短答(多枝選択)式試験の対策


目次

一 知識の絶対量

二 反射神経

三 年間スケジュール

 

 

[はじめに]

 司法試験であれ、公務員試験であれ、国家試験の最初で最大の難関が、短答(択一、多枝選択)式試験であることは疑う余地がない。それを征服できれば、確率的にいえば、9割方は合格したようなものである。具体的な数字を示すと、14年度の場合、受験者総数に対する短答式試験合格者の割合は、司法試験で15.6%、国家公務員試験T種法律職で8.8%、同行政職だと1.1%という恐ろしい数字になる。国家公務員試験U種行政職だと15.6%と司法試験と同じ数字となる。

 そのことを重視するあまり、論文式そっちのけで短答式に熱を入れる人がいるが、それは間違いである。最後の合格を決めるのが論文式であり、しかも論文式の実力は一朝一夕には身につけられない以上、年間を通じて努力を傾注するべきなのは論文式対策である。

 しかもありがたいことに、論文式のための勉強と、短答式のための勉強は、9割方共通の要素、すなわち「本の読み方」で説明した努力をすれば、同時並行的に実力を身につけられる。一例を挙げると次のような問題である。 

[No.13] 次の文章の〔 〕内に4種類の適当な語句を挿入して文章を完成させると、公務員の労働基本権の制限に関する1つの見解となる。この場合に、その4つの語句の使用回数に関し、使用回数が最も多いものと最も少ないものの使用回数の差と、して正しいものは後記1から5までのうちどれか。

「公務員の〔 〕の決定については、私企業における勤労者と異なるものがあることを看過することはできない。すなわち、公務員については憲法自体がその第73条第4号で『〔 〕の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること』は内閣の事務であると定め、その給与は〔 〕により定められる給与準則に基づいてなされることを要し、これに基づかずにはいかなる金銭又は有価物も支給することはできないとされており、このように公務員の給与をはじめ、その他の〔 〕は、私企菜の場合のように労使間の自由な交渉に基づく合意によって定められるものではなく、原則として、国民の代表者により構成される国会の制定した〔 〕及び予算によって定められることになっているのである、その場合に、使用者としての〔 〕にいかなる範囲の決定権を委任するかは、まさに国会自らが立法をもって定めるべき労働政策の問題である。したがって、これら公務員の〔 〕の決定に関し、〔 〕が国会から適法な委任を受けていない事項について、公務員が〔 〕に対し〔 〕を行うことは、適切なものとは言い難いのであり、もしこのような制度上の制約にもかかわらず、公務員による〔 〕が行なわれるのであれば、使用者としての〔 〕によっては解決できない立法問題に逢着せざるを得ないこととなるのである。」

1.2回  2.3回  3.4回  4.5回  5.6回

平成8年度司法試験問題

 この問題は、実は、全農林警職法最高裁大法廷判決(昭和48425日)の一節である。もし諸君が、公務員の労働基本権についての論文を書こうと勉強していれば、必ずや別冊ジュリスト『憲法判例百選』第4版を脇に置いて関係判例を読むであろうし、読んでいれば、最初の2〜3行を読んだだけで、そのことに気がつけるはずである。したがって、この判決に対する理解をもとに、空欄を埋めることも容易にできるはずである。

 このような論文式と共通の知識を問う問題は、近時非常に増加している。こういうものは論文を書くつもりの努力を日頃重ねることではじめて正解を見分けることができる。したがって、普段から短答式に特化した勉強をしたりせず、全体としての専門科目の力を向上させる努力をするのが、正しいやり方ということになる。

 しかし、そのことは、短答式特有の問題というものがない、ということではない。だから、それに対する対策を講ずる必要もある。短答式合格の秘訣ということになる。それは、二つの要素に分けることができる。知識の絶対量と反射神経である。

 

一 知識の絶対量

 短答式は、基本的に、どれだけの知識を受験者が持っているか、を聞くものである。したがって、いかに毎日営々と知識の獲得に努力を傾注するかが勝敗を分ける。すなわち、論文式が論理の流れに力点を置いているので、それさえきちんとしていれば結論はどうでもよいのに対して、短答式はいかに正しい結論を下すかが大事である。

 これを逆から言うと、学説によって答えが分かれるような部分について短答式で聞くのは、問題を作るテクニックという観点からすると、かなり難しいことになる。

 すなわち短答式では、受験者がどのような説を採るかに関わりなく、客観的に正しい答えが一つしかない、という型の問題をつくらなければならない。受験者がどの基本書を使用しているかにより、難易度が変わるようでは、それは誤った設問という非難を浴びることになるはずである。

 その観点からすれば、出しやすいのは次の二つの型である。

 

(一) 条文の正誤問題

 法律の条文に明確に記述してある点を聞くならば、どのような説をとっている受験者でも答えは同一になる。したがって、これは昔から多いし、今後も出続けるであろう。例えば次のような問題である。

 

[No,3] 両院協議会に関する次のAからEまでの記述のうち、誤っているものの組合せはどれか。

A 両院協議会制度は、両議院の常任委員会が合同で開く合同審査会制度や議案の発議者又は委員長が他方の議院で提案理由を説明する制度と同じく、両議院独立活動の原則の例外である。

B 両院協議会は、一般国民ならびに報道の任務を有する者は傍聴することはできないが、同協議会議長の許可を得た講員は傍聴することができる。

C 内閣総理大臣の指名について、両議院の指名が異なった場合には、必ず両院協議会を開き、協議が整わないときに、はじめて衆議院の指名が国会の議決となる。

D 予算の議決及び条約の締結の承認について、両議院の議決が異なった場合には、必ず両院協議会を開き、協議が整わないときに、はじめて衆議院の議決が国会の議決となる。

E 法律案について、両議院の議決が異なった場合には、必ず両院協議会を開き、協議が整わないときに、衆議院の出席講員の3分の2以上の多数で再び可決したときに法律となる。

1.AC  2.AD  3.BD  4.BE  5.CE

 この問題は、もちろん、憲法の定める国会制度をきちんと理解していれば、じっくり考えることで正解にたどり着くことができる。しかし、それでは何分もかかってしまうであろう。

 本問は、実は憲法及び国会法の条文を正確に覚えていさえすれば、考えるまでもなく、正解が判るのである。すなわち、Aについては基本書をきちんと読んで両院独立活動の原則を理解しているかどうかがポイントとなる。しかし、これについても内容となっている合同審査会(国会法44条)とか、委員長による他院での提案理由説明(国会法60条)という制度が本当にあるかどうかは、国会法を知っていないと判らない。それ以外の足、すなわちBについては、国会法97条が「両院協議会は、傍聴を許さない。」と定めているから誤り、Cについては、憲法672項の文言と違うから誤り、Dについては憲法60条、61条と合致しているから正しく、Eについては憲法592項及び3項に反するから誤り、というように、条文さえ正確に覚えていれば、問題文を読む端から、正誤が判断できるのである。

 このような問題に対する対策としては、条文を丸暗記してしまうのがベストであることは疑う余地がない。憲法ぐらいならそれは決して不可能ではないし、是非やるべきである。

 しかし、この例で判るように、憲法の領域においてすら、憲法だけで足りるわけではない。統治機構論だけでも、第1章に対応して皇室典範、皇室経済法、第4章に対応して国会法、第5章に対応して内閣法や国家行政組織法、第6章に対応して裁判所法、第7章に対応して財政法、第8章に対応して地方自治法などの正確な知識が要求される。人権論の場合にも、知る権利に対応して情報公開法、教育を受ける権利(26条)に対応して教育基本法や学校教育法、労働権(27条、28条)に対応して労働三法、適正手続(31条)に対応して行政手続法、刑事基本権に対応して刑事訴訟法などが、必須の知識範囲として考えられる。もちろん、このすべてを記憶にとどめる必要はない。例えば、膨大な地方自治法のうち、憲法解釈と関連してポイントになる条文は限られてくる。それが何かは、諸君が地方自治に関して論文を書く勉強をきちんとすれば自ずと判る。また、民法や刑法など、通常の法律になると、少々多すぎて、すべて暗記する、というのは大変である。

 しかし、上記例のように、問題文に条文の一部が現れていることを考えると、別に完全に暗記していなくとも、条文のはじめの言葉がでてくれば、後が続けられる程度の状態にまで頭の中に入れておけば、それで試験の役に立つ。

 そこで是非勧めたいのが、関係する法律を録音して電車の中や夜寝る前など、普段勉強には使えない時間帯に繰り返し聞くことである。漫然と聞かずに、それに合わせて口を動かす位の努力は払いたいものである。最近は、条文を吹き込んだカセットが売られているので、時間がない人はそれを買うのもよい手である。しかし、できれば自分で吹き込みたいものである。かなり六法をまじめに引いている人でも、自分ですべてを読み上げてみると、こんな条文があったのか、とびっくりするようなことがよくあるものである。

 

(二) 判例の正誤問題

 学説が対立しているところで、答えを客観的に一つに絞るためには、判例は何と言っているかを聞くのが手っ取り早い方法ということになる。よく見かけるのが、「争いあれば判例に依れ」という一言を問題文の最後に付け加えることである。例えば次のような問題である。  

〔No.1〕 次のAからEまでの各記述は、行政上の手続において自已にとって不利益な供述等を義務付けられることがあること及びそれを正当化する理由を述べたものである。最高裁判所の判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものはどれか。

A 納税義務者は、税務職員から所得税に関する調査を受ける際、その質問に答える義務がある。それは、この手続が刑事責任の追及を目的とするものではなく、そのための資料の取得収集に直接結び付く作用を一般的に有するものでもない上、公益上の目的を実現するために必要かつ合理的であるからである。

B 交通事故を起こした運転者は、警察官に対し、交通事故発生の目時場所、死傷者の数などを報告する義務を負う。運転免許取得それ自体が公道において自動車の運転をすることができるという特権を受けるものであり、運転者はこれと引き換えに不利益供述拒否権を放棄したと見ることができるからである。

C 本邦に入国した外国人は、不法入国者であっても一定期間内に外国人登録申請をしなければならない。出入国管理事務は極めて高い公共的な価値を有しており、不法入国者が刑事責任を負うことにつながるような自己に不利益な供述をせざるを得なくなったとしても、その程度の制約はやむを得ないからである。

D 麻薬を取り扱う者は、店舗等に帳簿を備え、取り扱った麻薬の品名、数量、取扱年月目を記載する義務を負う。麻薬を取り扱うことを自ら申請して免許を得た者は、麻薬取締関係法規による厳重な監査を受け、それによる命令に服することをあらかじめ承認しているものといえるからである。

E 本邦に入国しようとする者が貨物を携帯して輸入しようとする場合、たとえ輸入禁制品であったとしても、その貨物の品名、価格等を税関長に申告しなければならない。それは、この手続が関税の公平確実な賦課徴収及び税関事務の適正な処理のために行われるものであり、刑事責任の追及を目的とするものではないからである。

1.AD  2.BE  3.CA  4.DB  5.EC

平成14年度司法試験短答式問題

 このような問題の場合には、多数の判例についておおよその内容を把握する、という広く浅い知識の習得が必要である。

 こういう問題が出てくることから、条文と判例を同時に頭に入れておくことが大事なことが判ると思う。その手段として、次のことを心がけよう。日頃、教科書を読むに当たり、法律の条文が引用されていたら、すでに知っている条文であっても、必ず六法を引き、そして、その際には関係があろうとなかろうと、その条文で紹介されているすべての判例の要約に目を通すことである。一々それを繰り返すのはかなりうんざりすると思うが、このような地道な努力以外には、膨大な判例をしっかりと我がものにする方法はない。それと同時に、豊富な判例の知識は、教科書の理解を助けてくれるものである。

 


 

二 反射神経

 

 反射神経とは奇妙な表現であるが、要は、問題を見た瞬間に、理屈抜きで問題の正誤を判定できる能力のことである。すなわち、短答式試験の場合、一般に問題を読んだ後、理屈を立てて考えている暇はない。

 なぜなのか、順序を立てて考えてみよう。

 第一に、基本的に一問当たりにかけられる時間が短い、ということである。大学入試などと異なり、出題量が非常に多いからである。司法試験の場合であれば、3時間30分で60問に答えることが要求される。だから13.5分で答えねばいけない。国家公務員T種1次試験の専門試験の場合だと、3時間半で60問中50問に答えることが要求される。だから理屈としては1問に4分くらい掛けられるはずだが、実際には易しい問題を探して全問に目を通した方が得であるから、結局、司法試験と一緒で、1問にかけられる時間は平均して3.5分となる。いずれにせよ、近時、問題が長文化する傾向が強いから、この時間自体がきわめて短いもので、のんびり読んで考えていようものなら、全問に目を通す前に終了時間がやってきてしまう。

 第二に、短答式では、たくさんの問題が出題されるから、当然問題により難易度にばらつきがでてくる。合格のポイントは、誰でも答えられる易しい問題については確実に答えなければいけない、ということである。それがいわば、合格の最低ラインを形成する。上記の条文問題及び判例問題こそが、その合格の基礎ラインを形成し、それにその年度で出題者の工夫した難度の高い問題が何問解けるかが一般に勝敗を分ける。

 そういう易しい問題を確実に回答するための最低限の条件は、すべての問題に確実に目を通す、ということである。実力は十分にあるのに、短答式に弱くて何年も浪人している人がいる。そういう人に聞いてみると、ほぼ例外なく、一問一問に時間をかけすぎて、最後の何問かは毎年、読まずに終わる、という。そこに易しい問題がある場合、自動的に数問を損していることになる。だから、全問に目を通すことは、絶対に必要なことである。しかし、普通にやっていたのでは、試験時間が終わったときに、過不足なく全問を解き終わるなどという器用なことができるわけがない。そこで、一問一問じっくり解く以外の、別の解答法法を工夫する必要がある。

 第三に考えなければならないことは、人間の頭は、直接その問題に取り組んでいないときにでも、頭のどこかでそれを考えるようにできている、ということである。本を読んでいる場合にも、最初読んだとき判らなかったことでも、しばらくたってから読んでみると、何で前回引っかかったのか判らないほどに容易に理解できる、という経験は皆さんも持っていることと思う。同じことは、試験問題でも起こる。多分、大学入試の試験問題などで経験があるのではないだろうか。これは普通、2〜3日とか、2〜3ヶ月とかの間隔を明けて経験していると思うが、実はわずか1時間程度の間隔でも起こることなのである。すなわち、短答式試験の限られた時間の枠内でも、時間をあけて23度と読むことで、最初は判らなかった答にたどり着けるようになるはずである。これは、全問を少なくとも2回は繰り返し目を通すことが理想的だ、ということを意味する。

 最後に、忘れてならないことは、短答式試験は、解答用紙に正しく答を記入して初めて点になる、ということである。多くの人が、ついうっかりやってしまうことが、解答用紙の途中から記入欄を一つか二つずらしてしまうということである。そんなことをしようものなら、せっかく正しい答にたどり着いていても、全滅の憂き目を見ることは明らかである。このような事態を避けるためには、最後に必ず10分程度をかけて、じっくりと自分の解答と、回答欄に記入されている記号とが合致しているかどうか、見直す、という習慣を付けなればならない。  

 以上の諸条件を満たすには、日頃から素早く問題を読む訓練を自分に対して行う他はない。先に説明した「本の読み方」で、第一段階で、判っても判らなくてもよいから、どんどん先に読み進むように説明したが、これは同時に短答式の対策にもなることが判って貰えるであろう。とにかくかなりのスピードで最後問題の問題まで確実に目を通すことが合格するための最低限の条件である。

 以上のことを前提に、理想的な時間配分を考えていくと、次のようになる。

 最初の1時間半で、60問全部に目を通すことを第一の目標としよう。これは目標だから、実際には2時間になってもやむを得ないが、それ以上は許容できない。つまり1問あたりの目標は1.5分で、最悪で2分である。わずか1〜2分で問題文を読み、足を読んで、どの足が正しく、どの足が誤りかを正しく判断しなければならないのだから厳しい話しである。

 反射神経を鍛える必要がある、という言い方をするのはこれが理由である。問題文を読み終わったその瞬間に、理屈抜きでその文章の正誤が判るようでないと、そういうことにはならないからである。この段階で大切なことは、さしあたりは正誤が判断できない、という足が出ても、それに拘らずにどんどん先に進むことである。そして判らない問題は、残った1時間なり2時間なりを投入してじっくり考えるのである。易しい問題をまず確実にピックアップし、難しい問題に、そこで節約した時間をまとめて投入する、という戦略である。

 一番最後の10分間は、答と記入した記号の最後の照合作業と言うことになる。

 大事なことは、易しい問題は、確実に正解することである。諸君がちゃんと勉強をしていれば、難しい問題は誰にとっても難しいのである。だから、それについて時間切れになって、山勘で答を書いても構わない。他の人も同じはずだから、そういうところではあまり差は開かないのである。しかし、誰にでもできる易しい問題を時間不足で読みもしないというのは、決定的な差となってしまうことを心に銘じておいてほしい。

 普段の答案練習会の時から、11〜2分程度で解答を出すか、判らないかを決めるという訓練を行うことが、非常に大事である。

三 年間スケジュール

 短答式は大事だから、と一年中その練習ばかりやっている人がいる。しかし、それはまずいやり方である。普段は、最初に書いたようなやり方で、知識の習得に努めるべきである。知識の習得は、短答式ばかりか、論文式にも役に立つが、短答式自体を一生懸命練習しても、論文式の力を伸ばす役には立たないので、短答式には受かっても最終合格はできない。短答式に一度合格するまでは、その力を伸ばし、そのレベルに達したら論文式の練習、と思うかもしれない。しかし、短答式で要求されるような機械的な知識量は、論理的な思考方法と違って、忘れやすいものでもあるのである。だから、一年丸々短答式の練習をしないでいたら、簡単に元に戻ってしまう。

 司法試験の受験者で、最初の年は短答式に合格して論文で落ち、翌年万全を期して受験したら今度は短答式であっさり落ちる、という人が多いのは、そういう理由からである。

 もう一つ、短答式を年中やるべきでない理由は、それは詰まらないからである。

詰まらないと言うことは、勉強に身が入らなくなるということである。だから、模擬試験は別として、毎日を短答式専門に打ち込むのは、かなり試験が迫ってからの方がよい、ということになる。

 私としては、司法試験の場合も公務員試験の場合も、短答式対策に本格的に集中するのは、3月の声を聞いてからで十分と思っている。どうしても不安な人は、期末試験が終わったときから始めてもよいかもしれない。しかし、それよりも以前から、短答式の例題に取り組むのは、絶対に間違いである。