「会計と監査」2010年4月号33頁〜39頁

徴税機構一元化論

日本大学教授 甲斐素直

[はじめに]

一 地方への税財源移譲に伴う徴税上の諸問題

(一) 二重徴税機構の不経済性・非効率性

(二) 捕捉率

(三) 税財源の偏在

  1 共同税

  2 過疎地域における税財源の過小

  3 財政調整

二 ドイツにおける徴税機構

(一) ドイツの特殊性

(二) ドイツ租税法に関する憲法規定の概要

(三) 連邦及び州の徴税機構の人事と活動

(四) 税務職員の統一的養成

[まとめ]

 

[はじめに]

 平成21119日に、地方分権改革推進委員会より「自治財政権の強化による『地方政府』の実現へ」というサブタイトルのついた第4次勧告が、最終勧告として内閣総理大臣に提出された(以下、「勧告」という)。勧告の中では、「中長期の課題」と題して、地方税制改革が求められている。そこでは、「自らの歳出は自らの財源で賄い、受益と負担の明確化を図ることが自治の原点となる。地方の自己決定・自己責任の体制を支える自治財政権を確立するためには、地方自治体自らが課税権を持つ地方税を充実することが、最も重要である」と述べられている。したがって、今後、具体的にどのような税財源を地方に委譲すべきか、ということが本格的に論じられることになろう。

 私は、現在までに見聞している単純な税財源の委譲論には批判的である。なぜなら、そこでは、徴税コストというものを全く考えずに議論が行われているからである。そこから発生する様々な問題を簡易・迅速に解決する唯一の手段は、本稿表題に示したとおり、国の徴税機構を、少なくとも現場レベルにおいて、地方公共団体の委任を受けて地方税徴収のために活動できるよう、ある程度の一元化を図る以外に無いと考える。以下、どのような問題があり、それに対して、どのように対応すべきかについて論じたい。

一 地方への税財源移譲に伴う徴税上の諸問題

 勧告は「国と地方の歳出比率が4:6であるのに対し、税源配分が6:4であることや、国と地方が対等・協力の関係にあることを考慮し、国と地方の税源配分を5:5とすることを今後の改革の当初目標とすることが適当である。」と述べている。

 勧告は、それ以上詳しいことを述べていないが、ここから様々な問題が発生することは明らかである。

(一) 二重徴税機構の不経済性・非効率性

 勧告から生じる最大の問題は、国と地方の徴税機構の相互関係をどのように構築するか、ということである。現状では、それは相互に独立したものとなっている。これまでも、国税の地方への移譲が若干行われてきたが、その際には、移譲された税財源は、それまでの国税徴収機構に変わって、地方徴税機構が徴収してきた。

 しかし、勧告の言うような大幅な税財源の移譲を行った後においても、同様に国と地方の、相互に独立した徴税機構によって独立に徴収するのが妥当なのだろうか。国と地方の税源配分を5:5と均衡させるということは、地方公共団体の徴税機構は、すべてを併せれば、国の徴税機構に匹敵する規模のものにならなければならないことを意味する。徴税という同一目的のために、相互に独立した機構を二重に備えることは、本質的に不経済、非効率的な対応ということができよう。

 ここから、国と地方の徴税機構を、それぞれの自主課税権を侵害せず、かつ効率性の要求する限度で、可能な限り一元化すべきである、という基本的な方向性を引き出すことができる。徴税機構の一元化は、さらに税財源移譲に伴う様々な問題を同時に解決することが可能である。

(二) 捕捉率

 租税というものは、法律を作り、納税するように国民に命ずれば、自動的に完全な納税が行われ、財源として機能する、というものではない。どのような種類の税にせよ、それが法の定めるとおり、きちんと自発的に納付されるのは、課税対象金額が徴税当局によって正確に把握され、脱税が極めて困難な状況が作り出されている場合に限られる。現状では、例えば課税所得の捕捉率に関し、クロヨンないしトーゴーサン*1ということが言われ、業種によっては捕捉率がかなり低く、脱税の温床になっていると言うことが指摘されて久しい。そうした捕捉率の低さという問題は、所得税に限らず、どのような税種についても考えることができる。そして、そうした捕捉率の低いことが明らかになっている税において、納税者が自発的に納税義務額のすべてを申告し、納税することを期待することは困難である。

 国税当局は、こうした問題状況に無策だったわけではなく、税務署職員の不断の努力によって、こうした捕捉率の低さを補う様々な努力が行われてきていることは、租税関係の判例集を瞥見するだけでも容易に知ることができる。むしろ、そうした努力の積み重ねがあればこそ、現在においては、クロヨンというようなレベルにまでは徴税することが可能になっていると言うことが出来る。

 ところが、地方公共団体には、そのような徴税のノウハウが全く蓄積されていない。これまで、地方税法によって地方公共団体が徴収することになっている租税は、一般的に、国税に対する付加税的性格が強く、地方公共団体として独自に納税者に対する調査を行って、税額を確定する必要が乏しいものだからである。このように非力な徴税機構に、勧告が述べるような膨大な額の税財源移譲を不用意に行った場合には、そこでは到底現状のクロヨン程度の捕捉率を確保することは不可能であろう。

 そして、税務当局によって捕捉されないという安心感?があれば、不正直な納税者は当然に脱税に走る結果、現実に地方公共団体に納付される税額は、国税であった時よりも激減する恐れがある。それでは、税財源の地方委譲という制度改革の目的を果たすことは出来ない。それ以前に、正直者が損をするような事態を発生させるのは、租税制度にとり最悪の改革と言って良い。

 徴税機構を、国と地方で完全に別個に用意するという方策を採用した場合には、その様な事態を回避するためには、時間をかけて地方公共団体側の徴税機構に、国から移譲をうける税に関する徴税上のノウハウの移譲を受け、かつ職員を大幅に増員し、研修を行って脱税の捕捉能力を確保する必要がある。しかし、その場合にも、そうした徴税機構を設置し整備し運用するのに必要な経費分だけ、せっかく受けた税源移譲に伴う収入が減少するのは避けられない。

 しかし、地方公共団体が必要としているのはあくまでも自主財源である。その自主財源を獲得するに当たり、国とは完全に独立の徴税機構を常に自ら設けるという必要はない。現在、国が設けている徴税機構を、少なくとも現場における徴税のレベルにおいては、今後も地方税の徴税機構としてそのまま利用することができれば、上記の問題点は、比較的小さな努力で解決することができるはずである。

(三) 税財源の偏在

 勧告は、地方に移譲する税目については「税源の偏在性が少なく、税収安定的な構造になるよう」に配意して移譲するように求めている。これもまた、言うは易いが、様々な問題点を含む勧告である。

  1 共同税

 どの国税をどのように地方に移譲するにせよ、勧告のいうように国と地方の税収割合が55になるようにきちんと移譲するということは、完全に独立した税種目を基準として実行することは不可能と思われる。したがって、このような大規模な均衡を実現するためには、国税の基幹というべき所得税や法人税の共同税*2化を避けて通ることは不可能と思われる。

 その場合に、なおかつ、現行制度のように、国税と地方税を明確に分離し、かつ今と同様に、国税と地方税に別々の徴税機構を設けて相互に独立に徴税する場合、納税者は、所得税や法人税について国と地方の双方の徴税機関にそれぞれ申告しなければならなくなる。しかし、それは納税者に対し、過大の負担を強いるものと言うべきであろう。

 地方税としての所得税等を、国税としての所得税等に対する付加税*3的な形に、すなわち、所得税の場合であれば、国税当局が個々人の所得金額を確定し、それに対する税率を決定すると、地方も国の決定した所得金額の通知を受けて、それに対する課税額を決定するというように制度を構成すれば、納税者の二重申告という負担を軽減することは可能である。しかし、その場合には、申告額が適正なものであるか否かを確認する作業はすべて国税当局が行い、その経費は国が負担することになる。従来のように、国が税収の多くを得ているという状況の下であれば、そのようなやり方を通して地方の徴税負担を軽減するということに、合理性を見いだすことも可能であろう。しかし、国と地方が同等の税収入を得る、という前提に立つ勧告の下に構築する制度として、徴税コストを国がもっぱら負担し、地方はそれにただ乗りするという方式は、明らかに制度の前提に反する不合理なものと言わねばならない。

 この場面においても、徴税機構の一元化がもっとも簡易かつ適切な回答であることは明らかである。

  2 過疎地域における税財源の過小

 どれほど慎重に税源の種類を選択しようとも、これほど大規模に税源移譲を行うときは、各地方の地域特性から、税収額にある程度のばらつきが生じることを避けることはできない。過疎地域などにおいては、どれほど税財源の移譲にあたって工夫しようとも、本質的に税源そのものが少ないという問題が生じる。

 その結果、独自の徴税機構という方式による場合には、地方公共団体によっては、特定の税に関して、人員や設備を投入して真摯に徴税努力を行うと、徴税コストの方が徴税額を上回り、そんな税財源が無かった時よりも地方公共団体が貧しくなる、という逆説的な事態が起こりうる。

 現行の地方税であれば「徴収に要すべき経費が徴収すべき税額に比して多額であると認められるものその他特別の事情があるものについては」徴収しないという道もあった(地方税法4条及5条の各2項但書)。しかし、今次改革のように大規模な税財源移譲を想定している場合に、そうした例外を大幅に許容しては、本来平等であるべき課税負担が、居住する地方公共団体によって異なるという事態を生じ、好ましいことではない。しかし、全く不経済な場合にまで徴税を求めるのも不合理である。

 徴税機構が一元化され、ある程度広域で徴収活動を行う場合には、相当程度、こうした問題は避けられることは自明と言えよう。

  3 財政調整

 どれほど慎重に税源の種類を選択しようとも、地方公共団体により税財源が偏在することをを完全に防ぐことは不可能である以上、税財源を大幅に地方に移譲すれば、当然富裕な地方公共団体とそうでない地方公共団体の差異が生じる。従来は、地方交付税が、そうした富裕地方公共団体と貧困な地方公共団体の間における財政調整の機能を果たしていた。しかし、勧告のいうように税財源の大幅な地方委譲を行い、地方交付税を廃止する場合には、そうした財政調整は、国が介在することなく、直接に地方公共団体相互間で行われなければならなくなる。

 その場合に、各地方公共団体がそれぞれ固有の徴税機構を通じて徴税を行う場合には、何をもって富裕や貧困を決定するかという、極めて解決困難な問題が発生する。すなわち、各地方公共団体が自ら徴税する場合、真摯な徴税努力を行わなければ、当然税収が不足し、貧困な地方公共団体となる。しかし、そのような、地方公共団体に対して、真摯な徴税努力を行った結果として税収入が豊かな地方公共団体から財政調整として資金を交付することには、いわばただ乗りとして、富裕地方公共団体からは強い反発が生じるはずである。

 また、前項に述べたように、真摯に努力したが、それが過大かつ非効率な徴税努力であったがために、徴税コストが税収を上回った結果、貧困という場合も生じるはずである。しかし、国民の課税負担の平等という観点からは、その様な過大な徴税努力を一概に否定することはできない。すなわち、どの程度が適切な徴税努力なのか、ということを客観的に決定する方法を確立しない限り、地方公共団体相互間の財政調整は極めて困難な問題になるはずである。

 しかし、一元的な徴税機構を通じて税の徴収を行う場合には、徴税コストのばらつきは本質的に発生せず、組織として、スケールメリットが現れる結果、効率的・経済的なものとなるので、上記困難の多くは自動的に解消可能なはずである。

 このように検討してくると、地方への税財源移譲に伴い発生する諸問題は、いずれも、徴税機構を一元化し、従来の徴税機構をそのまま国税にも地方税にも利用できる体制を設ければ、自動的に解決することが可能である。

 ここで問題となるのは、国及び各地方公共団体として、それぞれの課税自主権を確保しつつ、現場における徴税機構を一元的に構築するにはどのような原則に従えばよいか、ということである。

 

二 ドイツにおける徴税機構

 その様な徴税機構は、現実にドイツに存在している。したがって、そこでこれまでに遭遇した問題を検討すれば、わが国として問題を予めを避けて進むことが可能である。そこで、以下、ドイツにおける一元的徴税機構がどのような原則の下にあるかを、簡単に紹介したい。

(一) ドイツの特殊性

 ドイツにおける制度を支配する原則を参考にする場合、留意するべき点がある。それは、ドイツでは、連邦レベルにおいてはもともとは関税徴収権以外は、課税権は存在していなかったということである。歴史的に見ても、徴税機構は各州政府に存在しており、連邦レベルには無かったのである。その結果、日本で現在、国から地方公共団体への税財源の譲渡が問題になっているのとは全く逆の、州から連邦への税財源の譲渡が問題になって来た国だという点である。

 すなわち、第2次大戦後、ドイツは米英仏ソの4カ国占領統治となる。その占領地域を母体として州が生まれた。例えば、バイエルンは、米国占領軍の1945919日付命令によって、自治権を得た。そして1946121日の国民投票によってバイエルン州憲法が制定された。それと同様に、逐次、西側諸国の占領地は、それぞれが州としての自治権を与えられ、憲法が制定されるようになっていく。ソヴィエトが東ドイツ建国の動きを見せたのに対抗して、194861日、米英仏とベネルクス3国はロンドンで外相会議を開き、「西ドイツの建国」を正式に決定した。これを受けて、71日に西側占領地区の州首相たちに憲法制定を委託した結果、制定されたのがボン基本法である。

 このように、西ドイツは、各国占領区域を母体とする自治権を有する州がまず存在していたため、必然的に連邦国家とならざるを得なかったのである。そして、発足当時の連邦は基本法により「自己のものとされた事務を行政的に執行するのに必要不可欠の行政官庁を手中にしていたわけではなかったし、そのするために連邦行政を組織することは、賛同の声が若干あったのを別にすると、望まれてもいなかった。このような事情があったので、『連邦の委任に基づいて』実施することは州の義務となったのである」*4。このように、事実上ゼロの状態から、徐々に連邦行政機構が成長し始め、今日では多くの領域で、連邦独自の行政機構を備えるに至っている。

 その中で、徴税機構に関しては、以下に説明するとおり、連邦が州の徴税機構を今日に至るまで利用しつづけており、憲法上明確に「連邦の委任に基づいて」州が連邦税の徴収をおこなっているのである。

 すなわち、ドイツの徴税機構が一元化されているのは、出発の時点においては多分に歴史的偶発性に基づくものといえる。しかし、徴税機構の一元化を定める現行ドイツ憲法(ボン基本法)108条が制定以来、今日まで3回の大改正を経験している*5にも拘わらず、一元制に関しては修正を行わず、他の行政領域と異なり、当初の方式を継承しているのは、それが高度の合理性・効率性を有しているからである。その点に、わが国として参照する価値が存在していると考える。

(二) ドイツ租税法に関する憲法規定の概要

 現行ドイツ憲法(ボン基本法)は、連邦と州の立法権限に関し、3通りの方式を定めている。基本となる701項は、「諸州は、本基本法が連邦に立法権能を授与していない場合に限り、立法の権利を有する」と定める。換言すれば、憲法が明文を以て連邦に権限を与えない限りは、立法権は、すべて諸州に属するということである。これを「諸州の専属的立法権」という。これに対し、基本法が連邦にだけ立法権が与えられているとき、これを「連邦の専属的立法権」という。その中間で、基本法が連邦と州のいずれにも立法権を与えている場合を「競合的立法権」という。競合的立法権の領域においては、「連邦がその立法権を行使しない場合に限り、諸州は立法権能を有する」とされている(基本法721項))。

 課税に関しては「連邦は関税および財政専売に関する専属的立法権を有する」(基本法1051項)とされているので、連邦は関税と特定の商品(例えばブランデー)の専売権に関してのみ専属的立法権を有しているにすぎない。他方、諸州は「場所的な消費税および奢侈税に関し、それらが連邦法により規律される租税と同種のものでない限りにおいて、立法権能を有する」(基本法1052a項)から、場所的に限定された範囲内での消費税と奢侈税に関してのみ、専属的立法権を有することになる。したがって、その他のすべての課税領域においては、競合的立法が存在する(基本法1052項)ことになる。

 基本法106条は、税収の配分について、いわゆる「分離方式」(Trennsystem)と「結合方式」(Verbundsystem)の両者を規定している。

 連邦には、基本法1061項に掲げる租税を徴収する権限が属する。それに対し、同条2項に掲げる租税については、諸州にその徴税権が属している。これらについては、税源が明確に連邦と諸州で明確に分けられているのである。これが分離方式である。

 これに対し、同条3項は「共同税」(Gemeinschaftsteuern)を定めている。すなわち、所得税(Einkommensteuer)、法人税(Korperschaftsteuer)および売上高税(Umsatzsteuer)については、その徴収が連邦と諸州に共同に帰属すると規定されている。現行法の下では、所得税 と法人税の税収については、連邦と州とがそれぞれ半分ずつ分け合う*6。売上高税に対しては連邦と州の分け前は、連邦法により確定される。その法律が、連邦と州間の財政調整に関する法律(Gesetz uber den Finanzausgleich zwischen Bund und Landern )である。同法は、その時々の経済情勢に従い、しばしば改正されている。本稿執筆の時点における規定は極めて複雑であるが、基本的には連邦50.5対諸州49.5となっている。これが結合方式である。

(三) 連邦及び州の徴税機構の人事と活動

 一元的徴税機構に関する基本的な定めは、ドイツ憲法(ボン基本法)108条の定めるところである。同条はいくつかの狙いを持つ条文であるが、本稿との関係では、その根本的な目的は、租税行政の合理化・効率化にある。

 同条1項は、関税その他、連邦に帰属する租税を列挙した上で、これを連邦財政官庁(Bundesfinanzbehorden)が管理すると定めているが、これは上述した伝統の下においては、それを明言する憲法レベルの必要性があることを示している。そのうえで、「その官庁の構成は、連邦法により定める。中級行政庁が設置されている場合には、その長は州政府の同意を得て任命する。」としている。ここで言及されている連邦法は具体的には「財政行政に関する法律(Gesetz uber die Finanzverwaltung)」である。

 同条2項は、その他の租税は州財政官庁(Landesfinanzbehorden)が管理すると定めた上で、「中級行政庁が設けられた場合には、その長は連邦政府の同意を得て任命する」と、1項の鏡返しの規定が設けられている。

 これらの規定を受けて、基本的な徴税機構の一元化を定めるのが、同条第3項である。「州財政官庁が、その一部または全部が連邦の収入となる租税を管理するときは、連邦の委任を受けて行動するものとする」とする。このように、人事における同意権を互いに確保した上で、連邦のための徴税活動を州が行うことができるとしている。

 つまり、日本で言うところの税務署に相当する地域税務官署(Finanzamt)は、すべて州の機関である。個別の課税は、それぞれの地域の管轄を有する税務官署によって処理されるのであって、連邦財務省あるいは州財務省によっては取扱われない。こうした地域的な管轄権については、公課法(Abgabenordnung17条以下に規定されている。

 同条4項は、「租税法の実施が著しく改善され、もしくは緩和される場合に、その限度において、租税行政を連邦と州の財政行政庁が共同して、もしくは州財政行政庁が、連邦財政行政庁が行うことを予定している徴税活動を行うことができる。」としている。これは混合行政(Mischverwaltung)と呼ばれる。

 なお、同項後段では、州から市町村への同様の委任について規定している。

(四) 税務職員の統一的養成

 同条2項は、先に紹介した以外に、「これらの官庁の構成及び公務員の統一的養成(die einheitliche Ausbildung der Beamten)は連邦参議院の同意を得た連邦法でこれを規律することができる」ということも規定している。これを受けて、制定されているのが、租税公務員養成法(Steuerbeamtenausbildungsgesetz)である。

 これは、今次勧告に基づいて、地方に大幅に税財源を委譲する場合には、参照する価値の極めて高い規定といえる。わが国の場合、国家レベルの税務職員に対しては、税務大学校における統一的な研修活動が存在し、数回の研修を経て、一人前の税務職員を育成する体制を取っている。ところが、地方公共団体の税務職員に対しては、そのようなシステムは存在していない。従来の付加税的な性格の地方税に止まる限りは、特段の研修を行わなくとも十分であったろうが、勧告の言うように、国家税収の半ばに達する税収が地方公共団体に帰属する体制の下では、税収を確保し、地域による不公平が発生しないためにも、地方税務職員の研修についても、充実した研修施設を独自に設ける必要に迫られるはずである。本稿で提案するように、国と地方公共団体の税務行政をある程度一元的に構成する場合には、国の税務職員と地方税務職員に対して、統一的な研修制度を設けることは当然のこととなる。しかし、仮に徴税機構を一元化しない場合にも、研修機構だけは一元化を検討するべきであろう。

 

[まとめ]

 ドイツの例で判るとおり、徴税機構を機械的に全てを一元化せよ、と主張しているのではない。徴税機構の一元化が合理的な範囲では、一元化を当然に選択肢として考えねばならないということである。従来は国税で、勧告を受けて地方に移譲される税財源については、現実の徴税活動は従来どおり国税当局に委ね、地方公共団体は、必要経費を負担した上で、その域内から徴収した税額の交付を受けるのが、合理的かつ効率的な方法であろう。共同税方式を導入する場合も同様であろう。現行の地方税法の定める税のかなりのものは国税に対する付加税的性格を有しているから、同様に国税当局に徴税を委ねる方が合理的なものが多いと考える。

 それに対し、地方公共団体が、その課税自主権の発動として、独自に条例に基づき法定外課税を行う場合には、各地方公共団体の徴税機構を通じて徴収するのが、効率的な場合が多いであろう。

 

*1 クロヨンとは、税務署による課税所得が、給与所得者は約9割までは捕捉されているのに対し、自営業者は約6割、農業、林業、水産業従事者は約4割にとどまるという主張である。同様に、トーゴーサンとは、それぞれ10割、5割、3割の捕捉率と見た方が妥当という主張である。

*2 共通税:租税収入が国と都道府県に帰属するなど、少なくとも二つの団体に共通して属している租税

*3 付加税:国税または上級地方公共団体の租税に付加して、一定の割合で課する地方税。現在の地方税法の定める税は、建前として独立税化されているが、付加税的性格が強い。

*4 レンチュ(Wolfgang Renzsch=マグデブルク大学教授)著『ドイツ財政調整発展史』九州大学出版会1999年刊96頁より引用

*5 ドイツ憲法(ボン基本法)108条は、1949年の制定以降、1969年、2001年及び2009年と3回の大改正を経験している。それはいずれもその時点における財政改革を反映したものであるが、本稿で論じる点についての本質的な改正ではない。2009年改正時点における同条は全7項から構成されている。

*6 西ドイツ発足当初は、諸州は連邦に対し、税収の25%しか引き渡さなかった。しかし、その後急速にあがって現在の比率となる(注4紹介書98頁以下参照)