全国会計職員協会刊「会計と監査」2011年5月号以降掲載予定

 

市町村における議員定数等の適正水準について

−米国との比較法的検討−

日本大学教授 甲斐素直

[はじめに]

一 比較の対象

(一) フランス法系という説について

(二) 住民自治について

二 米国の地方自治について

(一) 米国地方自治の概況

(二) 米国の市議会議員定数と報酬

三 わが国地方自治体の現状

(一) 議員定数の全国傾向

(二) 議員報酬について

四 日米格差の検討

(一) 議員数格差の検討

(二) 議員報酬格差の検討

 

[終わりに]

 

[はじめに]

 近時、わが国地方自治体、特に市における議会議員の定数及び報酬に関し、社会的に大きな関心を集めている。

 例えば、人口221万人という日本を代表する大都市である名古屋市議会に関し、市長が議員定数75人を半数の38人に減らし、かつその年俸1600万円を800万円へと半減する案を打ち出したのに対し、議会側は激しく抵抗し、ついに市議会のリコール騒動に発展したが、201126日に行われた市長選挙、市議会リコール投票は、いずれも市長側の圧勝に終わり、3月に出直し市議会議員選挙が行われることになった。

 他方、人口23千人という、名古屋市の百分の一の小都市である鹿児島県阿久根市でも、市長が市議会議員を16人から6人に削減し、年俸400万円を日当制に切り替えるべきであると主張して市議会と対立し、専決処分を繰り返したため、市長のリコールに発展し、2011116日に行われた市長選挙は、8509票対7645票という僅差で新市長が誕生した。議会を招集せずに専決処分を繰り返すという現行地方自治法を無視した独裁的手法をとって、悪名が高かった前市長にこれほど高い支持が集まった理由について、読売新聞論説委員は「地域経済の疲弊で相対的に高くなった職員人件費へのいらだちや、安穏とした議会への不満」と指摘している*1。新市長の公約も市議会議員定数を16人から2?6人削減するということで、程度の差こそあれ基本的に議員定数削減を訴えていることにおいて違いはない理由はそこにあると考えられる。さらに、破れた前市長側では17日に市議会のリコールを請求していたが、220日の市民投票では賛成7321票対反対5914票でリコールが成立し、424日に市議会議員選挙が行われることになった。

 この人口の両端近くに位置する2市における定数等削減問題は、以上のように市議会リコールにまで発展したことで全国的な注目を集めたが、そこまで行かなくとも、定数削減等の要求が出されている例は、全国的に枚挙に暇がないほどに多く、市議会側が押し切られて定数削減に追い込まれたところも少なくない*2。明らかに、地方議会議員定数や議員報酬に対する住民の不満が全国的に高まっていると言える。

 この問題に関して、憲法学者としての私が関心を持ったのは、このような議員定数や報酬の削減が民主主義の破壊である旨の主張が議員側から行われ、憲法学者の中にもこれに賛同する者がいたとの報道がなされたことである*3。阿久根市前市長のように、議会を開催しないというのならばともかく、定数や報酬の削減がなぜ直ちに民主主義の危機と言われねばならないのだろうか。そこには明らかに、今、地方自治法が上限値として定めている議員定数が、議会に地域の声を反映させるための必須の条件だという前提が存在していると思われる。しかし、その前提は正しいのだろうか。

 そこで、本稿では、アメリカの市における議員定数や報酬の状況を、わが国の現況と対比しつつ紹介することにより、わが国における今後の議論の参考としたい。

 

一 比較の対象

(一) フランス法系という説について

 まず最初に、何故アメリカとの比較を行うのか、という点から論じたい。わが国地方自治体の議員数について、次のように述べる者があるからである。

「諸外国の例を見ると、フランス、イタリアでは、日本とほぼ同程度の議員数となっているのに対し、アメリカの市町村議会においては、日本の2分の1から4分の1程度である。これは、それぞれの自治制度の生い立ち、議会の役割の違いなどから生ずるものであって、単純な比較はできない。」*4

 前半の数字の正確さについては後述するが、結びの語は、確かにその通りである。そこで、以下、わが国自治制度の生い立ちや議会の役割を検討し、それを通じて定数等をどう考えるべきか判断しよう。地方議会定数に関しては、次のような見解が存在する。

「明治21年の市制・町村制の制定、同23年の府県制の制定以降、数回の改正が行われているが、基本的には当初の考え方が踏襲されてきたといえる。当初の議員の定数は、フランスの地方議会制を参考にしたものと考えられている。自治法の制定にあたっても、定数の考え方は、そのまま継承されることとなった(なお、昭和21年の府県制、市制、町村制の改正により、法定数は1割ないし2割増加されていた)」*5

 すなわち、議員定数に関しては、明治の当初においてわが国はフランス法系を継受し、今日においてもそれが継承されているというのである。この理解が正しければ、現在のわが国地方自治体の議員定数については、フランスとの比較が正しく、したがってそれと同程度であるならば、現行の議員定数に特に問題はない、ということになる。

 そこで、まずフランスの現時点における地方議会議員数は、どうなっているかであるが、同国は中央集権国家であるので、地方議会議員数は中央政府の法典である『地方自治法典』(Code general des collectivitee territoriales) によって明確に定められている。それは基本的には人口別であるが、大規模都市であるリヨン、マルセイユ及びパリについては個別に定数が定められている。

 それらを一表にまとめ、パリ等3市については参考までに人口を付した上で、それに対応する日本の地方自治法91条の定める上限議員定数の関連箇所を参照させたのが表1である。

表1 地方議員定数の日仏比較

人口

フランスの議員定数

日本の議員定数

100人未満

9

100500人未満

11

5001500人未満

15

15002500人未満

19

25003500人未満

23

35005000人未満

27

50001万人未満

29

1万〜2万人未満

33

2万〜3万人未満

35

3万〜4万人未満

39

4万〜5万人未満

43

26

5万〜6万人未満

45

6万〜8万人未満

49

8万〜10万人未満

53

30

10万〜15万人未満

55

15万〜20万人未満

59

20万〜25万人未満

61

25万〜30万億未満

65

38

30万人〜

69

46

Lyon467,400人)

73

46

Marseill826,700人)

101

56

Paris2,153,600人)

173

88

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これを見ると、同程度どころかフランスの方が、倍以上も多い。これほどの違いがあって、なおかつこれを原型といえるだけの理由があるかは直ちに疑問が生じるであろう。

 そして、事実、さらに詳細に検討すると、この疑問が正しいことが判明する。 なぜなら、第一に、現行地方自治制度の出発点には、米国の強い関与が存在しているため、わが国現行地方自治法は明らかに米国型の制度と見るべきだからである。

 わが国が占領下にあった時期において、連合軍総司令部(GHQ)の発行したわが国地方自治制度に関する報告書が存在する(以下「GHQ文書」という。)*6。その中で、GHQは、第2次大戦前のわが国地方制度について次のように要約している。

「地方自治という虚名は、計画的に作られたものであった。それは70年前に作られ、それ以後少しも発展させられなかったのである。多くの法律制度や慣習がフランスから大幅に採り入れられたけれども、日本で確立された大陸的制度は、本質的にいうと、フランス的であるよりもドイツ的であった。日本人が大陸で学んだ時にも、外国人を日本に招いたときにも、ドイツの学者や政治家達が、非重に重要な性質を有する助言を与えている。」*7

 すなわち、そもそも明治の時点で、既にそれはフランス系ではなく、ドイツ系だったというのである*8

 このドイツ法系の制度を、GHQは次のように判断し、改革した。

「占領開始当時の日本における地方行政組織は、“地方自治”とはおよそかけ離れたものであった。その性格は極めて権力的なものであり、地方公共団体は中央政府の手足に過ぎなかった。〈中略〉この制度を改革することは、占領軍が日本国民に示した民主化の計画に必要欠くべからざるものとして盛られた。〈中略〉改革の目的は、むしろ、アメリカ合衆国の多くの州において州憲法や法律により都市に適用されているいわゆるホーム・ルール(Home Rule)に近かった。この改革を行う法律的根拠は新日本国憲法第八章にあった。〈中略〉憲法は、基本原則について大雑把に規定しているに過ぎないことは、明らかである。これらの諸原則に生命の息吹きを与えるためには、地方公共団体の地位、組織、職務及び権限を規定している法制度を徹底的に買いたい検査する必要があった。〈中略〉地方自治法は、徹底的に現地調査、会談、討論を行った後に作られた。これには地方行政課(Local Government Division)のみならず、民政局(Government Section)の他の課、総司令部の他の部局、日本政府の役人、府県の役人、市町村の役人、有力者その他多くの人々が貢献した。」*9

 このGHQが下した理解からすれば、わが国地方自治制度は、第2次大戦後において、アメリカ法系のものに変化したと言うことになる。

 第二に、これに対し、第2次大戦後の時点においては、そもそもフランスには地方自治が存在していなかったので、その時点でわが国に地方自治の原型を提供する機能を有しているとは言えないからである。フランスには、1789年の大革命以降、徹底した中央集権国家であって、明治期の日本と同様、地方自治を大幅に制限していた。EUの圧力の下に、ミッテラン政権の下で1982年以降、数次の地方分権改革を行い、それにより人口規模に応じ、法律で定められた一定数の議員が選挙民から選ばれ、議会で互選された議長(President)が当該自治体の首長を兼ね、執行部を形成するという制度に改められた。しかし当時の憲法の下ではそれが限度で、1985年に欧州評議会が制定した欧州地方自治憲章は違憲の疑いがあって批准することはできず、欧州の孤児化していた。結局、シラク大統領とラファラン首相の下、2003年の憲法改正を断行して初めて本格的な地方自治の導入が可能になったのである。例えば、これにより初めて、わが国が1946年に導入した住民投票などの制度が導入された*10

 そもそもフランスの市町村なるものは、コミューン(communes)と呼ばれるもので、本来は教会の末端組織としての聖堂区(Paroisse)であったものが、革命後コミューンとされたもので、平均規模は1600人程度と、わが国に比べて大変小さいことに加え、議員が名誉職で俸給を伴わないため、議員数が多くとも、コミューンの財政に負担とならないという要素が存在していることが大きく寄与している。これと報酬を伴うわが国地方議会を同視することはできない。

 

(二) 住民自治について

 このことは、今日の憲法学における通説的理解とも一致している。

 すなわち、地方自治は、今日、それが日本国憲法の定める制度的保障の下にあり、その制度的保障の侵すべからざる中核として、団体自治と住民自治の二概念が存在し、あるいは平成11年以降においては地方自治法の改正により導入された補完性が第三の基本概念として存在していることは一般に認められている。このうち、民主主義の地方自治への投影と考えられているのが住民自治である。

 わが国では、イギリスが住民自治の母国と呼ばれることが多い。しかし、それは厳密に言うと正しくない。アングロ=サクソン人は、現在のドイツ・フランスに相当する地域に王国を築いたフランク族と同様に、西部ゲルマン族に属するから、同様の法慣習を有していた。すなわち、ユリウス・カエサルの著『ガリア戦記』*11や、タキトゥスの著『ゲルマニア』*12で紹介するところによれば、ゲルマン民族は、平時においては民会と呼ばれる部族の成人男子によって構成される会議体が最高意思決定機関であるが、戦時にはその民会から選出された長がすべての独裁権を保有する、という体制である。この民会こそが、住民自治の原型といえるものである。アングロ=サクソン族の場合、各レベルの民会を積み上げた国家レベルにおける最高意思決定機関は賢人会議(Witenagemoot)という名称であった。この民会制度をアングロ=サクソン族はブリタニア島に持ち込んだ。ここからイギリスを住民自治の母国と称するのであるが、このことは、ドイツやフランスなど、すべての西部ゲルマン諸国についていうことができる。しかし、中世以降のイングランドでは、王国の発展とともに民会制度は休眠し、停滞状態に陥る。

 これに対し、米国では植民が開始された当初から住民自治が行われていたのである。それがニューイングランドなどで行われていた、住民がすべて参加する住民総会(Town Meeting)であり、この住民総会こそがわが国地方自治法94条の定める町村総会の、ある意味における原型である。

 小滝敏之は、米国における住民総会の重要性について、トクヴィルを引用して(二重括弧内がそれに当たる)次のように述べる。

「『タウンでは他のあらゆるところにおけると同様、人民が社会的権力の源泉であるが、このタウンにおける程人民が直接その権力を行使しているところは他にない。アメリカでは人民が主人であり、この主人に対しては最大限度従わなければならないのである』と述べ、ニューイングランドの『タウン』における『住民自治』の場で『人民主権の原理』が最も強力に発現していることを重ねて強調している。植民地発足以来、全ての住民が直接参加する住民総会の場でものごとを決定する仕組みとなっていたわけだが、この『人民主権の原理』を徹底した『タウン・ミーティング』は、21世紀の今日においても連綿として受け継がれ、開催されているのである。」*13

 このように、定数や報酬に関して、民主主義を云々するならば、比較の対象となるのは米国が最善である。

 

二 米国の地方自治について

(一) 米国の地方自治の概況

 米国は連邦国家であり、国内的には主権は各州に帰属する。わが国と同様に、地方自治権は国の主権からの伝来と考えられているから、各州が、その州内の地方自治体に対してどの限度で地方自治を認めるかは、基本的には各州の定めるところにより、異なる。

 たいていの州が、まず州内をカウンティ(County)に区分し、カウンティをタウン(Town)に区分するという基本的な構造をもっている。しかし、それらタウンの一部は、住民の発意により、州から自治体憲章(Municipal Charter)を獲得することにより、法人化(incorporated)し、地方自治体となって、シティ(City)、バラ(Borough)、ヴィレッジ(Village)等と称するようになっている。わが国の地方自治体に相当するのはこれらである。つまり、各カウンティの中は、自治体法人政府(Municipal Government)の存在する地域(法人化地域)と、そうでない地域に分かれることになる。当然ながら、これは平均的な紹介であり、州によりその実体は大きく異なる*14

 しかし、地方自治体は、当然に自治権を有するのではなく、州から憲章を与えられることで自治権を獲得する、という点に関してはまったく違いはない。その意味で、地方自治体は「州の創造物(creature of the states)」である。この結果、その自治権の範囲は、州法によって授権された範囲にとどまる。これを米国では、このことを判決で明言したディロン判事の名を取ってディロン・ルール(Dillon's rule)と呼ぶ(英国で言う越権法理(ultra vires doctrine)に相当する)。

 各州が、どのような自治体憲章を地方団体に与えるかもまた、州によって大きく異なる。

 もっともシンプルな形態は、個別憲章(Special charter)である。これは、州が、自治権を保有することを希望する当該地方自治体に対し、その地方自治体を名宛人とした憲章を作成し、授与するというものである。

 これに対し、一般憲章(General charter)と呼ばれるものは、その州内のすべての地方公共団体に、その規模や特徴に関わりなく、同一の憲章を与えるものである。この両極端の間に様々な類型が存在する。

 階層別憲章(Classified charter)は、州内の地方公共団体を人口別に分類し、それに応じて異なる憲章を与えるものである。わが国の地方自治法は、米国流に分類するならば、この範疇に属する事になる。

 選択的憲章(Optional charter)は、上記階層別憲章と同様に、州が数種類の憲章を予め用意している点では同様だが、人口など、画一的な基準で決めるのではなく、自治権を希望する地方団体に対し、その住民投票によってその自らの憲章を選択する自由を認めるタイプである。その亜形で、州が与えた自治権の範囲を住民投票で拒否する自由を、地方政府に認めるというものもある。

 ここまでの類型は、上記ディロン・ルールの枠内にあり、どの類型の場合にも、州が、その地方政府の有する自治権の枠を決定している。しかし、このディロン・ルールに対する反対が起こり、地方政府に、いわばその固有の権利として、自らの憲章内容を決定する権利が主張された。しかし、裁判所がそれを受け容れなかったため、それを州法によって実現する運動が展開されるようになり、今日までに多くの州で受け容れられた。この固有権的に自主的に決定される憲章が、先に紹介したGHQ文書に出てきたホームルール憲章(Home rule charter)である。

 この制度は、ミシガン州でセントルイス市を対象に1875年に導入されたのが最初である。その後、この型の憲章を求める運動が全米的に拡大した*15。ただし、現在でも全米50州のうち、12州は、自治体にホームルール憲章制定権を全く認めていない*16

 ホームルール憲章が認められている州でも全面的に認めている場合もあれば、一定以上の規模の市町村に対して、認めているに留まる場合もある*17。認められている州でも全面的に自由に決定できるというのではなく、州法に留保されている権限の範囲内で、その自治権の範囲や行使方法を決定することができるに留まるのが普通である。どの範囲の自治権を承認するかは州により様々である。ホームルール憲章の制定手続きは、通常、当該地方公共団体の住民が憲章起草委員会を選出し、この委員会が憲章案を制定して州議会に提出すると、州議会でこれを住民投票にかけた上で、州法として制定するという形式を採るのが一般である。

 ホームルール憲章の制定権が認められている市町村をホームルール市(Home rule cities)という。ホームルール市では、その自治政府に関する立法を行う権限を有している。すなわち、その政府をどのような形態で形成するかも、市議会(city council)の規模をどの程度にするかも、そして市長や議員の任期をどのようにするかも、あるいは彼等の選挙をどのような方法で行うかも自由であるのが普通である。以上の結果、日本のように地方自治法という基準が存在し、それに基づいて統一的な制度が存在するという状況とはほど遠い。

 しかし、逆からいうと、どの州に所在しているかに関わりなく、地方自治体には、自らの政府をどのように組織するのが最善かについて、模索し、変更する自由がある。その結果、そうした試行錯誤の積み重ねの中から最善のものにシフトしていくために、時代によって、米国における地方政府の形態は一定の範囲に収斂する傾向を示す。

 先に述べたとおり、米国地方自治は、住民全てが自治体政治に関与する住民総会型政府(Town Meeting Government Form)から出発した。人口が増大した場合に対応するために、その亜形として代議住民総会型政府(Representative Town Meeting Government Form)というものも存在する*18。やがて、人口の増大が、そうした住民総会型の運営を不可能にするほどになった場合に、最初に出現したのは弱市長・市議会型政府(Weak Mayor-Council Government Form)であった。しかし、1829年に第7代大統領に就任したジャクソンの影響で、ジャクソン流民主主義(Jacksonian democracy*19が広がり、市長をはじめとする多くの公職が住民の直接公選制になった。わが国憲法932項が「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する」と定め、首長はもちろんその他の吏員(具体的には教育委員や農業委員等)までも直接公選の対象に予定しているのは、このジャクソン流民主主義の影響である。

 やがて、19世紀以降、産業の発展とともに、都市化が進展すると、当初はそれに応じた形で議会の規模も拡大されたので、議員数も増加した。しかし、弱体の市長では都市行政の複雑化に対応できず、また拡大した市議会議員の腐敗と非効率から、自治体財政が破綻状態に陥ったところが少なからず出現した。そこで、住民は、自治体改革運動に乗り出し、議会の規模と権限を縮小し、市長の権限を強化するようになった。今現在、わが国で見られる市議会の規模縮小と、市長の権限強化の方向で展開される市民運動は、この時期の米国の自治体改革運動との強い類似性を感じさせる。

 強市長・市議会型(Strong Mayor-Council Government Form)は、1898年に全国都市連盟(National Municipal League, NML=現在のNational Civic League)がモデル都市憲章の一環として推奨したもので、これが広く採用されるようになってくる。これと平行して、住民の声を直接地方政治に反映させる手段として、住民発案、住民投票、リコール請求などの直接民主制的制度も導入されるようになった。わが国の現行地方自治法の定める市町村制は、基本的にはこの制度を模範に形成されているということができる。

 この他、より大きな改革を求めて、理事会型(Commission Government Form*20や議会・支配人型(Council-Manager Government Form*21という全く新しい類型も考え出され、特に後者の支持が増大する。市長・議会型政府の場合にも、市長が支配人を任命するという形態も存在する。この場合には支配人は助役相当の役職と言うことになる。

 地方自治体レベルにおける全米レベルの組織の一つ、国際市・カウンティ管理協会(International City/County Management Association)は5年おきに、2500人以上の地方自治体について、その政府形態を調査しており、最新の2010年の調査では市長・議会型、議会・支配人型、理事会型、住民総会型及び代議住民総会型の五類型に分けて調査した*22。その要点を抜き出したのが、表2である。

2 全米地方自治体の2010年における政府形態

 

2500人以上

5000人以上

1万人以上

25000人以上

5万人以上

10万人以上

25万人以上

50万人以上

100万人以上

 

比率

(%)

市長・議会型

1,139

834

696

250

141

59

18

15

6

3,158

43.6

議会・支配人型

771

895

968

496

269

117

17

7

3

3,543

48.9

理事会型

33

40

45

16

4

3

1

1

0

143

2.0

住民総会型

106

129

101

6

0

0

0

0

0

342

4.7

代議住民総会型

8

9

25

16

5

0

0

0

0

63

0.9

2,057

1,907

1,835

784

419

179

36

23

9

7,249

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 注:比率に関しては、四捨五入の関係から、合計が100にはなっていない。

 これを見ると、現時点では、全米で過半数を占める地方政府形態は存在せず、日本で馴染みの市長・議会型は、全体としては43.6%に留まる。同調査の過去のデータを見ると、1981年時点では市長・議会型は51.7%と過半数であったのが、その後一貫して減少してきている。これに対して議会・支配人型は1981年時点では45.5%であったものが、着実に増加して、1996年時点では55.8%にまで達したが、その後減少に転じ、今回は48.9%になっている。なお、理事会型は1981年データでは2.8%であったが、今次調査では2.0%で微減傾向である。そして小規模自治体においては、昔ながらの住民総会、代議住民総会に根強い人気があることが判る。

 

(二) 米国の市議会議員定数と報酬

 全米的な自治体組織で、上記地方政府形態調査のような形で、本稿が問題としている市議会議員数及びその報酬について全米的なデータを提供している団体は残念ながら無い。また、連邦統計局(US Sensus Bureau)が全米的なデータを提供してくれているが、そこでは市職員総数の統計はあるが、市議会議員数の統計は存在しない。

 幸い、ある程度大きな市についてはインターネット上で比較的情報が入手しやすいので、極めて恣意的な方法であるが、各州から1市ずつ、人口がその州で最大の市を選び、その市に関する人口と市議会議員数及び俸給を紹介することにより、全米的な傾向を測るという手法を採用した。それに首都ワシントン市を加えて、人口の多いものから順にまとめたのが表3-1である。市長・議会型、議会・支配人型及び理事会型が混在しているが、これは先に述べたとおり、市長(ないしその職を行う支配人)の選出形態の差であって、市会議員に相当する市民から選出された議員が存在する点においては同一である。

3-1 米国各州の最大都市における市議会議員の状況

都市名

人口

議員数

議員報酬

New York

New York

8,143,197

51

90,000

California

Los Angeles

3,844,829

15

136,224

Illinois

Chicago

2,842,518

50

85,000

Texas

Houston

2,016,582

14

44,218

Pennsylvania

Philadelphia

1,463,281

17

80,000

Arizona

Phoenix

1,461,575

9

35,999

Michigan

Detroit

886,671

9

81,312

Florida

Jacksonville

813,518

13

20,100

Indiana

Indianapolis

784,118

29

11,400

Ohio

Columbus

730,657

7

35,000

Tennessee

Memphis

672,277

13

20,100

Maryland

Baltimore

635,815

19

48,000

North Carolina

Charlotte

610,949

11

13,044

Oregon

Portland

582,130

4

84,989

Wisconsin

Milwaukee

578,887

17

61,934

Washington

Seattle

573,911

9

84,800

Massachusetts

Boston

559,034

13

62,500

Colorado

Denver

557,917

13

62,304

Kentucky

Louisville-Jefferson

556,429

26

District of Columbia

Washington

550,521

13

92,520

Nevada

Las Vegas

545,147

6

40,664

Oklahoma

Oklahoma City

531,324

8

12,000

New Mexico

Albuquerque

494,236

9

9,207

Georgia

Atlanta

470,688

18

32,473

Louisiana

New Orleans

454,863

7

42,500

Missouri

Kansas City

444,965

13

44,988

Virginia

Virginia Beach

438,415

11

18,000

Nebraska

Omaha

414,521

7

27,813

Hawaii

Honolulu

377,379

9

43,350

Minnesota

Minneapolis

372,811

13

65,679

Kansas

Wichita

354,865

7

24,850

New Jersey

Newark

280,666

9

1,471,018

Alaska

Anchorage

275,043

11

Alabama

Birmingham

231,483

9

Iowa

Des Moines

194,163

6

Arkansas

Little Rock

193,524

10

Idaho

Boise City

193,161

6

Utah

Salt Lake City

183,171

7

Rhode Island

Providence

176,862

15

Mississippi

Jackson

175,021

*7

South Dakota

Sioux Falls

158,008

5

Connecticut

Bridgeport

139,008

20

South Carolina

Columbia

129,333

6

New Hampshire

Manchester

109,395

*14

Montana

Billings

105,845

11

North Dakota

Fargo**

99,626

*5

Delaware

Wilmington

73,069

*13

Maine

Portland

62,875

*9

Wyoming

Cheyenne

57,478

9

West Virginia

Charleston

50,267

21

Vermont

Burlington

42,417

14

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出典:人口については2010年ないしは2009年米国国政調査の結果に依った。議員数及び報酬については基本的にはTabulated Data on City Governments --Infoplease.comに依ったが、それに無い市については個別に市のホームページにアクセスして集計している。

 注1:報酬は年俸で、ドルを単位としている。

 注2:市の名称に*を付した市は、議会・支配人型である。**を付した市は理事会型である。無印の市は市長・議会型である。

 注3:議員数に*を付した市は、議員数に市長が含まれている。

 注4:「ー」とした欄は情報が得られなかったことを示している。

 

 今度は、大都市に限定した場合にはどうなのかを知るために、人口50万人以上の人口を持つ市について、首都ワシントンを含めて悉皆的に集計したのが表3-2である。人口50万人以上の市を複数持つ州は、アリゾナ州(2市)、カリフォルニア州(4市)、テネシー州(2市)、テキサス州(6市)の計4州のみである。

3-2 人口50万人以上の州における市議会の状況

都市名

人口

議員数

議員報酬

New York

New York

8,391,881

51

90,000

California

Los Angeles

3,831,868

15

136,224

Illinois

Chicago

2,851,268

50

85,000

Texas

Houston

2,257,926

14

44,218

Arizona

Phoenix

1,593,659

9

35,999

Pennsylvania

Philadelphia

1,547,297

17

80,000

Texas

San Antonio

1,373,668

11

20

California

San Diego

1,306,300

8

71,796

Texas

Dallas

1,299,542

15

37,500

California

San Jose

964,695

11

75,000

Michigan

Detroit

910,921

9

81,312

California

San Francisco

815,358

11

37,584

Florida

Jacksonville

813,518

13

20,100

Texas

Austin

786,386

7

45,011

Indiana

Indianapolis

784,118

29

11,400

Ohio

Columbus

769,332

7

35,000

Texas

Fort Worth

727,577

9

75

North Carolina

Charlotte

709,441

11

13,044

Tennessee

Memphis

676,640

13

20,100

Massachusetts

Boston

645,169

13

62,500

Maryland

Baltimore

637,418

19

48,000

Texas

El Paso

620,456

9

15,000

Washington

Seattle

616,627

9

84,800

Colorado

Denver

610,345

13

62,304

Tennessee

Nashville-Davidson**

605,473

40

6,900

Wisconsin

Milwaukee

605,013

17

61,934

District of Columbia

Washington

599,657

13

92,520

Nevada

Las Vegas

567,641

6

40,664

Kentucky

Louisville-Jefferson**

566,503

26

Oregon

Portland

566,143

4

84,989

Oklahoma

Oklahoma City

560,333

8

12,000

Arizona

Tucson

543,910

6

24000

Georgia

Atlanta

540,922

18

32,473

New Mexico

Albuquerque

529,219

9

9,027

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出典及び注1〜4については表3-1に同じ。

 注5:市名に**を付した地方自治体は、City and Countyと呼ばれ、シティとカウンティが複合した政府を構成している。名称の前半がシティ名で、後半がカウンティ名である。

 注6:議員報酬に*を付した市は、市議会の会合毎の日当制である。

 

三 わが国地方自治体の現状

(一) 議員定数の全国傾向

 市議会議員定数削減が問題になるその前提として、その法律的背景はどうなっているのかを、名古屋及び阿久根市を例にとって簡単に説明しよう。

 議員定数の関しては、その根本は地方自治法にある。同法91条は、その1項で「市町村の議会の議員の定数は、条例で定める。」としつつ、それを完全に各市の自律に委ねることはせず、第2項で、「市町村の議会の議員の定数は、次の各号に掲げる市町村の区分に応じ、当該各号に定める数を超えない範囲内で定めなければならない。」として、「人口二千未満の町村 十二人」というところから、逐次人口規模別に定数の上限人数を定めている*23

 その5号で「人口五万未満の市及び人口二万以上の町村 二十六人」となっている。阿久根市はこれに該当する。これを受けて「阿久根市議会議員定数条例」(平成14年条例第26号)が「阿久根市議会議員の定数は,16人とする。」と定めていた。この16人という定数は、法定上限値に比べれば10人少ない数値となっている。

 同10号では「人口五十万以上九十万未満の市 五十六人」とし、11号はこれを受けて「人口九十万以上の市 人口五十万を超える数が四十万を増すごとに八人を五十六人に加えた数(その数が九十六人を超える場合にあつては、九十六人)」としている。名古屋市の場合、221万人であるから、56人+(221万−50万)÷40万×888人となる。

 これを受けて「名古屋市議会の議員の定数及び各選挙区において選挙すべき議員の数に関する条例」(昭和42年条例第4号)第1条は「地方自治法(昭和22年法律第67号)第91条第1項の規定により、議会の議員の定数は、75人とする。」と定めている。したがって、名古屋市は、現状としては法定上限数より13人下回っている。

 このように、近時、議員定数を巡って騒動となった両市は、いずれも法定上限数よりは相当程度少ない定数を条例で定めていたのであるが、それをさらに引き下げるよう、市民から圧力がかかった、ということになる。

 全国市議会議長会によるデータ*24で見ると、平成211231日時点における全806市の議員の平均値は26.4人となっている。806市になった最初の年である平成17年末日のデータでは、平均は27.5人であったから、5年の間に各市において議員数が1人以上も減少していることが判る。市民からの定数削減の圧力が明確に見て取れるであろう。

 これをもう少し細かく見ると、21年末日の場合、806市のうち合併特例法を適用していない「775 市」のうち、法定上限数を議員定数としている市は108 市(13.9%)、法定上限数未満を議員定数としている市(減員市)は667 市(86.1%)である。

 これに対し、17年末日の場合、合併特例法を適用していない「737 市」のうち、法定上限数を議員定数としている市は142 市(19.3%)、法定上限数未満を議員定数としている市(減員市)は595 市(80.7%)である。

 このようにマクロに見ても、法定上限数に固執している市は全国的に見ても少なく、多かれ少なかれ、市議会議員数は減少傾向にあることが判る*25

 地方自治法は、地方自治体の人口に比例する形で上限数を定めているので、人口規模別に、減員市の状況を全国市議会議長会による21年末時点のデータで見ると、表4のとおりである。

4 平成21年末時点における減員市における定数削減状況

 人口

法定上限数

市合計数

法定数採用市

減員市

減員市法定上限数計

減員市条例定数計

同議員数平均

減員率

5万未満

26

245

28

217

5,642

4,213

19.4

74.7

5万以上

10万未満

30

268

40

228

6,840

5,153

22.6

75.3

10万以上

20万未満

34

147

6

120

4,080

3,244

27.0

79.5

20万以上

30万未満

38

40

4

34

1,292

1,105

32.5

85.6

30万以上

50万未満

46

45

1

41

1,886

1,634

39.9

86.6

50万以上

90万未満

56

17

2

16

896

836

52.3

93.3

90万以上

130万未満

64

5

0

3

192

169

56.3

88.0

130万以上170万未満

72

4

0

4

288

264

66.0

91.7

170万以上210万未満

80

1

0

1

80

68

68.0

85.0

210万以上250万未満

88

1

0

1

88

75

75.0

85.2

250万以上

96

2

0

2

192

181

90.5

94.2

775

102

667

21,476

16,942

25.4

78.9

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 注:平成21年末時点における市の総数は806であるが、このうち合併特例法が適用されていない市のみを対象として集計している。

 全体としてみれば、人口の少ない市には法定上限数に条例議員数が貼り付いているところも多いが、減員市に限ってみれば、人口の少ない方が減員率が高く、人口の多いところほど低い傾向がみられる。先に紹介したとおり、全体の平均議員数は26.4人であったが、減員市に限れば25.4人とさらに1人下がり、減員率は平均すれば78.9%と、法定上限数の8割未満になっていることを示している。

 米国における表3-1及び表3-2の議員定数部分を人口別に整理し、日本の人口区分別法定数と対比させて作成したのが表5である。

5 市議会議員定数の日米比較

人口区分

日本の法定数

米国の平均数(表3-1)

米国の平均数(表3-2)

5万未満

26

14

5万以上10万未満 30 11.4

10万以上20万未満 34 9.7

20万以上30万未満

38

9.7

30万以上50万未満

46

9.6

50万以上90万未満

56

13.4

13.5

90万以上130万未満

64

9

11.6

130万以上170万未満

72

11.25

170万以上210万未満

80

14

14

210万以上250万未満

88

250万以上

96

38.7

38.7

米国の平均

14.1

15.3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょうど名古屋市に対応する210万人以上250万人未満という都市は、全米に存在しないが、それを若干下回るヒューストン市は議員数14人と、わが国法定数の6分の1以下、従来の名古屋の条例定員と比べても5分の1以下となっている。ヒューストンが決して異常な数値でないことは、その下の欄の数字が同様の傾向を示していることから判るであろう。米国における250万人以上の平均値がそれ以下の数値に比べて非常に高くなっているが、これはニューヨーク市とシカゴ市のためである。この点について、小滝敏之は、次のように説明している。

「人口290万人の『シカゴ』は50名の市会議員を抱えており、また、人口800万人を擁する全米最大都市『ニューヨーク』は51名もいるが、この2都市は例外中の例外である。特に『ニューヨーク』は、市内に『カウンティ』を5つも統合した米国でも唯一の特殊な都市であるから、議員数の面でも同市を基準として考えるわけにはいかない。」*26

 そこで、この例外的な2市を排除すれば、250万人以上の市としてはロサンジェルスだけが残り、その議員数は15名で、上記ヒューストンと大差がない。なお、この例外中の例外と呼ばれるニューヨークでさえも、わが国法定数の半分程度であることにも注目したい。

 

(二) 議員報酬について

報酬については、地方自治法は、その203条で次のように定めている。

1項 普通地方公共団体は、その議会の議員に対し、議員報酬を支給しなければならない。

3項 普通地方公共団体は、条例で、その議会の議員に対し、期末手当を支給することができる。

 これを受けて、各地方公共団体が議員報酬を定めることになる。したがって、原則として議員報酬は支給せず、旅費その他の実費を支給するに留める制度を条例で採用することは、わが国では違法とされることになる。

 有償制にも、日給制、会期制、月給制、歳費制(年俸制)の別が考えられるが、国会の場合に憲法が歳費制を要求している(憲法49条)のと異なり、地方自治法は特段の要求をしていない。その結果福島県矢祭町のように、2008331日以降の議会(定数10人)から従来の月額208000円を廃止し、議会等に1回出席するごとに3万円の日当制とすることは、違法ではない*27

 こうした地方自治法の規定を受けて、具体的にどのように定められているかを、名古屋市について紹介すると、「名古屋市議会の議員の議員報酬及び費用弁償等に関する条例」(昭和31年条例第32号)で定めてられている。その第1条によると、議長、副議長、一般議員で報酬額が異なるが、一般議員をとると月額99万円である。月額の年間合計は1188万円となる。期末手当は第64項に依れば、「議員報酬に100分の45を乗じて得た額」を期末手当基礎額とし、同3項に依れば「期末手当基礎額に乗じる割合の各年度ごとの合計は100分の310」とされているので、これにより計算すれば445万余円となるから、年間支給額合計は1633万余円ということになる。

 今ひとつ例に引いた阿久根市の場合には、ネットに公開されている市の例規集一覧の中に、なぜか報酬関係の条例は一切公開されておらず、詳細は不明であるが、報道されたところに依れば、年間報酬総額は400万円程度という。この場合にも、常勤職員並みの報酬となっていると言える。

 全国市議会議長会の報酬に関する調査は、月額だけを対象としており、期末手当の存否及びその額は調査対象としていない。また、地方自治法の定める議員定数に関する人口区分とは異なる区分を採用しているので、それとの対比が困難である。しかし、他に適切なデータがないので、それを議員に限定して紹介したのが表6である。

表6 平成21年末時点における月額議員報酬平均値

表人口

市合計数

月額議員報酬平均(単位:万円)

5万未満

254

32.67

5万以上10万未満

265

38.70

10万以上20万未満

159

46.53

20万以上30万未満

43

55.16

30万以上40万未満

29

59.39

40万以上50万未満

21

63.21

50万以上

33

73.81

全国平均

804

42.05

 

 

 

 

 

 

 

 

 注:平成21年末時点における市の総数は806であるが、このうち1市で複数の制度を採用している市を除外して集計している。

 ここで、表6の結果に基づいて、米国と比較してみよう。日本の場合には、判っているのは月額報酬で、これに数ヶ月分の報酬額に相当する期末手当が加わることは名古屋市の例に明らかであるが、資料がないため期末手当についてはさしあたり無視せざるを得ない。すなわち、表6に、表3-1及び表3-2に示した米国における年俸額の12分の1を記入して作成したのが、表7である(但し、会合毎の日当制を採用している2市及び報酬に関する情報を入手できなかった市は除外した。)。

7 日米市議会議員報酬月額の比較

人口

日本の報酬額

米国の報酬額(表3-1)

米国の報酬額(表3-2)

5万未満

32.67

 

5万以上10万未満 38.70  
10万以上20万未満 46.53
20万以上30万未満 55.16

30万以上40万未満

59.39

2,893

40万以上50万未満

63.21

3,792

50万以上

73.81

4,811

4,184

全国平均

42.05

3,934

 

 

 

 

 

 

 

 注:単位は日本は万円、米国はドルである。

 これを見る限り、平均額で見れば、仮に1ドルを100円として換算すれば、42万円に対する39万円であるから僅差と言える。しかし、これは日本側の平均値を小都市が引き下げているのに対し、私の調査能力の限界から、米国側については人口30万人未満の小都市については報酬に関する情報がインターネットから入手できなかったことに起因している。米国の小都市について、情報が入手できなかった理由は、米国の場合には、わが国地方自治法が報酬支給を義務づけているのと異なり、米国では報酬を支給しない方が通例であるためと思われる。例えば、小滝敏之は次のように述べている。

「大都市の専門職議員に対する報酬は別として、大半の『非常勤』議員の報酬はゼロないし極めて少額しか支給されず、せいぜい出席当日の旅費が支給される程度に過ぎない。旅費といっても、ガソリン代しか出さないところも少なくない。」*28

 仮に私が報酬に関する情報を入手できなかった市については全て報酬がゼロであるものと仮定して計算すると、米国側の表3-1における平均値は2,469ドルとなり、日本側の平均値の半分程度と推定されることになる。日本側の場合には、これに期末手当が上乗せになることを考えると、両者の格差はさらに拡大することになる。大都市に限定した表3-2の場合にも、日当制を採用している2市について、年間出席日を把握して加味すれば、さらに下がることは確実である。

 

四 日米格差の検討

一) 議員数格差の検討

 わが国の市会議員の法定上限数は、米国を基準とすれば異常に多いということができる。わが国の法定上限数が、このように多い理由は、戦前の市制、町村制時代に定められていた議員定数を基本的にそのまま引き継いだためである*29。GHQの側では「アメリカ合衆国の地方議会に較べ、面積・人口の点からみて日本の市町村議会の議員数が多過ぎるという先入観をかねてより抱いていた」*30が、特に強く主張せず、わずかに定数増加を原則として認めないとする制度にするに留めた。

 しかし、これが住民の批判の対象となり、戦後一貫して減員の方向に動いてきたが、それでも米国に較べると著しく多いのは先に示したとおりである。

 思うに、わが国地方自治が、国政レベルのように、議会制民主主義を大原則とし、直接民主主義的権利を国民に認めない場合には、議会議員数は、様々な民意を多角的に国政の場に繁栄させる手段として極めて重要である。しかし、わが国現行地方自治制度は、米国法の強い影響の下に、地域住民に条例の制定改廃請求権、事務の監査請求権(12条)、さらに議会の解散請求権、主要公務員の解職請求権(13条)という強力な直接民主政的な制度を認めている。すなわち、定数削減が非民主的だという主張は、地方自治制度が国政同様の議会制民主主義に基づいている、との錯覚に基づくものである。住民に地方政府の機関としての強力な権限が認められている制度の下においては、議員数が多いことは必要ではない。それが、米国の地方自治体において、日本の数分の1という少ない議員数が採用されている理由である。

 このような直接民主政的制度の下においては、むしろ、地方政府の活動が、不断に住民の監視下におかれる体制を整備することが大切である。小滝敏之は、議会活動に対する住民監視手段の一つとして、次のようなことを紹介している。

「議会が夕方から夜にかけて開催される場合が多いという点である。一部の都市では、日本と同じく昼間開催されているが、大方の自治体では、主権者たる住民が参加しやすい夜間の時間帯に開かれている。いくつかの都市で夕方の議会を傍聴する機会があったが、勤め帰りの人々や家庭の主婦と思われる人たちが熱心に意見を開陳していた。」*31

 わが国で、このような夜間や土日の議会開催が行われていない大きな理由は、地方議会に関しても国会と同様の会期制を採用し、議会は会期中に限ってしか活動能力を持たないとしている(101条〜102条)ことにある。そのため、「一定期間に集中して審議する」などの理由で、ほとんどは平日の昼間に開会されており、住民が傍聴しにくい運営となっている。マスコミ報道に依れば、総務省では現在、地方自治法から会期制を撤廃することを検討中とのことであるが、私はそれに賛同する。

 なお、上記小滝の引用文で、傍聴者が意見を開陳するという記述に違和感を感じた方もあるかと思うので、その点に関する小滝の別の文章を紹介する。

「議会会議室は、議員が半円型の議席に座って、傍聴席(というよりもむしろ発言席というほうが実態に近い)の住民と向かい合う形式が圧倒的に多い。議員が有権者に背中を向けて着席する日本的形式の議席はアメリカの自治体では皆無に近い。」*32

 あるいは、私が今回、ネットで調査した都市において、議会活動のすべてがローカルテレビやインターネット・テレビで中継されていることを、市のホームページで強調しているところが幾つも存在していた。このような、いわば住民に肩越しにのぞき込まれている状態で議会を開催することは、いたずらに議員数を多くして、個々の議員の発言の機会を減少させるよりも、議会の活性化につながり、又、そのように住民そのものの市政への関与の機会を確保する努力をする方が、民主主義的には適正な態度と言うべきである。

 

(二) 議員報酬格差の検討

 報酬に関して、わが国の最大の特徴は、自治体の規模あるいは議員としての勤務の、議員個人の本務に対する影響の程度を無視し、報酬を強制する制度を国家法のレベルで採用していることである。これが、自治体の負担を大きくし、名古屋市や阿久根市に端的に見られるように、全国的に議員定数を減少させるべきだ、という住民からの圧力を増大させる大きな原因となっている。

 わが国現行の議員報酬の強制という法制は、比較法的に見る限り、大変異端の部類に属する。米国においては米国が小規模自治体においては、議員報酬が無いという制度を採用しているのが通例であることを紹介した。同様に、ドイツの各州の地方自治法でも、原則は名誉職、すなわち無給とされているし、フランスやイギリスなど、わが国法制に影響を与えてきたどの西欧諸国でも、その点は共通である。

 わが国においても、明治憲法下においては、明治21年の市制・町村制ともにその16条で「議員は名誉職とす」と定め、原則として無給であった。問題は、名誉職という言葉が、単に無給の職という以上の特殊な意味を持っていた点にある。

「明治22年の市制町村制、同23年の府県制及び郡政が近代的地方制度の最初である。戦前の制度の大きな特色は、国民を、参政権を有する『公民』と有しない『住民』に区分し、『公民』には無給で公共活動に奉仕する名誉職に就任することが義務づけられていたことである。このような仕組みは、内閣法律顧問モッセ(ドイツ)の主張による。名望家による自治は、国家の安定を志向し、イギリスのジェントリー型自治、プロイセンのユンカーによる自治を模したものである。」*33

 しかし、この公民・名誉職制度はわが国に根付くことなく、敗戦を迎える。

「戦後は、まず昭和21年の大幅な改正がある。公民及び名誉職の廃止、女性を含む普通選挙の実施、全ての地方公共団体の首長の公選制、都道府県の完全自治体化、直接請求等の直接民主主義的制度の採用である。」*34

 昭和21年の改正により、市制104条は「市会議員〈中略〉には報酬を給することを得」と、同じく町村制84条は「町村会議員〈中略〉には報酬を給することを得」と、それぞれ定めた。この立法理由について、政府は次のように説明している。

「地方議会議員及び参事会員に報酬を支給することにしたのは、次の理由からである。

(1) 地方団体の事務は近年著しく複雑多岐を加え、このため執行部のみならず議員や参事会員の職務も亦相当多忙となり、有権者の増加に伴って出費も増加する実情にあるから、報酬を支給しうる途を拓くのが当然である。

(2) 議員は選挙に多額の費用を要する外、議員としての交際等のためにも多額の費用を必要とするため、従来費用弁償の外に、種々事実上の行為が行われて来た傾向があるが、これが却って問題の種子となっている場合があるので、むしろ明確に報酬を支給する建前とする方が適当である。」*35

 名誉職でなくなったことから、このように俸給支給の途を開くこと自体には、特に異とする点はない。

 不思議なのは、昭和22年に現行の地方自治法が制定された際、その203条が「普通地方公共団体は、その議会の議員〈中略〉に対し、報酬を支給しなければならない」と定めたことである。何故諸外国に全く例を見ない、このような俸給支給の強制制度が導入されたのか、調べてみたが、管見の限りでは、地方自治法を制定する地方制度調査会においても、この点はそもそも議論の対象ともなっておらず、大きな謎という他はない。

 この結果、わが国においては、どれほど小規模の地方自治体であって、議員としての業務量が少ない場合であっても報酬を支給しなければならないのである。これは大きな疑問の存する立法であり、昭和21年の市制・町村制のように、「給付することを得」として、後は地方公共団体に委ねる方が、立法論的には妥当と考える。

 議員報酬がどのような額であるべきか、という点に関しては、客観的な基準が存在していない。すなわち、一般の常勤公務員は職務専念義務を持ち、他の職業との兼職が禁じられているため、それに対する報酬は生活費の支弁という性格を持つのに対し、地方議会議員は、専念義務を持たず、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人等になることはできない(92条の2)という制限はあるが、一般に他に職業を持つことが可能なので、生活費の考慮を払う必要が無い点で異なる。もちろん、議員の多くが、常勤公務員と同じように、事実上議員職務に専念している場合には生活費を考慮する必要があるのは当然である。しかし、そうした客観的状況にない場合にも、専念義務を持つ公務員に準じてベースアップが行われていることが、近年、住民を刺激し、紛争が多発する原因となっていると見られる。

 これについて、久世公堯は次のように述べている。

「戦前の旧制度下においては、議員の本質は名誉職であったが、現行制度における議員の地位と職分とは、本質的に名誉職的でありながら、実質的には非常勤の半ば職業的専門職的色彩を帯びた性格のものとして理解することができるのである。すなわち、第一に、議員は、現在においては、行政の分化、専門化に応じてその審議も戦前とは異なり専門的であり、これに要する時間も遙かに多くなっていることは事実であり、旧制度における『名誉職』として片手間にできるものではない。第2に、戦後の一般社会観念として、『勤労は報酬を伴う』という経済観念が支配的であると共に経済の情勢も変化しており、かつ、無産政党ないし革新系議員の地方議会に対する進出も顕著であり、したがってその報酬も、ある程度生活給的な要素を加えていることは無視することができない。第3に、しかしながら議員は一般常勤公務員と同じく『常勤職』であるとか、あるいは、その報酬は労働に対する給料であるといいうるものではなく、その本質は、あくまでも、民主体制の下において地方住民から選ばれた『議員』であり、観念的、心理的には『名誉職』的であるべきである。」*36

 あるいは大出峻郎は次のように述べる。

「議員の報酬は、一般公務員の給料とその性質を異にする。一般公務員は、公務に就くことを職業とし、その職務に常勤するものであるから、地方公共団体から受ける給料は、勤労の対価であり、生活費である。一般公務員は、原則として他の職業と兼ねることができない。これに対して、議員は、常勤職ではなく、しかも他の職と兼ねることができるのである。したがって、議員に支給される報酬は、職務の遂行に必要な費用、すなわち、手当的な性格がより強いということができるのである。もっとも、最近については、地方公共団体の事務も複雑化し、議員の職務も繁忙を加え、かつ、専門職化しつつあることから、単なる手当的な性格のものとして割り切れない面があるともいえよう。」*37

 これらの意見から見ても、常勤一般職公務員に匹敵する額の議員報酬が常態化している現状は、異常という他はない。

 全国市議会議長会の報酬に関する調査から脱落している期末手当に関しては、さらに問題が多い*38。もともと、期末手当の支給規定を設けることは、当初の立法の段階で、提案者側に既に疑念が存在していたのである。期末手当に関する規定は昭和31年の地方自治法の一部改正の際に追加されたものであるが、その際の想定問答集に、提案者側は「議員に期末手当を支給できるとするのはゆきすぎではないか。」という質問が出ることを想定し、次のような回答を用意していた。

「地方議会の議員に対する給与その他の給付は、地方公共団体の常勤の職員と異なり、それをもって本人及びその家族の生活を維持するという建前の上に立つものではないから、その限りにおいては議員に対する期末手当の支給は必ずしも必要とは思わないのであるが、今回の改正法により、議員も含めて、地方公共団体の職員に対してはいかなる給付も法律又はこれに基づく条例に基ずかずには支給できないこととなるので、同じ議決機関の構成員たる国会議員に対し現在期末手当が支給されていることに鑑み、地方議員に対しても条例で特に規定するならば、支給できることとしたのである。したがって、今回の改正は地方議員に対する期末手当の支給の途をひらいたにすぎないのであって、支給しなければならないものとしたわけではないから、敢えて行き過ぎとは思わない。」*39

 このような立法趣旨から考えても、期末手当は条例で定めさえすれば、どの地方公共団体でも支給できるという性格ものではなく、特にそれが必要な特別事情がある場合に限って許容されると考えるべきである。名古屋市条例のように、期末手当の額だけで、阿久根市の年間支給総額を上回るような給付を必要とする特別事情があるとは到底考えることができない。

 

[終わりに]

 以上に紹介したとおり、わが国地方議会の議員数及び報酬が多すぎるという主張は、米国における同等の都市と較べた場合、顕著に認めることができる。例えば、名古屋市の場合、市長は議員数を38人に減らし、かつその年俸800万円に半減することを訴え、一般にはそれは大変ラディカルな主張と受け止められた。しかし、米国における200万人の人口をもつテキサス州ヒューストンが、議員数14名、議員年俸が44,218ドル(1ドル100円と考えて約440万円)という低い水準であることと較べれば、まだまだ議員数が多く、俸給も高いと言わざるを得ない。議員数や議員報酬が、どの水準にあるをもって適切とするかは市民が決定することではあるが、少なくとも、名古屋市長の主張は、過激というほどの主張ではない。

 また、阿久根市の場合には、米国に限らず、欧米諸国のどこでも、その程度の規模の都市の場合には、議員は無報酬で、実費支給に留まるのが常識であることを考えると、報酬支給を強制しているわが国現行地方自治法の下では、福島県矢祭町のように日当制を採ることが最も穏当な対応であると考えられる。400万円もの年俸は明らかに生活給的な性格を有しているといわざるを得ないから、それを正当と主張する側が、その業務量を公開するなどの措置を執らない限り、不当に高額な俸給と言われても仕方がないのではないだろうか。専決処分の濫用など、立法無視の行動には問題があるが、阿久根市長の議員数及び議員報酬に関する主張そのものは、各国との比較に立つ限りは、妥当なものと評価せざるを得ない。

 

*1 読売新聞平成2311813頁、青山彰久論説委員の「阿久根市長選挙の教訓」より引用。

*2 近時の例を挙げれば、地域政党・京都党は20101221日、京都市議会の定数699削減する条例改正を門川大作市長に直接請求した。仙台市議会は2011123日に、定数を60から55に削減する条例改正案を可決した。鹿沼市議会では、自治会連合会が定数288減することを要求したが、議会では結局2010129日に2減して26とする案が可決された。

*3 議員定数の削減が違憲であるという主張の憲法的根拠は次のようなものである。

「日本国憲法が依拠する議会制民主主義は、社会生活の運営にその全員が参加するために人類史上さまざまな試行錯誤を重ねて到達した政治形態であり、なお制約の余地があっても全員参加のための代議制という原則は不動のものと考えられます。議員定数の削減は、真っ向からこの原則をくずしていくものです。」

出典:http://aisyokyo.cocolog-nifty.com/ask/2010/01/100128-edef.html

*4 佐藤和寿「議員の定数」 井上源三編『議会〔最新地方自治法講座D〕』ぎょうせい平成15年刊25頁より引用。

*5 佐藤和寿・注4紹介論文20頁より引用。

*6 GHQの文書の正式な名称は次のとおりである。

Political Reorientation of Japan”(September 1945 to September 1978) report of Government Section, Supreme Commander for the Allied PowerSection [ Local Government

以下、本文に引用しているのは、地方自治研究資料センター編『戦後地方自治史T』文生書院1977年刊107頁以下の邦訳である。

*7 注6紹介書108頁以下より引用。

*8 明治の時点における地方制度が、ドイツ法系の影響を強く受けているという点については、古川俊一編著『住民参政制度〔最新地方自治法講座B〕』ぎょうせい2003年刊24頁が、より具体的な説明を行っている。

*9 注6紹介書107頁より引用。

*10 フランスの地方自治を紹介する文献は、きわめて多数に上るので、個々では紹介を控える。現時点における地方自治の全体的状況については、自治・分権ジャーナリストの会編『フランスの地方分権改革』日本評論社2005年刊が詳しい。

*11 ユリウス・カエサルの『ガリア戦記』は、日本では、岩波文庫、講談社学術文庫で入手可能である。

*12 タキトゥス『ゲルマニア』は、日本では岩波文庫、ちくま学芸文庫で入手可能である。

*13 米国のタウン・ミーティングに関する文章は、小滝敏之『アメリカの地方自治』第1法規2002年刊14頁より引用

*14 ハワイ州の場合にはカウンティに州憲法により地方自治権が与えられ、自治体政府を有しているが、その下にはシティやタウンに相当する地方自治体は存在しない。普通、ハワイ州の首都はホノルル市と言われるが、実際にはその名前のシティは存在しておらず、ホノルル市郡(City and County of Honolulu)という名称のカウンティレベルの地方自治体が、オアフ島全島を管轄している。なお、City and Countyとは、通常は地方自治体とカウンティの複合政府の形態をとるものを言うが、上記のとおり、ハワイではシティが存在していないので、その通常の用語法とは異なっている。

 逆に、ニューヨーク市は、シティがBronx (Bronx County)、Brooklyn (Kings County)、Manhattan (New York County)、Queens (Queens County)、Staten Island (Richmond County)という5つのカウンティを包括する形で存在しており、シティの方がカウンティの上位団体となっている。

*15 首都ワシントン市の所在するコロンビア特別区(The District of Columbia)は州には属さないが、一定の範囲でホームルール憲章制定権は認められている。

*16 ホームルール憲章を認めていない12州とは、アラバマ、コネチカット、デラウェア、ミシシッピ、ネブラスカ、ネバダ、ニュー・メキシコ、オクラホマ、ロード・アイランド、バーモント、ウェスト・ヴァージニア、ワイオミングの各州である。

*17 例えばテキサス州では人口5000人以上の自治体に、ワシントン州では人口2万人以上の自治体に、ホームルール憲章制定権が認められている。

*18 代議住民総会型:人口が多く全員参加が困難な市で採用されている。この場合、すべての住民が総会への出席権と発言権を有するが、議決権は代議員のみに与えられる。

*19 ジャクソン流民主主義(Jacksonian democracy:米国第7代大統領アンドリュー・ジャクソンとその支持者の政治哲学のことである。彼より前の大統領は、いわば米国貴族の出身であったのに対し、ジャクソンは大統領になった初めての普通の人であった。彼以前においては、選挙権は土地所有者に限られていたものが、あらゆる成人の白人男性市民に拡がり、そうした市民の支持を背景にアメリカ合衆国議会に対して行政府と大統領の力が強くなり、また政府に対して大衆の関与を広く求めるようになった。これが地方における公職の選出にも影響を与えた。

*20 理事会型:比較的少数の、市民の直接選挙で選出された理事により構成される理事会が、市の意思決定及び執行のすべてを行う。市の各部局は理事会に直属する。理事長は理事によって互選され、ときに市長と呼ばれるが権限は他の委員と同じである。

*21 議会・支配人型:これは株式会社の管理方式を地方自治体に持ち込んだものである。市民は少人数の議員を選挙し、それによって構成される議会が市の支配人を任命する。支配人は、会社の社長(CEO)に類似した地位で、市内に住所を有する必要はなく(つまり市民の一員である必要はなく)、支配人にふさわしい能力があれば任命される。支配人は議会の承認を得て市の行政を司る。

*22 表1のベースとなった資料については、次のアドレスを参照

http://icma.org/en/icma/knowledge_network/documents/kn/Document/302186/Form_of_Government_Statistics_2010

*23 地方自治法は、制定当時においては固定的に定数を定め、それを条例により削減することは認めていなかったが、昭和27年の改正により定数の削減を条例で行うことを認めた。さらに平成11年の地方自治法の一部改正により、地方公共団体の自己決定権を高める見地から、同年改正で、現行の条例で定数を定める制度が採用された。

*24 全国市議会議長会では、平成151231日時点の全国調査を皮切りに、以後、毎年度、市議会議員の定数及び報酬に関する調査を続けている。その結果については、次のホームページで見ることができる。

http://www.si-gichokai.jp/

*25 同様のことは、町村についてもいうことができる。すなわち、全国町村議会議長会が、類似の調査を行っている。ただ、それは調査期間が最近3ヶ年に過ぎないこと、町村数そのものが毎年減少していること、調査データ項目の不徹底さなどから、きちんとした傾向を示すことができない。しかし、基本的には同様に、条例定員数が、法定上限数よりも減少傾向を示している。詳しくは、次のホームページを参照。

http://www.nactva.gr.jp/html/index.html

*26 小滝・注13紹介書241頁より引用。

*27 一般の非常勤職員に対し日当制が採用されているのに対し、議院の場合には明文でこれが排除されている。しかし、「このことは議院の報酬については月額又は年額によるべしとする反対解釈を許す趣旨では毛頭なく、法律的には議会の議員の報酬に関する気球の原則については、全く触れていないと解すべきものである。」と一般に言われている(今村・辻山編著『逐条研究地方自治法V』啓文堂2004年刊1100頁より引用)

*28 小滝・注13紹介書241頁より引用.

*29 議員定数制度の変遷の正確な状況については、佐藤英善編著『逐条研究 地方自治法U』啓文堂2005年刊87頁以下参照。

*30 地方自治研究資料センター編『戦後地方自治史Z』文生書院1977年刊90頁より引用。

*31 小滝・注13紹介書241頁より引用。

*32 小滝・注13紹介書242頁より引用

*33 古川俊一編著『住民参政制度〔最新地方自治法講座B〕』ぎょうせい2003年刊24頁より引用。

*34 古川・前注紹介書27頁より引用

*35 地方自治研究資料センター編『戦後地方自治史U』文生書院1977年刊193頁より引用。

*36 久世・浜田著『議会 地方自治講座第2巻』第一法規1967年刊200頁より引用。

*37 大出峻郎『地方議会・現代地方自治全集B』ぎょうせい1977年刊73頁より引用

*38 例えば、俵静夫『地方自治法』有斐閣法律学全集8、1969年刊143頁は、期末手当について「もともと生活給的色彩をもつ給与を受ける常勤の職員に馴染むものであるから、非常勤の職である議員にこれを認めることには問題がないわけではない」と述べている。

*39 今村・辻山編著・注26紹介書1097頁より引用