 Jarass/Pieroth "Kommentar zum GG"

 Kopp "Kommentar zum VwGO"

 Kopp "Kommentar zum VwVfG"

 法令集は、SchönfelderSartoriusなど、標準的なものである。

*39 ブチリウス・ロースクールのケメラー教授(Prof. Dr. Axel Kämmerer)は、筆者の質問に対し、レポート提出は、本人の実力を見る上で無意味(sinnlos)であると考えられるようになったからだ、と説明した。同教授の話に依れば、旧司法試験制度の下では、多くの州でレポート提出が採用されていたが、改革後は廃止したところが多いという。

*40 ノルトライン・ヴェストファレン州の場合、連邦司法省の作成した表に書かれていたのは旧制度下の制度説明である。旧制度下で勉強した限られた受験生のために、2006年度においても、他州同様、小規模であるが、旧制度に基づく司法試験が実施されているが、連邦法務省が誤ってそれに関する報告に依拠して表を作成したのではないかと考えられる。

*41 ノルトライン・ヴェストファレン州の場合、今回インタビューしたビーレフェルト大学のヘラーマン教授(Prof. Dr. Johannes Hellerman)が、同州の司法試験委員の1人であったため、試験の実態をある程度知ることができた。それによると、試験委員の総数は約200名程度で、その中から適宜、試験日に3名が招集される。同州は、年間を通じて司法試験を実施しており、ヘラーマン教授自身が口述試験委員として活動するのは、年に4回程度という。試験では、テーブルの一方に3名の試験委員が座り、反対側に、その日呼ばれた数名の受験生が座る。したがって、各受験生は、他の受験生の講義や質疑応答を聞いていることになる。このやり方の下では、質問される順番によって利不利が発生する可能性があるが、ヘラーマン教授は、それを少しでも解消するために、ランダムに聞くようにしているという。質疑の場合、原則的には受験生の数だけ質問を用意するが、仮にある受験生が、質問に適切に答えられなかった場合には、次の受験生にその質問をそのまま回す場合もあるという。試験時間は、朝9時に始まり、終了するのは2時くらいであるが、その間、休憩時間はあるが、昼食の時間はとられていないので、受験生ばかりでなく、試験委員にも厳しい試験ということができる。

*42 ここに紹介したミュンヘン大学の重要項目は、次のものに基づいている。

Studien- und Prüfungsordnung der Ludwig-Maximilians-Universität München für den Studiengang Rechtswissenschaft mit dem Abschluss Erste Juristische Prüfung vom 1. Juni 2004 §52

*43 ここに紹介したブチリウス・ロースクールの重要項目は、次のものに基づいている。

Prüfungsordnung der Bucerius Law School für die Zwischenprüfung und die Schwerpunktberichsprüfung gemäß 4 und 30 ff.HmbJAG

*44 ここに紹介したビーレフェルト大学の重要科目試験の内容は、次のものに基づいている。

Neufassung der Studien- und Prüfungsordnung für den Studiengang Rechtwissenschaft der Fakultät für Rechtwissenschaft der Universität Bielefeld vom 15. September 2004

*45 バイエルン州の2回試験における試験領域については、次のホームページを参照。

  http://www.justiz.bayern.de/pruefungsamt/pruefung/gegenstand/index.php

*46 ドイツ連邦司法省のデータについては、注29参照。

*47 アメリカにおける法曹養成制度の現状については、拙稿「ハワイ大学法科大学院の概要」日本大学法科大学院『法務研究』第2号、2006325日刊149頁以下参照

Note