宇宙法序説

―宇宙エレベータを目指して―

甲斐素直

[はじめに]

一 宇宙開発略史

(一) 米ソの宇宙競争

(二) 世界各国の宇宙進出

(三) 民間の宇宙開発

二 宇宙法

(一) 国内法

(二) 国際法

三 宇宙法の基本原則

(一) 宇宙活動自由の原則

(二) 宇宙空間領有禁止原則

(三) 宇宙平和利用原則

(四) 国家への責任集中原則

四 宇宙エレベータ機構の可能性

 

 

[はじめに]

 法は社会規範である。すなわち、その時々の社会情勢が存在して、あるいは一定の社会情勢が予想されて、その状態を規律するために形成される。それは、宇宙法においても変わらない。宇宙開発技術が一定の発達を示して、初めて宇宙法は生まれる。その意味で、その時々の社会情勢を知ることなしに、個々の宇宙法を理解することは出来ない。そこで、最初に駆け足的に宇宙開発の歴史を振り返り、それを前提として宇宙法のうち、宇宙エレベータに関わりがあると思われる部分について見ていくこととしたい。

 

一 宇宙開発略史

(一) 米ソの宇宙競争

 かつて、空に関する法といえば航空法であった。飛行の自由を目的として作成されたパリ条約(1919年)にはじまり、マドリッド条約(1926年)、ハバナ条約(1928年)を経て、1945年にはシカゴ条約*1が締結された。これらの諸条約は、国の領土と領海の上方に領空と呼ばれるようになる一定の「空域」の存在を認め、そこはその国の完全かつ排他的な領有権が認められた空間であるとした。しかし、領空の上方における限界がどこについては不明のままであった*2

 他方、第二次世界大戦後に始まった冷戦は、米国およびソヴィエト連邦の両国による戦略ミサイルの開発競争に発展していた。19557月、アメリカは1958年末までに人工衛星を打ち上げることを表明した。翌日、ソ連も同様の発表を行った。こうしたことから、国際社会も、宇宙空間に関する法的整備が緊喫の必要性を有することを認識していたが、具体的には未整備のままにあった。

 1957104日、ソ連は、事前の予告通り、人類初の人工衛星「スプートニクSputnik1号」を打ち上げた。これにより、シカゴ条約に言う「領空」が、仮に宇宙まで伸びていると解釈されれば、その侵犯状態が恒常的に発生することとなった。

 宇宙における活動が、単なる可能性の問題ではなく、こうして現実の問題となった後の国際連合の反応は早かった。そのわずか2ヶ月後の1212日には、国連総会は、宇宙の利用方法についての国連総会決議「宇宙空間の平和利用に関する国際協力(international cooperation in peaceful uses of outer space)」を採択した*3

 この決議に基づいて、翌1958年には宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)が国連総会の補助機関として設置され、1959年には常設化された。

 この間も宇宙開発は進んだ。アメリカも、19581月に人工衛星「エクスプローラー(Explorer 1)号」を地球軌道に打ち上げることに成功するなど、急速にソ連に追随した。19614月には、ソ連は、ガガーリンを乗せた宇宙船「ボストーク(Восток)1号」を打ち上げて、人類初の有人宇宙飛行に成功した。アメリカが有人宇宙船フレンドシップ(Friendship7号の打ち上げに成功したのは、それから10カ月後であった。

 しかし、ソ連は、1959年から開始したルナシリーズによって、月の探査においてもアメリカを大きくリードした。特に195910月には、ルナ3号が月の裏側の写真撮影に成功し、19662月にはルナ9号が初の月面軟着陸に成功した。これに対抗してアメリカは、1961年からはじまった「アポロ計画(Apollo program)」において、1969年の月着陸を皮切りに、合計6回にわたり月に人間を送り込むのに成功し、ようやくソ連に対する威信を確保するのに成功した。こうした競争の結果、単に地球の上空だけでなく、月を含めた他の天体も含めた宇宙法の整備の必要性がはっきりしてきた。

 

(二) 世界各国の宇宙進出

 1960年代に入ると、米ソ以外の国も宇宙開発に参入するようになった。まず1961年にフランスが国立宇宙研究センター(Le Centre national d'etudes spatialesCNES:クネスと発音)を設立した。そして、1965年にはフランスは人工衛星「アステリックス(Asterix)」を打ち上げた。また英国は、自らが軍事用に開発していたロケットを母体に、西ヨーロッパ諸国に対し、国際共同でヨーロッパ独自のロケットを開発することを呼びかけ、ベルギー、フランス、西ドイツ、イタリア、オランダがこれに答え、欧州宇宙ロケット開発機構(European Launcher Development OrganizationELDO)が1964年に設立された。1962年には欧州宇宙研究機構(European Space Research OrganizationESRO)が、打上はアメリカに依頼することを前提とした探査機や人工衛星の研究開発を目的として発足した。1975年にこの二つを統合して設立されたのが、欧州宇宙機関(European Space Agency ESA)である。

 1970年には日本が人工衛星「おおすみ」を打ち上げるなど、衛星打ち上げ能力を持つ国は増加しつつあり、最近ではイランが2009年に人工衛星「オミド(Omid)」を打ち上げ、自力で打ち上げ能力を持つ世界で9番目の国になった。また、ソ連の解体により、ロシアえとウクライナが打ち上げ能力を持つ国に数えられるようになったため、現時点では衛星打ち上げ能力を保有する国は計10ヶ国となっている*4。これら人工衛星打ち上げ能力を持つ各国は、自国の衛星打ち上げ単価節減の目的もあって、他国からの打ち上げ以来を積極的に引き受けている結果、世界50ヶ国以上の人工衛星が、現在では地球を回っている状況にある。

 

(三) 民間の宇宙開発

 同じ時期に、民間企業の宇宙空間への進出が開始され、それに伴い国際組織が設立されている。

  1 国際電気通信衛星機構

 1962年にアメリカは、通信衛星法(Communications Satellite Act of 1962)を成立させ、それに基づいて翌632月にコムサット(COMSAT:communications satellite corporation)を、連邦が出資しているが、民間通信企業も出資している民間通信衛星会社として設立した。コムサットは、翌年8月、日本など11ヶ国の電気通信事業者*5の参加を得て、世界的な商業衛星通信システムの設立を目指した国際電気通信衛星機構(International Telecommunications Satellite Consortium INTELSAT)暫定協定を成立させた。そして、19654月、最初の通信衛星アーリーバード(Early Bird)が打ち上げられた。

 宇宙法的にも重要な問題が起こる。オープンスカイ・ポリシー(Open Skies Policy)である。この言葉は、後に航空機の離発着における規制緩和の意味で使われるなど、様々な用例があるが、ここでは、アメリカ連邦通信委員会(The Federal Communications CommissionFCC)が1970年に打ち出した政策を意味している。FCCは、主力放送事業者やコムサットの反対にもかかわらず、国内放送事業者が衛星を使用することを認め、異なるシステム間での競争の促進を目指したのである。

 1971年に正式の「国際電気通信衛星機構に関する協定」が採択され、1973212日に同協定が発効し、国際機関であるインテルサットとして再編された。機構自らが通信衛星の運用を行い、サービスを提供するようになった。

 その後、国際機関であるインテルサット自身が提供することがなじまないと考えられる競争性の高い映像サービス業務*6について、新たに設立したインテルサットの子会社へ移管することが検討され、19983月に開催された第22回締約国総会において、子会社(New Skies Satellites)を設立し、サービス提供に必要な人工衛星(6機)を移転することが決定された。

 他方、アメリカでは先に言及したオープンスカイ・ポリシーを受けて、衛星通信事業の競争条件の公平化を目的とするORBIT(Open-Market Reorganization for Betterment of Int'l Telecommunications)法が20003月に成立した。これに基づいてアメリカ側が主張した競争条件が、インテルサット側の意見と合わない結果となり、インテルサットの民営化計画は暗礁に乗り上げた。結局、インテルサットを政府間機関に改組した上で、その監督下に、インテルサットから資産を承継した新会社がサービスを提供する事に為った。そこで、200011月の第25回締約国総会で「国際電気通信衛星機構に関する協定の改正」が採択され、インテルサット(INTELSAT)の事業部門を民間会社(Intelsat Ltd.等)に移管するとともに、この会社によるサービス提供に関する「中核的原則」*7の実施を監督するため、組織本体は政府間機関(International Telecommunications Satellite OrganizationITSO)に改組することとなった。

  2 国際移動通信衛星機構

 1976年、コムサットはマリサット(Marisat)を展開した。これは、静止軌道に打ち上げられた3基の衛星により、米国海軍その他の利用者に対し、海事用途の移動体通信を提供するものであった。しかし、これが従来のインテルサットによる事業と異質であるところから、FCCの要求で、コムサット・ジェネラル(Comsat General)という名の子会社が設立され、そちらに事業は引き継がれた。1979年、「国際海事衛星機構(International Maritime Satellite OrganizationINMARSAT)に関する条約」の発効に合わせて、国際海事衛星機構=インマルサットが設立された。1982年に、3基の海事通信衛星が、3箇所にあった地上局(2箇所は米国、1箇所は日本)も含めて、インマルサットに引き継がれた。インマルサットは、その後、提供する移動体通信が航空通信及び陸上移動通信にも利用されるようになったことを踏まえて、199412月に、国際移動通信衛星機構(International Mobile Satellite OrganizationIMSO)という名称に変更された。

 1998年にインテルサット同様に民営化することとなったが、同様の問題が発生し、結局、インマルサットの宇宙部分を民間会社インマルサット社(Inmarsat Ltd.)に移管するとともに、機構本体は、同社による全世界的海上遭難安全制度(GMDSS: Global Maritime Distress and Safety System)の提供の確保等を任務とする国際機関(IMSO : International Mobile Satellite Organization)に分離されることとなり、それを定めたIMSO条約は2001年に発効した。

 

二 宇宙法

 このような宇宙開発の進展に呼応して、宇宙における各国や企業活動に対して適用される宇宙固有の法、すなわち航空法とは異なる「宇宙法」の整備が必要になった。宇宙法は、大別すれば、各国の国内法と、国際法の特殊な一分野とに分類することができる。

 

(一) 国内法

 国内法としては、ノルウェイが1969年に「ノルウェー領域等からの宇宙空間への物体打上げに関する法律(Act on launching objects from Norwegian territory etc. into outer space)」を制定したのを嚆矢として、以後、スウェーデンの「宇宙活動法(Swedish Act on Space Activites)」(1982年制定)等、世界各国で宇宙関連立法が行われるようになっている。特にアメリカは、1984年に「国家航空宇宙法(NASAct)(the National Aeronautics and Space Act)」を制定すると時を同じくして「商業宇宙打ち上げ法(Commercial Space Launch Activities)」を制定したのを皮切りに、1990年には「宇宙発明法(Inventions in outer space. - Patent Laws)」を、1992年には「陸域リモート・センシング(地球遠隔探査)政策法(Land Remote Sensing Policy Act)」等、積極的な立法を行ってきている。韓国は、「宇宙開発振興法(Space Exploitation Promotion Act in Korea)」を2005年に制定し、2007年には宇宙損害賠償法を制定している*8

 これら諸国に比べると、日本は、20065月に成立し、同年8月から発効した「宇宙基本法」がある程度で、宇宙法の制定はかなり劣後しているといえる。

 なお、EU諸国の場合には、欧州宇宙機関(European Space Agency; ESA)と加盟各国が取り交わしている合意が事実上、加盟各国の宇宙活動法の機能を有しているが、それでも例えばドイツは2007年に「高度リモートセンシングデータの普及によって脅かされるドイツ連邦共和国の安全を守るための法(衛星データ安全法−SatDSiGGesetz zum Schutz vor Gefahrdung der Sicherheit der Bundesrepublik Deutschland durch das Verbreiten von hochwertigen Erdfernerkundungsdaten)を制定している等、国内法の整備を進めている。

 

(二) 国際法

  1 総説

 国際法には、理論的には国際慣習法と条約法という二種類の法源がある。

 条約法は、さらに二ヶ国間条約(例えば「宇宙開発に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協力に関する交換公文」)と、多国間条約に分けられる。宇宙法で特に重要なのは、その多国間条約である。以下では、もっぱら多国間条約、特に国連を中心として制定されるものをもっぱら念頭に置いて説明する。

 国際慣習法と条約法は、法形式が違うだけでなく、その法的拘束力に差がある*9。すなわち、条約は、それに調印したり批准したりした国のみを拘束する*10のに対して、国際慣習法は非調印国も含めて拘束する。また、条約は一部の例外をのぞき、その調印国の憲法に劣後する*11。すなわち、憲法違反の法律は、少なくともその国の内部においては無効と扱われる*12。これに対し、国際慣習法は各国憲法に優越する。例えば、各国外交官は国際慣習法に基づく外交官特権を有する結果、その駐在国において税金を払ったり、裁判に服したりする義務を負わないとされる。また、各国の在外公館は治外法権が認められ、所在国の官権が立ち入ることは出来ない。これは明らかに平等権に反する。したがってそうした効力が認められるのは、国際慣習法に超憲法的効力があると説明するほかはない。

 ここから今ひとつの問題が発生する。国際連合では、国際慣習法が不文法であるために、無用の紛争が生じるのを防ぐため、その成文法化に努力している。例えば、上述した外交官特権や在外公館の治外法権等の国際慣習法を、領事条約という形に成文法化し、わが国もこれを批准している。これは、形式としては条約であるが、その内容は国際不文法なのであるから、それと同様に、非調印国も拘束する、超憲法的な効力を持つ条約と理解しなければならない。

 そこからさらに今ひとつの問題が発生する。宇宙法は、あまりにも急速に成長した法分野であるため、国際慣習法が成立する時間的余裕は、少なくとも初期においてはほとんど無かった。その結果、法源はもっぱら条約となる。しかし、繰り返すが、条約である限りは非締約国を拘束しない。そこで、そのような短い歴史の中でも、国際慣習法を成立させることが出来れば、非締約国も拘束する法規範として解釈・運用することが可能になる。そこで、そのようにインスタントに国際慣習法を作り出せないか、と言うのが、ここでの問題である。

 例えば、条約法条約(正式には「条約法に関するウィーン条約」)というものがある。国家間の話し合いの結果は条約という形にまとめられるのが通例である*13。しかし、条約がどのような手続で定められ、また、内容に問題がある場合にどのような効力があるかは、必ずしも国際慣習法が確立していなかった。そして、そこから生じる解釈のずれを巡って、無用の国際紛争が生じ、場合によってはそれを武力で解決しようとする事態もあり得た。そこで、国連ではウィーンに国際法委員会を設けて研究させ、その研究成果を条約法条約にまとめ、1969年に採択された。この条約の場合、確立された国際法規とならなくては、国際紛争の根絶にはつながらない。そこで、条約の発効には35ヶ国以上の批准が要件とされた(同条約84条)。その厳しい条件にもかかわらず、1980年には発効した。

 このように、条約法を基礎にして、そこから国際慣習法を形成を形成することは、不可能ではない。また、国際司法裁判所(以下ICJ)は北海大陸棚事件判決*14で「ほんの僅かな時間しか過ぎてきていないことは、必ずしも、それだけで新たな慣習法規則の形成の妨げにはならない」と述べている。このことは、こうした考えが国際法的には無理ではないことの証左である。

 したがって、宇宙法においても、条件さえ満たせば、条約法を基礎としてインスタント国際慣習法を考慮する余地はあることになる*15

 こうしたことを念頭に、以下の説明を読んで欲しい。

 

 2 宇宙空間平和利用委員会法律委員会の活動

 前述のとおり、1959年に「宇宙空間平和利用委員会(United Nations Committee on the Peaceful Uses of Outer SpaceCOPUOS)」が国連総会の補助機関として常設化された。その下部組織である「法律小委員会(the Legal Subcommittee)」を中心に、宇宙条約法の制定作業は進められてきた。COPUOSの法律小委員会第1回会合は、528日のことであった。同委員会は、宇宙空間の軍事利用の問題に正面から取り組むことを避け、その任務の範囲を平和利用の問題に限定しようとした。米ソ両国は、各宇宙開発の担い手が軍事組織であることから、宇宙空間の軍事利用の自由を確保しようとして、国連の場でこの問題を討議することを好まなかったからである。

 その活動の最初成果は、196112月「宇宙法原則宣言」*16の国連総会による採択であった。しかし、宣言は、法規範的拘束力を持たない。そこで、次の段階で目指されるのは、法的拘束力ある規範として、宇宙法を確立することである。

 その観点から見ると、COPUOS法律小委員会の活動は必ずしも順調とはいえない。その活動成果は、その国連総会における採決形式から見ると、大きく三つの時期に分けることが出来る。第1の時期は1960年〜70年代である。第2の時期は1980年〜1990年代である。そして、第3の時期は21世紀に入ってから現在までの時期である。

 第一の時期には、宇宙活動の基本となる諸条約が国連総会で採決され、世界各国の批准を得て、国際法として確立させることができた時期である。

 次のものが、国連による5大宇宙条約と呼ばれるものである。

1967 宇宙条約 *17

1968 宇宙救助返還協定*18

1972 宇宙損害責任条約*19

1975 宇宙物体登録条約*20

1979 月協定 *21

 この最後の月協定が、一つのターニングポイントとなる。国連が8年にわたる審議の末、全会一致で可決したこの条約は、一応発効しているが、今日でもわずか13ヶ国しか批准しておらず*22、わが国を含む衛星打ち上げ能力を備えた国はどこも批准していない。特に、米国は積極的に議会で否決しているため、事実上死文と化しているといえる。

 第2期ともいえる1980年〜90年代においては、その活動成果は条約ではなく、当初の宇宙法原則宣言と同様の宣言にまとめられるだけの時代に入る。すなわち、条約化をせず、単に国連総会で採択決議を行うだけになるのである。それが次に挙げるものである。

1982 年 直接放送衛星原則宣言*23

1986 年 リモート・センシング原則宣言*24

1992 年 原子力電源搭載衛星原則宣言*25

1996 年 スペース・ベネフィット宣言*26

 これらについては、条約とは異なり法的拘束力はもたないので、実質的には勧告的な価値をもつにとどまると解さざるを得ない。

 このように、80年代に入ると共に条約の締結が停まったのは、先に説明したインテルサットやインマルサットに代表される静止衛星の実用化が大きな影を投げている。例えば、1982年の「直接放送衛星原則宣言」には、次のような問題があった。国際放送とりわけテレビジョン放送に関しては、地上波を利用していた時代には、その使用電波の直進性から、受信は発信局のアンテナを直視しうる範囲内でのみ可能であった。したがって、例えば東ドイツのように、西側諸国と直接に国境を接している平坦な国土という地理的条件がない限り、国境を越えての番組送信は事実上不可能であった。ところが、衛星を利用しての直接衛星放送テレビは、簡単なパラボラアンテナさえ用意すれば、どのような場所でも受信可能になる。ここから発生するの影響の大きさから多くの議論が予想された。そこで、COPUOSでも1970年代初めからワーキンググループが設けられ、検討が開始された。しかし当時は東西冷戦の厳しかった時代であるため米ソ間の対立が厳しく、その上先進国と途上国間の利害対立も加わり、10余年にわたる議論の末、結局条約化は断念して総会決議として多数決により採択されたにとどまったのである。

 次の「リモートセンシング原則宣言」も基本的には同様の問題である。これは、直接放送衛星が情報を受ける自由の問題であったのに対し、情報を収集する自由の問題であった。ここでは特に途上国と先進国との対立が続き、やはり原則宣言にとどまることとなったのである。

 さらに第3の時期である21世紀に入ると、事態はさらに悪化して原則の宣言も行われなくなり、単に勧告という形で決議されるにとどまるようになって来る。次のものがその例である。

2004年 打ち上げ国概念適用*27

2007年 打ち上げ物体登録勧告*28

 これらの勧告では、宇宙損害責任条約及び宇宙物体登録条約について新たな解釈を付与したり、改正を提案するものではないことをくどいように断った上で、その遵守と適用を促進することを希望していることを述べている。逆に言えば、COPUOSに条約を新たに制定することはおろか、既存の条約が、その後の諸条件の変化に伴い、改正の必要が生じている場合においてすら、改正する能力が失われていることを示しているように思われる。

 このような顕著な変化が起きている理由について、青木節子は次のように説明している。

「宇宙空間平和利用委員会では、条約の採択を含め、すべての合意は多数決ではなくコンセンサス方式で行うのが原則である。設置当時は24カ国しかメンバー国が存在しなかったが、その後次第に増加し、現在は67カ国が宇宙空間平和利用委員会を構成する*29

 こうなるとコンセンサスに到達するのはほぼ不可能になり、国連は国際宇宙法形成能力を著しく弱めている。スペースデブリ条約採択の見込みがほとんどないということもこのコンセンサス方式から来ている。」*30

 要するに、COPUOSの肥大化に伴い、条約制定の困難性がきわめて高まっていることは明らかな事実である。

 ここから、先に述べた国際慣習法の成立を認定し、例えばなかなか成立しないデブリ規制条約の内容に相当する原則をそこに読み取って、非締約国にも拡大する方途はないか、という意識が生まれてくることになる。

 

三 宇宙法の基本原則

 196112月の第16回国連総会における宇宙法原則宣言の採択は、翌62年の本格的な宇宙時代の幕開けを告げるものであった。COPUOSの法律小委員会第1回会合は、528日のことであった。同委員会は、宇宙空間の軍事利用の問題に正面から取り組むことを避け、その任務の範囲を平和利用の問題に限定しようとした。米ソ両国は、各宇宙開発の担い手が軍事組織であることから、宇宙空間の軍事利用の自由を確保しようとして、国連の場でこの問題を討議することを好まなかったからである。国連総会は、宇宙空間の平和利用に関する決議を幾度となく採択したが、これらの決議は軍事利用を含まない平和的利用の問題についてのものとなっていた。軍事利用の規制に関する問題は、軍縮の一環として取り扱われ、軍縮委員会で討議されることになった。

 最初に成立した宇宙条約は、わずか5カ国が批准した時に発効すると予定されており(143項)、先に紹介した条約法条約等が発効するのに必要な国数と比べるとあまりに少なく、とうてい新たな国際慣習法の形成を目指した条約とは思えない。しかし、同条約は「宇宙憲章」とも呼ばれ、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を規律する原則を定めた、最も基本的な宇宙法である。そして、今日では100ヶ国が批准している*31ことを考えると、もはやそれは確立された国際法と呼びうる状態に到達しつつあるということが出来る。したがって、SE条約法を考える場合にも、それに抵触する内容のものを考えるのは困難ということになる。

 この宇宙条約には、1)「宇宙活動自由の原則」、2)「宇宙空間領有禁止原則」、3)「宇宙平和利用原則」、4)「国家への責任集中原則」という、4つの基本的な規則が含まれている。順次、その内容を紹介したい。

(一) 宇宙活動自由の原則

 これは、宇宙条約第1条が直接には規定するものである*32。その特徴は、「すべての国の利益のために」、また「全人類に認められる活動分野」として活動することが求められる点にある。このすべての国が、特に自ら宇宙進出を行う能力の無い開発途上国を念頭に置いたものは明らかであるが、そのことは、1996年のスペースベネフィット宣言が明確に確認するところである。SE条約法を検討する際にも、それが開発途上国を間違っても閉め出すものとならないよう、配意しなければならない。私が、世界銀行に準拠したSE開発機構を想定する理由の一端もここにある。

 また宇宙条約5条は、宇宙飛行士が事故、遭難、及び緊急着陸に遭遇した場合に、その飛行士にすべての可能な援助が与えられると規定している*33。これは、直接的には宇宙活動の自由を、宇宙飛行士の身柄の自由という形で保障しなおしたものであるが、その根拠として「宇宙飛行士を宇宙空間への人類の使節」とみなすと述べている点が注目される。これは、人類が宇宙に進出した後は、国籍という概念が失われるべきであるという理想を述べたものと理解される。なお、この第5条を具体化する条約として、翌68年に制定されたのが「宇宙救助返還協定」である。

(二) 宇宙空間領有禁止原則

  これは、宇宙条約第2条が規定する*34ものであり、天体を含む宇宙空間は、国家による領有権の対象とはならないと規定する。この規定は、国々の領土・領海上空の「領空」や公海上空の「公空」の上部空域に、新たな法制度の下におかれた「宇宙空間」という空域を創設するものであり、この規定も宇宙法に普遍性を付与するものである。ただし、その宇宙空間の下限がどこで、したがって領空の上限がどこなのかは、先に航空条約に関して説明したとおり、定められていない。この原則は、宇宙エレベータが特定国の領土から建設された場合に、大きな問題となり得る。宇宙エレベータは、まさに宇宙空間を半恒久的に「占拠」するものであり、仮にその建設国が宇宙エレベータ内部における建設国の主権を主張する場合には、真っ向から本原則に衝突することになる。この点でも、宇宙エレベータが国連の管理下に建設されなければならない必然性を認めることが出来る。

(三) 宇宙平和利用原則

 これは、宇宙条約3条及び4条が規定する*35もので、天体を含む宇宙空間の軍事利用の禁止を規定している。ただしこの規定は、天体と宇宙空間で禁止される軍事利用の手段が異なり、天体については「もっぱら平和目的のために」利用され、一切の軍事利用が制約されるのに対し、宇宙空間については、「核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せないこと」だけが、規定されている。したがって、宇宙エレベータに、その防御施設として、核兵器その他の防御兵器を設置することは、宇宙エレベータが固定施設なのか、軌道施設なのか、という解釈論の問題になることを意味する。宇宙エレベータを静止衛星からケーブルを垂らしたもの、と定義する場合には、宇宙エレベータは軌道に乗っている施設と言うべきであり、したがって、国家が宇宙エレベータを建設する場合には、本原則に抵触することになる。ここでも国家を主体からはずした宇宙エレベータ機構という方式が合理性を有することになる。

(四) 国家への責任集中原則

 これは、宇宙条約第6条と第7条が規定する*もので、宇宙開発活動を行うのが政府機関か非政府団体かを問わず、当該活動に伴う国際的責任を国家(宇宙物体の打ち上げ国)に集中させることを意味する。この規定は、従来の国際法が規定する国際責任とは異なる新しい法制度を創設したものであるが、細部にわたるものではなかった。そこで、地上の第三者が宇宙物体により被った損害に対する結果責任制度のような詳細は1972年に「宇宙損害責任条約」により定められることになった。

 ありがたいことに、この原則は、国際機関が宇宙施設を建設する場合を明確に予定している。6条第2文が「国際機関が、月その他の天体を含む宇宙空間において活動を行う場合には、当該国際機関及びこれに参加する条約当事国の双方がこの条約を遵守する責任を有する。」とあるのがそれである。もちろんこれは、宇宙エレベータの出現を予定して作られた規定ではない。既に説明したように、宇宙利用の実用化が最も早かったのは衛星通信の分野で、そこでは「国際電気通信衛星機構」(INTELSAT)と「国際海事衛星機構」(INMARSAT)が、それぞれの国際機構設立条約により設置され、当該活動を実施しているが、この規定はそれを想定してのものである。

 

四 宇宙エレベータ機構の可能性

 別稿で論じたとおり、国家や民間企業による宇宙エレベータの建設は、理論的に問題であり、また、本稿に論じたようにそれは宇宙条約の規定する基本原則に違反する可能性が大きい。したがって、国連専門機関としての形態を取る宇宙エレベータ機構の管理下で行われるのが最善であると考えられる。

 しかし、国連機関として建設する場合には宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)の法律小委員会の手を介して行われる必要がある。その場合には、最大の壁となるのが、その組織の肥大化及び機能不全の状況である。前述のとおり、国連宇宙条約は、1979年の月条約を最後に締結されておらず、しかも同条約は辛うじて発効しているとはいえ、現実に宇宙開発に携わっている国が全く批准していないという意味で、無意味な条約である。それ以降においては、1982年の「放送衛星法原則」や1986年の「リモートセンシング法原則」のように、それぞれ国連総会決議により採択はされたが、30年近くが経過しても条約化はされていない。そして、21世紀に入ると、そうした原則宣言すら不可能な状況になっている。したがって真剣に宇宙エレベータ機構の設置を目指すならば、COPUOSの手を介さない機構の設置可能性を検討する必要がある。

 ここで想起するべきは、国連専門機関のうちで、当初から専門機関として国連の手で設立されたものはいくつもない、という事実である*37。宇宙エレベータ機構の模範とするべきだと論じた世界銀行にしても、国連とは関係なく設立され、その実力から、専門機関化されたのである*38。そのことを考えると、設立そのものは国連とは切り離して実施し、国連憲章に言う「経済的、社会的、文化的、教育的及び保健的分野並びに関係分野においてその基本的文書で定めるところにより広い国際的責任を有する」状態に発達した段階で、改めて国連専門機関化するのが妥当か否か、宇宙エレベータ機構自身に判断させるのが合理的な手段ではないかと考えられる。

 その場合、その手本になる国際組織は、二つある。

 一つは、国際宇宙ステーションの基本条約であるIGA(新宇宙基地協力協定)である*39。これは、1998年にアメリカ、日本、ロシアの他、カナダ、欧州宇宙機関加盟国(ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス及びイギリス)の計15ヶ国で締結される。しかし、閉鎖的なものではなく、この他、中国やインドが参加を希望している。

 今一つは、「国際電気通信衛星機構」(INTELSAT)及び「国際海事衛星機構」(INMARSAT)である。これについては、先に概要を紹介したが、1964年の設立時には、アメリカや日本等11か国の参加による暫定制度として開始したが、その後参加国が増え、今日では世界140ヶ国以上が参加している巨大組織に成長している。

 したがって、このように当初において、宇宙エレベータに関心を持つ少数の国から出発し、徐々に世界組織に拡大していく方が、現実的な選択といえる。

 

 

*1 シカゴ条約は、正式名称を「国際民間航空条約(Convention on International Civil Aviation)」と言い、民間航空機を対象として、領空主権に関する慣習法を再確認すると共に、航空機の法的地位を定め、国際民間航空を能率的かつ、秩序あるものにすることを目的としている。

*2 シカゴ条約1条は「締約国は、各国がその領域上の空間において完全且つ排他的な主権を有することを承認する。」と述べているが、その領域条の空間がどこまでの高さに及ぶものかは述べていない。また、同5条は「各締約国は、他の締約国の航空機《中略》が、すべて、事前の許可を得ることを必要としないで、且つ、その航空機が上空を飛行する国の着陸要求権に従うことを条件として、その国の領域内への飛行又は同領域の無着陸横断飛行をし、及び運輸以外の目的での着陸をする権利を、この条約の条項を遵守することを条件として有することに同意する。」としている。しかし、ここでも「上空」がどこまでの高さに及ぶのかは述べていない。

 現在、一般的には航空機の到達限界内を領空の上限とし、その上が宇宙空間とする考え方が通説的な支持を得ている。しかし、これは航空機の性能の発達状況に応じて境界が流動的なものとなる、という欠陥を抱えた基準である。早晩、スペースプレーンが開発され、航空機型の乗り物が、そのまま宇宙を駆け回る時代が来るはずで、そうなれば全く役に立たない。思うに、一般的には大気圏を領空の上限とし、何を持って大気圏とするかは立法を持って明確にするべきであるが、さしあたり、成層圏までとするのが妥当と考える。

*3  宇宙に関する国連決議の内容は、具体的には次のものである。

「 総会は、

 宇宙空間の平和目的での利用を促進することが人類全体の共同利益であることを認識し、

 宇宙空間が人類全体の利益、及びその経済的又は科学的発展の程度にかかわりなく、国家の利益のためにのみ探査され、利用されるべきであることに鑑み、

 現在の国家の対抗関係がこの新しい分野に拡大することを回避することを希望し、

 人類の利益のための宇宙空間の可能な限り完全な探査及び開発を強く促進することを切望し、

 平和目的での宇宙空間の探査及び開発の分野における国際協力の大きな重要性を認識し、

 この協力が人民間の相互理解の増進及び友好関係の強化に貢献することを考慮し、

 国際科学界が継続して行う宇宙空間の探査に関する科学的な協力計画に留意し、

 また、国際連合が宇宙空間の平和利用に関する国際的な協力を促進すべきであることに鑑み、

1. その任務を1960年及び1961年に遂行する次の国で構成される宇宙空間平和利用委員会を設置し、同委員会に対して(a)及び(b)の事項を懇請する。アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、ブルガリア、カナダ、アメリカ合衆国、フランス、ハンガリー、インド、イラン、イタリア、日本、レバノン、メキシコ、ポーランド、アラブ連合、ルーマニア、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、スウェーデン、チェコスロヴァキア、及びソビエト社会主義共和国連邦。

a 適当な場合には、国際的な協力の範囲を検討し、かつ、特に、次のことを含む、国際連合の後援により適切に行い得る宇宙空間の平和的な利用に関する計画に効果を与える実際的かつ実施可能な手段を研究すること

i 恒常的な基礎に立って、国際地球観測年の枠内で行われた宇宙空間に関する研究を継続するための援助。

ii 宇宙空間の研究に関する情報の相互交換及び配布の組織化。

iii 宇宙空間の調査のための国家研究計画を促進することを可能にする手段及びこれらの計画の実施のための最も幅広い援助の付与。

b 宇宙空間の探査が提起し得る法律問題の性質の研究。

2. 同委員会に対して、その後の会期の際に、総会に自己の活動に関する報告を提出するよう懇請する。」

*4 人工衛星打ち上げ能力を持つ国は、打ち上げ順に紹介すれば、ソビエト連邦(1957年=現在はロシアと)、アメリカ(1958)、フランス(1965)、日本(1970)、中国(1970)、イギリス(1971)、インド(1980)、イスラエル(1988)ウクライナ(1992)、イラン 2009)である。

*5 インテルサット条約に、日本を代表して署名したのは国際電信電話株式会社(現KDDI)である。

*6 インテルサットは、米国を中心とする西側諸国の通信衛星機構であるため、ソ連は、1972年に東欧諸国にモンゴルとキューバを加えたメンバーで、インタースプートニク(Intersputnik)を設立してこれに対抗した。現在では、東ドイツの後を継いだドイツ連邦共和国を含めて、25の国がメンバーとなってる。現在は、インテルサット同様に商業組織となっており、軌道上の12個の衛星と41個のトランスポンダを運営している。

出典=http://www.intersputnik.com/

 このほか、アラブ諸国をつなぐアラブサットなどいくつかの通信衛星機構がある。

*7 中核的原則:全世界的な接続及び全世界的な範囲を維持すること、ライフライン接続サービスの対象となる顧客に業務を提供すること、並びに会社のシステムへの無差別のアクセスを提供すること。

*8 世界各国の宇宙法に関し、わが国でもっとも包括的なデーベースは、JAXAのホームページにある「世界の宇宙法」である。本文の記載は、基本的にはそれに依っている。

    http://stage.tksc.jaxa.jp/spacelaw/

*9 日本国憲法982項は、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。」と述べて、この2種類の法源の存在と、法的効力の差異を予定している。

*10 調印と批准:条約は原則としてその国の全権代表(これについては条約法条約6条参照)が調印した時、発効する(同12条参照)。ただし、全権代表が本国政府の承認(これを批准という)権を留保した場合等、批准が要件となっている場合には批准により発効する(同14条)。なお、国連条約の場合には、通常、各国間の平等性を確保するために、その条約の定める一定数以上の国の調印が行われた後に発効すると、通常定めている。例えば宇宙条約の場合、5ヶ国以上が批准したときに発効するとされている(143項)。

*11 戦争を終了させる条約、例えばポツダム宣言は、その国の憲法に優越する。また、EU条約のような超国家機関の基本条約は、一般にその加盟国の憲法に優越する。

*12 正確に述べると、国連が制定した条約法条約27条により、各国は、条約が違憲であることを他国に主張することは出来ない。すなわち、国内法上は無効であっても、国際法上は有効という取り扱いになる。

*13 ここで言う条約(Triety)とは、形式的にそういう名称を使われているものに限定する意味はなく、実質的に国家間の法的拘束力ある法規範のすべてを言う。代表的なものについて、日本語と英語を示せば、次のようになる。

@条約  treaty A協約  convention B協定  agreement
C取決め  arrangement D決定書  act E議定書  protocol
F宣言  declaration G規約  covenant H憲章  charter 
I公文  note J覚書  memorandum K声明  statement

 

*14 北海大陸棚事件(ICJ1967年2月20日付託、1969年2月20日判決):国連海洋法条約は、隣接するかまたは向かい合う二国間の大陸棚やEEZの境界については、衡平の原則に従い、あらゆる事情を考慮して当事国の合意によって定めなければならないと規定しているだけで、具体的な方法を定めていないが、大陸棚条約6条は等距離原則を定めている。そこで、北海の大陸棚の境界に関し、デンマーク・西ドイツ間及びオランダ・西ドイツ間では、沿岸から一定の沖合までの部分的な境界線が等距離原則にしたがって2国間条約が締結されたが、それより先の沖合における境界については、見解が対立していた。大陸棚条約批准国であるデンマークとオランダは、西ドイツの沖合の海域に等距離方式に基づく境界画定条約を締結し、その有効性を西ドイツに対しても主張した。これに対し、大陸棚条約を批准していない西ドイツは、条約の有効性を否定したため、事件はICJに付託された。ICJは判決の中で、条約成立後「短期間であっても、全利害関係国を含む、非常に広範な、代表的な参加があること」、換言すれば「条約の多数参加とその代表性」の要件が満たされれば、短期間でも慣習法は成立するとした。しかし、この要件を当該事件に当てはめると、要件が満たされていないので、慣習法として成立していないことになった。参照:松田真美「大陸棚と排他的経済水域の境界画定−判例紹介−」レファレンス2005.7、42頁以下

*15 このインスタント国際慣習法という理論については、Bin Cheng, United Nations Resolutions on Outer Space: Instant International Customary Law? , 5 Indian Journal of International Law (1965), pp.23-48, reproduced in Bin Cheng, Studies in International Space Law (Clarendon Press 1997), pp.125-149 参照。

*16 宇宙法原則宣言は、正式名称を「宇宙空間の探査と利用における国家活動を律する法原則に関する宣言(Declaration of Legal Principles Governing the Activities of States in the Exploration and Use of Outer Space)」と言い、19631213日の国連総会で採択された。内容的には、国際連合総会は、平和目的のための宇宙空間の探査及び利用の科学的及び法律的な面における広範な国際協力に貢献することを希望し、基本的な法原則を宣言したものである。

*17 宇宙条約は、正式名称を「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約(Treaty on Principles Governing the Activities of States in the Exploration and Use of Outer Space, including the Moon and Other Celestial Bodies)」と言い、宇宙法原則宣言の内容を法規範性ある条約としたものといえる。19661219日の国連総会で採択され、19671010日に発効している。

*18 宇宙救助返還協定は、正式名称を「宇宙飛行士の救助及び送還並びに宇宙空間に打ち上げられた物体の返還に関する協定(Agreement on the Rescue of Astronauts, the Return of Astronauts and the Return of Objects Launched into Outer Space)」といい、宇宙条約第5条・8条の規定を具体化したもので、事故、遭難又は緊急着陸の場合に宇宙飛行士(以下、乗員)の救助・送還、および物体の返還を定めている。19671212日の国際連合総会で採択され、1968123日に発効した条約である。

*19 宇宙損害責任条約は、正式名称を「宇宙物体により引き起こされる損害についての国際責任に関する条約(The Convention on International Liability for Damage Caused by Space Objects)」と言い、宇宙条約6条・7条の規定を具体化したもので、宇宙物体によって何らかの損害が引き起こされた場合の物体の打ち上げ国の責任を定めている。197111月の国連総会において採択され、翌197291日に発効した条約である。

*20 宇宙物体登録条約は、正式名称を「宇宙空間に打ち上げられた物体の登録に関する条約(Convention on the Registration of Objects Launched into Outer Space)」と言い、宇宙物体の識別を目的としたものである。19741112日の国連総会で採択され、197695日に発効している。

*21 月協定は、正式名称を「月その他の天体における国家活動を律する協定(Agreement Governing the Activities of States on the Moon and Other Celestial Bodies)と言い、月や惑星などの天体を探査する際の基本原則を定めた条約である。19791214日の国連総会で採択され、1984711日に発効している。

*22 月条約を20105月現在、批准している13ヶ国とは、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、チリ、カザフスタン、メキシコ、モロッコ、オランダ、パキスタン、ペルー、フィリピン、ウルグアイ、レバノンである。

出典=http://www.oosa.unvienna.org/oosatdb/showTreatySignatures.do

*23 直接放送衛星原則宣言は、正式名称を「国際的な直接テレビ放送のための人工地球衛星の国家による使用を律する原則(Principles Governing the Use by States of Artificial Earth Satellites for International Direct Television Broadcasting)」と言い、国際的な直接テレビ放送のための人工地球衛星の国家による使用を律する原則を宣言したもので、19821210日に国連総会で採択された。

*24 リモートセンシング宣言(Principles Relating to Remote Sensing of the Earth from Outer Space)は、宇宙空間からの地球のリモートセンシングに関する原則を宣言したもので、1986123日に国連総会で採択された。リモート・センシングをされる側の国が、実施国のもつ自国領域についての画像にどの程度アクセスする権利をもつのかという点を十数年争ったのちに作成された妥協の産物である。

*25 原子力電源搭載衛星原則宣言は、正式名称を「宇宙空間における原子力電源の使用に関する原則(Principles Relevant to the Use of Nuclear Power Sources in Outer Space)と言い、宇宙空間における原子力電源の安全な使用を確保するための目標及び指針を含む一連の原則を宣言したもので、19921214日に国連総会で採択された。

*26 スペースベネフィット宣言は、正式名称を「開発途上国の必要を特に考慮する、すべての国の利益のための宇宙空間の探査及び利用における国際的な協力に関する宣言(Declaration on International Cooperation in the Exploration and Use of Outer Space for the Benefit and in the Interest of All States, Taking into Particular Account the Needs of Developing Countries)」と言い、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用が、その経済的又は科学的発展の程度に関わりなく、すべての国の利益のために行われるものであり、かつ、全人類に認められる活動分野であるという原則を、特に開発途上国の利益を考慮しつつ宣言したもので、19961213日の国連総会で採択された。

*27 打ち上げ国概念適用:宇宙空間平和利用委員会法律小委員会のワーキンググループ「『打上げ国』概念の検討」における検討課題の結論を受けて、しかもそれが登録条約又は宇宙損害責任条約に対し、何ら権威的な解釈を与えたり、改正を提案するものではないと断った上で、宇宙空間にかかる国連条約、特に、宇宙損害責任条約及び宇宙物体登録条約の遵守と適用を促進することを希望して、各国に対し、管轄下の非政府団体による宇宙活動に対する許可及び継続的監督を行うための国内法の制定と実施について考慮すること等を勧告したものである。

*28 打ち上げ物体登録勧告:宇宙空間平和利用委員会法律小委員会の締約国と国際機関の宇宙物体の登録に関するワーキンググループの結論を受けて、それが登録条約に対して何ら権威的な解釈を与えたり、改正を提案するものではないと断った上で、各国に対し、宇宙物体登録条約の遵守を勧告したものである。

*29 COPUOSの構成国は、スプートニク打ち上げ直後の国連総会決議では、注3に示したとおり日本を含む18ヶ国であった。しかし、常設機関化した1959年に青木節子が述べるとおり24ヶ国に増えた。さらにその後の度重なる国連総会決議により、、1961年に28ヶ国、1973年に37ヶ国、1977年に47ヶ国、1980年に53ヶ国、1991年に61ヶ国、2001年に64ヶ国、2002年に65ヶ国となり、2004年に引用文にある67ヶ国となっている。さらにその後、2007年に2カ国増えているので、本稿執筆時点である20105月では計69ヶ国となっている。それは次のとおりである。

Albania Algeria Argentina Australia Austria Belgium Benin Bolivia Brazil Bulgaria
Burkina Faso Cameroon Canada Chad Chile China Colombia Cuba Czech Republic Ecuador
Egypt France Hungary Germany Greece  India Indonesia Iran Iraq Italy,
Japan Kazakhstan Kenya Lebanon Libyan Arab Jamahiriya Malaysia Mexico Mongolia Morocco Netherlands
Nicaragua Niger Nigeria Pakistan  Peru Philippines  Poland Portugal Republic of Korea Romania
the Russian Federation Saudi Arabia Senegal Sierra Leone Slovakia South Africa Spain Sudan Sweden Switzerland
Syrian Arab Republic Thailand Turkey the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland the United States of America Ukraine Uruguay Venezuela Viet Nam  

(太字が最後に加わった2国)

出典=http://www.oosa.unvienna.org/oosa/COPUOS/members.html

*30 引用した文章は、青木節子「国際宇宙法づくりの難しさ」より引用。

    http://www.soranokai.jp/pages/uchuuhou_muzukasisa.html

*31 20105月現在、批准100ヶ国、調印26ヶ国、非加盟69ヶ国となっている。

    出典=http://www.oosa.unvienna.org/oosatdb/showTreatySignatures.do

*32 宇宙条約第1条の具体的な文言は、次の通りである。

月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用は、すべての国の利益のために、その経済的又は科学的発展の程度にかかわりなく行われるものであり、全人類に認められる活動分野である。月その他の天体を含む宇宙空間は、すべての国がいかなる種類の差別もなく、平等の基礎に立ち、かつ、国際法に従って、自由に探査し及び利用できるものとし、また天体のすべての地域への立入は、自由である。

 月その他の天体を含む宇宙空間における科学的調査は、自由であり、また、諸国はこの調査における国際協力を容易にし、かつ、奨励するものとする。」

*33 宇宙条約5条の全文は、次のとおりである。

「条約の当事国は、宇宙飛行士を宇宙空間への人類の使節とみなし、事故、遭難又は他の当事国の領域若しくは公海における緊急着陸の場合には、その宇宙飛行士にすべての可能な援助を与えるものとする。宇宙飛行士は、そのような着陸を行ったときは、その宇宙飛行士の登録国へ安全かつ迅速に送還されるものとする。

 いずれかの当事国の宇宙飛行士は、宇宙空間及び天体上において活動を行うときは、他の当事国の宇宙飛行士にすべての可能な援助を与えるものとする。

 条約の当事国は、宇宙飛行士の生命又は健康に危険となるおそれのある現象を、月その他の天体を含む宇宙空間において発見したときは、直ちに、これを条約の他の当事国又は国際連合事務総長に通報するものとする。」

*34 宇宙条約2条の全文は、次のとおりである。

「月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない。」

*35 宇宙条約3条及び4条の全文は、次のとおりである。

 第3 条約の当事国は、国際連合憲章を含む国際法に従って、国際の平和及び安全の維持並びに国際間の協力及び理解の促進のために、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における活動を行わなけばならない。

 第4 条約の当事国は、核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せないこと、これらの兵器を天体に設置しないこと並びに他のいかなる方法によってもこれらの兵器を宇宙空間に配置しないことを約束する。

 月その他の天体は、もっぱら平和目的のために、条約のすべての当事国によって利用されるものとする。天体上においては、軍事基地、軍事施設及び防備施設の設置、あらゆる型の兵器の実験並びに軍事演習の実施は、禁止する。科学的研究その他の平和的目的のために軍の要員を使用することは、禁止しない。月その他の天体の平和的探査のために必要なすべての装備又は施設を使用することも、また、禁止しない。

*36 宇宙条約6条及び7条の全文は次のとおりである。

 6 条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間における自国の活動について、それが政府機関によって行われるか非政府団体によって行われるかを問わず、国際責任を有し、自国の活動がこの条約の規定に従って行われることを確保する国際的責任を有する。月その他の天体を含む宇宙空間における非政府団体の活動は、条約の関係当事国の許可及び継続的監督を必要とするものとする。国際機関が、月その他の天体を含む宇宙空間において活動を行う場合には、当該国際機関及びこれに参加する条約当事国の双方がこの条約を遵守する責任を有する。

 第7 条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間に物体を発射し若しくは発射させる場合又は自国の領域若しくは施設から物体が発射される場合には、その物体又はその構成部分が地球上、大気空間又は月その他の天体を含む宇宙空間において条約の他の当事国又はその自然人若しくは法人に与える損害について国際責任を有する。

*37 2010年現在、国連専門機関は15あるが、このうち、国連自身が基礎から設立したのは、国際連合工業開発機関(UNIDOと=1966年の総会決議に基づき、翌年発足した国連総会の補助機関が独立する形で、専門機関として1986年に設立)と、国際連合教育科学文化機関(UNESCO19451116日に採択された「国際連合教育科学文化機関憲章」(ユネスコ憲章)に基づいて1946114日に設立)の二つだけである。

*38 既設の国際機関が、国連専門機関となるのは、国連との間に結ばれる条約にもとづいてのことである。国連憲章57条は「政府間の協定によって設けられる各種の専門機関で、経済的、社会的、文化的、教育的及び保健的分野並びに関係分野においてその基本的文書で定めるところにより広い国際的責任を有するものは、第63条の規定に従って国際連合と連携関係をもたされなければならない」として、このことを明らかにしている。

*39 国際宇宙ステーションのベースとなる条約は、正式名称を「民生用国際宇宙基地のための協力に関するカナダ政府、欧州宇宙機関の加盟国政府、日本国政府、ロシア連邦政府及びアメリカ合衆国政府の間の協定」という。